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――聴いた人の中で新しい「物語」が産まれる
ルルティアに関する情報は、ほとんどないに等しい。
どんな姿をしているのか、何歳なのか、どんな女性なのか。
わたしたちに彼女から届いてくるものは
このメロディと言葉たちのみであり、
そこに生まれているものは神秘性やカリスマ性や匿名性などという類の、
頼りなくて、すぐに消えてしまいそうなものじゃない。
もっと、そしてずっと確かな「物語」そのものだ。
厳かに轟くような弦楽器によるセレモニーが始まる。
地底を揺らすようにへヴィなロック・サウンドが追ってくる。
3枚目のアルバムとなる『プロミスト・ランド』は、
体を覆う皮膚を悲しみや怒りが貫いて破るような
重々しき衝動に満ちて、幕を開ける。
……罪・汚れ・過ち・欲望・血……
そんな言葉たちばかりを集めた唇から、
こぼれるのは甘き少女のような歌声。
<ハレルヤ 全て 洗い流して>
その少女が囁けば、聴く者の体には既に
もうひとつの世界を見渡すファインダーが用意されるかのよう。
ルルティアが紡ぐ言葉たち。
それは時に悲しいけれど、時に苦しいけれど
同時に、誰にでも共鳴してしまう温もりが存在している。
だからだ。
膨大な祈りをはらんだメロディをこぼさないように
凄まじい緊張感を保ちながら丁寧に歌われているのだ。
「あたし」という、たったひとりきりの痛みを吐き出す、
そんな歌は実は世の中にたくさんある。
だけどルルティアの歌は聴いた人の中で新しい「物語」を見出し、産み落としていく。
だからわたしたちは彼女自身のことを、未だによく知らないままなのだろう。
掴める物ならギュッと握り潰してしまいたいほどのこの胸の痛みと
軽やかなオーケストレーションに合わせて駆け出したいほどの
幸せな一瞬を繰り返しながら、わたしたちは共に生きている。
その大切な儚さを『プロミスト・ランド』という物語の中で、
ルルティアと聴いた人の全てで分かち合うのだ。
きっとそれ以上の喜びとか情報とか、必要ない気すらしてくる。
やっぱり、ルルティアは不思議なアーティストだ。
そして、なんてロマンチックな音楽なんだろうと思う作品だ。
文●上野三樹
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