【ライブレポート】ACIDMAN、五感に刻み込む<「光学」全曲初披露ライブ&第2回壇上交流会>完遂

ACIDMANが2025年10月に4年ぶり通算13枚目となるオリジナルアルバム『光学』と、トリビュートアルバム『ACIDMAN Tribute Works』を同時リリース。これを記念したライブ<「光学」全曲初披露ライブ&第2回壇上交流会>が、同年12月7日に大阪・Zepp Osaka Bayside、12月20日に東京・Zepp Hanedaで行われた。本記事では東京公演の模様をオフィシャルレポートにてお届けする。
タイトル通り本公演は、アルバム『光学』を最初から最後まで一曲も欠かすことなく披露する、極めてストイックなコンセプトを掲げたものだ。
筆者が観たのは東京公演。会場に足を踏み入れてまず目に入るのは、アンプ、ドラムセット、マイクスタンド、エフェクターボードのみが配置された簡素なステージだ。ステージ上の照明装置も最小限で、背後のスクリーンにはアルバムタイトル「光学」の文字だけが浮かび上がっている。さらに印象的だったのは、客入れのBGM。時おり船の汽笛のような音が響くだけで、場内を満たすのは観客のざわめきのみだった。今日が“アルバムの世界観に没入するための場”であることを、バンドは開演前から示しているかのようだった。


定刻になると、スクリーンの「光学」の文字が粒子状に崩れて画面いっぱいに拡散していく。アルバム冒頭を飾るインスト曲「光学(introduction)」が流れるなか、全身を白で統一した大木伸夫(Vo, G)、佐藤雅俊(Ba)、浦山一悟(Dr)が手を振りながら登場すると、客席から大きな歓声が上がった。



間髪入れずに演奏されたのは「アストロサイト」。脳科学者・毛内拡との対談にインスパイアされ、星状膠細胞(星のような形をした細胞の一種)の名をタイトルに冠したファンキーチューンだ。軽やかに刻まれるギター、浦山のタイトなリズム、その上を縫うように佐藤のベースがうねる。前作『INNOCENCE』以降で培ってきたグルーヴ志向のアレンジをさらに推し進めつつ、間奏ではシューゲイズ的なアプローチによってACIDMANらしい陰影を残す。
続く「go away」では、歪んだギターのカッティングが会場をざくざくと切り裂いていく。《いつの時代も変わんなくて》《誰でもいいから水をくれ》と、分断と争いが絶えない世界への苛立ちを吐き出すような大木の歌声に、オーディエンスは拳を突き上げて応えている。
この日の公演について大木は、「アルバムは映画のようなもの。1曲目から世界が始まり、巡り、終わりを迎える。そのイメージを、今回はそのまま皆と共有したかった」とMCで語った。過去曲や定番曲を一切演奏せず、アルバム収録曲のみで構成する──そんな、大木いわく「エゴイスティック」な企画についても、「それでも、こんなにもたくさん集まってくれたことが何よりありがたい」と感謝の言葉を口にした。

そして披露されたのが、「光学」を象徴する楽曲のひとつ「輝けるもの」だ。映画『ゴールデンカムイ』主題歌として知られるこの曲では、ストロボの閃光と無数の光線が交錯し、4つ打ちのキックに合わせて自然発生的なハンドクラップが広がる。スクリーンに映し出される星雲や銀河の映像と相まって、生命の誕生、その先に続く希望を強く感じさせる。しかもアルバムの流れの中で聴くことで、この曲は単なるタイアップ曲という枠を越え『光学』という大きな物語の一部として新たな意味を帯び立ち上がっていた。
続いて演奏されたのは「sonet」。WOWOW『連続ドラマW ゴールデンカムイ ―北海道刺青囚人争奪編―』最終話のエンディングテーマとして書き下ろされたこの楽曲は、バタフライエフェクト現象をモチーフに、世界が目に見えないレベルで連なっていることを描いたミドルバラードだ。演奏が始まると、ステージ後方のスクリーンには歌詞が投影される。「世界は気の遠くなるような奇跡の繰り返しで成り立っている。そのことを誰もが知れば、世界は必ず平和になる」──そんな大木の信念が込められた言葉をあえて可視化する演出からは、この楽曲に対する並々ならぬ想いが伝わってきた。
続く「白と黒」は、人間が抱える二面性、善と悪をテーマにした楽曲。レコーディングではSOIL&“PIMP”SESSIONSのタブゾンビ率いるブラス隊が参加したジャジーなナンバーだが、この日は3人編成ならではの緊張感あるアンサンブル。佐藤はステージを大きく使いながらスウィング感あふれるフレーズを繰り出し、観客の身体を自然と揺らしていく。スクリーンに映し出されるのは、カラフルでアブストラクトなドローイング。タイトルとは裏腹に、単純な二項対立では割り切れない世界を多彩な色彩で表現するその映像は、大木のオプティミスティックな精神を象徴しているようだった。

