人肌の温もりと感動が満ちた、一青窈のライヴ

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表現者として一層その魅力を増したニュー・アルバム『Key』を3月5日にリリースした一青窈が、3月3日(月)東京文化会館 小ホールで行なわれた「大友直人 produce POPULAR WEEK」に出演。そのライヴ・レポートが到着したのでお届けします。

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待望のニューアルバム『Key』がリリースされ、5月よりスタートする全国ツアーへの期待も高まる一青窈。それに先がけて、アルバムの世界観をいち早くファンに披露された貴重なイベント! 東京音楽会館小ホールの600席という贅沢な空間に響いた、一青窈だからこそ描ける物語をレポートします!

今回のライヴは、東京文化会館の音楽監督も務める指揮者・大友直人氏がプロデュースする“POPULAR WEEK”の一環として企画されたイベント。客席は600席というコンパクトな造りながら、天井が高く奥行きのある内装は、普段はクラシックの演奏会を開催するホールらしい凛とした雰囲気が漂う。

そんな美しい音像空間に響く、やわらかな語り。一九七六年、九月二十日、台湾人の父と日本人の母の間に私は生まれました――。「年年歳歳」から始まった第一部は、一青窈作品には欠かせないプロデューサー・武部聡志氏のピアノに乗せて、彼女自身の生い立ちを朗読劇のように綴っていく。父と離れて暮らす、幼い彼女の寂しさを埋めてくれた手紙。その日記のような文章が、現在の歌詞の原形になったと語った「パパ→ぱぱへ」。「あこるでぃおん」は、放課後の音楽室で、先生に教えてもらった曲をひとりで歌った小学生時代の思い出。「かざぐるま」は、初めて付き合った彼と手をつなげないまま歩いた彼女の姿が浮かぶ、切ない恋物語。そして思い出をたくさん残してこの世を去った父と母への思いや、自分の歌を聴きたいという人がひとりでもいたら歌い続けようと誓った、あの日の決意も……。「26才のとき、私の思いがすべて流れていく、素敵な曲と出会いました」。デビュー曲「もらい泣き」へたどり着くまでの日々を、感情表現豊かに、一幕のドラマのように演じてみせたステージに、万雷の拍手が降り注いだ。

第二部は打って変わって、ニュー・アルバム『Key』収録曲を中心に構成。ギター、パーカッション、弦楽四重奏の音色が加わって、1曲1曲の世界観を多彩に色づけしていく。「Key」と「ドミノ」では、身体全体で軽やかなリズムを刻む彼女に合わせ、客席からは自然と手拍子が沸き起こった。そんな会場に向けて、3月3日、ひなまつりならではの趣向も。ステージへ登場するとき手にしていたピンク色の花がついた桃の木を、彼女と同じ女性のファンに手渡しでプレゼント。温かいムードで包まれたこの日のライヴへ、さらに見応えを与えたのが、「ハナミズキ」などで披露した手話。歌詞を視覚的にも表現するたおやかな動きは、“人それぞれの世界がつながっていくことで、地球が成り立っている”という彼女のメッセージを、よりリアリティをもって伝える。マイクを使わない生の声を響かせたアンコール「アリガ十々」「望春風」まで、人肌の温もりと感動がそこには満ちていた。(取材・文/道明利友)


※このライヴの模様は、3/15(土) 18:30~20:00、WOWOWで放送されます。
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