「百鬼夜行奇譚」第七夜:【娼婦】マダムローザの娼館[弐]
Kaya 短編小説連載「百鬼夜行奇譚」第七夜
【娼婦】マダムローザの娼館
・[壱]
●[弐]
◆ ◆ ◆
時は十七世紀、華やぐフランス。とある街の外れにひっそりと佇む古びた館があった。漆喰で塗り固められた白亜の壁には幾重にも濃い緑色の蔦が巻きつき、出窓には白いレースのカーテンが飾られている。庭には色とりどりの華が咲き誇り、赤く大きな薔薇の花が一際美しく、風に揺れている。夢売り女が集う城——ここは娼館。
「おぉ、寒い寒い。今夜は冷えるねぇ。今年の冬はどうかしているよ。こう寒いんじゃお客はおろか野良犬だって店に寄り付かないじゃないか。それになんだろうね、この厭な北風。ごうごうと、まるで誰かの意地の悪い嗤い声のようじゃないか。
……こんな夜は昔のこと思い出してしまうねぇ。あたしは花形トップスターだった! 降りそそぐ歓声と薔薇の花束。今でも昨日のことのように思い出せるよ。たくさんの男達があたしの楽屋に訪ねてきたもんさ。その取り巻きの中でも、一番目立たない茶色い瞳の、あのおとなしい彼。いつも控えめに、取り巻きの男達の後ろからあたしを見つめていた。地味で、平凡な男。
夏の眩しい日差しの中、ふとしたことで二人きりになったあたし達は、とりとめの無いことを話していた。食べ物や、お天気のこと、とても退屈な時間。でも、あたしは楽しかった。刺激も、高揚もない、ただただ、静かな時間。退屈で、つまらなくて、でも満ち足りた幸福な時間。……あたしは彼に恋をした。
時の流れとともに、あたしと彼は距離を縮めていった。それと同時に、あたしはますます忙しくなって、彼と会うことが難しくなっていた。そんな時だったわね。あの女が現れたのは…。
突然やってきたあの女は金と体を使ってのし上がってきた。
そしてあたしから主演も、舞台も、そして彼さえも! 奪っていったあの女!!
みるみる落ちぶれていったあたしは、流れ流され、気がついたらこんなところにたどり着いてしまった…。
おぉ、厭な風の音! まるであの女の嗤い声のようだわ!!
思い出させないで!
思い出させないで!
思い出させないで!
あたしにぬくもりを思い出させないで……。
…わかってるの。あたしには、嘘のぬくもりがお似合いなのさ…。
おぉ、寒い寒い。さぁ、店に出るとしようか…」。
次回:【娼婦】マダムローザの娼館[参] 12月27日(月)公開予定
文:Kaya / イラスト:中野ヤマト
◆ ◆ ◆
Kaya 短編小説連載「百鬼夜行奇譚」バックナンバー
・第一夜【不眠】~Psycho Butterfly~
・第二夜【鬼櫻】桜花
・第三夜【回顧】~Awilda~
・第四夜【来世】~Awilda~
・第五夜【幽鬼】~傀儡 Kugutsu~
・第六夜【旋律】~Je te veux~
Kaya
New Single ※1000枚限定
「マダムローザの娼館」2010年12月22日発売
TK-09 ¥1050(tax in)
1. Madame Rosa
2. Madame Rosa -Kayaless ver.-
3. Madame Rosa -Remix-
◆Kaya オフィシャル・サイト「薔薇中毒」
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