【インタビュー】工藤大輝、初のセルフカバーアルバム発売「いま自分がどういう人なのかをわかってもらう」

2025.06.29 17:00

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Da-iCEのリーダー/パフォーマーとして活動する工藤大輝が、自身初のセルフカバーアルバム『Otowonous』(読み:オトウォナス)をリリースする。

“Autonomous(自律的)”と“音を成す”を掛け合わせたタイトルを掲げた同作では、これまで彼がDa-iCEで書き下ろした楽曲はもちろん、他アーティストへ提供した楽曲をリアレンジし、自身でボーカルを務めている。

2025年7月に予定されている双子の兄(?)と言われるclaquepotとのツーマンツアーで披露することを見越して選曲し、アレンジャーも工藤が選出した。多角的な知見と自身のポリシーを持って歩みを続けてきた彼は、なぜこのタイミングでセルフカバーアルバムの制作を決めたのだろうか。彼の哲学を探りながら、『Otowonous』のクリエイティビィティに迫った。

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◼︎そろそろ工藤大輝として歌という表現を使ってもいいのかなと思い始めた

──工藤さんは2025年1月に関節鏡視下半月板縫合術を受け、退院後も精力的に活動していますが、膝の具合はいかがですか?

工藤大輝:今は全然ジョギングぐらいならできるところまで回復しました。今回のセルフカバーアルバム『Otowonous』も手術前に完パケしてるので、ゆっくり治せています。

──公式コメントでも、『Otowonous』は2024年からこつこつと制作を進めていた旨をおっしゃっていましたね。

工藤大輝:去年の初めぐらいからなので、膝の手術の話が出るもっと前からこの企画は考えていました。僕はこれまでほぼSNSも動かさないようにしていて、敢えて工藤大輝がどういう人間なのかをあまり明確にしてこなかったんです。でもDa-iCEの知名度もありがたいことに上がってきてライトなリスナーの方が増えてきたのと、提供曲も増えてきたタイミングだったので、いま自分がどういう人なのかをわかってもらう企画をやると面白そうだなと思ったんですよね。

──確かにライトリスナーの方のなかには、工藤さんが楽曲制作や楽曲提供をしていることを知らない人もいらっしゃるかもしれません。

工藤大輝:ダンスボーカルグループのパフォーマーが楽曲提供してるって、一般的な感覚からしたら変ですもんね(笑)。ドラマや映画に出演したり、絵を描いたりしている人は多いけれど、音楽作家をやっている人は少ないから、セルフカバーアルバムを出したら僕らをよく知っている人たちには「やっとだ!」と思ってもらえるだろうし、ライトリスナーの方には「え!? なんか急に歌い始めたんだけど!」と新鮮に見えるなと思ったんです。

──様々な表現方法をお持ちの工藤さんにとって、歌という表現はどのような位置づけでしょうか?

工藤大輝:歌は声を使うので、ダンスより直感的だなと思います。あと僕は、自分の声があんまり好きじゃなくて。

──“工藤大輝の双子の兄”と言われているclaquepot氏も、他媒体の2019年頃のインタビュー記事で同じことをおっしゃっていました。

工藤大輝:やっぱり同じですね(笑)。ずっと変わってないな。でも同時に、ファンの方が僕の声を好きでいてくれている事実は理解していて。もともとはボーカル志望だったので、年齢も重ねてきたことだし、そろそろ工藤大輝として歌という表現を使ってもいいのかなと思い始めたところはあります。claquepotがライブハウスで毎年ツアーを回っていて、僕としても現場での経験はいちばん表現を磨けると思っているんです。ある程度蓄積してきたものがあるので、今ならそれを放出できるんじゃないかとも思いました。でもセルフカバーの難易度は高かったですね。僕が提供してきた楽曲は、そのアーティストに歌ってもらうことを前提に作っているものばかりなのと、だいたいどのアーティストもボーカル力が高いんですよ。

──そうですよね。ご自身のグループであるDa-iCEを筆頭に、ボーカルで魅せられるアーティストばかりですし、フィロソフィーのダンスやFAKY、kolmeなど複数人のグループの楽曲をおひとりで歌うのも難易度は高そうです。

