――新作では、ToolのMaynard James Keenanが1曲参加していますが、これはどういった経緯で実現したのですか? MORENO:Maynardがこのレコードで演奏するというのは、計画されていたことじゃないんだ。今回はゲストを迎えるつもりはまったくなかった。でもMaynardがかつて関わっていたToolとPerfect Circleのファンだったから、僕らにとっては魔法のような出来事だったよ。 正直に言うと、彼が最初に僕らと仕事を始めたときには、一緒に歌ってもらう予定はなかったんだ。彼にはリフの構造とか、テンポやアレンジの面だけで協力してもらうはずだったのさ。君がToolの音楽の大ファンかどうかは知らないけど、彼らの音楽は本当に数学的なんだ。彼らのリハーサル場所にいったことがあるけど、まるで微積分みたいに見えるこんなに大きなチャートがあるのさ。彼らの曲作りの方法は本当にクレイジーだよ。他の誰かが異なった方法で曲を作っているというのは素晴らしいことだ。だってみんな違った方法でやっているんだからね。 彼がやってきて例の1曲に取りかかったんだけど、彼はただマイクロフォンを握って曲に合わせて歌い始めたのさ。驚いちゃったよ。僕らのバンドが突然まるでToolのように聴こえるようになった。クレイジーだったね。それで約2カ月後にアルバムを録音する段階になって、自分のヴォーカルを入れるときに、僕は彼の声をずっと聴き続けていたから、メロディが彼の声で浮かんでくるようになっていた。だから彼に電話して、スタジオに来てレコーディングでも歌ってくれないかと頼んだら、問題ないよっていう返事だったんだ。彼が到着して僕がその曲をどんなふうにしたいのかを説明したら、彼はいくつかのアイデアを書き留めて、翌日には僕が歌詞を書き込む部分に空白スペースを残した詞を用意して現われたんだ。 彼はそんなふうにプロフェッショナルなのさ。彼はすべてをパーフェクトに設定することを望んだけど、それはいつもの僕の作り方とは正反対だったから、クールな作業だったね。それで僕が後からヴォーカルをダビングしたら、ふたりの声がうまくブレンドしているように聞こえたんだ。そんなふうにとてもうまくいったので、アルバムに収録することにしたのさ。 CHENG:誰でも起こったことに関しては責任があると思うけど、MaynardとChinoは友人で、Ozzfestの時にMaynardは僕らをL.A.に招待して一緒に遊び回ろうと誘ってくれたのさ。それで、僕らがMaynardと仕事をするチャンスを逃すつもりなどなかったというわけだよ。彼は素晴らしいアーティストだからね。僕はToolがそのキャリアを通じてやってきたことが全部好きだったし、「ニューメタル」と呼ばれている連中よりも親近感を抱いていたんだ。ToolはToolそのものなのさ。誰も「Tool、ああニューメタルのひとつだろ」とは言わなくて、「ああToolはToolだね」って言うしかないんだよ。だから僕らは、Maynardと仕事できて本当に光栄だったね。僕らはL.A.へ行って彼と遊び回った。でもMaynardは僕らとはまったく違った労働倫理を持っていて、僕らが基本的に怠けものの酔っ払いなのに対して、彼は非常に厳格でタフなヤツなんだ。 確か3日目のことだったと思うけど、「Passenger」のサウンドをすべて作り終えていて、ヴォーカルパートはまだで、ある日Maynardが突然マイクをつかんで作ってしまったんだ。だけど僕らはゲストを迎えるつもりはなかった。「知り合いに有名人がいるから、彼を呼んで参加させれば、僕らのアルバムにも箔がつくぞ」みたいな、スペシャルゲストスターを入れるのは嫌だったのさ。だからレコーディングに取りかかったときに、Chinoは別のやり方を試していたんだけど、浮かんでくるのはMaynardの声と彼のメロディばかりだったんだ。それで僕は「だったらMaynardを呼んで、歌ってもらえばいいじゃないか」って思ったよ。彼はやってきて、2日間でやり終えた。それがこの曲なんだ。 ――ニューメタルのムーヴメント全体の一部でいることをどう感じていますか? 分類されるのはウザったくありませんか? MORENO:正直なところ、誰だってカテゴライズされたくはないと思うよ。何かのカテゴリーに押し込められると、どういうわけだが自分の能力を全部アピールできていない気がするんだ。僕らは最初のレコードをリリースして以来、かなりの部分で自動的にニューメタルのシーン、つまりKornとかその手のバンドの一群に分類されていた。Kornは他の連中と比べて本当にいいバンドだから、彼らと一緒のカテゴリーにいるのは悪い気はしなかったよ。でもしばらくすると「おい、ちょっと待てよ、自分は自分でありたい。