──ダンスのグルーヴとギター・ロックが美しく溶け合った素晴らしい新作が完成しました。まず確認しておきたいのですが、あなたたちが’80年代、ロックにダンス・ミュージックの手法を取り入れようと思ったのにはきっかけがあったんですか?
バーナード・サムナー(Vo&G、以下バーニー):’80年代に僕らは、よくナイト・クラブに出入りしてたんだよね。ロンドンやニューヨークのクラブに知り合いがいたのでタダで入れてもらって、飲んで。ぼくらはそこで聴いていた生楽器を使った音楽に影響を受けたんだ。そういう音楽を聴きながら、ぼくらもエレクトロニクスの楽器でプレイできると思ったんだよ。実際にエレクトロニクスの楽器でプレイしてみると、クラブで聴いていたのとは違うサウンドだけど、だからこそ新鮮に感じたな。
──なるほど。
バーニー:でも、最近ではダンスと言っても幾つもの違うタイプのダンス・ミュージックに細分化されているよね。ニュー・オーダーはどのカテゴリーにも当てはまらないといいと思っているんだけどさ。
──ちなみに今作ではジョン・レッキーやスティーヴン・ストリートなど、様々なプロデューサーを起用されました。そもそも多数のプロデューサーと一緒にやろうと思われたのはどうしてですか?
バーニー:今作では全体的なひとつだけのスタイルではなく、多様なスタイルを反映させたいと思ったことがひとつ。それと二つ目に、実際に仕事をしてみるまで、どういうプロデューサーなのかわからないからね。その人が手掛けてきたアルバムが好きだからといって、そのプロデューサーとミュージシャンがレコーディングの際に関わった比率なんてわからないだろう? それとアルバムを聴いただけではプロデューサーの仕事の仕方もわからない…仕事が速い人なのか、じっくりと時間をかける人なのか…例えばスネアドラムのサウンドに1日かける人なのかもわからない。つまり実際に一緒にやってみるまで合うか合わないかなんてわからないからね。
──制作段階ではトーレ・ヨハンセンも参加しているという噂が流れたのは、そういう方法をとったからなんですね。
バーニー:そう。今作は、レコーディングに入る前にまず実際に何人かのプロデューサーたちとスタジオに入り、一緒に仕事をして様子をみるという、慎重なやり方をしたんだ。そうすることによって、人間的にはどういう人なのか、仕事の仕方はどうなのかということがわかった。そして気に入った人たちと一緒に仕事をすることにしたんだよ。悪いけど、鼻をかみたいからちょっと待っていてくれる?(そしてブーブーと鼻をかむ音)。
──はい。……大丈夫ですか? ところで、優しいメロディと歌声を主軸に持つ曲たちが今作には多い中で、「ワーキング・オーヴァータイム」のストゥージズ風の痛快なバンド・サウンドはちょっと別のカラーを持っていますね。ギター・ロック曲を作るときとダンス曲を作るときには、曲作りの段階から明確な違いがあるんでしょうか。
バーニー:この曲を例に挙げるのは面白いね……この曲では、ぼくがギターをプレイしてるんだ。とにかくとってもシンプルな曲を作りたいと思ってた。ジャムをしている時にスティーヴが素晴らしいドラム・ビートを思いついてくれて、みんなに“この続きはどうなるの?”と聞かれたけど、ぼくは“このままシンプルにしておきたい”と答えたんだ。そしてできたものを家に持ち帰ってヴォーカルのパートを考えたわけだけど、そのとき、曲をあまり変えないように心がけたね。この曲は、ダンス・ソングのようなグルーヴがあるロック・ソングにしたかったんだ……結果的に、ちゃんとグルーヴがベースになっているロック・ソングになったと思うよ。
──確かに。話は変わりますが、最近はインターポール、ザ・キラーズ、そして今作にゲスト参加したシザー・シスターズのように、“ニュー・オーダー・チルドレン”と呼びたいほどニューウェイヴなダンスとロック・サウンドを掛け合わせた新人勢が大活躍しています。彼らの活躍は、あなたたちの活動に何らかの刺激を与えましたか?
バーニー:君が今、名前を挙げてくれたバンドはどれも好きなバンドだよ。確かに彼らはニュー・オーダーの音楽も聴いていて影響を受けたかもしれないけど、だからといってぼくらの音をコピーしているとは思わないな。だって実際、ぼくらもデヴィッド・.ボウイ、イギー・ポップ、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、ローリング・ストーンズ、ジミ・ヘンドリックス、クラフトワーク、それからいろんなダンス・レコードなどを聴いてきているわけだしね。そもそも、情熱が溢れ出る音楽を聴くからこそ、同じように自分も音楽をやりたいと思うものなんだよ。例えばボーイズ・バンドの音楽にインスパイアされて音楽をやろうとは、きっと誰も思わないだろうからね。
──今作からはギタリストとして同郷のフィル・カニンガム(元マリオン)が新加入したわけですが、では、このラインナップだからこそ可能になったもの、といえば何を挙げますか?
バーニー:それはね、君、このアルバムそのものさ(笑)。
取材・文●妹沢奈美