【対談インタビュー】lynch.玲央×Waive杉本善徳、真逆だから惹かれあう「同じ景色を一緒に見ようよ」

◼︎俺って愛されるのかな?を知りたかったのかもしれない
──lynch.もWaiveも、リテイクアルバムをリリースしたばかりです。今現在のバンドの力で過去を更新する、という試みは共通点かなと思いますが。
玲央:そうですね、ちょうどリリースのタイミングも近かったりして。
杉本:僕らは一度解散しているから、ちょっと違うところも正直あるとは思いますけどね。もともとリテイクをしたほうがいいなと思ったのは、自分のバンドだけれども、解散している間に各々メンバーが違う活動をしていたから。田澤くんの歌を聴かせるのが僕の仕事だと思っていて、それを聴かせれば必然的にWaiveというバンドの良さ、曲の良さ、歌詞の良さは伝わるはずだから、まずはそこなんじゃないのかな?って。あとは、このプロジェクトがこの先も続いていくものではないから、新曲が10〜20曲入ったアルバムを作られて解散ライブに来てもお客さんは「いや、全部知らんねんけど……」となってしまい、観たいものが観れないことになってしまう。じゃあ改めて今のWaive、最後のWaiveの形をちゃんと残さないとダメだよね、と思って再レコーディングすることにしたんです。なので、目的としている部分は違う気がしますけどね。
玲央 :lynch.の今年発表した2枚のリテイクアルバムに関しては、当初3人でバンドをスタートしていて、下手ギターの悠介、ベースの明徳が参加していない楽曲もあったので、それをこの20周年のタイミングで全てクリアにしたい、ということで始まったプロジェクトでした。新曲も1曲ずつ(「GOD ONLY KNOWS」・「BRINGER」)追加して、半年ぐらいで約60曲をリテイク。しかもツアーをしながらだったのでめちゃくちゃ大変で。葉月からは「もうこんなギチギチなスケジュールではレコーディングしたくないです」との明確な意思表示がありました(笑)。スケジューリングも各メンバーと擦り合わせしつつ、全部僕が一言「ごめん、ここしかない」で、決めさせてもらったので。
──でも、ファンの方にとっては非常に親切なアイテムになりますよね。
玲央:そうですね、そこは善徳くんとやはり考え方は一緒で。今現在進行形の、1番自信を持って聴かせられる音楽、バンドの作品をこういった形で残す、というところは共通していると思う。
──Waiveの「燦」とlynch.の「BRINGER」、共に新曲に初期衝動が迸っていると感じました。ベテランの両者からこのタイミングでこういった熱量の曲が生まれたのは、数奇なシンクロニシティを感じます。
杉本:僕は初期衝動みたいなものって、年齢とかキャリアは関係ないと思っているんです。初期という言葉に惑わされているだけで、「生きてりゃ衝動なんて何回も来るでしょ」って思うんですよ。だいたいのことに人は飽きたり慣れたりするから、衝動が抑えられてしまっているだけで。でも、それを何度も呼び起こすことができるヤツが僕は本物だと思ってるし、偉そうな言い方したら「その辺のやつと一緒にしないでくれ」とも思うし。今、自分の中にある感情をもう1度若い時に戻すことができますか?と言ったら、若い時には戻せない。なぜなら時は戻らないから。でも、若い時と同じだけの熱量にすることはできますか?と言ったら明日にでもできる、何だったら今にでもできます、というのがプロだと僕は思う。ここで勝負しないとダメだ、となった時にアドレナリンが出せるか出せないかだと思うんですよね。玲央くんに限らずlynch.も僕らも、それができたから今この曲になったよねっていうだけ。
玲央:もう、善徳くんが全部話してくれました。衝動ってやっぱり普段から転がっているんですよ。耳に入ってきたものを聴いて、「めちゃくちゃカッコいい」、目にしたものを見て「すごく綺麗だな」って思う……そんなふうに常にアンテナを張って敏感に反応する感度を持っている人間が、善徳くんの言葉を借りれば“本物”と言われる人たちなんだろうと思います。先日<LUNATIC FEST.2025>に出させていただいた時も、やはり出ているバンドさんみんな、熱量がすごい。「やっぱり、これだよな」って。
杉本 :好き嫌いは人それぞれ好みがあるから、どれがいい悪いは自分の中ではあるんだけど、やっぱりここまで来たヤツは皆本物やなって思うんですよ。それはファンもそう。僕らが何者でもなかった頃から一緒にいたってことは、本物やと思う。群雄割拠の中で、残る理由がない限り残れない、というシビアな戦いをしてきたので。分かりやすく熱い曲が出るのか、あえて冷たい曲を出すのかは人によって衝動の表現の仕方は違うけど、このタイミングだから両方熱いものが出た、というだけなんでしょうね。
──<LUNATIC FEST.2025>のlynch.のライブは、葉月さんのMCが象徴的でしたが、12月28日の東京ガーデンシアターにここにいる全員を連れて行くんだ、という気迫を感じました。玲央さんは12月28日に向けて、今どのような心境ですか?
