「百鬼夜行奇譚」第一夜:【不眠】~Psycho Butterfly~[壱]
Kaya 短編小説連載「百鬼夜行奇譚」
第一夜:【不眠】~Psycho Butterfly~ [壱]
[弐]
[参]
[四/最終回]
◆ ◆ ◆
深夜一時。
八畳の洋間に無造作に置かれたベッドの中で、彼は薄闇を見つめていた。肌触りのよいシーツに身をくるみ、自慢の長い黒髪を触りながら、視線を窓に向ける。ブラインドの隙間から微かにこぼれる月の光は、とても脆い。そんな弱々しい月の光が、痩せた頬を鋭角に浮き立たせていた。休日の夜、折角の満月を邪魔する今夜の雲は、なんと無粋なのだろうと思った。楽しみにしていた月光浴を諦めきれないまま、早めに床についたのだったが、あたたかな眠りはまったく訪れる気配がない。
彼は眠れぬ夜を過ごしていた。不眠症というよりは彼の場合、不眠と共に生きている、といった方が良かったかも知れない。秒針の音が、暗闇に響く。眠れぬ夜にもがきながらも、そんな夜を自ら望んで招き入れ、楽しんでもいるようにも見えた。
目を瞑ると、瞼の裏を残像がぐるぐると廻っている。それはまるで何色とも判別がつかない色彩を撒き散らしながら、闇を泳ぐ蝶のように見えた。その幻のような蝶を掴もうと薄闇に真っ直ぐ腕を伸ばしてみても、手のひらは虚しく空を掴むばかりで、そんなことをもう二時間も繰り返していた。
彼は少し自嘲して、独りごちた。
「何をしてるんだろう、僕は。 ———何を待ってるんだろう、僕は。」
文:Kaya / イラスト:中野ヤマト
次回「【不眠】~Psycho Butterfly~」[弐] 4月12日(月)公開予定
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Kaya 短編小説連載「百鬼夜行奇譚」
第一夜:【不眠】~Psycho Butterfly~
自室で不眠症に悩む青年。彼は、自らを憎んでいた。眠れぬ夜に、思い描く幻の蝶々。幻の蝶を追ううちに、彼は夢と現実の境界を失い始める。彼の目の前に現れた醜く美しい謎の生き物。夢の狭間で彼が垣間見たものは、夢か、現か、彼の心の闇か。心の闇を蝶々に見立て、不眠症の青年の心象風景を描く。
<Kayaマンスリーライヴ“DIVA”>
5月5日(水)池袋BlackHole
6月6日(日)池袋BlackHole
7月7日(水)池袋RUIDO K3
8月8日(日)新宿RUIDO K4
9月9日(木)高田馬場AREA
10月10日(日)渋谷RUIDO K2
11月11日(木)池袋BlackHole
12月12日(日)未定
◆Kaya オフィシャル・サイト「薔薇中毒」
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