【連載】アストゥーリアス大山曜の[我らプログレッシバー!]Vol.5「プログレが“マネー”になった時代」
キング・クリムゾン、ELP、イエスとご紹介してきてお分かりの方も多いかと思いますが、俗に“プログレ4大バンド”と申しまして、最も重要なバンドが残っていました。プログレ史上最も売れたバンド=一般的に最も有名なバンド、ピンク・フロイドです。
ピンク・フロイドの歴史は古くデビューは1967年。プログレ系の中でも最古参のバンドです。デビュー当時はリーダーのシド・バレットを中心としたサイケデリックなサウンドでポップチャートにも名を連ねるなど、歌モノバンドとしても人気を博しました。しかし、バレットが麻薬中毒から精神的な障害をかかえ脱退、残る4人でより独創的な音楽を目指し再スタートを切ります。このバレットの脱退がその後のバンドに暗い影をもたらし、音楽性にも大きな影響を与え続けることになります。
インストゥルメンタル重視の方向に転換、実験的な作品いくつかを経て、1970年『原始心母』をリリース。オーケストラとロックバンドが自然な形で融合した、まさに“ロックシンフォニー”は各方面で高く評価されます。続く1971年の『おせっかい』も23分を超える大作「エコーズ」が含まれ、プログレの代表格としての地位を不動のものとします。
そのサウンドは今まで挙げたテクニカル志向の3バンドとは幾分異なり、ブルースロックからの影響に現代音楽の難解な雰囲気を加えた、独自の幻想的なロックで、“暗い、長い、よくわからない”(^^;)という、一般の音楽ファンが持つプログレのイメージを象徴するようなバンドと言えるかもしれません。たしかに中々歌が始まらないし(インスト曲も多し)、中間部はよくわからない効果音がだらだらと(失礼!)続くし、眠くなってかなわん!というロックファンも多かったのかと思います。その一方で新しいものに飢えていたマニアックなリスナーからは熱狂的に支持され、一時代を作っていきます。
そのフロイドが1973年、歴史的なアルバムを発表します。アルバム1枚が組曲形式のコンセプトアルバム『狂気』です。実験的アプローチで着々と評価を上げていたフロイドの集大成的作品。斬新な効果音の連続(今ではサンプリングで簡単なことも当時は大変な作業)、社会への批判を込めた詞の世界観、シンプルに構成された楽曲は広く音楽ファンにアピールする力を持っていました。ビルボードチャートの200位以内に15年間ランクイン(ギネス記録)、日本のオリコンでも最高位2位、現在までに全世界で4.500万枚を売り上げたと言われている超ベストセラー作品です。
過去のフロイドのアルバムよりシンプルなロック曲が多いとは言え、アルバム1枚ぶっ通しの組曲作品。アルバム原題『Dark Side of the Moon』(月の裏側)は人間の内面を描き出し、そっちの世界に行ってしまったシド・バレットのことをも表しているそうです(次作にも「狂ったダイヤモンド」という名曲あり)。このようなヘビーな内容のものが、世界的ベストセラーになってしまうとはなんといい時代だったのでしょうか!
ピンク・フロイドは1970年の『原始心母』から1977年の『アニマルズ』ぐらいまでがプログレ的全盛期(1979年の大ベストセラー『ザ・ウォール』もありますが…)。マニアとしては年代順に聴いてもらいたいところですが、プログレ入門としては『狂気』『炎~あなたがここにいてほしい』などが聴き易くてオススメ。1970年代当時に思いを馳せ、部屋を暗くしてどっぷりこの世界に浸ってもらえればと思います。
1960年代末から1970年代前半までの数年間は、プログレ、そしてロックがカネ=商売になった時代でした。ロックが全世界の文化の中心として機能し、莫大な収益も得られることから、レコード会社を始め様々なサポートがあり、それゆえに素晴らしい才能がロックの世界に集まってきていた、まさに奇跡のようなムーブメントが起きていたのです。日々名盤が世に送り出されていた夢のような時代。私個人はリアルタイム世代から少しずれてしまっていて、出来ることならタイムマシーンに乗って、その時代の空気を味わいたいと強く願っている今日この頃です。プログレ、そしてロックの黄金時代を象徴する最重要バンド、ピンク・フロイドのご紹介でした。
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