玲央:活動休止期間もありましたけど、本当にありがたいことに僕らは20年活動することができた、それはやっぱりファンの方がいて初めてできたことだと思っているんですよ。そのファンの方たちが、20周年の締め括りとなるガーデンシアターのライブを見た時に、「このバンドを応援してきてよかった」「この先も応援したい」と思ってもらえたら、僕はそれでいいと思ってる。手前味噌ですけど、今すごくバンドの状態がいいんですよ。ツアーを回っていてハズレのライブがないし、ベスト盤と言えるような構成のセットリストをもう組んでいるので。その熱量をそのままガーデンシアターでぶつけられたらいいな、というか、ぶつけなければいけないし。それは20年やってきた責任なので。それを受け止めてもらえたらうれしいな、と。もうそれだけですね。
──杉本さんは、そのような心持ちでlynch.を引っ張っている玲央さんに対して、どう思われますか?
杉本:限りなく同じことを思っているんだと思う。僕らの場合はそこに“解散”が付くだけで、今の玲央くんが言ったことの主語を杉本にして「コピペしといて」と思ったぐらい(笑)。先日我々の武道館のステージセットの打ち合わせをした時に、舞台監督に対して僕は一言一句違わないことを言いましたよ。やっぱり集まってくれているファンの人たちが「関わって良かった。この日に来て良かった。もっと観たい」と思うものをするだけだから。質問に対する答えとしてはズレるかもしれないけど、僕はもう“共存”しかないと思ってる。Waiveのファン、僕のファンは皆lynch.に観に行こうぜ!と言う気も正直ない。なぜかというと、「好き嫌いはあなたが決めてくれ」と思っているから。でも、同じ景色を見て、それについての感想を述べあいたい。俺はlynch.観に行くんだよねと事前に言っているんだから、1人でも多くの人が同じ景色を見てどう思ったか知りたい。「美しかったよね」とか、「あの部分はこう思った」とか、褒めようが貶し合おうが、どっちでも構わなくて、ただ「同じ景色を一緒に見ようよ」と思ってる。
──なるほど。
杉本:12月28日のlynch.に対して1月4日のWaive なので、Waiveはlynch.の背中を追っ掛けていくような……いや、背中じゃないかも。このくらいの距離(※背中というよりは近く、並走よりほんの少しだけ後方、という位置関係をジェスチャーで)を走ってる感覚があるんだけど、僕自身は武道館を見ていないといけない。だからlynch.がガーデンシアターに向けてどう動いているかを観ている余裕はない。けど、武道館に向かう僕らに付いて来てるメンバーやファンに対しては、「一瞬lynch.のガーデンシアター公演を通っていこうよ」という気持ちはある。
──ガーデンシアターは大舞台なわけですけども、そこへ挑むlynch.の覚悟に対してはどう思われますか?
