’96年、ヴァージン・グループの総帥、リチャード・ブラウンソンが設立したレコード会社、V2レコーズ。
ステレオフォニックスは、その記念すべき第一弾アーティストとして契約している。翌’97年に華々しくデビューを飾り、1stアルバム『ワード・ゲッツ・アラウンド』が全英アルバム・チャートで初登場6位の大ヒットを記録、いきなりメジャーアーティストの仲間入りを果たした。
また翌年発表されたイギリスの各音楽賞でも新人賞を総なめ。オアシス、マニック・ストリート・プリーチャーズに次ぐUKギターロック・バンドのポジションを手にする。
ステレオフォニックスは’90年代初頭、イギリス・ウェールズにて、子供の頃からの幼なじみだったケリー・ジョーンズ(Vo&g)、リチャード・ジョーンズ(b)、スチュアート・ケーブル(Dr)で結成された。
REM、U2、パール・ジャム、ビートルズに影響を受けた、3ピースのギターバンドとして活動をスタートする。’96年11月、地元インディペンデント・レーベルから限定でシングルをリリース。翌年3月にリリースされた「ローカル・ボーイ・イン・ザ・フォトグラフ」で正式なデビューを飾る(後に再リリースされ全英チャートで14位になっている)。
ビートルズ、ストーンズの’60年代から’70年代、’80年代、そして’90年代半ばのブリット・ポップ隆盛の時代まで、UK産ギターロックは常にシーンをリードしてきた。イギリス人はギターをマスターする前に仲間を集めてバンドを結成し、コピーをする前にオリジナルを作ってきたのだ。しかし、ダンスミュージック人気が高まった’90年代中盤以降、ギターロック受難時代に突入する。ギターのリフよりもDJのフェイダー操作に注目が集まるようになり、ギターバンドはオールドウェイブな方法論となっていく。彼らがデビューした’97年はちょうどそんな背景だった。
ギターロック受難時代に、それでも、いやだからこそ爆発的な人気を得たバンドがオアシスであった。誰もが口ずさめるポップなメロディとオーソドックスなギターサウンドをもって一躍国民的な人気を獲得。
そしてまた、同じようにマニック・ストリート・プリーチャーズが作風を変えて捲土重来し、こちらも大きな支持を得る。
「イギリス人はバンド・サウンドが好きである」。
2バンドはその再確認を働きかけた。このように、音楽的にも同じ系譜にあるステレオフォニックスが受け入れられる土壌がある程度作り上げられていたのだ。
’99年にリリースした2ndアルバム『パフォーマンス・アンド・カクテルズ』は、全英アルバム・チャート初登場1位を記録、7月に行われたモーファ・スタジアムでのライヴでは5万人の観客を集客。また昨年は御大トム・ジョーンズとの共演まで果たすなど、正真正銘、UKミュージック・シーンの頂点に立った。
その彼らの2年ぶりとなるニューアルバムが『ジャスト・イナフ・エデュケイション・トゥ・パフォーム』である。
これまでのサクセス・ストーリーは極めて順調な道のりながらも、本人たちは取り巻く状況の急速な変化に戸惑いや危機感を抱かせたようで、最近はメディアに対する苛立ちがバンドを支配していたという。このアルバムは、そんな状況下にある彼らからのメッセージであり、さらなる成功、アメリカ進出へ向けての挑戦とも受け取れる意欲作である。
限界が見えてきた3ピースからの脱皮計画は、結果的にマイナー調の陰りのある作風を誘発し、アレンジは渋く深淵になっている。その上で、このバンドの魅力はケリー・ジョーンズのヴォーカルであることを認識させてくれる。
存在感に重みが加わった彼のヴォーカル・パフォーマンスが多様なサウンドに太く絡みつき、それぞれの曲に生命力を与えている。オアシス、マニックス的な部分からの脱皮もところどころに感じられ、彼らのオリジナリティが前面に出ている。
デビューから4年、今度は他から追われる立場になった今、いよいよ正念場を迎えたということか。
その実力は米ツアーを経て参加する<フジ・ロック>のステージで、しかもオアシスとマニックスと同じステージに立つ今年の<フジ・ロック>で問われるような気がする。