自分自身の個性が欲しい」って感じになったのさ。それは重要なことだからね。 それで僕らはカテゴリーの中心よりも革新的な領域に身を置くように努力して、多くのステップを踏んできたんだ。多くの人々は僕らをニューメタルのカテゴリーに入れて安心しているようだけど、今回の作品が出たからには、必ず同時代のバンドとは切り離して見てくれるようになると思うよ。 CHENG:僕らはビート・ムーヴメントのころの禅ブームと通じるようなところもあると思うけど、そのころの人々は死んでしまった。僕はGary Snyder、Ginsberg、Kerouacに会ったことがあるけど、他の人たちはもうこの世にはいない。個人的な意見を言えば、僕はどのようなバンドやムーヴメントともつながりは感じていない。たいていのときは自分自身のバンドともね。 ――ニューアルバムにはDeftonesの将来を表現しているような曲はありますか? CHENG:音楽的な意味では存在しないと思うけど、僕に訊くのは適切じゃないよ。実際に僕はその種の質問に答えるにはバンドで最も適さないメンバーなのさ。だって僕は自分たちのアルバムを1枚も聴いたことがないんだから。持ってもいないし、プレーヤーにかけることもないよ。完成してしまえばそれで終わりさ。まるで本を閉じるみたいにね。 MORENO:アルバム全曲が(Deftonesの将来を)表していると思うけど、特に「Change (In The House Of Flies)」がそうだね。これはDeftonesのみんなが一緒になって作った最初の曲のひとつなんだ。僕ら全員で入念に仕上げたタイプの作品なのさ。他の曲は違った作り方をしている。例えばStephanがリフを持ち込んで「これをもとにして作ろう」と言ったり、僕やバンドの誰かが曲のアイデアを持ち込んだりするんだけど、あの曲は全員がひたすら演奏したジャムから生まれた作品なんだよ。自然に発生したような曲だし、サウンド的にも全員が全力で演奏したものなのさ。あれはDeftonesと僕らがやっていることの最もピュアな部分を代表していると思う。『Around The Fur』からの「Be Quiet And Drive」を思わせるような曲でもあるんだ。 こうした曲は、やり終えたあとにいつでもみんなが大きな笑顔を浮かべているような作品だよ。つまり曲を作っているときに、みんなが美しい歌だと感じていたんだ。典型的なDeftones調のアグレッシヴな曲ではないけどね。今後のレコードではもっと入念に仕上げるような曲をやりたい。例えば僕が自分で作った「Teenager」みたいな曲は、キーボードとターンテーブルにヴォーカルを加えたスローなブレークビートの曲になっている。とってもベーシックだけど、自分たちのサウンドがかなりシンプルになったことがわかる曲だよ。これがギターとヴォーカルだったら、他の要素をあれこれと積み重ねる必要はなかっただろう。 ――音楽を作っているとき以外では、どんなものを聴いていますか? 尊敬したりインスパイアされていたりするミュージシャンはいますか? MORENO:それはPrinceだね。彼がどんなに凄いかは説明できないよ。生き残っている音楽的天才のひとりだと思うな。ダンス向きの音楽にせよ、座って耳を傾けて目を剥くような音楽にせよ、彼は美しい音楽を作り続けている。いつでもお気に入りのアーティストのひとりなんだよ。それから最近じゃメロウな音楽にかなりはまっているね。基本的に今聴いているのはMogwaiのようなバンドだよ。たしか英国のスコットランド出身で、リラックスして聴けるようなメロウな音楽だ。現在のバンドで真剣に聴いているのはあまりいないけど、僕が本当にリスペクトしているのはDepeche Modeのようなバンドなんだ。彼らはレコードを出すたびにますます多くのものを取り入れているし、どんどん良くなっているからね。 CHENG:読書とか書き物とか、詩や絵画といったさまざまなものから多くのインスピレーションを得ているよ。音楽的に僕を感動させてくれるのは、大きな革新を成し遂げた人々だね。例えばThelonious Monkは最高さ。彼は本当にイカれているよ。今でも聴くたびに「まったくTheloniousがやったことのすべては、Miles Davisが『Bitches Brew』で成し遂げたことよりずっと先をいってたぜ」と思うのさ。君もTheloniousのファンになるべきだ。それからWillie Nelsonも好きだね。彼はオリジナルのパンクロッカーのひとりだよ。僕の知っているどのパンクロッカーよりパンクなのさ。僕は古いブルース、古いジャズ、古いカントリーが好きなんだ。例外的に聴いている新しいアーティストは、たぶんBen Harperだけだろう。彼はとっても素晴らしい奴だ。