杉本:正直なことを言うと、僕はlynch. にとっては特に大舞台だとは思っていないので、普通に通過してくれと思ってるし、普通に超えていくと思ってる。ビジネス目線になった時には数字の話が付いてくるけど、オンステージしている時は数字よりもハートの問題でしかないし。lynch.はそこでの掌握力はもう持っているバンドだから、「もう出来上がってんじゃん」と言いたいですよ。今ツアーでやってる以上のものをその日に実現させられたらもう成功でしょって。ツアー中にも夜遊びせずに、健康管理して。そういうようなことが大事なだけで、あとのことは全く心配してない。自ずと成功するって信じているだけですね。
玲央:そういうふうに言っていただけるんだったら、もうそれに尽きます。成功させる気でいるので。僕が「成功させる」と断言することで、他のメンバーも「じゃあ、期待以上なものをやろうよ」と、やっぱり火が点くわけです。これがやっぱり僕はバンドだと思ってます。
杉本:お湯って沸騰したら100℃以上に温度が上がらないから、その先も続けていくならあえてクールダウンするタイミングをつくらないといけなくなるし、その難しさはあるけど。とはいえ、その先の難しさを考えて「ここでは90℃に抑えておこう」という活動ではやっぱりダメで。100℃に達しない限りは沸騰しないし、それこそさっきの衝動は起きなくなるから。
──確かに。
杉本:僕はlynch.とのツーマンのところまでは正直打算的……と言ったら変だけど、Waiveとしては「勢いのあるバンドと一緒にやらせてもらって、ステージを上がっていけたらいいな」というビジネス論みたいなところもあったと思う。でも実際にツーマンをする中でステージを観ていて思ったのは、「話すべきことがあるんだな」ってことだったんです。観てくれた方も「玲央さんと話したほうがいいんじゃないですか?」と言ってくれたりして、「外からもそう見えたんだったら話したい」と思ったから今日この対談を行うことにした。本当にたかが1週間の差でお互いの“その日” が来るんだけど、やっぱりlynch.が1週間先を行ってるぶん、なんとなく勝手に後ろを歩いて「たしかに」と思うことが起きていて。

──それは具体的にはどういうことですか?
杉本:例えばSNSをこのタイミングで玲央くんが始めたこととか。そういうことも、やりたいかやりたくないかじゃなくて、やるべきだよね、フックになるもんねと思うし。そのこと自体、プラスもマイナスも生むと思うんですよ。でも、それだけの覚悟があるというのも伝わるし、玲央くんがSNSを始めたことで他のメンバーの発言を補うこともできるようになるなとも思う。あらゆるもの見ていて「あ~そうなるよな」という感じのことがあるので、助かります。僕らが<CROSS ROAD Fest>に出る一週間前にlynch.が<LUNATIC FEST.2025>に出ていたのも、「こういう感じになるのかな」と思いながら観ていたし。
──そういえば、「燦」のレコーディングに際し、機材を誰か貸してくれませんか?という杉本さんのXの投稿に玲央さんが反応し、実際に貸し借りがあったとか。
杉本:そうなんですよ。「燦」には玲央くんの機材の音が入ってるから、是非買ってください(笑)。「機材を貸して欲しい」と発信したらその日のうちに「今ちょうど東京にいて、持ってます」と連絡をくれて、「本当に?!」っていう。
玲央:リハのために東京に来ていて、「僕、実はスペアでいつも持ち歩いてるものがあるんですよ」と連絡したんです。善徳くん自ら「取りに行きます」と言うので、「いえ、僕が明日リハ終わりに持っていきます」って。レコーディングしている人が移動すると、もし何かあった場合、ディレクションする人がいなくなってしまうので良くないですから。スタジオ見学もさせてもらいたかったし。
杉本:数小節程度しか使わないのにわざわざ持ってきてくれて、ビックリした。ギター機材に詳しい人は聴いたら「ここ」って分かるはずです。イントロと間奏で同じフレーズの特殊音が鳴る、エフェクトのところで使わせてもらいました。すごく気遣いをしていただいて、これはまさに仏ですよ。
玲央:いやいや。困ってる人がいて、顔も知っているし連絡先も知っているんだったら、連絡しようかなって。
──解散に向かうWaiveの何か力になりたい、という想いと根底で繋がっているのでしょうか?
玲央:根本にあるのはWaiveが好きかどうかですよ。Waiveというバンド、Waiveというバンドをやっている人間にさほど興味がなければ「動きたい」とは思わないし、要はそこも衝動なわけです。僕も1人の人間なので感情がありますし、「したいな」と思うかどうか。ファンの方は皆そうだと思うんですよ。「観たいな」と思うから会場に足を運ぶわけで。AIだ何だかんだと言っても結局人には心があって、それを揺さぶることができるかどうか。僕はWaiveの動画を観た時に揺さぶられたんですよ。もう本当にそこだけ。「成功してほしい」というだけですね。自分がバンドをやっているからとか、そういうのを一切抜きにして、1人の人間としてこのバンドの武道館が成功してほしい。そう願っているだけです。
──心強い応援団ですね。
杉本:そうなんですよね。なんでなんでしょうね?
