X JAPAN、日産スタジアムでみせた無言のプライド

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8月8日の米国シカゴでの<ロラパルーザ>に続き、8月14日、X JAPANのワールドツアーが幕を開けた。「会いたかったぜ、横浜」でも「会いたかったぜ、日産スタジアム」でもなく、「会いたかったぜ、ニッポン」という第一声に、これまでの彼らとは違う目線の高さがある。

◆<X JAPAN WORLD TOUR Live in YOKOHAMA 超強行突破 七転八起~世界に向かって~>2010年8月15日(日)真夏の夜 画像

<ロラパルーザ>でみせたソリッドなパフォーマンスを、スタジアム・ライブにふさわしいセットリストに組み替えたのが14日のコンサート内容となった。本編6曲にアンコール4曲、なんと全部で10曲というコンパクトな構成は、必要な栄養素だけを最小限残し、余計なものは切り捨て濃密な中身を再生成する挑戦的なものである。

おそらく、14日のライブ内容には賛否両論があるだろう。曲目が少ない。曲間が長い。期待していた曲がなかった。バンドの責任ではないが、全てX JAPANが背負うべきものという意味で苦言を呈すれば、会場の音が悪い…など、オーディエンスが感じた消化不良点はバンド側にも届いていることだろう。会場内で風が吹けばギターのエッジ部分やシンバル、ハイハットの抜けなどハイ部分が抜けてしまい、満足できるサウンドとしてオーディエンスにまで届かない。全身で受けたいX JAPANの発するサウンドが目の前で風とともに流れ、指の隙間から零れ落ちる感覚を覚えたオーディエンスも少なくなかっただろう。

しかしながら一方で、これまでとは明らかに異とするステージ構成とパフォーマンスのなかに、X JAPANの明確な方向性が隠されている点は実に興味深い。ひとつがその曲目リストだ。

キャリアの長いレジェンド・ロックバンドが例外なく抱える問題/意識に、往年のヒット曲と今の自分たちを象徴する新曲とのバランスをどう組み込むかという永遠のテーマがある。一時期KISSは新曲を排除した。ファンが求めているものに徹底的に応えようとする鉄壁のポリシーであり、新曲を持ち込む余地を与えないパフォーマンスを貫いた。もはや世襲制がいいとまで語られるKISSだからこその特例ではあるのだけれど。

一方で日本を代表するロックバンドとしてB'zを例に挙げるならば、彼らは2つのコンサートを用意し、そのどちらにも明確に応えるスタンスを有している。新作アルバムを核にした通常のツアーだけではなく、人気の曲だけを集めパフォーマンスする<プレジャー>と名付けられたツアーを組み、アルバムツアーとは別立てで行なうというものだ。

X JAPANは、2008年3月に行なわれた東京ドーム3Daysで復活、手探りながらもできることの最大限を表現した。本来の過激な美学を貫くこと、HIDEとともにステージに立つこと、きちんと音楽を伝えること、会場に来られないファンにも映像を届けること…。満身創痍の中、全身でぶつかった2008年のパフォーマンスは絶大な評価と感動を生み出し、過去誰にも成しえなかった奇跡の復活と生きる伝説を真正面から叩きつけてみせた。ある意味、X JAPANの復活は「何もX JAPANは変わっていない」という不滅・不変の美学を証明して見せたことになる。

それから彼らはさらに東京ドーム公演を重ね、2009年では、新機軸と往年のパフォーマンスの両極をさらにストレッチさせた。新しい側面も全て推し出し、X JAPANクラシックも完全にパフォーマンスするというわがままで贅沢なコンセプトは、忘れかけていた古きオーディエンスを目覚めさせ、同時に若き新たなファンをも掘り起こしたのだ。ここには復活したX JAPANの進化と変貌を示唆し、新たな第一歩を踏み出す潜在的位置エネルギーの巨大さを伺わせるものとなった。SUGIZOの参加がひとつの大きなポイントであることは言うまでもない。

そして2010年、日産スタジアムという日本随一の会場で、彼らはいつの間にか抱えてしまっていたノイズを排除、自らのラインナップに厳しい目を向け贅肉を削ぎ落とすことに力点を置いた。理由は簡単。彼らの視線は世界を向いているからである。そしてこれは、バンドコンディションがコアに向かって凝縮し、強固な極上状態にあるからこそ叶えられるもの。HIDEがX JAPANの永遠のメンバーである事実に揺るぎはないが、だからこそHIDEにはステージパフォーマンスの一端を担ってもらう自然な形での登場となった。

予定調和のノスタルジーに甘んじるつもりはないというのが、現在のX JAPANの明確なスタンスであり、本編が「Jade」で始まり新曲「Born To Be Free」で締めるというこの日の構成からも、彼らの強い意志とともに、これからのX JAPANを示唆するメッセージが込められているとみるのは考えすぎであろうか。

20年前の作品と現在の新曲を同軸に並べパフォーマンスすることの、真の意味での難しさはオーディエンスの我々は知る由もない。ある人はTAIJIの登場に涙しながらも「Voiceless Screaming」を期待し、ある人は「X」でXジャンプをキメながら「オルガスム」を求める。「ENDLESS RAIN」のサビを絶叫しながら「Without You」を夢見る。オーディエンスは、自分の好きなX JAPANがそこにいてくれることを願うだけであるからこそ、大きな振れ幅を持つバンドであれば…キャリアの長いバンドであれば、バンドはオーディエンスの想いを受け取るために破壊と構築が急務となる。まるでX JAPANを言い表すキーワードのように。

アスリートが技術を向上させると同時に、競技に最適化した身体を作り上げるように、X JAPANが作り上げるべきバンドの骨格/筋肉はどのようなものなのか。瞬発力なのか持久力なのか、バネなのかスタミナなのか。バンドが思い描く構想と百人十色のオーディエンスの思いを、YOSHIKIはどのように咀嚼し実行していくのか。

世界へ向けた新生X JAPANが、日本一の会場を震わせた後に進むべき道はどこなのか。過去の名曲をしっかりと響かせながら、まだ見ぬ未知の新生X JAPANのサウンドで世界を切り開いていく覚悟を見せ付けたのが、日産スタジアムでのパフォーマンスだった。

世界のX JAPANへの変貌を、約束どおり本当に生まれ変わった姿を見せてくれたX JAPAN。日本が生み出したモンスターは世界へ向けて最終調整を施し、日本のファンへ向けてそのベストを尽くし、パフォーマンスの最後には盛大な花火が打ち上げられた。大歓声の中ステージの火は静かに消えていったが、いつまでも名残惜しかったのはオーディエンスではなく、YOSHIKI本人だったかもしれない。

冒頭で触れたオーディエンスの賛否両論は「オーディエンスがX JAPANに何を求めているのか」をあぶりだすキーワードだ。そしてその延長には世界がある。X JAPANが世界へ乗り出すその船出に参加した14日の夜、We are Xのキーワードが、本当の意味を持つ日となった。

text by BARKS編集長 烏丸哲也

<X JAPAN WORLD TOUR Live in YOKOHAMA>
1.Jade
2.Rusty Nail
 PATA & SUGIZO Guitar Solo
3.Say Anything(Acoustic Ver)
 SE(ラルゴ)
4.Tears(Piano solo)
 SE(紅ストリングス)
5.紅
6.Born To Be Free
E1.Forever Love(Pf & Vo)
E2.I.V.
E3.X
E4.ENDLESS RAIN
 SE(Tears/Forever Love)
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