【ライブレポート】“SAMURAI DIVA”鈴華ゆう子、「私の夢はソロでも武道館、そして世界ツアーへ」

鈴華ゆう子が6月7日の誕生日当日、東京・日本橋三井ホールにて<鈴華ゆう子Birthday Live2025 -からくり屋敷->を行った。
毎年恒例で6月に行われているバースデーライブ。しかし鈴華の場合は、単にバースデーを祝う公演というわけではなく、その1年の指針を示すような公演となっている。昨年は2016年にリリースしたソロデビューアルバムのタイトルを掲げ、ソロでの軌跡を振り返りつつ“ひとりの歌手”としての決意を感じさせる公演だった。そして今年もまた、鈴華がこれから思い描いている未来が表現された公演となっていた。
ライブタイトルにある“からくり屋敷”という言葉から連想される通り、本公演は忍者の世界観で展開される。開演時間になり、和 × EDMのオープニングSEが流れステージに現れたバックバンド「華BAND」のメンバー も、黒で揃えた衣装に和柄のワンポイントを入れたスタイルで統一。そして黒地に網やレースをあしらい着物のスリットから片足を出した、くのいちスタイルの鈴華が登場した瞬間に、会場からは大歓声が上がった。
「華BAND」は、わちゅ〜(B)、鳴風(G)、広田圭美(Key)、新保惠大(Dr)、ZIN(鼓)、匹田大智(津軽三味線)、中村まさき(尺八, 笛)という豪華編成。鈴華の歌に、この豪華なアンサンブルが乗って1曲目「Dark spiral journey」がスタートした。初っ端から、お立ち台に片足をかけ「オイ!オイ!」とフロアを煽る鈴華がかっこいい。その煽りに触発されたかのように会場全員のペンライトが揺れ、一気に会場の熱が上がるのを感じた。

「今宵ここへ迷い込んだそなたら、覚悟はできているか!」という言葉から2曲目「Remains」へ。キーボードの音色が効いたキラキラロックなサウンドにあわせてZINが踊り、会場からはクラップが起こる。間奏では鈴華も激しくヘドバン、鳴風のギターソロも唸り、盛り上がらないはずがない。
このままロックに攻めるのかと思いきや、鈴華による詩吟のこぶしを使ったアカペラのフェイクが始まった。ちなみに鈴華はこの春より詩吟の新しい流派「吟道鈴華流」を立ち上げ、宗家・鈴華慶晟(すずはなけいせい)としての活動も始めている。歌舞伎や日本舞踊で囃子方として活動するZINと、匹田の津軽三味線、中村の尺八が詩吟に彩りを加え、ガラリ雰囲気を変えた──と思ったら重いベース音から友成空「鬼の宴」のカバーがスタート。元々和楽器の似合う曲ではあるが、一流の和楽器奏者たちの演奏に吟道鈴華流宗家による詩吟の発声で歌われるのだから、そんじょそこらのカバーではない。
「鬼ノ宴」のジャジーな雰囲気を引き継いで、今度は「泥棒猫」。猫のように体をかがみ込ませながら色っぽい歌詞を歌う鈴華が、艶っぽくてゾクッとしてしまう。指一本一本の動きもしなやかで、全身で歌を表現していることがわかる。鈴華は歌手というだけでなく、表現者なのだ。「カンパニュラ」でもそれを感じた。白い布を纏わせて舞いながら歌うその姿はまさにカンパニュラの花そのもののようで美しかった。本当に毎回「カンパニュラ」の歌と表現には鳥肌が立つほどの凄みを感じてしまう。

そしてなんと言っても驚いたのはここから。照明が落とされ会場は真っ暗になり、一瞬の静寂が訪れた。そこへ尺八が静かに音を奏で、情景を彩る虫笛がおどろおどろしく響く中、舞台上に日本壮心流・入倉慶志郎、小西柾輝演じる2人の忍者が登場。ZINが歌舞伎と同様、床に置かれた板に木を打ち鳴らす“ツケうち“や“蔭囃子“の効果音を出し、津軽三味線も登場して音を奏でる中、忍者たちが刀を抜いて殺陣を披露。激しい戦いを繰り広げ、和楽器だけの演奏が終わり和のEDMが流れ始めたところで鈴華が扇子と日本刀を構えて登場。「大楠公」を吟じながら2人の忍者を迎え撃つ。幼い頃から剣詩舞を習っている鈴華の殺陣は、優雅で凛々しい。鈴華が日本刀で忍者を切り付けるとパッと紙吹雪の血が舞ったり、ラストに鈴華の手から蜘蛛の糸が現れたりと、目が離せないスペクタルショウが繰り広げられたのだ。
鈴華はこのパートで剣舞はもちろんのこと、初挑戦の殺陣も披露。詩吟を歌いながら剣舞を舞うという形式はやらないのが通常なのだが、前代未聞の試みを見事やり遂げた。鈴華のバースデーライブで、まさか殺陣が見られるとは思ってもみなかったので、驚きとワクワクで夢中になって見入ってしまった。まさに“からくり屋敷”、鈴華の操り糸にまんまと引っかかって、知らず知らずのうちにこのライブの虜になっていたのだった──。