それからMagnoliaのサウンドトラックは本当に深い。聴くたびに心が疼く感じになるんだ。とにかく今流行りの音楽は聴かないね。古い音楽ばかり好んで聴いている感じだよ。 ――ツアー中に起こった最も奇妙な出来事は何でしょうか? MORENO:毎晩のテンションはかなり高かったよ。ファンは最近ちょっと狂ってきてるんだ。ずっとクレイジーだったけど最近のショウのいくつかでは、観客がかなりヤバかったね。ある日なんかバルコニー席からまっすぐ飛び降りた奴がいたね。きっと20フィートくらいはあったと思うな。僕は「おい、やめろよ」って感じだったけど、ヤツはプシュー(落下する音)って落ちていった。ステージダイヴみたいなジャンプじゃなくて、まるで地面に着地するかのように足から飛び降りたのさ。僕らの音楽にはどこか、ちょっと正気の沙汰じゃないことをやってみたいという観客の気分を煽るようなところがあるんだろうね。わからないけどさ。 CHENG:僕にはすべてのギグがクールに思えたから、ひとつが素晴らしかったとか何とかで挙げることはできないよ。3、4日前の夜にコロンバスでショウをやったんだけど、なぜだかある種のマジックが感じられて、僕はステージ下へと降りていった。ビューティフルで素晴らしい夜だったね。みんなが一体になれるあんな感じのショウをやりたいものだよ。オーディエンスはすっかり我を忘れて、誰も音楽以外のことを全然考えていない、そんなショウのひとつだった。だから、あの夜が僕にとって今回のツアーのハイライトだったね。ツアーのたびに「そうだよ、このために僕は音楽をやっているんだ。いいぞ、これこそ音楽の醍醐味なんだ」って感じになれるショウが何回かあるね。 ――DJのFrankについて教えてください。 MORENO:Frankは音楽にアトモスフィア(雰囲気)を加えてくれるんだ。彼は僕らのレコードを取り出して、それにまるで3Dのようなサウンドをプラスするのさ。僕らのレコードをヘッドフォンで聴けば、いろんな音がたくさん鳴っているのがわかるよ。彼の目的はしょっちゅうスクラッチをしたり、ブレイクや何かを入れたりすることじゃない。彼はただ音響的な拡張をしてくれるんだ。Frankは音楽で織物を作る方法を知っていて、非常にうまくやってくれるのさ。やりすぎることはないんだ。リスナーが彼のやっていることを聴き取れないというのはいいことなんだよ。彼は自分の役割を果たし、「The DJ」みたいにならずに、そうしたエレメントを加えてくれる。まるでレコードを楽器のように自然に扱っているだけなんだ。でも他のバンドとDJのように、ヒップホップ的な要素として使うんじゃなくて、アトモスフィアを得るためだけに協力してもらっているのさ。 CHENG:僕らのDJ Frankは素晴らしい。「君がいる目的は曲を途中で止めたり、スクラッチを入れたりすることじゃない」というのが僕らの方針なのさ。実際に彼はそれをとてもうまくやってくれる。5人目のミュージシャンとして機能するのが彼の役割なんだ。音楽に背景や層の厚み、美しい深みなんかを加えるのが、彼はすごく得意なのさ。だからバンドにFrankがいることは本当に素晴らしいし、アルバムを作るたびに重要なバンドのメンバーへなりつつあるんだ。彼の役割はだんだんはっきりしてきたし、少しずつだが音が聞き分けられるようになり、存在も際だつようになってきている。僕らは彼をいろんな方法で使っているけど、とにかく本当にクールなヤツで、彼がいてくれる僕らはラッキーだよ。 ――あなたがたが『White Pony』をレコーディングしているとき、明らかに“出る”という屋敷に滞在していたそうですね。何か幽霊のようなものは現われましたか? MORENO:ヴォーカルを録っているころ、僕らはハリウッドヒルズの家に泊まっていた。そこは確かに何か奇妙なヴァイブが漂っていて、毎日のように変なことが起こったよ。僕はベッドルームのひとつに付いていたクローゼットで眠っていたんだ。ベッドルームの間にはバスルームがあって、クローゼットは僕には最適だった。というのもスタジオから戻るのが深夜遅くになってしまうから、暗いうちには眠りに就けないのさ。僕は昼間眠ってからスタジオに入って仕事をするので、窓のまったくないクローゼットが最高なんだよ。でもクレイジーなことがあまりにも多く起きるので、数週間後にはそこで眠るのをやめてしまった。ある日なんか僕が目を覚ますと奇妙な感じがしたので、見上げるとそこに何かいたんだ。何をみたのかは説明できないけど、部屋の隅に何かいたのは確かだよ。一度目を閉じてから同じところを見ても、やはり何かいたけど、どこかへ行ってしまった。僕は起き上がり、部屋を閉めて外へ出た。上の階へ行って、その家にいる間ずっとカウチで眠ることにしたのさ。 