【ライブレポート】サプライズにも王道にも“GLAYらしさ”が発揮された最上級の夜

2025.06.08 12:00

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前回2015年5月30日・31日から、ちょうど10年振りとなったGLAYの東京ドーム公演。ちなみに10年前の5月31日もこの6月1日も日本ダービーの開催日で、お隣のウインズ後楽園も賑わいを見せていた。それはともかく──10年振りの東京ドーム公演は前日5月31日を含めてGLAYにとっても特別な2日間であったことは間違いない。

◆ライブ写真

“GLAY EXPO”をテーマに2024年から疾走ってきたメジャーデビュー30周年記念のアニバーサリーイヤーの締め括りとなるドーム公演。特別中の特別ではある。しか──これは個人的な感想であることを予めご了承いただきたいのだが──本公演がGLAYにとって極めて特別なライブであったかと問われたら、そういうことでもないという気がしている。それが2日間を見終えた今の率直な感想だ。

念を押すが、もちろん特別中の特別ではある。10年振りなのだからextra specialである。だが、それこそ日本ダービーのようにその年の3歳馬しか出走できないレースであったり、例えば母国以外ではほとんど実現しない海外アーティストの来日公演であったり、そういった特別ではなかったように思う。

そう思わせるに至ったのは、半年前までアリーナツアーを行なっていたことが関係しているかもしれないし、2月にLUNA SEAとの<The Millennium Eve 2025>で東京ドームに登場したことと無縁ではないかもしれない。あるいは、2005年の東京ドーム公演で「10年後このステージにジャケットを絶対に取りにくるから」とのTERUの宣言から2015年に至った時のようなドラマがなかったせいかもしれない(そう言えば、この日、M14「疾走れ!ミライ」の時、TERUは自身が脱ぎ捨てた白いジャケットを曲が終わったあとでちゃんと拾ってきちんとマイクスタンドにかけていましたね)。

要するに、今回のようなドーム公演はGLAYの日常ではないけれど、かと言って、彼らにとっての非日常≒異空間ではない。そんな風に思うのだ。通常のライブをドームクラスにスケールアップした……とは簡単な物言いだが、今回のような公演はあくまでもGLAYにとっての当たり前の延長上であり、その最上級に過ぎない。その意味ではドレスアップと言ったほうがいいかもしれない。30周年を迎えたGLAYがアニバーサリーに相応しい綺麗な衣装に身を包み登場した。でも中身はこれまでのGLAYだ。バンドを擬人化すればそういうことになるだろうか。

翌日以降テレビやスポーツ紙でも今回の公演の模様が報じられ、多くの人たちにもその雄姿は届いたことだろう。その中には、リアルタイムのロックエンタテインメントの煌びやかさに目を細めた人も多かったと思う。だが、GLAYはいつものGLAYであり、目の前にいる5万人(前日と併せて10万人)はいつものGLAYのオーディエンスであったのである。それを象徴するエピソードを当日間近で耳にして随分と微笑ましく感じたのだが、それは後述するとして、まず筆者が本公演をGLAYにとっての当たり前の延長上とする理由を以下に記そう。

この日最大のサプライズはアンコールでのL’Arc-en-Cielのhydeの登場であったことは、すでに多くの方がご存知のことと思う。hydeがステージに現れた時の観客の反応は、これまで筆者が現場に身を置いていたあらゆるエンタテインメントにおいて初めて体験するものであったと思う。それほどに強烈なものだった。すさまじかった。この瞬間を指して“東京ドームが震えた”と表した記事も目にしたが、それは比喩でもなんでもなく、書いた人は本当に東京ドーム内の空気が震えたように感じたのだと思う。自分もそれに大きく同意する。あの時のオーディエンスの悲鳴にも似た歓声も人生で初めて体験した代物だった。

前日のYUKIの登場と併せてアンコールでのゲストは今回の東京ドーム公演が特別なものであることを際立たせていた。ただし、GLAYが思いもしないゲストを招くことは、こういう大規模コンサートやツアーの千秋楽などの節目ではままあることだ。直近では今年1月の<GLAY 30th Anniversary ARENA TOUR 2024-2025 “Back To The Pops”Presented by GLAY EXPO at HAKODATE Sponsored by JAL>で最新アルバム『Back To The Pops』にも客演した清塚信也氏を招いたことも記憶に新しい。

昨年6月の<GLAY 30th Anniversary GLAY EXPO 2024-2025>ではENHYPENのJAYが登場して「whodunit-GLAY × JAY(ENHYPEN)」を生披露した。もっと言うなら、同じベルーナドーム(当時の名称はメットライフドーム)での<GLAY 25th Anniversary “LIVE DEMOCRACY”>(2019年)ではMISIAと共に「YOUR SONG feat.MISIA」を熱演。10年前の東京ドーム公演<20th Anniversary Final GLAY in TOKYO DOME 2015 Miracle Music Hunt Forever>ではYOSHIKIのピアノで「RAIN」が演奏された。

