【D.W.ニコルズ・健太の『だからオリ盤が好き!』】第33回「PAUL SIMON / コロンビアのオリジナル盤」
D.W.ニコルズの鈴木健太です。
前回からまた少し期間があいてしまいましたが、その間にもCDやレコードをまた色々と買いました。近年、海外のアーティストは新しい作品リリースの際にアナログ盤も同時にリリースすることが多いので、そういった新譜やここ10年くらいの作品のアナログ盤もよく買っています。ごく最近では、ノラ・ジョーンズの新譜をアナログで買いましたが、開けてびっくり、何とホワイト・バイナル(白いレコード)で驚きました。カッコイイ! うーん憎いことをしてくれるなあと唸ってしまいました。
では、本題に入りましょう。今回取り上げるオリ盤は、ポール・サイモンの1972年のソロ・デビューアルバム『PAUL SIMON』USオリジナル盤。
ポール・サイモンと言ったらわからなくても、サイモン&ガーファンクル(以後S&G)のサイモンと言えば、わかる人もきっと多いのではないでしょうか。そのサイモンのソロ・デビュー作がこの『PAUL SIMON』なのです(1964年にロンドンで独りで録音をしていますが、それは除外しておきます)。
▲コロンビアで1970年からレコード終焉期まで長く使われたのがこのレーベル。
(※ 注)マトリクス── マトリクス番号、マトリクス記号。マト、マト番とも言う。盤面の、最もレーベルに近い、音の刻まれていない送り溝部分に手書きもしくは機械打刻で刻まれた、アルファベットと数字によるやっかいな文字列。その盤のプレスの早さを読み取ることが可能だったりもする。ただしこれらはあくまでも俗称。正式には「プリフィクス」という(らしい)。ここでは最も一般的と思われる「マトリクス」という呼び方をしておく。マトリクスが早い=プレスが早い、ということ。
ずっと探し続けてやっと手に入れた僕のレコードのマトリクスは、
A面:手書き AL30750-4B
B面:手書き BL30750-4K
となっています。つまり、4B/4K。1A/1Aから始まっていると考えたなら、正直なところ、決して早いプレスだとは言えないでしょう。しかし1972年という、レコードが売れていた時代であることを考えると、特に遅いとも言えないような気がします。ジャケットを見るとなかなか良い質感。紙もしっかりしています。そして片面に写真、もう片面に歌詞とクレジットが印刷された厚紙のインナースリーブ。盤の厚さは普通、悪くない。少なくとも70年代後半によく見られるようなペラペラ盤ではない。
それらのことを考慮すると、これは広義での「オリジナル盤」と言っていいと思います(連載第1回参照)。というか、ずっと探し続けていたという思い入れもあるので、「オリジナル盤」だということにします(笑)。僕くらいの軽めのスタンスでオリ盤蒐集をするには、これくらいの適当さも必要なのです。
とは言っても音がショボかったら話にならないのですが、その心配は無用。音はとっても良く、僕の知っている「USオリ盤の音」です。ふくよかで太く、パンチが効いています。これまたCDの音は酷いものなので、それとは雲泥の差でした。
後にも述べますが、リズムが重要な役割を果たしている作品だけに、このアナログ盤ならではのリズムの躍動感やうねりには改めて興奮を覚えました。また、サイモンのアコースティックギターがより表情豊かに聴こえます。サイモンのギターは本当に素晴らしい。僕の最も好きなアコースティックギタープレイヤーのひとりです。技術ももちろん素晴らしいけれど、何と言ってもアンサンブルの中での役割と存在感が絶妙なのです。
素晴らしい点を挙げたらキリがありませんが、大好きな作品なら大好きな作品ほど、オリジナル盤で聴いたときの感動は大きいものです。CDや再発盤等では聴こえていなかった音が聴こえてきて新たな発見をすることもあれば、生々しい声や楽器の音色に聴き惚れてしまうこともあります。しかし何と言っても、作品が生命を宿している、そんな感じがして心打たれるのです。
本音を言えばマトリクス「1A/1A」に近い盤で聴いてみたい気持ちはありますが、今回やっと入手したこのレコードは盤質もとても良く音質も気に入っています。当分の間はこればかり聴いてしまいそうですが、アナログ盤というのは何度も繰り返し聴けてしまうものなのです。
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