――新作を聴いて、「これぞしばじゅん!」と思ったんですが、新作のテーマは前からあったんですか?
「今までデビューしてからほとんど休みがなかったんですけど、4~5月に2ヶ月ちかく休みをもらって、その明けの1本目で。……なんて言うんだろう、どういうネタを書けばいいかなって悩みながら作っているうちにこういう歌詞になってしまったんです」
――休み前の柴田淳と、ちょっと変えてみようという思いがあったとか?
「そういうのもあったんですけど、もっと根本的に柴田淳を見てしまったんですね。デビューから今までがむしゃらにやってきたけど、振り返ってみて、素に戻ってしまったというか。私、よくテレビ番組なんて出たよなぁ、よく曲書けたよなぁって(笑)。だから、題材をどうしようかって前に、私が作るの!?って」
――2ヶ月の休みでそこまで突き詰めちゃったのは、なぜでしょう?
「休み前は、やってる仕事が楽しいって思ってても、次の仕事があるから笑ってちゃいけないとか、すごく辛くても、次の仕事が来たら笑ってなきゃいけないとか……ものすごくロボットみたいな、環境を無視した状況もあって逃げ出したくなったこともあったんですけど、もう割り切ってただこなすってのを1年半、2年近くやってたんですね。最初は音楽やりたくて、音楽仕事のスケジュールで埋まっていくのは嬉しかったけど、もう続くと麻痺しちゃって」
――そんな精神的に悪い状態を脱却するために「お休みください!」と?
「いえ、もう身体のほうが……。休みたくないって思っても、身体のほうがもう休まないとダメになってしまいましたね。だから休みの最初はもうただ倒れてましたね。でね、元気になってから、さてどうしよう?と。友達も働いてますし、一人旅は恐いなぁって。で、伊豆にいる姉夫婦のところへ、延々と路線電車に乗っていきました」
――そんな休みを経てから、楽曲を作るのキッカケはなんだったんでしょう?
「作詞は今回、これってキッカケはなくて、ただ経験の断片を繋いで書いていったら、こうなってましたね。頭の2行はさらっと書けて。そこでプラスのこと書いたから、その後はマイナスっていうか、逆説だな……って思いながら作っていきました」
――歌詞で<何もかもが満たされている私がいる>のすぐ後が<私がいるんだけど……>と否定的で、え?という感じですが、これは、柴田さんが経験値で感じたことなんですか?
「ん~これって、どうでも受け取れると思うんですね。この歌詞にある<ずっとずっと あなたにはわからない>ってことがなんなのか、がそれぞれ違うんですね」
――ええ。歌ってるのが女の子だとしたら、“そんなに愛されても応えられるか…”って女の子の自信のなさなのか、もしくはある人のことが忘れられないから“そんなに愛さないで”っていう女の子が隠している第三者の存在なのか……。
「そうそう! 大きく分けてその2つですよね。でね、男の人は大抵、自信がない女の子のこと、って思うんですよ。彼に対してちょっと自信がない、冷めてるかもっていう後ろめたさにも聞こえるみたいですね。で、ある男の人は、『僕は“彼に申し訳ない、もっと愛さなきゃ”って思う気持ちも愛。だからそのままでいいんだよって言いたい』って。もう、ほ~~~~って感じでしょう(笑)。で、ある女性と話してると、『たとえば浮気するにしても、男だったら後ろめたさがあってソワソワしちゃうけど、女は性質的に割り切る。悪いとは思っているけど、それはそれとして翌朝、本命に目を見て“おはよう”って言えるよね』って。だから女性が『男性の浮気は隠しとおしてくれるならいい』ってよく言うけど、それって自分(女性)が隠しとおせるからそう言うんだろうなって(笑)」
――この歌詞、ちょっと聴きキレイなんですが、よく聴くと、キレイじゃないかも?って感じですもんね。
「ええ。“ドロドロだよね”とか、“毒だよね”って言われるのは私にとっては嬉しいんです。本当の毒じゃなくて、わさびが効いてるっていうかね。車のなかでカップルがこの曲を聴いてね、気まずくなったら、よっしゃ!って思いますね(笑)」
――メロディはミドルテンポのラヴソングですが、詞より先にできたのですか?
「ええ、これはずっと前にできた曲なんです。20歳くらいのことかな」
――メロディ作るときは、どういう風に?
「すごく単純なんですけど……、幸せだったり誰かに片想いしてたら、すごいスローなバラードができたり、傷ついてたら超暗い曲ができたり。そのときの心の色でできますね。でもノリノリの曲ってないですね~」
――でも、アルバムの「拝啓、王子様☆」はノリノリですよね(2003年2月発売の2ndアルバム『ため息』収録)。
「ああ~そうですね。でもあれはかなり無理がありました。デモテープ聴いても恥ずかしくて、ずいぶんとアレンジャーさんに直してもらいました。アップテンポって、どうしてもキャピキャピになっちゃうんですよね。もっとグルーヴ感を出せるようなものを作りたいですね」
――そして、カップリングの「缶ビール」ですが、これはピアノの弾き語りで一発録りですよね。
「弾き語り=一発録りって私のなかにはあって。歌と一緒にピアノを弾けば、私のつたないピアノもごまかせるかなって(笑)。でも、私なりのタイム感ってのがあるんですね。だから一緒に声とピアノを録りたいですね」
――スローナンバーのピアノの弾き語りと、「缶ビール」ってタイトルとのギャップを狙ったんですか?
「私のなかでは全然ギャップはなかったんですよ。出てくる単語が……缶ビールだったんですね。サラリーマンが残業で遅くなって、家に帰ってきて、服もそのままでソファに腰掛けて缶ビールをプハーって飲んでるイメージなんですね。私自身、飲めないんで、ウーロン茶でやってるんですけど(笑)。で、この曲はごく最近作った曲なんで、2ヶ月休んでいろいろ考えた自分が出た曲だと思うんです。自分の内面が出たものですね」
――カップリングでは一人称が“ぼく”、「あなたとの日々」では“私”ですが、使い分けてるのですか?
「いえ、使い分けてはいないです。でも、“ぼく”のほうがより客観的になって詞が書けるのかな。それくらいですね」
――「あなたとの日々」のプロモーション撮影は、いかがでしたか?
「学生時代、歌手になりたいって思ったときからファンだったら松原弘志さんって映像監督さんに撮っていただいたんです。松原さんは主にTBSドラマのタイトルバック(テレビ番組のオープニングやエンディングでキャストやスタッフを紹介する映像)を作ってる人なんですけど、いつも『いい映像だな~。誰が作ってるのかな?』って思っていたものが、松原さんの手によるものだったんですね。で、いつかこの人にプロモーションビデオ撮ってもらおうって思ってたんです」
――今回、やっと念願叶ったんですね。実際の撮影は、大変でしたか?
「朝の7時入りで、帰りも朝7時でした(笑)。でも、もうそんなの感じさせないくらい楽しくて。作品はもう芸術作品ですよ。スクリーンで見たい短編映画ですね。どこのカットを取っても絵葉書になるような色なんですよ。壁一枚、光一筋、どれも……すごい芸術作品でしたね」
――柴田さん、ライヴではイベントにはいろいろと出てますが、今後ワンマンは?
「ん~、本当は人前に出るの、苦手なんです…!(笑) でもみんなが待ってくれてると思うと、やらないとね。やりたいとも思うんですよ!」
取材・文●星野まり子