HY、過去、現在、未来のすべてが見渡せるような6thアルバム『Whistle』リリース大特集

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HY 6thアルバム『Whistle』2010.1.27リリース

HYの過去、現在、未来のすべてが見渡せるような 豊富な音楽的アイディアとずっしりとした聴きごたえを持つ作品

――「時をこえ」は泉さんの作った本当にスケールの大きな歌で、でもとても個人的な思いが詰まっていて、すばらしい曲だと思います。説明不要な歌詞ですけど、この曲を作ろうと思ったきっかけはあったんですか。

仲宗根: 沖縄で生まれて育って、こうして音楽をやっている以上、いつか作れたらいいなとは思っていたんです。でも、すぐに書かなきゃいけないと思ったことはなかった。降りてきてくれた時が歌う時だと思っていたら、今回10年目といういいタイミングで降りてきてくれて。戦争はしちゃいけない、平和が一番ということを伝えたいんだけど、それをHYっぽく伝えたかったので、おじいちゃんの話、おばあちゃんの話があって、今の自分たちがいて、“その次のあなたたちに私たちが伝えなきゃいけない”っていう3つに分けて歌ってるんです。沖縄は地上戦もあったし、外国の捕虜になるぐらいなら自決しなさいと言われていた時に、それでも命を捨てずに希望を持って生きようとしたおじいちゃん、おばあちゃんが生きていてくれたおかげで、おとうさん、おかあさんがいて、そして私たちが生まれてるということを考えると、歌詞にもあるように、“この命はつながっているものだから大切に生きなさい”ということを、どう伝えようか? とすごく悩んでたんです。でも、できたあとに歌詞を見てみたら、自分が言いたかったことが全部うまくまとまってるなと思えました。

――しっかりと伝わる歌詞だと思います。

仲宗根: レコーディングが終わって一旦はOKになったんですけど、もう一回聴いてみると、突然ゴスペルが頭の中で鳴り始めたんですよ! なんでゴスペル?って考えると…今の現状で、沖縄の人にとって戦争の記憶は薄れていってるんだけど、体験した人にとっては薄れてはないし、現実問題として、おじいちゃんやおばあちゃんは外国人に対して許せないという気持ちがいまだにある。私たちの世代になると、別に外国人に対して悪くは言わないし、思ってもいないんだけど、それが「沖縄の歌」ということになると違ってくるんですよ。沖縄の歌は沖縄の人が誇りを持って歌うもので、今までにもいろんなおじぃ、おばぁの話とか、民謡も含めて歴史を歌ってるじゃないですか。それで沖縄の歴史を歌ったり、沖縄の人が辛い目にあったということが語り継がれていることはあったとしても、それから敵対国の人たちと手を組んで、それからが始まりという歌がないんですよ。沖縄の人のことしか歌わないというか、そこに外国の人を入れると「え?」と思われるようなところが今でもあって。

――う~ん。そうなんですか。

仲宗根: なので、この曲に合わせてゴスペルが鳴った時にも、自分は入れたいし、すごく意味があると思ったんだけども、入れることによって絶対にバッシングを受けるだろうなというのはあって、怖かったんですよ。それは沖縄に生まれて育った人にしかわからない、沖縄の音楽というものがあるんですよね、想像以上に。

――本土の人にはわかりにくいかもしれませんね。

仲宗根: 自分たちの思いとしては、戦争という醜い争いがあったんだけども、そこにいた人たちにはみんな愛すべき家族がいて、それを守るためにやったわけだし、そこで“外国が沖縄を攻めたから外国人は駄目だ”と言うのはどうなの?って。だから沖縄の曲にゴスペルを入れることに意味があると思ったので、9月22日のストリートライヴの時に初めてこの曲を歌ったんですね。“おばぁの歌を作ったから聴きに来て”って、おばぁも呼んで。どう思われるのか、すごく怖かったけど、今しゃべってるみたいにMCで深く説明をして、なぜゴスペルを入れたかを話して、本当の平和って何だろうということを考えるなら、沖縄だからとか外国人だからとかではなくて、みんな一緒にやっていかなきゃ本当の平和は訪れないとか、そういうことを英之に言ってもらって、歌い終わって。そしたらおばぁも“すごい良かったよ”って言ってくれたんですよ。

――それは良かったです。

仲宗根: だからこの歌は、こういうふうに説明していかないと、聴く人によっては“カッコいいからゴスペル入れたんだ”“いい曲だね”だけで終わってしまう。でもそうじゃなくて、なぜゴスペルが入ってるのか、平和って何だろうとか、自分がいま生きてるのはなぜだろうとか、すべてに対して考えてほしいんですよね。戦争だけじゃなくて、自分の命が今あることはものすごいことなんだ、ものすごい価値があることなんだって思ってほしいし、家族が大事だということもこの歌で伝えたかったし。自分を見つめながら周りのことも大事にしていって、さらに大きく“平和って何だろう?”ってことを考えてもらえたら、本当にうれしいですね。

――結成10年の年にこの曲ができたのは、偶然ではないと思います。

名嘉: 運命ですね。これからは、教えていく立場になるわけだから。ひいおばぁは99歳なんですけど、いまでもリアルな話が聞けるんですよね。戦争の頃のリアルな話が聞けるのは僕たちの世代が最後だと思ってるので、これはやっぱり音楽のこと以外にも広げて、ガンガン伝えていきたいと思ってます。

――そしてアルバムタイトルの『Whistle』というのは?

新里: 曲が全部できあがって、曲同士のつながりや関連性を見た時に、「時をこえ」のような平和を歌う曲は、人種も関係なく手をとりあっていくために一歩踏み出そうという曲で、「レール」は自分に嘘をつかないで夢をかなえるためにお互い頑張っていこうという一歩を歌った曲。「告白」でも、勇気をふりしぼって相手に気持ちを伝える一歩を歌っていて、すべての曲が一歩目を踏み出している曲で、つながってると思ったんですね。自分たちも10周年を迎えて、ここからがスタートだという思いがあったので、スタートの合図になるいろんな言葉を探してるうちに、“ホイッスル”という言葉がパッと出てきて、その瞬間にみんなが“これだね”って。自分たちの過去と未来をつなぐきっかけの合図にもなるという思いを込めて、この12曲の曲たちが、聴く人にとって何かをスタートするきっかけのホイッスルになってほしいなという思いで、タイトルを決めました。

――そして2010年は160本以上のライブハウス・ツアーが予定されてます。2011年まで続く、今までで最も長いツアーですね。

名嘉: アリーナ・ツアーを7~8か所やれば、同じぐらいの数のお客さんに見てもらえると思うんですけど、遠くて見えないという声も多くて。だったら10周年の感謝の気持ちを込めて、みんなの街に会いに行って曲を届けたいなという気持ちで、北は稚内から南は石垣島まで行きます。

新里: チャレンジだね、俺たちにとっても。これを経て、自分たちがどう変わるのかが楽しみで、それを信じて頑張っていきたいですね。

取材・文●宮本英夫

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