このショウのあとは、バンドセッションが始まる。ショウからいきなり歌に入らず、楽器だけのセッションで徐々に世界観を現実に戻していく構成も見事だ。しかも全員実力お墨付きのメンバーなので、どんどん気持ちが乗せられていく。和楽器も加わり、最後に青い花魁衣装に着替えた鈴華が登場すると「ここからまだまだ盛り上がっていくぞ!ついて来い!」と力強く宣言。そして「永世のクレイドル」を、夜空に広がっていくような力強いボーカルで歌い上げた。
「和の詰まったエンターテインメントを閉じ込めて、これからの鈴華ゆう子の展望が見えるようなステージを構成してみました。“和”というものを音や所作を通して感じてもらえたらなと思います」とMCで語った鈴華。鈴華は“日本の文化は素敵だ”ということを、もっともっと多くの人に知ってほしいという思いがあるそうだ。そしてひとりの歌手としては「みなさんの心に寄り添える歌手でありたい、そう思っています」と言って、「うたいびと」を奏ではじめた。コロナ禍に当たり前だった日々の尊さと歌への想いを込めて書かれた本楽曲は、ノスタルジックで優しくて、心の柔らかいところをそっと撫でてくれるような名曲だ。ゆったりとしたボーカルに心が癒されていく。鈴華は本当に素敵な“うたいびと”だ。

ここからはみんなで盛り上がる“和ロック”のターン。「いろは唄」では、一気にボーカリゼーションを変えて、力強く艶っぽい声で歌手としての多才さを見せつけてくる。ZINの首についた鎖を弄ぶセクシーな姿には会場から悲鳴が。津軽三味線の音色が気持ちいい「百年夜行」では、会場全員でオリジナル舞扇子を使った振り付けを楽しむ。金色の扇子が一斉に踊る様子は、眺めていてとても綺麗な光景だ。自身が作曲した和楽器バンドの楽曲のセルフカバーとして「花一匁」も披露された。和楽器バンドとはまた違ったアレンジで聴けるのが面白い。前向きな気持ちにさせてくれる「step forward」では、タオルを回して会場全体に一体感が生まれた。
鈴華も「本っ当に楽しい!」と言うほど盛り上がった会場に、和楽器バンドの尺八・神永大輔がサプライズ登場。思いがけないゲストの登場にファンからは大きなどよめきが。そのまま「千本桜」へ突入。年末の和楽器バンド活動休止前ラストライブ以来の、神永大輔にしかできない躍動感あふれるパフォーマンスに、「これこれ!」と嬉しくなる。尺八の中村は篠笛にチェンジしさらなる彩りを加え、ZINの細かな鼓のリズムと伸びのある掛け声が鈴華の歌声と調和し響き渡る。和楽器バンドで何度も聴いてきた曲だが、これはこれでかなり豪華絢爛なサウンドで、とても良い。観客たちもペンライトを振って大盛り上がり。
「ラストは嫌なこと全部ここに置いてくぞ!」と言って、オーラスは陰陽座カバー「甲賀忍法帖」。このライブのために“Project Ninja”と銘打ってMVも公開されていた楽曲だ。新保のバスドラとわちゅ〜の肉厚なベースラインの上で神永の尺八が自由自在に動き、広田のピアノと匹田の津軽三味線が彩りを加える。鳴風のギターソロも本家とは違うアレンジで、尺八と篠笛を操る中村の音色とZINのお囃子がこの骨太なロックサウンドを本格的な和楽器サウンドに仕上げる。そしてそこに乗る鈴華の声が切なくも力強く、最高にかっこいい。やはり“和ロック”とはこうあるべきだ。こうして至高のステージを堪能して、見どころ満載の“からくり屋敷”の幕が下ろされた。