玲央:善徳くんの配信番組に毎月逹瑯くん、seekくん、団長くん(NoGoD)、準レギュラーのSATOちくんがみんな都合を付けて来ているわけじゃないですか? あれを観て「すごく美しいな」と思って。
杉本:あれ、無償なんですよ。
玲央:「愛されてるな。バンドってこうだよな」と勝手に思っちゃいました。収録が終わった後、「出てくれてありがとうね」「いや、こちらこそ」なんていうやり取りをしている時に、若い時のライブが終わった後の打ち上げの帰りと同じ匂いがした。「うわ~たまんないな、この感覚。久しぶりだわ」と。「自分も近頃アンテナが鈍ってたな」と思うところもありましたし、すごくいい機会をもらえたな、と。こちらこそ感謝でしかないんです。
杉本:でも、「なんでなんだろう?」とは未だに思っていて。逹瑯たちが協力してくれたのも、元々はそのメンツで──seekはその時いなかったんですけど、単に団長から「焼肉食いに行きましょう」みたいな連絡が来て、食べに行っただけなんですよ。その焼き肉も、予約困難店で行列してるから、早く出ないとダメそうっていうプレッシャーを感じつつみんな急いで黙々と食べただけで、「美味しい」以外の言葉を聴くこともなく。「何この会? ほぼほぼ皆しゃべってへんし、もう一軒行けへん?」となって、その近くの居酒屋みたいなところに入って、久々にこのメンツでちゃんと話し合ったんですよ。
──偶発的に生まれた場だったんですね。
杉本:Waiveの武道館のこともあったからか、僕が質問攻めに遭って。たぶんだけど、配信を始める決定打になったのは、その日逹瑯が僕に「1月4日以降どうするんすか?」と訊いてきて、そこで返した僕の答えだったと思うんですよ。
──何とおっしゃったんですか?
杉本:僕は「何も考えてない。その日次第で考えが変わると思う」と答えたんです。もし、計算高く「こういうことを考えてるから、武道館はそこへの布石なんだよね」とか答えていたら、「あ~、こいつ電卓叩いてきよったな」ってなって、たぶん誰も乗ってこなかったはず。でも僕が「俺、武道館のために今は生きてるから、それ以外のこと何も考えてないんだよね」と答えたことに、「面白いこと言い出した」と思われたんだと思います。そして逹瑯は「じゃあ武道館が上手く行った先にしかこの先の話はないんだろうから、上手くいって欲しいな」と思ってくれて、「こういうことってできないですか?」と言い出してくれたんだと思うんですよね。アイツは照れ屋だから、そういうのを表に出していないだけで、僕の本気度が伝わったというか。
──なるほど。
杉本:さっき言ったように、自分は 1足す1が3になるトリックを考えて行動することが多いんですけど、そんな僕が「いや、そこは1足す1は2でしかないと思う」とか、「3になるって言ってるけど、どうやってやるのかは考えてない」とか言ったことに対して興味が湧いちゃったんだろうなと、今振り返ると思う。玲央くんもたぶん、Waiveの動画を観た時とかに何かそういうものを感じてくれたんだと思うし。この2年半ぐらいを過ごしてきて、僕が今思っていることとしては……ちょっとキモいヤツみたいなこと言うけど、若い頃に初めての恋人と一緒にいる時って、気を惹くために意味の分からない別れ話を切り出したりすることがあると思うんですよ。その人のことをまだ好きなのに、「もう一緒にいられへんわみたいな」と言うとか、相手に「好き」とか「別れたくない」を言わせたいとか。
──いわゆる試し行動みたいな?