工藤大輝:制作時はセルフカバーするつもりなんてまったくないし、グループ曲は低いキーから急に高いキーに移ったりと自分ひとりで歌うなら絶対に作らないメロディラインも多いんです。それを歌わなきゃいけないという、自分の首を絞める羽目になりました(笑)。1フレーズはコーラス扱いにしたり、オクターブ下げてみたり、ひとりでライブで歌ったときに違和感が出ないものを目指しましたね。アレンジは全部僕がお願いししたいアレンジャーさんにお願いしたい曲を頼んで、楽しみながら進めていきました。

──『Otowonous』を聴いて、あらためてどの楽曲にも工藤大輝節があると感じました。キャッチーでありながらスタイリッシュで、ブラックミュージックやシティポップ系の音楽をJ-POPに着地させる手腕が巧みで。そのミクスチャーセンスはJ-POPへの敬意から来るものだなとも思うんです。

工藤大輝:そう言っていただけるとめっちゃうれしいですね。ヒップホップが1970年代に生まれて、日本のポップスも同時期の1960年や70年代くらいからスタートしていると思うんです。僕は1987年生まれなので、それらの土壌がある程度成熟して広まった頃に幼少期や10代を過ごして来てるんですよね。ヒップホップやR&Bは大好きだけど、自分が育ってきたJ-POPを否定するのはすごく嫌だから、寧ろ日本特有のポップスを掲げて世界で戦って結果を出していきたいんです。いくら好きとはいっても、僕はブラックカルチャーやクラブカルチャーど真ん中で生きているわけではないので。

──あくまで生まれ育った場所は“日本”や“J-POP”であると。

工藤大輝:実際に現地やそのシーンを体感している人でないと、“匂い”みたいなものはわからない気がするんです。そのあたりの感覚はDa-iCE全員共通してるんですよね。だからそのカルチャーで育った人たちに敬意を持ったうえで、それらをエッセンスとして取り入れてJ-POPに着地させるのが僕ららしいと思っています。ひとつのシーンを追求している人ももちろんかっこいいけれど、自分はいろんなカルチャーやシーンの橋渡し的存在になる人に魅力を感じるんですよね。「このジャンルを知らない人たちにどうやって提示したら受け取ってもらえるだろう? 理解してもらえるだろう?」と創意工夫している人に憧れてきたから、自分もそうありたいんです。

──後にも先にもDa-iCEや工藤さんのような活動をしている人がいないのは、まさにその精神性から来るものでしょうね。

工藤大輝:ダンスボーカルグループでは結構レアキャラかもしれないですね(笑)。しかもそれが会社の策略とかではなく、自分たちからそういう動きをしていて、会社がそこに力を貸してくれている。マネージャーが集めたメンバーで結成したDa-iCEがここまで誰も欠けずに長く続いているのも、そういうところが理由のひとつなのかなと思っています。

──そうですよね。工藤さんが作る楽曲は、提供曲でも自分の意思を貫くことや、反骨精神を感じさせるものが多い印象があるんです。

工藤大輝:自分が歌わないという大前提がありつつ、そのアーティストたちが歌って、説得力がある歌詞のほうが絶対いいなと思っているんですよね。当たり障りのない歌詞ではなく、そのアーティストのファンの人たちが「これだよ!」となるほうが、自分が書く意味があるなとはずっと思っていて。結果的にそれが工藤大輝の言葉として存在していると感じていただけるのは、とてもうれしいことですね。

──工藤さんの「自分軸で生きる」という精神性はどこで育まれたものなのでしょう?

工藤大輝:どうなんだろうなあ……。Da-iCE結成前、なんなら小学生の頃からそういう考え方だった気がします。子どもの頃は特にフィジカルが強い人が優位に立ちがちなので、劣等感を抱えながら生きていたんですよね。夢をまっすぐ追いかけるタイプを斜めに見ているひねくれ者で、自分だからできることをずっと探し続けていた。それがグループになっても変わってないのかな。大きい事務所にいたけど誰も目をかけてくれなかったとき、反骨心と同時に「俺らは俺ららしくやっていく」という意志が増幅された感覚はあって。それが結果につながったり、若いアーティストからも「こういうアーティストがいるんだと知って勇気が出ました」と言ってもらったことで、胸を張っていいのかもしれないと自信を持てるようになったんですよね。