──と安心していたのは間違いだった。アンコールでスクリーンに投影されたのは、“Project Ninja”の新曲「ケサラバサラ」がリリースされるというニュース。そしてそれがアニメ『ニンジャラ』のエンディングテーマに決定したことが告知された。この報告に会場からは喜びの声が上がったが……鈴華がくのいち姿のダンサーを引き連れてヘッドセットのマイクで登場したことでその声は驚きの悲鳴に。
そしてなんと、先ほど発表されたばかりの「ケサラバサラ」が披露されたのだ。ダンサーを連れていたことで今回はダンサブルな曲なのか?と思っていたら、まさかの鈴華自身もフルで踊る楽曲だった。これまで10年ほど彼女の活動を見てきたが、ここまでがっつり踊っている姿は初。しかもダンサー陣に負けないキレと華やかさを持ち合わせていて、本当に驚かされてしまった。歌に詩吟に剣詩舞、ピアノ、そしてダンスまで──本当に多才すぎるボーカルだ。“Project Ninja”かつ『ニンジャラ』の曲だということもあり、歌詞には忍者らしいワードが散りばめられ、振り付けにも手裏剣を投げるような動作や、印を結ぶ仕草なども盛り込まれていてとても楽しい。というか何より、踊る鈴華がとてもとても可愛いかった。
そんなサプライズに驚きのあまり涙を流すファンも見られる中、鈴華は「この曲を渡されたときに忍者がテーマだと聴いて。これを皆さんにお届けするときに“いきなり忍者と言われてもなぁ”と思ったので、“Project Ninja”と銘打ち、「甲賀忍法帖」とこの「ケサラバサラ」の二段階で忍者の世界観を作ってきたというのが種明かしでした」と、今日の公演のテーマを明かした。なるほど、すべてはこの「ケサラバサラ」に通じていたのだ。この“からくり屋敷”の仕掛けに見事にハマってしまったわけだが、気分は最高だ。
ちなみに「ケサラバサラ」は、最近の鈴華ソロ曲とはガラッと雰囲気を変えた華やかな和ポップソング。一緒に踊れるナンバーで、ZINと匹田大智のほか、和楽器バンドの箏・いぶくろ聖志も演奏に参加している。ミュージックビデオでは、15人のくのいちダンサーとフルで華やかな踊りを繰り広げている。本日登場した青い花魁姿も見ることができる。
鈴華は興奮冷めやらない会場のファンに向け「誕生日を笑顔いっぱいで過ごせて幸せです。この時代、この瞬間に同じ空間で楽しい時を過ごせるというだけですごく奇跡で一期一会だと思っています。これからもいろんな私の音と表情をいろんな形で伝えていき、絶対に寂しい思いはさせません。笑ったぶんだけ幸せが舞い込んでくると信じて人生を歩いていきましょう」とメッセージを送った。
今後まだまだサプライズが用意されていることも明かし、最後に「私の夢はソロでも武道館、そして世界ツアーへ」と目標を語った。エールの拍手を送るファンに改めて「歳をとったって遅くはない、今が一番幸せ。この幸せがどんどん増していくように、みんなと一緒に辛いことがあっても乗り越えていきましょう。鈴華ゆう子、下半期も頑張っていきますのでよろしくお願いいたします」と挨拶すると、最後は「パピヨン」を歌唱。背中を押してくれる明るいこの楽曲で全員が笑顔になって、本当の本当に
一夜限りの“からくり屋敷”が大団円で締め括られた。
鈴華ゆう子という歌手は、本当に面白い。去年のバースデーライブでは“うたいびと”であることを実感したのに、今年はそれに加えて“和のエンターテイナー”でもあることを知った。そう言い切ってしまえるくらい、今回の公演はひとつのショウとして完璧な仕上がりだった。この演出、構成をすべて自分自身で考えているというのだから、言い過ぎではないだろう。
今の音楽シーン全体から見れば決して早いとはいえないメジャーデビューだったが、それ以降でも、どんどん成長していく鈴華の姿には驚かされるばかりだ。鈴華の歌を聴いて癒されるのも、圧倒されるのも、それも本当に素敵なことだけど、彼女の生き様を知ることも勇気をもらえるのだと思った。この先、「ケサラバサラ」を収録するアルバム『SAMURAI DIVA』の発売、台湾を含むツアーの開催も決定し、6月17日で2周年となる自身のオフィシャルファンクラブ「華屋敷」にて8月からチケットのファンクラブ先行受付がスタート予定だ。まだまだこの先も、鈴華ゆう子という“SAMURAI DIVA”が作るものを一緒に見ていきたいと思う。
取材・文◎服部容子
写真◎KEIKO TANABE
セットリスト
1.Dark spiral journey
2.Remains
3.鬼ノ宴
4.泥棒猫
5.カンパニュラ
6.忍び、巻物の乱(殺陣)×和楽器
7.詩吟×剣舞×殺陣
8.華BANDインスト
9.永世のクレイドル
10.うたいびと
11.いろは唄
12.百年夜行
13.花一匁
14.step forward
15.千本桜
16.甲賀忍法帖
en1.ケサラバサラ
en2.パピヨン
「ケサラバサラ」
2025年6月8日(日)配信スタート
https://suzuhanayuko.lnk.to/kesarabasara
テレビ東京系アニメ「ニンジャラ」エンディングテーマ
作詞:鈴華ゆう子・UiNA 作曲:小高光太郎・UiNA
編曲:石倉誉之・小高光太郎
NEW ALBUM『SAMURAI DIVA』
2025年10月末リリース予定
詳細後日発表
<SUZUHANA YUKO LIVE TOUR 2025 SAMURAI DIVA ~東名阪台ノ陣~>
2025年11月1日(土) 大阪・TEMPO HARBOR THEATER
2025年11月15日(土) 名古屋・インターナショナルレジェンドホール
2025年11月22日(土) 東京・日経ホール
2025年12月6日(土) 台北・CORNER HOUSE
関連リンク
◆鈴華ゆう子 オフィシャルサイト