杉本:うん。それと一緒で、僕はこういうやり方をすることで「今も自分に興味ありますか?」って、目線を向けてほしかったのかもしれない。そんな気はなかったけど、今となってはそう思う。これだけ本気になったら皆は手伝ってくれるのかな?って。それこそ無償の愛……という言葉が正しいかどうか分からないけど、この歳になってもまだそれをもらえるんだろうか? 俺って愛されるのかな?を知りたかったのかもしれない。最近、そう思うようになってきている。だから、僕が言っている武道館の“成功”は、そういうのもあるかもしれないです。ビジネス的に言うと動員とかの話になるんだろうけど。
──もっとピュアな、気持ちの問題なんですね。
杉本:だから、こんなにいろんな人が「手伝いたいよ」と言ってくれた段階でもう成功しているし、「僕が欲しかったものはとっくに手に入ってる」と思っています。でも、手伝ってくれた人たちに「成功したんだ」と思ってもらうには、分かりやすい結果も得なければその証明にならない。これが僕の恩返しだと思っているから、それのために一生懸命やってる、ということです。
──杉本さんがこれほど率直に心情を明かしてくれたことに驚きますし、うれしく感じます。
杉本:(解散に向けて)これぐらいのターンになってくると、そう感じ始めていますね。自分としてはこれまで、あまり分かってなかったけど。
玲央:やっぱりそこには、武道館でワンマンをする、ということに対する覚悟がありますよね。僕もlynch.の武道館(2022年11月23日開催)開催を決めた時は、もう相当の覚悟が要ったので。「解散ライブを武道館でやります」と言って、そこで何を見せるかというと、僕は生き様だと思うんです。Waiveというバンドが結成してから解散に至るまでの、生き様を見せる場。Waiveがそれに覚悟を決めて臨むんだったら、自分に何か力になれることがあったらさせてよって思いますよね。たぶん皆そう思ってますよ。ご本人はあまり自覚がないかもしれないけど。
──<CROSS ROAD Fest>の物販にPsycho le Cémuがメンバー総出で並び、武道館のチケットを買った、というエピソードにも胸が熱くなりました。
杉本:うん、皆買ってくれましたね。なんでだろう? やっぱり分かんない。「若い頃ってこうだったもん。バンドってこうだよな」って、玲央くんは毎回言うんですよ。機材を貸してくれた時もそうで、「ありがとう」と僕がお礼を言うと、玲央くんは「だって僕たちはバンドマンじゃないですか」と言ってくれた。僕は真逆の人間だから、「言われるほど僕ってバンドマンかな?」と思っちゃうけど。バンドマンという言葉で表現する人とそうじゃない人も、遣う言葉が違うだけで中身は実は一緒ってことはあると思う。……Waiveが再結成と解散を同時発表した時、最初に「火花」という曲を出したんです。動物や虫が眩しいものに惹かれてそこへ行くように、僕が今までの人生の中で1番明るく光るには「死ぬ瞬間を作るしかないな」と思ったんです。「本気でやっている」ということが伝わったら、「眩しいな」と思って皆がこっちを向くはず。そういう本気度に人は反応するんじゃないのかな?と思うんです。
── lynch.は解散しませんが、「BRINGER」にも《あとどれだけ歌えるだろう?》《命果て 途切れるまで》といった表現などから、死を意識した覚悟を感じます。
玲央:僕自身は、具体的に言ってしまうと40歳を超えたぐらいから、やはり覚悟をずっと持っていますよ。今と同じパフォーマンスをあとこの先どれぐらい続けられるのか。他のメンバーも同じように感じていて、だからこそやらなければいけないことが年々増えていっている。そういう部分では、Waiveの解散を目の当たりにして淋しい思いと同時に、ただ、あの時(2005年)とは違う解散の動機であれば、希望が見えるわけですよ。そこでWaiveは終わるかもしれないけど、僕は少なからず希望を見出しているので惹かれるんだと思いますし。善徳くんは「なんで皆が僕に惹かれるのか分かんない」と言うんですけど、そこには打算がない。「アイツ、俺に興味を示しとるから、上手いこと利用してやったらええねん」みたいな、そういうのがないんですよね。
──玲央さんは、1月4日のWaive解散後、杉本さんにどんな未来があってほしいですか?
