ASKA、アルバム『君の知らない君の歌』のアレンジから浮かぶ疑問
さて、冒頭に挙げたような楽曲から、さらにヨーロッパの古い恋愛映画を見ているような感覚に陥る「君が好きだった歌」、そして淡々と曲が展開していく「no doubt」、そして、ASKAがこだわったという“アナログの温かさ”を感じさせるドラムとストリングスからはじまり、2分40秒近くのイントロを持つラストナンバー「C-46」まで、このアルバムには全12曲が収録されている。
さて、セルフカヴァーアルバムということで、ファンならはどうしてもオリジナルと比べてしまうことだろう。そして中にはどちらも違ったよさを持っていることは認めながらも、「オリジナルのほうがいい」という評価を自分の中で下してしまう楽曲もあるはずだ。そこはリスナーひとりひとりの評価・判断なので異論はないが、一方でなぜ今回このアレンジになったのか、という点には興味を惹かれるところだ。
たとえば「好きになる」。1996年リリース『CODE NAME.2 SISTER MOON』収録のオリジナルは、ドラマチックに展開するサビでのボトルネックギターが印象的な、90年代のCHAGE and ASKAらしいバラード。一方、十川ともじがアレンジを担当した2010年verは、イメージをオリジナルとはがらりと変え、初めて聴くと、イントロだけでは想像ができない1曲となっている。さて、なぜこのアレンジなのか。
「くぐりぬけて見れば」もそうだろう。オリジナルに比べてドラマチックなアレンジになっており、ASKAも情感豊かに歌い上げている。そもそも当時と歌い方が違う、というのもあるかもしれないが、なぜこのアレンジなのか。
一方で、「MIDNIGHT 2 CALL」は、オリジナルに忠実なアレンジと言えるだろう。優しいピアノの音が全編にわたって流れ、ASKAの歌い出しが、まさに“懐かしい声”を彷彿とさせる。ではなぜ、このアレンジなのか。
ここで、ある疑問が浮かんでくる。
「今回のアルバムはレコーディングが先だったのか、それとも選曲と曲順の決定が先だったのか?」
まずは、過去のセルフカヴァーアルバムについて簡単に振り返る。前作『12』は、特設サイトに<タイムリミットを迎えたとき楽曲は12曲になっていました。>とある。よって、レコーディングをまずは行なって、結果、収録曲として12曲できあがったのではないか、と考えられる。さらに、CHAGE and ASKAのセルフカヴァーアルバム『STAMP』では、のちにライヴで披露された幻の収録曲「僕はこの瞳で嘘をつく」の新アレンジverなどがあることを考えると、こちらもレコーディングを優先で制作を進めていったのだろう。
ここからはあくまで“推測の域を出ない話”としてお付き合いいただきたい。今回の作品『君の知らない君の歌』は、“ASKAの書いたラブソングで構成された12章からなる連作恋愛小説集”がテーマのコンセプトアルバムだ。そしてアルバムの中に流れるストーリーは、おもに歌詞が担っている。一通り楽曲を聴いたリスナーなら、ここまでは同意できるだろう。
一方で、プロデューサーとしてのASKAと、アレンジャーの十川ともじ、澤近泰輔の両氏は、歌詞だけでなく、楽曲そのものにもストーリー性を持たせようと試みたのではないだろうか。そしてその試みの手段として、ストーリーに合ったアレンジを行なったのではないだろうか。
「好きになる」を再び例として挙げよう。オリジナルのイメージが静ならば、こちらは動。ドラムのビートとともに、少しだけ縦ノリを意識させることで、楽曲に力強さが生まれ、それが“好きになる”という人の心の動きに“確証・確かな手応え”を感じさせる。また、シリアスなオリジナルに比べて心地良さを全面に出したアレンジからは、“恋とは素晴らしいもの”というメッセージまで伝わってきそうである。
そして、この「好きになる」は、恋が始まった「めぐり逢い」の次の曲で、恋のハッピーさが全開となっている(もしくは頭の中がピンク色で全開となっている!?)「パラシュートの部屋で」の前の曲だ。この前後の曲をつなげて物語とする上で必要になるのは、オリジナルのようなシリアスよりも、今回のバージョンのような恋愛の心地良さや“恋とは素晴らしいもの”という気持ちだろう。と、考えると、オリジナルは楽曲単体で見たときには最良のアレンジかもしれないが、アルバム全体で見た時には、今回のアレンジが必須だったことになる。
同様に、「くぐりぬけて見れば」は、この恋愛小説集に出てくる初めての別れのシーンということで、エモーショナルな表現が必要であり、また、恋の終わりを冷静に見つめているという、ある種、“男から見た理想的な男の姿”ではなく、どうしようもない感情をどこかにぶつけたい衝動にも駆られる“リアルな男の姿”としても描く必要があったのだろう。
逆にドラマチックなオリジナルに比べて、淡々と曲が進行していく「no doubt」は、「201号」「君が好きだった歌」で、終わった恋を回想しながらその舞台となった部屋から引越しをしたのち、改めてその恋愛を俯瞰的に振り返っているというタイムライン上にある曲。すると、このアレンジも当然のものと思われる。当時の自身にとってはドラマチックな出来事だったが、未来からいざ過去を振り返ると、それでも時間は淡々と流れている。そして、過去の出来事を客観的に見ることができる自分がいる。そんな状況を表現しているのが、この「no doubt」のアレンジだろう。