こうして列挙すると、むしろ大会場や節目においてのサプライズはGLAYの得意技であることが分かる。ただGLAYの場合、いつもそのサプライズがこちらの想像の上を行くのだ。今回であれば10年振りの東京ドームということで“何かやってくれるだろう”というファンの期待には応える。しかし、その“何か”が期待を大きく超えるのである。ベタな言い方をすれば、いい意味でその期待を裏切る。やすやすと裏切って来て、しかも、その振り幅、落差が半端ないのである。

前日5月31日の「週末のBaby talk」はそもそもオリジナル音源のアルバム『BEAT out!』にYUKIが参加しているので、アンコールで同曲が始まった時に“もしかするとYUKIが現われるかな?”と思った人が少しはいたかもしれない(とは言え、演奏が一旦ブレイクした後で真っ赤な衣装のYUKIがステージ上に現れた時の大歓声から想像するにほぼ観客全員にとってのビッグサプライズであったのは間違いない)。だが、この2日目のアンコールで、ドラマー、TOSHIがスネアを連打した時、それが「誘惑」のイントロであることはそこにいた全員が認識しただろうが、まさかそこにhydeの声が乗ると思った人は皆無だったに違いない。

人は間近で起こっていることが自身の思考の範疇に収まらない時、周囲に確認を求めるようだ。hydeが《時に愛は2人を試してる》と歌ったとき、周囲のオーディエンスの反応がまさにそれだった。隣の席の人同士、顔を見合わせている光景が多く見受けられた。現実感がなかったのだろう。“今目の前ですごいものが起こっているよね!”と再確認せずにはいられなかった。そんな様子だった。

ライブコンサートに限らず、小説にせよ、映画、舞台にせよ、あるいは演奏される音楽自体にせよ、優れたエンタテインメントはその中で緩急を巧みに操る。受け手の想像の範囲内から範囲外へ。そこから再び範囲外から範囲内へ。想像できるものばかりが続くと飽きてしまうし、まったくの想像の埒外ばかりでは理解が追い付かず、それもまた飽きてしまう。送り手はこれらを交互に巧く操って受け手を飽きさせない。その按排の絶妙さが芸能や芸術の肝である。その点、今回の東京ドームでのサプライズは、GLAYのコンサートが極上のエンタテインメントであり、芸術の必要条件を備えていることを改めて示した。そういうことがひとつ言えると思う。

“サプライズ=想像の範囲外”について記したので、続いて範囲内についても触れておきたい。範囲内というと若干ネガティブに捉えられるかもしれないので、安定と言い換えてもいいし、何なら王道と言ってもいいだろう。M1「口唇」(5月31日は「誘惑」)から始まり、M3「生きてく強さ」、M4「グロリアス」と続く序盤は鉄壁な布陣。まさに“THE GLAY”のロックチューンである。M1はTERUの歌が若干走り気味な印象であったが、それもロックと言える。オーディエンスは上に掲げた両腕を振り、TERUからマイクを向けられるのを待つまでもなく、めいめいに歌詞を口ずさむ。

中盤のM8「軌跡の果て」、M9「つづれ織り~so far and yet so close~」、M10「pure soul」は言わば“聴かせるセクション”である。溝口肇氏をコンダクターに室屋光一郎ストリングスが鳴らす流麗な弦楽奏、さらに竹上良成氏によるサックスと、バンドサウンド+αの芳醇なアンサンブルが披露された。歌詞世界の奥深さも相俟ったのだろう。観客は身動きを抑えてじっくりと見入っている。乗るロックチューンだけでなく、聴かせ魅せるナンバーもGLAYの標準装備だ。オーディエンスはそれを十分に理解し楽しんでいる様子だった。

本編の締めは、最新アルバムからM12「BRIGHTEN UP」、M13「彼女の“Modern…”」、そしてM14「疾走れ!ミライ」と、それぞれ初出が2024年、1994年、2014年というまさしくGLAYが時代を超えてライブバンドを貫いてきたことを示す楽曲群だ。ラストはM15「SOUL LOVE」。コロナ禍でバンドも観客も難儀だった時、HISASHIが「今は耐え忍ぶ時期、でもエンタテインメントの可能性を信じよう。そして「SOUL LOVE」をドームで一緒に歌おう」とYouTubeで発信した、そのナンバーである。締めに相応しい……というよりも、これしかないと言ってもよい締め括りであった。

アンコールは前述の通り、hyde(5月31日はYUKI)がステージを去ったあと、「BELOVED」(5月31日は「HOWEVER」)をシンガロング。熱狂のあとで誰もが認めるGLAYを代表するミッドチューンを持ってくる辺り、ここでも緩急を巧みに操っていることが良く分かる。アンコールラストは、フロートでメンバー4人が二手に分かれてアリーナを1周してから「BEAUTIFUL DREAMER」。完璧なフィナーレである。ファン納得の大団円。さながらアントニオ猪木の延髄斬りからの卍固め、晩年の猪木なら浴びせ蹴りからの魔性スリーパーといった感じだ──何を言っているのか分からない人が大半だろうが、これが出たら文句なしのフィニッシュということだ。