玲央:「幸せだな」と思う日々が1日でも多く訪れてくれれば、それでいいと思います。先輩だけでなく、同期でも後輩でもバンドを辞めた人間は何人もいますし、今でも付き合いがありますけど、「今幸せ?」と訊いて「幸せです」と言うんだったら、僕はもうそれでいい。僕は自分が「幸せだ」と思う形がlynch.というバンドを通じてでなければ得られないので続けられていますし、それはファンの方々に対する自分の責任でもあります。だからそれが1日でも長く続くように、ツアー中は本当にどこにも行かなくなりましたよね。それがストイックとも思ってないですし、プロなので当たり前でしょというだけなんですけど。
──杉本さんは7月、手首の不調や頸椎の損傷、かねてから患っていた耳の状態が悪化しメニエール病と診断された中での活動である旨を発表されました。ご体調はいかがですか?
杉本:良くはないですけど悪くもない……と言うと適当なことを言っているようですが、アドレナリンが出ているからか、よく分からなくなっているのが正直なところです。痛み止めを大量に飲んでいて、それがいいことかどうかも分からないですけども、発表した頃のツアーに比べるとステージで没頭できるというか、身体を気にしないでできていて。「これがもう1年早かったら、もう少しいい景色を見られたかな?」と反省したり、「あと1年あれば……」と思ったりするのも、今だからこそであって。逆に言うと、「死ぬまでずっとアドレナリン出続けてくれたら、ずっと楽やねんけどな~」みたいな気持ちもあります。
玲央:ちょっと話が前後しちゃうんですけど、善徳くんがこういう過酷な状況の中でも必死に前に進もうとしてる、その姿を周りにいるメンバーが見て、僕はギアが上がってると思うんですよ。僕はそれがリーダーだと思う。
──身をもってバンドの意識を変え、引っ張っていく。
玲央:僕もなるべくlynch.では1番しんどいことをやろうとしています。他のメンバーに強制はしませんが、自分がそれを続けることが、結果的に全体を鼓舞することになるので。
杉本:この間のツーマンをやった時、その1本前のツアーの名古屋公演を玲央くんが観にきてくれたんです。ツーマンが終わった後、「名古屋で観た時よりもギアが上がってる」と言ってくれて。でも「あと2段ぐらい上げてください」と言われました。「無理無理、死ぬからせめて1段にしてくれ」って(笑)。
玲央:(笑)。半ば安心してますけどね、ご本人たち的には「もうちょっと」というのがたぶんあるだろうとは思うんですけど、ギアを上げ続けているこの状態のまま武道館もやったら、絶対に裏切られないだろうな、という安心感があります。
──そろそろ締め括りたいと思いますが、対談をしてみていかがでしたか? まだ解き明かせない謎はお互いにありますか?
杉本:謎はないし、逆に言うと全部謎。真逆だから、というのもあるかもしれないけど、玲央くんにはハッとすることを言われることが多い。ギアのこととかもそうで、あえて言語化してくれて、特にミュージシャンにそれを言われることなんてないから、「うわっ! そう見えてるんだ?」って思ったし。「上がってる」という評価をもらえるのはありがたいけど、「まだ上げられる」というのが見透かされるんだ、と気付いた。「こう思ってるんですよね? だからこうやってるんでしょ?」と玲央くんに訊かれて、たしかにそうやっている場合と、「できてないから、“こうやらないとダメなんじゃないですか?”って意味で言われたのかな?」と感じることもあるし。やっぱり話すのが怖い相手ではあります。
──緊張感みたいなものがあるんですかね?
