――「PASS DA POPCORN」がCM(男性用染髪料)で流れてて、DELIさんの声がテレビから聴こえてきた時にはすごいインパクトがありました。
DELI:
俺も違和感ありました(笑)。声もそうだけど、あれ、TSUBOI(ILLICT TSUBOI)君っていう人のミックスなんですよ。今度のアルバムはD.O.I.君(エンジニア)とTSUBOI君にミックスを頼んでて、D.O.I君はどっちかっていうときれいな感じで、TSUBOI君は味があってデコボコした感じのミックスをするタイプなんですよ。どっちもいいんだけど、CMにはTSUBOI君の音色のほうが違和感あったっていうか、いい宣伝効果になった気がする。とりあえず音の感触で「おっ」て思っちゃうから。でも、逆に「違和感なかった」って言われたこともありましたね。
――DELIさんの声は耳に残る声だから、そういうスムーズではないミックスがかえって良かったのかも。
DELI:
テレビで流れやすいようにとか、そういうことはまったく念頭に置かずに作ってるから。そのままが受け入れられたのはいいことなんじゃないですか。これからも俺は全くそういうことは考えずにやっていくつもりなんで。
――「PASS DA POPCORN」がリリースされるのを楽しみにしていたら、シングルではなくミニアルバム『口車~キミキミ注意キイロイドク』の形式でリリースされたのにもまたびっくりしたんですけど。
DELI:
それも俺なりのプロモーションのひとつなんですよ。これだけ日本語のヒップホップが多く出る状況になったら、ある程度お金をかけてシングルでメジャーデビューしてっていうのは別にできる。だけど、それをやっちゃうと、どれがどれだか分かんない状況にもなる。俺は俺で、そこら辺のアプローチの仕方を変えれば、それがプロモーションになるかなと考えて。ジャケットにフィギュアを使ったりとかも、普通のありがちな流れを避けたかったから。その一環としてのシングルじゃなくてミニアルバムですね。アルバムのプロローグとしていきなりミニアルバムを出したら、逆にいい差別化ができるかな、っていう。
――そして、今回ドロップされるフルアルバム『DELTA EXPRESS LIKE ILLUSION』ですが、ニトロとは違う得体のしれないミステリアスな雰囲気や、外だけでなく自己の内面にも向かっていくパワーみたいなものを強く感じました。
DELI:
自分では得体が知れない、とは思ってなかったんで、そう言われても何て言っていいか分かんないんだけど(笑)。まあ俺も、自分自身でまだ全然、未開拓だと思ってるし、発展途上っていうか、自分で踏み込んでないフィールドみたいなのもありますから。それはそう取ってもらえるとありがたいんですけど。誰でも人間は多面性を持ってると思うし、特にラップは、すごくパーソナルな事を表現するものだから、季節だとか場所とか自分の感情とかによって、いろんな面が出せるとは思うんですよ。今回制作した時はそういうノリだったということなんでしょうかね。ニトロの時とは確実に違ったっていうか。
――例えば“アクエリアス”(YAKKOとDELIのプロデュース・チーム)といったチーム名に象徴されるように、あまりヒップホップでは馴染みのないフレーズも多く使われている気がしたんですけど。
DELI:
“アクエリアス”って、僕がみずがめ座っていうだけなんですけどね(笑)。もちろん内面のことを表に出してるのは、さっきも言ったけどパーソナルなものだから、俺の作ってるものは…。自分に関係あることしか言えてないと思うし、その点ではたぶん変わらないと思う。でも結構、日本人のラッパーの曲って、もはや説明の必要ないくらいに説明的なものが多かったりしますよね。雑誌の記事を読んで曲聴いたら100%分かっちゃいましたみたいな。でも、やっぱり俺からしてみるとリスナーが100%分かってしまうというのはつまらない。
――そこらへんの100%を伝えない感覚が“得体の知れない感じ”につながっているのかもしれませんね。
DELI:
そうかもしれない。得体が知れないってのは、こっち側がいろいろ考える余地だったり、「こうなんじゃないかホントは…」とか、「こういう意味だよ、これは…」とか、聴く側に想像する余地があるから、いつまでも得体の知れない存在でいられる部分ってあると思うし。もちろん自分の中では意味があるんだけど、俺にも全部が何なのかは分かってないし、俺がそこで何かって言いきってしまうことこそが嘘かも知れない。
――それがDELIさんにとってのリアルってことですか?
DELI:
そうそう。それに「こういうものですよ」って限定してから聴かれるのもイヤだし。だから、今度のアルバムのアートワークとかも見てもらえば分かると思うんですけど、「PASS DA POPCORN」のリリックとか、ちょっと読みにくいデザインなんですよ。でもそれは読みやすい、読みにくいって次元で伝えたいものじゃないから。目から入ってくるものってもっといろんな要素があるわけじゃないですか。配置だったり色だったり。そういうトータルなもので曲の雰囲気だとかが分かった方が、俺は数倍共感を得る、「うわぁ~すげえ!」と。
――イマジネーションを喚起する手法?
DELI:
そうですね。リスナーが想像する余地は残したい。その方が楽しめるから、俺は。向こう(海外)のを聴くのでも、歌詞カードを読むと嫌いになっちゃう人もいるしね。“下らなすぎ!! 何これー”みたいな。まあ極論すればリリックなんかどうでもいいじゃんって思うんですよ。それよりそいつらのいろんな面を垣間見れた方が、お金を出して買っただけの価値があると思うし。
――ミニアルバムをプロローグとすると、今回のアルバムはどういう作品と捉えてますか?
DELI:
一応、俺がやったことの半年ぐらいの全貌って感じですかね。レコーディングは、ミニアルバムも一緒に録って、去年の4月ぐらいから始めて、12月には終わってたからね。それで、制作のほとんど終わり際になって契約が決まったから、そういう意味では発売日が決まってて急かされたりとか、そういうプレッシャーもなかったし。自分のペースで「あっ、曲思いついた、レコーディングしよう」とかそういうノリで作れたのは、すごい良かったなっていう。
――サウンド的にはミニアルバムに更にターボがかかっているっていうか、上げたり、下げたりのそのスピード感が凄いですね。
DELI:
それはね、俺のメンタルな部分もその期間は色々あって、モロに反映しちゃってるんで。実は『口車~』の曲順も、あれはほとんど作った順なんだよね。意図したわけじゃないんだけど、出来上がってから「これ、作った順じゃん、ほとんど」って気づいて。だから『口車~』に入っているのは、ほとんど去年の4月と5月に録った曲。
――じゃ、ある意味でこの激しいアップ⇔ダウン感っていうのは、半年間の感情の流れそのもの?
DELI:
そうですね。結局、俺の作品はどこまでいっても俺の思ってることを切り取ったものでしかないから。たぶん、今作ったら同じトラックでも全く違う曲になってると思いますよ。だから、これからもっと違う気持ちになれば違う曲もできたりするんだろうし。その辺は分かんないですけどね。