──そのお話を聞くと、Da-iCE結成時にはボーカリスト志望だった工藤さんが、その座を大野雄大さんと花村想太さんに譲ったことは、とても冷静だなと思います。

工藤大輝:もともと「この状況で自分は何をやるべきか」というプロデュース脳的な考え方をするタイプなのと、いろんな事務所を辞めてたどり着いた話だったから、このグループはどうにかうまいこと転がってほしいなと思ってたところもありますね。「自分が歌いたい」よりも、「このグループは歌唱力が絶大だ」と思われることが最優先事項だった。だからボーカリストの道を諦めるのではなく、自分がボーカルを務める道を別に作ったんですよね。僕の声は多くの人に愛される声ではなくても、雄大と想太とは声質も違うから、好きになってくれる人はいるかもしれない。自分もスキルを上げる努力はしつつ、こっちの道で結果を出せたときに胸を張れるなと思ったんですよね。

──お話を聞いていると、工藤さんはご自身の歩んできた人生に誇りを持ってらっしゃるんだなと感じます。

工藤大輝:え、本当ですか? 歳取ったのかな(笑)。でも自分の価値観は、歩んできた人生で育まれるなとはすごく感じるんですよね。それは時代的な観点でもそうで。僕は10代の頃、HMVの輸入盤の試聴機に直行して、全然知らないアーティストの音楽を聴きまくって「このCD買おうかな、でもこの出費は痛いな……」と悩んだりする経験を通じて知識を得ていた。これはデジタルネイティブのひとつ上の世代である僕ら世代の強みだと思っているんです。今の若い子たちはストリーミングのプレイリストで簡単に音楽が聴けるし、フィジカルも発達していて運動神経もいいし、資料が多いぶんスキルも高い。すぐに正解にたどり着けるぶん完成度は高いけれど、僕らの世代は正解にたどり着くまでのプロセスを踏んでいるぶん、自分の血肉にできていると思うんですよね。

──子どもの頃は聴きたい曲をフル尺で聴くためにいろんな過程が必要で、どんどん変わっていくデバイスにフットワーク軽く自分を馴染ませる。そういう経験が染みついている昭和末期生まれは、それより若い世代よりしぶとさがある人は多いですよね。

工藤大輝:あははは! 間違いないですね(笑)。生まれてから今までで、こんなに音楽を聴く媒体やゲームをプレイする媒体が変わった世代って、多分僕らだけだと思うんですよ。本当に狭間の世代(笑)。今の若い世代には簡単にいろんな音楽を聴ける環境があるし、僕らには「レコ屋に行ってディグる」という経験がある。だから僕は僕の世代ならではの強みを活かしていきたいんですよね。

──だからこそ、新曲として収録されている「SFST」がタッチパネルをモチーフにしているところも意味深です。“SFST”は歌詞にある“Swipe flick scroll and touch”の略称ですよね。どういう背景から制作した楽曲なのでしょう?

工藤大輝:Da-iCEは現在、ヒットを出さなければいけない立場にもいるぶん、前々から僕らのことを知っている人から「世間に迎合している」と思われることもあるなとは思っていて。だからこそ僕の口から「そういうものだけが大事なわけではないよね」と言うことで、活動に説得力が生まれるなと思ったんです。“SFST”というワードを表に出したのは、切り取りだけしか観てないと世間に迎合した曲に見えるからですね。

──だから《必要ない/Swipe flick scroll and touch》とサビで歌っていると。

工藤大輝:パッと見は現代を歌った曲だけど、全体を読み込めば「ガジェットに頼りすぎるのも問題だよね」という思いを書いていることが伝わると思います。誰かを攻撃する意図はないけれど、シーン全体としてSNSや最新機材をフルで使える人間が何よりも優れているという価値観が主流であること、その風潮を楽しんでいることに違和感はあるんです。Da-iCEの楽曲ならば雄大と想太が歌うぶんオブラートに包んだ表現をするけれど、自分が歌う曲なので「“こういう人なんだな”と思われてもいっか」という気持ちから強めの言葉を使いました。

──強めの言葉と、やわらかい工藤さんの声というコントラストも小粋で。

工藤大輝:自分の声はあまり好きじゃないけど、そう言っていただけるとありがたいです。鋭く攻撃するよりは優しく刺すほうがかっこいいですよね(笑)。

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