杉本:うん。僕は甘えていい側だと思ってるから……あ、先輩とか後輩とか、そういう話じゃないですよ? キャラクター的にそうだと思っているから、ビシッとしている玲央くんという人に対してラフに接して、失礼があろうがなんだろうが「何をやっても許してくれるんでしょ? 甘えていいかな」とは思ってる。緊張するわけではないけれども、「見透かされる」と感じている相手ではあるので。ちゃんとやってなかったらバレてツッコまれるから、そういう意味での緊張感はある。
玲央:人それぞれキャラクターってあると思うので、全員僕だったらすごく嫌な世界だと思います(笑)。seekくんがこういうふうにWaiveを支えたいんだったら、じゃあ僕はこういう立ち位置で支えよう。逹瑯くんはこういう立ち位置で応援してるんだな、じゃあ自分にしかできないことは何だろう?という感じで、ちょっと俯瞰して見ていて。でも結局皆、Waiveを応援したいんですよ。
杉本:玲央くんは、自身のファンクラブの中でウチの話をしてくれているんですよ、コッソリと。
玲央:メルマガですね。よく知ってますね。恥ずかしい(笑)。
杉本:1番コアなファンにWaiveのことを話してくれてる。
玲央:ファンクラブの有料コンテンツなので、皆SNSとかでは話題に出さないですけど。有料会員になってくれている人ほど、やっぱり自分の考えが伝わりやすいので。
杉本:それは絶対にそう。

──そういった熱量のある方たちから伝播していく、というのはありますよね。
玲央: 池に石を投げた時の波紋がどう広がっていくか?ということはやっぱり考えますね。極力、波紋同士が打ち消し合わないようにどうしたらいいのかって。でも、やっぱり根本に戻ると、ただ単にもうWaiveが好きだから、Waiveをやっている人たちが好きだから応援する、それに尽きます。突き動かされたからやっている。
──お互いの信頼関係があるんですね。
杉本:考え方によっては、やっぱりライバル視しているんだと思うんですよ。逹瑯とかseekとかもそうで、奴らはアイデンティティの塊の人間同士だと認識しているから、昔だったら嫉妬してしまって潰そうとしたり、押さえつけて自分が上に行きたいなこともあったりしただろうなって。未だに口では「全部持っていくぜ!」みたいなことを言っているけど、そんなヤツの行動とは思えない行動を取るのを見ていると、それは自分への鼓舞であって、「本当のマインドとしては、皆で共存していくものなんだ」と思ってる。それもシーンの全員がそうで、ライバルとどう生きていくか?という話であって。ライバルがいるから今の自分がいると思っているし、この先も自分のアイデンティティを保つには強敵がいないと何していいか分からなくなっていく場合がある。真逆だからこそ惹かれ合うこともあるし、全部そういうふうにできているんだな、と感じます。最初の話と一緒で、しんどい時期を経験したからこそであって、この状況に誰かがポン!と連れてきてくれていたんだとしたら、こんなことには気付けなかった。だからこそ20年以上やった価値はありますね。
──今、このタイミングだから分かってきたこともある、と。
杉本:大変だったから一言で解決はしたくないけど、言葉にするならば、Waiveを「運に恵まれなかった」と人は言うんだと思う。「パッと売れなかったから大変だったでしょ?」って。でも僕はこんなに恵まれた人生はなかった、と思っている。不遇だったからこそ、今恵まれていることに気付いたんだと思う。
玲央:僕は、善徳くんっていう人間に惹かれて20何年か経って、そしてこの場でこうして対談させてもらって。やっぱり善徳くんという存在を好きになって良かったなと思いました。あの当時の自分に「君の嗅覚は間違ってなかった。こんなすごい人間になってるんだから」と言いたいです。
杉本:まさに嗅覚の話なのかもしれないけど、僕は正直、lynch.をここまで持って来られると思ってなかった。いいバンドとか悪いバンドとかいう話ではなくて、「そういうバンドじゃない」と思ってたから。だからマジでビビッたんです。ずっと言い続けていることだけど、今でこそヴィジュアル系ロックシーンにおけるこの世代のバンドの中で葉月が1つのカリスマになって存在しているけど、葉月をそこまで引っ張ってこられる人間がいるとは思っていなかったし。葉月自体にもその力があったのはもちろん言わずもがなだけど、でも、そこまで葉月に歌うことを続けさせた力であったり、その土俵をつくってあげたことであったり……誰の支え、とは一言では言えないんだろうけど、でも絶対にその核には玲央くんがいると思っていて。それがリーダーだと思っているから。僕だって田澤に対して、「僕がいなかったら絶対にこの田澤は存在しない」という自信があるから、そこは一緒ですね。見えてない部分も含めて、そこには、尊敬とかいう言葉でも片付けられないぐらいの、恐怖のようなものを感じている。こんなヤツがこの世にいるのかって。
──玲央さんへの畏怖の念でしょうか?
