使い倒してわかったオーディオテクニカのヘッドホン「SOLID BASS」シリーズの重低音の魅力

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音楽ライターである筆者は、毎日多くの時間を音楽を聴きながら過ごしている。最新の音楽を聴いて知っておくことも必要だし、以前の楽曲を改めて聴き込んで分析したり、インタビューするアーティストの最新作をじっくりと聴き込んだりもする。だから幅広い時代の様々なジャンルの音楽を聴きまくる。そこで欠かせないのがヘッドホンだ。ヘッドホンなら周囲のノイズに悩まされずに音楽に没頭できるし、歌や演奏の細部まで聴きとることができるからだ。

◆「ATH-WS99BT」「ATH-CKS77XBT」~画像~

ヘッドホンを選ぶ際には、音質がよく、音楽がきちんと楽しめるかどうかが重要なのは言うまでもないが、長時間のリスニングを快適にこなせるかどうかという点も、音質と同じくらい重要だと筆者は考えている。好きな音楽を聴くにも、仕事で音楽に集中するにも、できるだけ快適に聴けるヘッドホンを使いたいもの。そこで今回は、オーディオテクニカの「SOLID BASS」シリーズのワイヤレスヘッドホン2製品を長時間使って、実際の音質や使い勝手を確かめてみた。はたしてどんな製品なのか、その印象を正直にレポートしよう。

■重低音を重視したBluetoothヘッドホン「ATH-WS99BT」と「ATH-CKS77XBT」


今回使った製品は、プロ用音響機器でも有名なオーディオテクニカの「ATH-WS99BT」(写真:左)と「ATH-CKS77XBT」(写真:右)の2製品だ。どちらもBluetoothに対応、スマートフォンやオーディオプレイヤーとワイヤレス接続で使えるヘッドホンだ。

「ATH-WS99BT」はコンパクトに見えるが、オーバーヘッド型の中でもかなり大き目となる口径53mmのドライバーを採用したモデル。「SOLID BASS」シリーズの名の通り、低音を豊かに再生できることが特徴で、同シリーズではおなじみ、低音増幅用の空気室“エクストラチャンバー”を採用するほか、低音特性を向上させるラウンドベースダクトをハウジング中央に配置、さらに厚みのあるイヤーパッドで低音を逃さないなど、低音に対するこだわりがヒシヒシと伝わる作りになっている。実際の印象は後ほど詳しくレポートするが、本当にズシリと重い低音が鳴るし、イヤーパッドは遮音性だけでなく装着感も抜群。使い始めてすぐに良さを感じられるし、いつも使いたくなる製品だ。

もうひとつの「ATH-CKS77XBT」はインナーイヤータイプの製品。こちらも同社お得意のエクストラチャンバーをハウジング上部に組み込んでいる。「ATH-WS99BT」同様、エクストラチャンバーは不要な振動を抑える効果があるアルミ製。耳に入れたときに外側に来る円柱形の部分がそれなのだが、見た目はコンパクトなのに効果は抜群で、重低音の力強さはインナーイヤー型とは思えないド迫力だ。また専用の強磁力ドライバーにより中高域もクリアで、全体のバランスもいい。こちらは外出時に持って行きたくなる製品だ。

Bluetoothによってケーブルで接続しなくていいのは予想以上に便利なものだ。そしてコーデック(音声信号の圧縮方式)は従来方式のSBCに加え、再生の遅延が生じにくいaptXや音質が劣化しにくいAACにも対応するので、ノイズがなく高音質での再生が可能。また、HFP/HSPに対応、マイクも内蔵するから、スマートフォンならそのままハンズフリー通話もできる。

<「ATH-WS99BT」「ATH-CKS77XBT」>
・再生遅延が生じにくい高音質aptXや音質劣化の少ないAACコーデックに対応
・豊かな低音再生を実現する高音質ヘッドホンアンプ内蔵
・HFP/HSP対応機器での通話もハンズフリーで楽しめる
・ワンセグ音声がワイヤレスで聴けるSCMS-T 対応
・マルチペアリング対応により最大8台までの機器登録

どちらもワイヤレスで便利に使え、迫力ある低音を楽しめるヘッドホンということだ。ではさっそく使ってみることにしよう。

■快適な装着感の「ATH-WS99BT」、重低音も中高音もバランスよく鳴ってくれる

今年も夏フェスの季節が近づき、出演者が続々と発表されている。つまり、筆者にとってはその予習として出演予定アーティストの楽曲を聴いておかなくてはならない時期、ということになる。そこで今回はSUMMER SONIC 2015の出演予定アーティストの曲を中心に、仕事場でパソコンに向かいながら色々と聴いてみることにした。


