──PVがステキですね。殺風景な海岸だと思っていたら、すごいお花畑が現われて。
タイナカ:あの花は本物なんですよ。実は、撮影が雨のために1週間遅れたんです。そしたらきれいに咲いてた花が元気なくなっちゃってて。それで、撮影用のライトを当て続けて咲かせたんですよ。ライトをずっと当てて、花に向かって“ほらほら、お母さんだよ。咲け咲け”って(笑)。そうやってスタッフの人が一所懸命やってくれたので、私もそれに応えるために頑張りました。でも、ほんとに寒かったんですよ。私、すごい薄着だったんで。
──PVの撮影は楽しい?
タイナカ:映像って、音を作ることとは全然違って、プレッシャーを感じなくていいのですごく楽しいです。歌はずっと歌ってきたけど、カメラで撮ってもらうのはここ一年くらいのことですよね。だから新鮮というか、楽しいというか。映像のプロの方たちに身をゆだねて、ありのままに映してもらっているという感じですね。
──アルバム『Dear...』もほとんどがそうだし、今回のシングルも2曲ともタイナカさんの作詞作曲だね。いまの自分の思い描くことがすべて表現できている?
タイナカ:すっごい難しい問題ですね。私は曲を作るのが大好きなので作ってはいきたいんですが、これからまたアルバムを作れるのであれば、ほかの人が作ったメロディに出会ったりしたいなとは思ってるんです。そのときはヴォーカリストとしてどういう風に応えればいいのか、また新しい刺激をもらえると思うんですね。でも、自分のなかに歌い手と作り手という2人がいるんです。いまはもっとやりたいという、作り手としての自分がかなり強いので、まだ出し切れていないものを作っていきたいと思います。今回の「愛しい人へ」にしても、100%表現できているかどうかは別にして、間違いなく今一番伝えたい曲はできたと思っています。
──その曲作りについてだけど、どんなときに曲は生まれてくるの?
タイナカ:ものすごく嬉しいとき、悲しいとき、悔しいときなどの心が揺さぶられているときが多いですね。そういう時は“いまが作るときだ”って思います。ピアノに向かってメロディを作るんですね。そのときは歌詞のテーマだけを決めて、それからゆっくり歌詞を考えていくんです。だから歌詞を書くときは平常心のことが多いんです。
──歌詞はどこで書くの?
タイナカ:6割くらいはコーヒーショップですね。雑音の中で集中できたときが一番いいものが書けるんです。雑音さえ気にならなくなって、気づいたら何時間も経ってたっていうときが。でも、同じ場所にずっと座っているんで、お店の人に悪くて、何杯も飲んじゃうんですよ。どんな顔して書いてるんでしょうね。
──カップリングの曲についても教えて。アップテンポで勢いのある曲だね。
タイナカ:私がよくやることなんですけど、私の中でテーマを決めて作った曲なんです。これは、“スポーツ大会や運動会で流れる曲”っていうテーマなんですよ。身体を動かして頑張るスポーツ選手の背中を押す曲を作ろうと思って。勝手にですよ(笑)。勝手にそんなテーマを決めて。心を描いたのが「愛しい人へ」で、体力の限界を描いたのがこの「Begin」ですね。去年のワールドカップのときに、巻選手が急に選ばれましたよね。それを見て、“きっと不安だろうなぁ”と思って、応援する曲を作ろうと思ったんです。
──そういう力強さを感じる。内容的に、いろいろな人に届きそう。
タイナカ:スポーツ選手だけじゃなくていろいろなメッセージを入れたつもりなんです。私は“イメージする”ということがとても重要だと思ってるんです。あのステージに立ちたいとか、ああいうふうになりたいとか、しっかり決めることが多いんですね。それはどんなジャンルの人でも同じだと思うんです。そうやって思ったときには、そこへいくための一歩を踏み出してるんじゃないかという意味を込めて。それはすべてBeginだと。
──2曲のまったく違うタイプを聴くことによって、ファンはサチさんのことをよく理解できると思うよ。
タイナカ:さっき、心が揺さぶられているときに曲を作るって言いましたが、そうじゃないときは、この曲のようにテーマを決めて曲を作るんですね。「Begin」はそうやって作った曲だから、気持ち的に余裕がある。だから能動的な内容になってるでしょ。「愛しい人へ」と「Begin」はまったく違う精神状態とシチュエーションで作った両極端な曲ですね。どっちも自分で作った曲なので、いろいろなタイナカ サチを知ってもらいたいです。
取材・文●森本 智