I've Sound:北海道が誇る音楽集団I've 1ヶ月連続特集
一貫した音楽性を持つサウンドを生み出し続けているI'veは、北海道に拠点を置く音楽制作集団だ。このチームがユニークなのは、作詞作曲を行なうクリエーター、そしてその曲をリスナーに向かって表現するヴォーカリスト、つまり制作に携わるすべての人材を自前でまかなうプロダクションであり、かつ独立したレーベルでもある点だ。そのため、I'veそのものが、ひとつの音楽ジャンルとして認識されるようになってきている。
海外では、以前からレーベルそのものが特定のジャンルと結びついて認識される例も少なくなかった。たとえば60年代にアメリカで大ヒットを連発したモータウンは、インディーズレーベルの最初の成功例といわれている。ソングライター、スタジオミュージシャンなどを専属で抱え、モータウンのイメージに合うよう教育した上で、ゴスペルやブラックミュージックを基本にポップソングを数多く生み出した。その結果、いまやモータウンといえばむしろ音楽ジャンルを指す言葉として使われることも多い。またR&Bやソウルのアーティストを集めて60年代に頭角を表したアトランティックは、その後白人系ロックに進出してさらに成長、ワーナー・ミュージックグループの重要な一角を占める超メジャーレーベルになった。
さらに近いところでは、シアトルのインディーズレーベル、サブ・ポップがある。サブ・ポップはニルヴァーナやサウンドガーデンといったバンドを世に送り出し、90年代のグランジブームをリードしたレーベルだ。この頃のアメリカには、メジャーよりもよほど売れたアーティストを擁するインディーズレーベルがたくさん存在していたし、デビューを目指す若いアーティストは、自分の音楽性にマッチするレーベルを狙って売り込んだ。アーティスト側が、メジャーであることより、音楽性がマッチするかどうかでレーベルを選ぶという状況は、もちろん今も続いている。
以前の日本ではこうした例はそう多くなく、ひとつのメジャーレーベルが多様なジャンルを一括して扱う場合が多かった。しかし最近では、大手レコード会社の傘下に複数のレーベルが置かれ、それぞれが特定のジャンルを扱う方向にシフトしてきている。エイベックスのように、メジャーながら独自の音楽性をもつレーベルも出現してきた。状況は変化しつつあるのだ。
そんな中でI'veは、クリエーターからアーティストまでを専属とし、レーベル内ですべてを完結させて制作を行なってきた。それが、強力にひとつの方向を向いて音楽を生み出せる理由でもあるだろう。そのあたりは初期のモータウンの方針に似ていると言えなくもない。また、アニメやゲームという、いわば特殊な分野を専門的に開拓し、一般的なポップスとは一味違う楽曲を提供し続けてきたことも、インディーズレーベルだったからできたことかもしれない。もし色々と制約のあるメジャー傘下でやっていたら、状況が違っていた可能性は高い。
特定の音楽に焦点を定めたインディーズレーベルというのは、これまで国内になかったわけではないが、I'veはその最初の成功例といえるかもしれない。こういった例がこれからも増えていけば、国内の音楽シーンもますます活気付き、面白くなっていくに違いない。
text by 田澤 仁
I'veサウンド徹底検証