【インタビュー】秋葉龍、3rdアルバム『Tatsu Akiba』に高度な構築美と最新鋭のプログレサウンド「最終作として自らの名前をつけた」

2026.02.08 18:00

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YES、GENTLE GIANT、GENESIS、JETHRO TULL、そしてHATFIELD & THE NORTHをはじめとするカンタベリーミュージックなど、英国プログレッシヴロックに影響を受け、作詞作曲も手がける1997年生まれの才能溢れる若き音楽家が、秋葉龍(Tatsu Akiba)だ。ヴォーカル、ギター、キーボード、ベース、作曲、編曲まで全てひとりでこなし、“ひとりプログレ”の異名を欲しいままにしてきた彼が、3rdアルバム『Akiba Tatsu』をリリースした。

PROVIDENCEや那由他計画の塚田円(Syn)、ダモ鈴木やマニ・ノイマイヤー、Zappa Plays Zappaとの共演でも知られる今井研二(Fl)、内核の波ほか多方面で活躍する吉田真吾(Dr)ら、名手たちをゲストに迎えて制作された本作について、じっくり語ってもらった。

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■今なお失われていないロックのパワーを
■世界の音楽ファンに届けたい

──本作制作にあたってのコンセプトやテーマとは?

秋葉:本作は主にカンタベリーサウンド(英国カンタベリーを拠点としたジャズやサイケデリックの融合によるプログレッシヴロックの支流)に大きく影響を受けた作品となっております。使う楽器の特殊なトーン、メロディやリズムの絡みの複雑さをポップにまとめ上げたロックという作風です。しかし決して’70年代当時のカンタベリーの再現や夢の続きに留まらず、あくまでそれを背景に他の音楽をも吸収し秋葉龍独自の世界観を描いた作品となっております。

──曲名については、アルバムからの先行配信シングルとしてリリースされた「2389」をはじめ、記号のようなタイトルが多いですね。

秋葉:楽曲のコンセプトとしては“アルファベットと数字”なのですが、これは特に大義があるものではなくて。曲の作詞を語感やナンセンスなジョークに任せて書いたところ、アルファベットや数字の言葉遊びが多かったため、曲のタイトルもそのようなネーミングにしました。

──1stアルバム『SWANS DANCE, ROSES BLOOM LIKE MAD』や2ndアルバム『CITIES IN PEOPLE』と、本作との関係性はどんなものですか?

秋葉:先に述べたカンタベリーサウンドは、断片的には1stや2ndアルバムにも感じられるところがあるのですが、いわゆるシンフォニックロックとトラッドフォークの影響が大きくありました。そのためアコースティック楽器やメロトロンの使用が多く、曲もアルバム全体でひとつの組曲だったり、1曲あたり12分以上のサイズだったり、歌詞はファンタジー風に社会の風刺や人々の情動を描いたりと、今作よりもより分かりやすくドラマチックなサウンドでした。

──叙情性という意味ではそうでしたね。

秋葉:今作ではフォークアコースティック色やシンフォニック色が大きく減退し、メロディの美しさや曲展開の構築美をそのままに、ジャズロックやサイケデリックロックに近いサウンドとなっています。音の面白さやオリジナリティをより追求したため、先ほど述べた通り、作詞は語感重視で作曲面は斬新なコード進行やメロディが顕著に見られると思います。

──これまで“ひとりプログレ”と呼ばれるようなスタイルで活動をされてきました。一般的にプログレッシヴロックを演奏するアーティストは大所帯なことが多いですが、秋葉さんがひとりで活動してきたのは何故ですか?

秋葉:私は大学時代からコピーバンドをやっており、同時に自分で作った曲もたくさん持っていましたが、その曲を演奏するオリジナルのバンドのメンバーがなかなか集まらず、音源にして発表することが出来ないでいました。卒業すると同時に新型コロナのパンデミックが始まり、対面バンドがなかなか出来ない状況になってしまって、そこで以前から持っていたDAW (PC上で音楽制作の全工程を一元的に行えるソフトウェア)を使って好きな曲のカバーや、ゲーム音楽の多重録音したものを撮影して、YouTube上での活動を始めました。

──それなら自宅でひとりで出来ますし、新型コロナウイルス感染予防対策としても問題ありませんね。

秋葉:録音やミキシングのノウハウが身に着いてきたので、せっかくなら自分のアルバムも自主制作でやってみようと思ったのがきっかけでした。そうやってひとりで作ったものがなかなか評判も良かったので、感染対策としての外出自粛が解かれた後も、新バンドが実現するまではひとりプログレをやっていました。管楽器やドラムなど自分では演奏できない楽器のゲストをお招きしているうちに、今作のような形態にたどり着きました。

──今作では9人ものゲストミュージシャンを迎えて制作されています。

秋葉:サックス、フルート、シンセサイザー、ヴォーカル、ドラムにゲストをお招きしています。自分の音楽制作の幅が広がっていくにつれて、同じメロディひとつとっても「これはサックスが合うんじゃないか?」「こっちは女性ヴォーカルの声が合いそうだ」とイマジネーションが膨らんできたため、自分の過去の共演経験や個人的な知り合いをつてに声をかけさせてもらいました。

──ドラマーは計5人の方が参加されています。

秋葉:当初ドラムは前作までと同様、打ち込みでリリースする予定だったのですが、本作でライナーノーツを書いていただいたMJさんに「今作はバンドサウンドとして完成されているので、生ドラムのほうがよりグルーヴを体感できて、作品としての質も上がる」とアドバイスをいただき、それぞれの曲に合ったドラマーをお呼びしました。

──ゲストが参加したことで、どんな変化が生まれましたか?

秋葉:私は曲を作る時にはけっこう編曲込みで行なっているので、曲がデモとして完成する頃には楽器の細かいフレーズやドラムのフィルなども相当練ったものが出来ているんですが、今回はドラムも含め、すべての楽器の演者の方々に、重要なメロディやキメ以外のフレージングをお任せしました。そのおかげで自分では思いつかないパターンやトーンを収録できましたし、私の作った曲との面白いマジックが起こって、作品としての深みが増して、バラエティが豊かになったと思っています。

──秋葉さんの音楽性は、今の音楽シーンの中ではかなり異色な存在だと思います。時代性的にも’60年代の匂いを感じますが、今これをやっている理由を教えてください。

秋葉:昨今「ロックは死んだ」と言う人も多いほど、当時のシーンほどロックに勢いはなく、下火になっていると思います。しかし私は、ロックのダイナミズムがテクノロジーによって失われたとか、アイデアやオリジナリティが底をついたなどとは決して思いません。主流ではなくても、或いは形を変えたりしても、リスナーに雑に消費されず、本物のロックの熱量を持ったサウンドを出しているミュージシャン、それを愛するリスナーは現代にもたくさんいますよね。

──確かにロックは継承されていると思います。新しい音楽が目に付くだけで。

秋葉:私が今、当時の匂いのするサウンドを奏でるのは懐古主義によるものではなく、今なお失われていないロックのパワーを世界の音楽ファンに届けたいという思いからです。そのため、自分のことを“1960~70年代に当時いたはずのバンドが現代にタイムスリップしてきてしまったが、新しい価値観やテクノロジーを取り入れつつ、また新たに現代のロックとして生まれ変わる”という漫画や小説にありそうな設定の主人公だと思い込んで活動しています(笑)。

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