本編の序盤、中盤、終盤、そしてアンコールの後半と、本公演でGLAYはバンドとしてひとつの型を示したように見える。それは言うまでもなく、この30年間で型と成ってきたものだ。「BEAUTIFUL DREAMER」は、GLAYの存在そのものが社会現象化した最初の10年間、その後半(2004年)に生まれたものだ。つまり、最初期からライブでやり続けてきた楽曲ではない。また、デビュー20周年のシングルであった「疾走れ!ミライ」はその「BEAUTIFUL DREAMER」の10年後に発表されたもので、今春リリースされた『DRIVE 2010〜2026 -GLAY complete BEST』のファン投票で堂々1位に推された人気曲である。

個人的には「疾走れ! ミライ」というと、<GLAY EXPO 2014 TOHOKU 20th Anniversary>や<GLAY × HOKKAIDO 150 GLORIOUS MILLION DOLLAR NIGHT Vol.3>での演奏が印象に残っているが、ここ10年間のライブで磨き上げられてきた楽曲である。いずれにしても最初からバンドに備わっていたものなどではなく、30年間の活動の中で支持されてきた楽曲である。ファンと共に育て上げてきた楽曲と言ってもいいように思う。それらが“特別なライブ”であるこの日の中核の成すのは当然であるし、それこそが30周年の証しだろう。

10年後は新たにどの楽曲がライブで定番化するだろうか。それこそ「BRIGHTEN UP」がそうなるかもしれないし、本公演では披露されなかったもののこの度のファン投票で3位になった「Bible」かもしれないし、「Buddy」辺りは十分にその可能性があると思ったりもする。また、これまでライブの盛り上がりを担ってきた「SHUTTER SPEEDSのテーマ」や「ビリビリクラッシュメン」、あるいは「ピーク果てしなく ソウル限りなく」などはどうなるのか。そんな想いも頭をよぎった。この<GLAY 30th Anniversary GLAY EXPO 2024-2025 GRAND FINALE>のセットリストは、向こう10年、あるいは20年後のGLAYの姿を想像させるものであったことも記しておきたい。

本稿最後に、冒頭で述べた“いつものGLAYのオーディエンス”の話を記そう。ライブが終わりドームの空気に押し出され外へ出て後楽園駅方向に進んでいると、自分の近くに先ほどまでのライブの感想を語り合う男女混合グループがひとつ。やはりhydeが出てきてびっくりしたとか、あの曲が良かったとかこの曲が良かったとかワイワイやっていたのだが、そのグループの中の男の人が「しかし、何で俺が見るライブでは「Winter,again」をやってくれないんだろうなぁ」と笑いながら語り出した。悔しさをにじませていたという感じではなく、嬉々としてそう話していた。それを聞いて周りも笑っていた。話しぶりからすれば、この東京ドームが彼にとって初GLAYではなく、何度か見ていることがうかがえる。むしろ比較的頻繁に参戦しているのだろう。でも「Winter,again」を生で聴けてないという。でもどこか楽しそうだった。

前回のアリーナツアーでも、一昨年のホールツアーでも会場によっては「Winter,again」は披露されているし、軽く調べたら、それ以前もほぼ毎年ライブでやってはいたようだ。その彼は巡り合わせに運がないとしか言えないけれど、それもこれも、GLAYが懐メロ歌手のように固定のセットリストでツアーを周るようなアーティストではないからだし、その彼もGLAYのライブに足を運んでいるからこそ、逆説的に「Winter,again」を生で聴けないことに気付くのだ(一度二度しかGLAYのライブに行っておらず、そこで「Winter,again」を聴けなかったとしても、“何で俺が見るライブでは…”と思うことはないだろう)。

小さなエピソードだったが、GLAYがいつも通りライブをして、そこにいつも通りオーディエンスが足を運んでいること感じさせる話であった。彼はまたGLAYのライブに行くだろう。“今度こそ必ず「Winter,again」を聴けるはずだ”と思いながら。いずれにしてもGLAYと彼が10年間お互いに元気でいることが前提であるので、10年後があることを当たり前のこととして期待したいと思う。

取材・文◎帆苅智之
写真◎岡田裕介、田辺佳子、上溝恭香

セットリスト
2025年6月1日 東京ドーム

1.口唇
2.嫉妬
3.生きてく強さ
4.グロリアス
5.メドレー1(シキナ~STREET LIFE~Missing You~都忘れ~MIRROR)

  1. BLACK MONEY
  2. NEVER-ENDING LOVE
    8.軌跡の果て
    9.つづれ織り~so far and yet so close~
    10.pure soul
    11.メドレー2(BE WITH YOU~ここではない、どこかへ~とまどい~SPECIAL THANKS~春を愛する人)
    12.BRIGHTEN UP
    13.彼女の“Modern…”
    14.疾走れ!ミライ
    15.SOUL LOVE
    アンコール
    16.誘惑
    17.HONEY
    18.BELOVED
    19.BEAUTIFUL DREAMER
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