I've特集 I'veサウンド徹底検証 第五回

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I'veサウンド徹底検証 -第5回-

I've Sound:北海道が誇る音楽集団I've 1ヶ月連続特集

その5:トランスとポップスの融合

 これまで4回にわたり、リズム、音色、アレンジ、メロディの4つの面からI'veサウンドの中身を検証してきた。そこから見えてくるI'veサウンドとは、いったいどんな音楽なのだろうか。


・アレンジはトランス主体

 I'veサウンドの重要な要素のひとつはトランスだ。特徴的なのは四分音符をプッシュしたスピーディなリズムで、これはダンスミュージックに共通する特徴だ。そして分厚いサウンドのシンセサイザーでの白玉(長く伸ばす音)のコードバッキングが全体を包み、ベースがリズムとシンセの間をつなぎ、堅実にコードのルートを守って屋台骨を支えているという構成(第一回を参照)で、全体にトランスの香りをうまく漂わせている。
基本的に打ち込みで作られていることも大きい。打ち込みでバックトラックが作られること自体は決して珍しいことではないが、I'veの場合は機械っぽさをあえて隠さず、打ち込みならではのメリットを利用して音作りを行なっているように聴こえる。たとえば周波数分布を見ると、曲中を通して全体のサウンドがあまり変化していない(第二回を参照)。人間の演奏であれば自然に抑揚がつき、音色にも変化がついていくのだが、I'veサウンドでは不必要な抑揚をつけず、音色の変化も抑えている。これは、楽曲全体を通しての安定感につながっている。


・素直なポップソングをいかすためのアレンジ

 一方、楽曲の骨格を見てみると、非常に素直で素朴な作りになっている。とても素直なメロディだし(第四回を参照)、そのメロディを支えるコードや、コードの進行の構成は非常にシンプルになっている(第三回を参照)。
これはメロディをスムースに流れるようにするための作り方であるといえる。音程が大きく飛ぶことの少ないスムースなメロディを基本とし、そのメロディがもっとも美しく響くように、余分な不協和音の入らないシンプルなコードを使う。そしてコード進行は滑らかに流れるよう、自然な循環コードで構成する。ポップソングのセオリーに実に忠実だ。前述のようにトランス主体のアレンジだが、ポップソングのツボをきちんと押さえ、基本どおりにアレンジされているのが、I'veサウンドの大きな特徴なのだ。


・歌モノとして、テーマソングとしての作り

 安定感とスムースさを重視したアレンジはI'veサウンドの特徴なのだが、もちろんそれだけではない。安定してスムースなだけのトランスなんて、変化に乏しく平板な楽曲になってしまって面白くないだろう。だからそこはきちんと考えられている。
曲のセクションがAメロからサビに移行するところなどでは、目立つ音のシンセが装飾的なフレーズを弾いていたり、ここぞというところでベースが大きく動いたりして、アクセントをつけている。メロディも、サビでは一段と高い音域に移行して盛り上がりを作っている。また、一般的なトランスではシンセが前に出たサイバーなサウンドも目立つが、そういう音は控えめで、テクノっぽさはあまり感じられない。リズムも単純なトランスやテクノにありがちな「4つ打ち」ではなく一般的な8ビートがほとんどだ。当然ながら、歌モノのバックということがちゃんと考慮されたアレンジなのだ。
そして、I'veサウンドは、ゲームやアニメのテーマソングとして作られることも多いが、素直なメロディ、スムースなアレンジになっている理由は、実はここにも隠れているようだ。凝ったアレンジの楽曲だと、曲そのものは面白くても、作品より目立ってしまっては具合が悪い。しかしI'veサウンドのような余計なフックのないスムースな楽曲であれば作品に溶け込み、テーマソングとしての役割をうまくこなすことができる。
歌詞も重要だ。前もってシナリオを熟読するなど、作品の中身を十分理解してから歌詞が作られている。そのため、それぞれの作品の世界観を反映した歌詞になり、作品と一体になって楽しめる楽曲に仕上がっているのだ。

ポップで基本に忠実なメロディ、素直でスムースな楽曲の構成を骨組みとして、トランスの手法でアレンジされた伴奏で武装し、テーマソングとして必要な要素を盛り込む。これがI'veサウンドの特徴なのだ。言ってみれば、ポップスとトランス、そしてアニメやゲームの作品の世界観、この三者を絶妙のバランスでミックスしているところが、I'veサウンドの強みなのだろう。


text by 田澤 仁

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