BARKS編集長001「iTunes1位爆走作品だと?」

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10月某日。ワーナーM氏からメールが届いた。どうやら『冬ボッサ』というコンピ作品がiTunesで連日1位を爆走して社内騒然らしい。しかもこのコンピを作ったのはY氏という。まじで?と、私はワーナーへ向かった。

Y氏とは、ワーナーミュージックのオフィシャルサイトで「口笛太郎のFusion万歳」コーナーを担当している男。口笛太郎なる異名を持ち、いやらしい唇で透き通るような凛々しき音を放つ変態なのだ。所有のカスタムショップのロリー・ギャラガー・モデルをSuperflyのバンドのギタリストに貸してあげてたりもする優しき男Y氏だが、あの変態Y氏がiTunesを席巻しているなんて…。

▲青山一丁目の駅を降りて、ワーナーミュージックへ到着。
▲Y氏に『冬ボッサ』CDを持ってもらいパチリ。
M氏のメールにはY氏のコメントも記されていた。「絢香を抜いた時点で、ワーナーミュージックジャパン(WMJ)でのワシの生命は縮まった。こうなったら腹をくくって残るWMJ生活を派手に楽しみたい。もちろん、続編もある」「そうそう、2010年のバンクーバー五輪でのパフォーマンスも、口笛アレンジを入れてマイケル・ブーブレと一緒にヤル予定だから、そっちもよろしく」

意味がわからない。おつむが沸騰したのか?

青山一丁目の駅を降りてワーナーへ。Y氏を直撃、私は詰問した。今の時点で『冬ボッサ』はすでに1週間ものあいだ1位を連取しているのである。

BARKS編集長:あなた、iTunesで絢香を抜きましたね。いいんですか?
Y氏:えへあはは、は、は、げほ。昨日トイレで社長に会いましたが何もしゃべってくれませんでした。
BARKS編集長:絢香に対してコメントは?
Y氏:いや、あの、絢香はCDでほら、もう一家に一枚の100万枚アーティストですから…。
BARKS編集長:いまさらiTunesで売れなくてもいいじゃないかということですね?マドンナも抜きましたね。
Y氏:ごほ、世界のマドンナも抜いてしまいましたが…でも、もう今更マドンナがiTunesで稼ぐ必要はないでしょうから、ええ。
BARKS編集長:コブクロに対しては、コメントは?
Y氏:黒田君が口笛太郎の応援をしてくれることもあったので、それはもう純粋にありがとうというか、申し訳ないというか。

しどろもどろである。

『冬ボッサ』は海外の名曲をクラブ系ボッサでカバーしたコンピ作品だが、アトリエ・ボッサ・コンシャスというおしゃれユニット名なのか?と勘違いしてくれちゃいそうなシリーズ・タイトルが付いている。アトリエ・ボッサ・コンシャス名義で春夏秋冬ボッサをあと3作品作ろうという魂胆も見え隠れする。その後は図に乗ってベストも制作、合間を縫って梅雨ボッサ、残暑ボッサ…と、現実味のない妄想も膨らむ。

▲カリスマモデル高垣麗子
ただ、真面目なところ、iTunes配信でまず1位をとるところから綿密に戦略を練り、1位獲得というその話題性を元に宣伝施策を構築しようとする策略があったのは事実のようだ。誰もが知っている著名な曲だけを女性ボーカルでおしゃれにカバー、カリスマモデルの高垣麗子をジャケットに起用、10曲入りで600円という価格破壊の設定でiTunesに戦いを挑んだわけである。

そして見事に1位獲得、しかも連取。そしてその話題性に見事に釣られたのが、この私というわけだ。がっはっは。なんか、寒い。

圧倒的な安価設定が記録的なランキングを勝ち得たのはおそらく間違いない。よくありがちなカバーコンピにも見えるだろう。でも、実のところY氏の心の内には、洋楽のすばらしさを知ってもらいたいという想いが渦巻いている。メロディーのよさを伝えたいと願っているという。CDが売れなくなっているこの時代、こと洋楽の売れ行きは深刻だ。そんな中、長年業界で制作を経験してきたY氏がストラテジック・セクションで音楽に愛を注ぎ、少しでも音楽が活性化する一端になれば…と、身を粉にした結果のひとつがこの『冬ボッサ』だったりもする。

素晴らしいカバーが次代へ名曲をリレーする歴史は、これからも絶えてはいけないだろう。「カバーは絶えず誰かがやっているべきだ」と、Y氏が最後につぶやいた。そこだけはちょっとだけいい話だった。

『冬ボッサ』
2009年11月4日発売
WPCR-13717 \2,100(税込)
1. ラスト・クリスマス
2. 君の瞳に恋してる
3. ニューヨーク・シティ・セレナーデ
4. 素顔のままで
5. 僕の歌は君の歌
6. タイム・アフター・タイム
7. 愛はかげろうのように
8. 見つめていたい
9. 愛はきらめきの中に
10. WINTER SONG

◆iTunes Store 『冬ボッサ』10曲入り600円(※iTunesが開きます)
◆「口笛太郎のFusion万歳」サイト
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