「百鬼夜行奇譚」第三夜:【回顧】~Awilda~[壱]

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Kaya 短編小説連載「百鬼夜行奇譚」
第三夜:【回顧】~Awilda~[壱]

   ◆   ◆   ◆

バルト海を臨む丘の上、忘れ去られようにひっそりと、美しい古城が立っていた。
初夏の風が海風を古城の窓まで運び、窓際に咲いた薔薇が小さく揺れる。
時に置き去りにされた丘の上。城は、いつまでも、海風に吹かれていた。

「もう起きて下さいな、アヴィルダさま。でないと私が叱られます」
聞き慣れたアンナの声が廊下の向こうで響く。あと少し、あと少しと枕に顔を埋める。

天蓋付きのベッドは隙間が無いほどにレースで飾られ、枕元にはフィアンセのフランツから贈られた人形が所狭しと並んでいた。この空間がアヴィルダの楽園。一週間後に控えた18歳の誕生日には、この楽園にまた人形が増えるに違いない。母譲りの柔らかくカールした栗毛をシーツに踊らせながら、レースと人形の楽園に微睡む。

「アヴィルダさま!」
「わかったわよ、起きるわよ。もう、折角素敵な夢をみていたってのに」

それは悪うございましたね、とおどけながら、アンナが部屋から出てゆくと、入れ違いに茶の薫りが部屋へと滑り込んで来た。
眠い目をこすりながら、階下へ降りると、父のアルフレッドが食後の茶を楽しんでいた。

「おはよう。私のお姫様は随分と夢の国がお好きなようだね」
「おはようお父様。またお茶を?本当に流行ものがお好きなんだから」

アヴィルダは、父と、召使いのアンナの三人で暮らしていた。古城を改築した館の高い窓から、あたたかな日差しがこぼれる。朝食の支度をするアンナの向こうから、アルフレッドが声をかけた。

「お母様に挨拶はすませたのかい」

広間を抜けた一角、小さなお祈り部屋に、母の肖像が飾られていた。
母との想い出はおぼろげで、ただ唯一、眠りにつく前にいつもアヴィルダの髪を触りながら歌を歌ってくれたことが、思い出された。

「おはよう、お母様」

「本当によく似てきた」
突然背後から声をかけられ振り返ると、アルフレッドがドアにもたれて立っていた。

「まぁ驚いた。お父様ったら、ビックリさせないで」
笑いながら父の横を通り過ぎる。アルフレッドの舐めるような視線にも気づかずに。

「本当によく似てきた…」

   ◆   ◆   ◆

文:Kaya / イラスト:中野ヤマト

次回:【回顧】~Awilda~[弐] 6月28日(月)公開予定

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KayaNew Single
「Awilda」
2010年7月28日発売
DDCZ-1697 ¥1260(tax in)
1. Awilda
2. Sink
3. Awilda -kayaless ver.-

<Kaya“Awilda”発売記念TOUR ~Voyage Rose~>
8月8日(日)新宿RUIDO
8月15日(日)大阪RUIDO
8月21日(土)札幌MESSE HALL(ワンマン)
8月29日(日)名古屋HOLIDAY
9月9日(木)高田馬場AREA(ワンマン)

◆Kaya オフィシャル・サイト「薔薇中毒」
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