前夜のニール・ヤングの2時間半ライヴで燃え尽きてしまった僕はフジ・ロック最終日を、かなりスローペースでのんびり過ごした。この日、はじめて見たライヴが、午後1時20分スタートのSIONだったんだから、自分でもちょっと呆れてしまう。 ▲SION デビューして15年あまり、すでにベテランの域に達したSION。“ 酔いどれ詩人”の佇まいは健在 | 長年の相棒・松田文に加え、グルーヴァーズの藤井一彦、井上富雄、池畑潤二ら凄腕&強面のメンツを従えたSIONのライヴ、すごくよかった。考えてみれば、デビュー後しばらくは大好きでライヴもよく見にいってたんだけど、ここ数年はライヴ、レコードとともに御無沙汰だった。久々にSIONの、しゃがれた歌声を聴いて、自分の中でSION熱が再燃。今年後半はSIONを追いかけよう、なんてことを思っているうちに時間はあっと言う間に過ぎ、あわててRED MARQUEEに向かう。 ▲Ron Sexsmith 途中、デスチャの「サヴァイヴァー」を口ずさむファン・サービスも披露したRon | 日差しもずいぶんやわらいできた夕暮れどき、ロン・セクスミスの、あの柔らかな歌声とメロディが疲れた体を癒す。バンド編成、アコースティック・ギターの弾き語り、そして新たにピアノの弾き語りまで加え(新作『ブルー・ボーイ』収録の「フールプルーフ」のレコーディングで自信をつけた、とインタビューのとき言っていた)、新旧の馴染み深い曲を楽しませてくれた。 ピアノを弾き語るロンの横で、1本のマイクに向かったバンドのメンバー3人がロンの歌に見事なコーラスを重ねると、拍手が湧きおこる。その瞬間、ステージはクライマックスを迎えた。 ▲UA 前回のフジロックのステージが伝説化しているUAは、今回も入場制限が出るほどの盛り上がり | 続くUAはアコースティック・ギター(花田裕之)、ウッドベース(AJICOのTOKIE )、ドラムスにストリングスを加えたバンド編成による、生音とゆったりしたグルーヴを生かしたアレンジで、代表曲や井上陽水の“傘がない”を歌いあげた。パワフルな歌声も聴きたかったけれど、時間帯を考えると、それでよかったんだろう。 UA終了後、オアシス・エリアで食事をとり、RED MARQUEEに戻ると、次のアーニー・ディフランコのホーン・セクションがテント内にオーディエンスを入れずにリハーサルしていた。会場の外で、なんとなく聴きながら、これってまるでジャズだよなぁと思いつつ開演を待つ。 ▲Ani Difranco 怒れるロッカーの名にふさわしく、アグレッシヴな演奏を繰り広げたAni。独特のパーカッシヴなギターは圧巻 | 黒いタンクトップ、ジーンズ、そしてたっぷりした髪を束ねたアクティヴな装いでステージに現れたアーニーは、アコースティック・ギターを力強くかき鳴らしながら、言葉を投げかけるように歌う。曲間のMCまでエネルギッシュで、ジャズでファンクな演奏は都会の洗練と、もっとプリミティヴなグルーヴ、その両方を放っていた。ところで、1曲ごとにギターを交換するのは、彼女のストロークがあまりにも強すぎて1曲終わるとチューニングが狂ってしまうせいだろうか? 後半はストレートなビートでパンク・フォークなんて呼べそうな曲や、しっとり歌いあげる曲も披露。前のUAに比べると、正直、観客の数は少なかったけれど、ファンは幸せそうに体を揺らしていた。 文●山口智男 |