まずはパソコンで原稿を書きながらオーバーヘッドタイプの「ATH-WS99BT」を使ってみた。デジタルオーディオプレイヤーとペアリングしてBluetooth接続し、耳にかけてみる。装着した第一印象は、とても収まりがいい。自然に耳に吸いつくようにぴったりとハマるし、圧迫感もない。左耳側のハウジング側面には、プレイヤーの再生や停止、音量調整などのスイッチ類がある。プレイヤーにふれなくても、ほとんどの操作はここで行なえるというわけだ。もちろん手探りにはなるけれど、慣れれば自然に操作できる配置だ。

▲IMAGINE DRAGONS『Night Visions』

▲The Script『No Sound Without Silence』

最初はアメリカのオルタナ系ロックバンドのIMAGINE DRAGONSのデビュー作『Night Visions』を聴いてみた。すると、これがとんでもなくカッコいい。大きな太鼓で刻まれる分厚いビートが重々しくパワフルに鳴り響き、揺さぶられるのだ。以前見た彼らのライブでは、和太鼓などを数多く使ったパフォーマンスが衝撃的だったが、そのときの記憶が鮮明によみがえってきた。そしてクリーンなギターの響きやボーカルの繊細な歌い方もきちんと聴こえてくる。重低音だけでなく全体がバランスよく鳴ってくれるので、快適に聴けるのだ。これは常時使うヘッドホンとしてかなりの高ポイントといえる。

重低音は実感できたので、次はもう少し繊細なプレイが持ち味のアイルランドのロックトリオ、The Scriptの最新作『No Sound Without Silence』を聴いてみた。うん、これもいい。少しかげりのあるようなボーカル、コーラスやきらびやかなピアノが目の前に広がり、装飾音の多いドラムの細かいプレイもしっかり聴こえる。繊細な雰囲気がきちんと伝わってきた。もちろん低音が豊かなので、ドラムやベースはどの音も太くて存在感があり、リズムがカッコいい。これも文句なく楽しめた。

このほかにもJ-POPやハードロック、ジャズ、ファンクなど色々聴いてみたが、締まりのある低音はどんなジャンルでも心地よかった。スピーカーならある程度音量を上げないと低音は感じにくいものだが、必要最小限の音量でも豊かな低音を楽しめるのはヘッドホンのいいところだろう。また、ぴったりとした装着感も快適そのものだった。ズレにくいのに締め付けられる感じはなく、重さを感じることもない。最初に装着したときの心地よさがずっと続くから、長時間のリスニングも快適。いつも使いたくなるヘッドホンだ。

■重低音の響くインナーイヤータイプ「ATH-CKS77XBT」

この日は打ち合わせで外出することになったので、今度はインナーイヤータイプの「ATH-CKS77XBT」を持って行くことにした。打ち合わせの帰りには、情報収集のためにレコードショップや書店などに寄ったりすることが多いのだが、この日も「ATH-CKS77XBT」で音楽を聴きながらそういったところを色々歩き回ってみた。


「ATH-CKS77XBT」は、首の後ろ側を通して耳にかけるウェアラブルネックスタイルの製品。本体そのものも軽量だし、充電用の端子や電源ボタンのあるBluetooth送受信部は首の後ろに乗る形になるため、装着しても重さはまったく感じない。再生や停止、音量調整を行なえるリモコンは、右肩のすぐ上、アゴの横あたりに来る。スイッチを直接見るのは難しいが、自然に手を持って行ける位置なので、操作は無理なく行なえる。外側にエクストラチャンバーがあるため、耳からはみ出る部分は大き目だが、耳への収まりには安定感があり、ちょっとのことではズレる気配はない。付け心地も自然だし、外部の音も適度に遮ってくれる。外でも不安なく使えそうだ。

▲マリリン・マンソン『The Pale Emperor』

▲Char『ROCK 十』

オーディオプレイヤーをカバンに入れて歩きながら、マリリン・マンソンの最新作『The Pale Emperor』を聴いてみると、これもいい音だ。そして「ATH-WS99BT」と同じく低音の迫力がすごい。というより、ドスの効いたような低音という意味ではこちらの方が上回っているようだ。ステレオスピーカーにサブウーファーを追加したときの、“お!低音がドンと来た!”というあの感じ。ドラムはキックがズシリと重いし、スネアには厚みも感じる。ベースは存在感が十分だし、分厚いギターがいっぱいに広がって壁のようだ。筆者の周りには“低音好き”なロックファンがたくさんいるのだが、きっと彼らがこれを聴いたら大喜びするんだろうな、そんなことを考えながら、へヴィロック、ハードロックの重低音をしばらく堪能した。