Kornもレコーディングのときにその家を借りたし、Orgyもそうしていた。その事件が起きてから数日後の夜にクラブでOrgyの連中に話をしたら、「Doheny Houseに泊まってるだろう? あそこは“出る”んだぞ!」って言われたよ。それで彼らが滞在している間に起きた出来事について話してくれたんだ。それで結局ホテルに移ることにして、録音が終わるまでホテルで過ごすことになったのさ。本来クールな僕は、その手の話はたいてい信じないんだけどね。とにかくそんなことには巻き込まれたくなかったよ。 CHENG:僕よりも他のメンバーのほうがちょっと感じやすいんだろう。確かに何かクレイジーなことが起こっていたようだけど、僕は大変な酔っ払いだからさ。幽霊たちも僕を避けていたんだろうね。だって“スピリット”という言葉にはアルコールの意味もあるから、連中は僕が彼らを吸い込んで、クランベリージュースか何かとミックスしたりするんじゃないかと恐れをなしたのさ。だから僕は変なものは何にも見なかったよ。 ――インターネットはかなり使っていますか? MORENO:今はそれほどじゃないよ。レコードが出る前は、シングルがいつリークされるかとか最初のリアクションを探るために見てたよ。みんなのリアクションを知ることができるのはけっこうクールだね。でも、あまり時間を取られないようにしているんだ。だって、ものごとをあまり本気にしたり、何かネガティヴな書き込みを読んだりしたら、1週間ぐらい気分が悪いだろ。僕らのレコードを100万人が褒めていてくれたとしても、たった1件の悪口を聞いただけで1週間は落ち込んじゃうからね。もうチェックすらやめたよ。レヴューにしても同じことさ。僕らはいいレコードを作ったと思っているけど、それでもどうしてだか、何かネガティヴなことを読むと長い間ずっと悩んでしまうんだ。 でもね、インターネットそのものは、自分たちのプロモーションに限って言えば、僕らにとって非常に優れた道具なんだよ。MTVとかラジオでそれほどビッグな存在にならなくても済むのさ。前はほとんどかけてもらえなかったけど、最近では多少プレイされているけどね。でもインターネットはファンとつながる最も大きな手段になっている。それにバンドの他のメンバーはかなりやっているみたいだよ。もちろん、いろんなところへいってショウで演奏するのが僕らのやり方だけど、インターネットも自分たちの音楽を伝える大きな手段のひとつだね。 CHENG:『White Pony』のインタラクティヴCDはとってもクールだよ。だってあれを作ったMike DonkはDeftonesのオフィシャルサイトを2番目に立ち上げた男だからね。それで僕らは「何かインタラクティヴなものを作るなら、あいつに頼むしかないよな」って感じだったのさ。彼はたくさんのアイデアを持ち込んでくれたし、僕らとしても「そうだな、何かインタラクティヴなものをやるなら、どこかパーソナルな感じのあるものにしよう」と思ったんだ。バンドの各メンバーが何か違ったコンテンツを持ち込むということだよ。僕も素晴らしいアイデアだと思って、アルバムを録音しているときの日誌を付け加えたんだ。そうすれば何が行なわれているかについて、僕の見方を知らせることができるからね。それとファンキーな5ページのポエムも収録したよ。こんなふうにパーソナルなタッチを加えられるのはクールだね。 ――あなたがたの音楽について適切に記述したものを読んだことはありますか? MORENO:誰かが一度「ムードミュージック」と呼んだことがあって、それは気に入った。だって僕はかなりムーディな人間だからね。リスナーがどの歌を聴いていても、そこに僕らがどんなムードを伝えていたとしても、ムードというものは演奏したり歌ったりしているノートやコードよりも音楽にとってずっと重要なエレメントのひとつだよ。それがハッピーな曲でも(ほとんどないけど)、怒れる曲でも、悲しい曲でも、音楽の背後にある全体的なムードがたいていは曲をドライヴさせているんだ。どんな種類のムードであれ、あらゆる歌にはムードが伴っている。だから「ムードミュージック」という表現を聞いたときには、それが気に入ってしまったのさ。 CHENG:わからないね。リスナーが好きなように受け取ってくれればいいよ。それと僕らのバンドが何か本当に独自なことをやろうとしているのを感じてくれればね。このバンドを正確にひと言で言い表すのは難しいと思うな。気の利いたタイトルを付けるなんて不可能に近いよ。だって自分でも何て表現していいかわからないんだからね。僕らはいろんな語られ方をしてきたし、いろんな決め付けられ方もしてきて、まるで金魚鉢の中に住んでいるみたいさ。それでもDeftonesは、何かを表現するほか方法はないんだ。 【前編】はこちら |