杉本:うん、畏怖ですね。未だに僕は、この表に見えている部分とは絶対に違う何かを玲央くんは持っているんだ、と思っているから。真面目さであったり正確性を突き詰めていく人間性だけからlynch.や葉月という作品が生まれるわけがないと思っている。パブリックイメージとして知っている玲央くんからそれが生まれるわけがない。どこで何が起きてこんなことになったんだ?という謎はまだ解けないので、マジで怖ぇ!と思って見ています。逆に言うと、そんな人がいて良かったなと思うし。だいたいのものは「こうやったんでしょ?」というのが見えちゃうので。
──見えなさ、ミステリアスであることが畏怖に繋がっている。
杉本:凄まじいなって未だに思ってる。あとは、そこまで続けたことがやっぱりすごい才能だと思うんですよ。だいたいのものは、継続が難しいんですよ。僕らが解散していることもそうで、「25周年」とか言っていますけど、「いや、実際はその半分も活動してへんやんけ」という話だし。lynch.というもの、その根底にある玲央くんという存在は怖いものですよね。よく並べられるであろうバンドとは訳が違うと僕は思う。年齢のこともあって“あとどれだけ続けられるか”をすごく考えるのは分かるけど、その理屈を抜きとして、「この人がいるバンドは残るに決まってる」と思う。その辺の奴らにはできないことを玲央くんは、lynch.はやっていると思います。
取材・文◎大前多恵
写真◎インテツ
◼︎<lynch. 20TH ANNIVERSARY XX FINAL ACT「ALL THIS WE’LL GIVE YOU」>
2025年12月28日(日) 16:00開場 /17:00開演
会場:東京ガーデンシアター
アリーナS席/車椅子アリーナS席 :10,000円(税込)
一般指定席/一般車椅子席:5,500円(税込)
・ローソンチケット:https://l-tike.com/lynch20th/
・イープラス:https://eplus.jp/lynch/
20th ANNIVERSARY PROJECT 特設ページ:https://pc.lynch.jp/lynch._XX/index.html
◼︎解散公演<Waive LAST GIG.「燦」>
2026年1月4日(日) 東京・日本武道館 開場16:00 / 開演17:00
アリーナ指定席B:15,000円(税込)
1F指定席:7,800円(税込)
2F指定席:3,000円(税込)
・イープラス:https://eplus.jp/waive/
・ローソンチケット:https://l-tike.com/waive/
・チケットぴあ:https://w.pia.jp/t/waive-lastgig260104/
詳細:https://www.waivewaive.com/gigs#20260104
◼︎Lynch. 2nd RETAKE ALBUM『THE AVOIDED SUN / SHADOWS【数量限定盤】』
2025年9月24日リリース
KIZC-90783〜6
¥9,900(税抜価格¥9,000)
詳細:https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKIZC-90783/
【Disc.1:CD】『THE AVOIDED SUN』
≪収録内容≫※全曲新録
1.LIBERATION CHORD
2.I’M SICK, B’CUZ LUV U.
3.ROARING IN THE DARK
4.ECDYSIS
5.FORGIVEN
6.ANEMONE
7.THE UNIVERSE
8.DAZZLE
9.ENEMY
10.PROMINENCE
11.FROM THE END
【Disc.2:CD】『SHADOWS』
≪収録内容≫※全曲新録
1.LAST NITE
2.ADORE
3.MAZE
4.EVILLY
5.I DON’T KNOW WHERE I AM
6.AMBIVALENT IDEAL
7.THE BLASTED BACK BONE
8.SHADOWZ
9.CULTIC MY EXECUTION
10.MARROW
【Disc.3:CD】『BRINGER』
≪収録内容≫※全曲新録
1.BRINGER(新曲)
2.AN ILLUSION
3.DOZE
4.A GLEAM IN EYE
5.ALL THIS I’LL GIVE YOU
6.JUDGEMENT
【Disc.4:Blu-ray】
・BRINGER(新曲)Music Video
・BRINGER(新曲)Music Video Making
◼︎Waive. LAST EP『The SUN』
2025年11月26日(水)リリース
WVCD-20253
3,300円(税込)
初回生産分:スリーブケース付き / Mカード封入
詳細:https://www.waivewaive.com/?p=8834
≪収録内容≫
01.燦-sun-
02.BRiNG ME TO LiFE
03.END ROLL (The SUN ver.)
04.火花
05.Days. (The SUN ver.)
06.爆