さすがに重低音の「SOLID BASS」、へヴィなロックにはぴったりだな、と思っていたのだが、もちろんそれだけではなく、他のジャンルも十分に楽しめた。たとえばCharのようなシンプルなロックもカッコよかった。新旧様々なCharのアルバムを聴いてみたのだが、隙間のあるブルージーなロックは、メンバーそれぞれの音も図太くて、ライブを間近で見ているような迫力で楽しめる。ベースのうねるようなグルーヴもより直接的に伝わってくるし、軽快だがパワフルなリズムに乗ったCharのギターも存在感が5割増しといった感じ。達人の奏でる一音一音の重さがよく伝わってきた。

「ATH-CKS77XBT」を使いながら色々と歩き回ってみたが、装着感も快適そのものだった。有線のヘッドホンのようにケーブルに引っ張られて耳からズレることはないし、すれ違う人や店の商品にひっかける心配もない。話しかけられたとしても、すぐにリモコンで音量を落としたり再生を停めたりできる。あまり気を遣わなくてもよいので、外でもストレスなく音楽を楽しむことができた。今回は機会がなかったが、人ごみの中や電車内などでもきっと便利に使えるだろう。つねに持ち歩きたくなるヘッドホンだ。

■どちらもジャンル問わず心地よい重低音、バランスもよく聴き疲れしない

「ATH-WS99BT」と「ATH-CKS77XBT」をしばらく使ってみて思ったのは、やはりどちらも重低音が心地よいヘッドホンだということだ。その低音には締まりがあるので、全体が引き締まって聴こえるし、ベースやドラムにパンチが効いてリズムが際立ってくる。だから重低音で迫力を引き出せるハードロックもカッコいいし、ベースのグルーヴが強烈に伝わるダンサブルなナンバーにもぴったりだ。個人的には、ファンキーな曲のベースの迫力にすっかりノックアウトされた。仕事をしながらジェームス・ブラウンを聴いていたとき、弾力のあるグルーヴィなベースラインが頭の中を駆け巡り、思わず身体が動きそうなほどノリノリにさせられてしまった。あまり仕事に集中できないものだから、再生をいったんストップしたほどだった。


そんなふうに低音が魅力の両製品だが、単に低音が出るだけではなく、中高域もきちんと明瞭に鳴ってくれる。だから音楽全体のバランスを崩すことがなく、聴いていて疲れないし、ジャンルを問わず楽しめるのだ。歌モノのポップスも、ベースラインが明確になるからメロディのよさも引き立つし、ジャズなら生楽器の迫力を感じられる。本当に様々なジャンルの音楽を素直に楽しめるヘッドホンだと思う。

この2製品は、オーバーヘッドとインナーイヤーというタイプの違いもあるので、人によっては聴こえ方が若干異なるかもしれない。とはいえ、どちらもバランスがよく、心地よい低音が鳴るという点では変わらない。スタイルの好みで選んでもいいだろうし、筆者のように家の中と外で使い分けてもいいだろう。

■とにかく便利だったBluetoothヘッドホン、家でもワイヤレスがオススメ

音質以外の点でも、これらのヘッドホンがすごくいいと感じたところがあった。それは、ワイヤレス再生がとても便利だったことだ。「ATH-CKS77XBT」が外で便利だったことはすでに述べたとおりだが、自宅で原稿を書きながら「ATH-WS99BT」を使っていたときにも、ワイヤレスの使いやすさを実感した。これまで有線のヘッドホンを使うときには自覚していなかったが、キーボード付近に垂れ下がるケーブルを無意識に邪魔くさく感じていたのだろう。それを気にせずキーボードを打ったり資料を見たり、自由に手を動かせるワイヤレスヘッドホンは、本当に快適だった。


もちろん手だけではなく身体も自由に動かせる。後ろを振り返ったりギターを持ったりしてもひっかかることはないし、さらにはヘッドホンをしたまま歩き回っても大丈夫なのだ。少しくらい離れても音が途切れたりしないから、音楽を聴きながら飲み物を取りに行ったり、場合によってはトイレに行ったりもできる。これは本当に便利だったし、楽しかった。ちなみに、カタログスペック上の通信距離は“見通しの良い状態で10m以内”なのだが、筆者の自宅では隣の部屋はもちろん、階下に降りても大丈夫だった。用事でちょっと席を離れるくらいなら、なにも気にする必要はないだろう。今まで、家の中では有線で十分だと思っていたのだが、そんなことはない。ケーブルがないことがどれほど快適か、使ってみて本当によくわかった。

ケーブルの煩わしさが一切ないワイヤレスで、どんなジャンルの音楽も高音質で楽しめる「SOLID BASS」の2製品、つねに音楽とともに過ごしたい人には間違いなくオススメだ。


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