さて、セルフカヴァーアルバムということで、ファンならはどうしてもオリジナルと比べてしまうことだろう。そして中にはどちらも違ったよさを持っていることは認めながらも、「オリジナルのほうがいい」という評価を自分の中で下してしまう楽曲もあるはずだ。そこはリスナーひとりひとりの評価・判断なので異論はないが、一方でなぜ今回このアレンジになったのか、という点には興味を惹かれるところだ。
たとえば「好きになる」。1996年リリース『CODE NAME.2 SISTER MOON』収録のオリジナルは、ドラマチックに展開するサビでのボトルネックギターが印象的な、90年代のCHAGE and ASKAらしいバラード。一方、十川ともじがアレンジを担当した2010年verは、イメージをオリジナルとはがらりと変え、初めて聴くと、イントロだけでは想像ができない1曲となっている。さて、なぜこのアレンジなのか。
「くぐりぬけて見れば」もそうだろう。オリジナルに比べてドラマチックなアレンジになっており、ASKAも情感豊かに歌い上げている。そもそも当時と歌い方が違う、というのもあるかもしれないが、なぜこのアレンジなのか。
一方で、「MIDNIGHT 2 CALL」は、オリジナルに忠実なアレンジと言えるだろう。優しいピアノの音が全編にわたって流れ、ASKAの歌い出しが、まさに“懐かしい声”を彷彿とさせる。ではなぜ、このアレンジなのか。
ここで、ある疑問が浮かんでくる。
「今回のアルバムはレコーディングが先だったのか、それとも選曲と曲順の決定が先だったのか?」
まずは、過去のセルフカヴァーアルバムについて簡単に振り返る。前作『12』は、特設サイトに<タイムリミットを迎えたとき楽曲は12曲になっていました。>とある。よって、レコーディングをまずは行なって、結果、収録曲として12曲できあがったのではないか、と考えられる。さらに、CHAGE and ASKAのセルフカヴァーアルバム『STAMP』では、のちにライヴで披露された幻の収録曲「僕はこの瞳で嘘をつく」の新アレンジverなどがあることを考えると、こちらもレコーディングを優先で制作を進めていったのだろう。
ここからはあくまで“推測の域を出ない話”としてお付き合いいただきたい。今回の作品『君の知らない君の歌』は、“ASKAの書いたラブソングで構成された12章からなる連作恋愛小説集”がテーマのコンセプトアルバムだ。そしてアルバムの中に流れるストーリーは、おもに歌詞が担っている。一通り楽曲を聴いたリスナーなら、ここまでは同意できるだろう。
一方で、プロデューサーとしてのASKAと、アレンジャーの十川ともじ、澤近泰輔の両氏は、歌詞だけでなく、楽曲そのものにもストーリー性を持たせようと試みたのではないだろうか。そしてその試みの手段として、ストーリーに合ったアレンジを行なったのではないだろうか。
「好きになる」を再び例として挙げよう。オリジナルのイメージが静ならば、こちらは動。ドラムのビートとともに、少しだけ縦ノリを意識させることで、楽曲に力強さが生まれ、それが“好きになる”という人の心の動きに“確証・確かな手応え”を感じさせる。また、シリアスなオリジナルに比べて心地良さを全面に出したアレンジからは、“恋とは素晴らしいもの”というメッセージまで伝わってきそうである。
そして、この「好きになる」は、恋が始まった「めぐり逢い」の次の曲で、恋のハッピーさが全開となっている(もしくは頭の中がピンク色で全開となっている!?)「パラシュートの部屋で」の前の曲だ。この前後の曲をつなげて物語とする上で必要になるのは、オリジナルのようなシリアスよりも、今回のバージョンのような恋愛の心地良さや“恋とは素晴らしいもの”という気持ちだろう。と、考えると、オリジナルは楽曲単体で見たときには最良のアレンジかもしれないが、アルバム全体で見た時には、今回のアレンジが必須だったことになる。
同様に、「くぐりぬけて見れば」は、この恋愛小説集に出てくる初めての別れのシーンということで、エモーショナルな表現が必要であり、また、恋の終わりを冷静に見つめているという、ある種、“男から見た理想的な男の姿”ではなく、どうしようもない感情をどこかにぶつけたい衝動にも駆られる“リアルな男の姿”としても描く必要があったのだろう。
逆にドラマチックなオリジナルに比べて、淡々と曲が進行していく「no doubt」は、「201号」「君が好きだった歌」で、終わった恋を回想しながらその舞台となった部屋から引越しをしたのち、改めてその恋愛を俯瞰的に振り返っているというタイムライン上にある曲。すると、このアレンジも当然のものと思われる。当時の自身にとってはドラマチックな出来事だったが、未来からいざ過去を振り返ると、それでも時間は淡々と流れている。そして、過去の出来事を客観的に見ることができる自分がいる。そんな状況を表現しているのが、この「no doubt」のアレンジだろう。
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