ここで空気を一変させたのが、アルバムのリード曲「feel every love」である。ステージに呼び込まれたのは、一般公募とオーディションを経て選ばれた総勢20名のコーラス隊。黒い衣装に身を包んだ子どもから大人までの男女が並ぶ光景は、それだけでひとつのメッセージを孕んでいた。ゴスペルクワイアを従えた演奏は、オルタナティヴロック、ギターロック、ゴスペル、ミニマル/アンビエントといった要素を内包しながら、圧倒的なスケール感で広がっていく。後半、転調を重ねながら高揚感が頂点へと達する瞬間、会場には言葉にならない感情が満ち溢れていた。ACIDMANとして、そして大木伸夫という表現者として、この曲は一つの到達点といえよう。

インタールード「1/f(interlude)」を挟み、ライブは後半へと入っていく。浦山がシンセパッドを操り、柔らかく太いキックを刻む「青い風」では、オーロラのような映像を背景に、大木の囁くような歌声が際立つ。ミニマルな構成のなかで音の一つひとつが丁寧に空間へと放たれ、観客は食い入るようにステージを見つめていた。
続く「龍」は、本作の中でもとりわけ挑戦的な楽曲だ。ギターとベースが弦楽器のように響き合い、アンビエンスを重視したアンサンブルがじわじわと熱を帯びていく。歌詞に描かれるのは、戦争によって灰となった世界と、そこから舞い上がる龍のイメージ。破壊の先にある再生を神話的なスケールで描き出すこの曲は、アルバム後半へ向け物語をさらに深い領域へと導いていった。

一転して「蛍光」では、スピード感あふれる演奏とハードコアなサウンドが炸裂する。最小宇宙から膨張していく世界、その先に待つ《不確定》な未来を、取り憑かれたようにシャウトする大木の姿に、会場はどよめきにも似た歓声で応えた。そこからロマンティックな「光の夜」へと続くこの急激な振り幅こそ、ACIDMANというバンドの揺るぎない個性だ。
終えたあと、大木は本公演の意味を改めて語り始めた。今回のライブは単に新作を披露する場ではなく、アルバム『光学』が内包する世界観を「体験してもらう」ためのものだという。アルバムを通して聴くことで立ち上がるひとつの物語、その始まりから終わりまでを、できる限り純度の高いかたちで共有したかったのだと。
彼の語りは、やがて人間の時間軸を超え宇宙規模へと広がっていく。「約138億年前に宇宙が誕生し、その瞬間に生まれた物質が形を変え今の僕らを構成している。炭素や酸素、水素といった元素も、空気や水も、やがて人となり、また別の存在へと循環していく。その壮大な循環のなかに、僕らは確かに生きている」と。
「蛇口をひねれば水が出ること、星空が美しいこと、それだけで本当は十分に豊かなのだ」と大木は言う。「そうした『気づき』を共有するために、歌を歌っているのかもしれない」とも。「思想を押しつけたいわけじゃない。ただ自分の信じることを伝え、それに共鳴した人と、少しでも世界を良い方向に見つめ直したいんです」
大木はアルバムタイトル『光学』の由来に触れる。1704年にアイザック・ニュートンが著した『Opticks』──光を学ぶという思想。物質を突き詰めていけば素粒子に行き着き、さらにその先ではエネルギー、すなわち光にたどり着くという考え方だ。「僕らは物質じゃなく、エネルギーとして生きている」。その想いを託して演奏されたのが、ラストナンバー「あらゆるもの」だった。
ディレイをたっぷり含んだギターのアンビエントなイントロから、静と動を激しく行き来するダイナミックなアンサンブルへ。《君が生まれた それだけは 正しい事なんだよ》と結ぶフレーズが、このアルバム、そしてこの夜のすべてを静かに肯定していく。アウトロではスクリーンに、関わったスタッフやミュージシャンのクレジットが映画のエンディングのように流れ、光の粒子が再び集約して「光学」の文字を形作る。円環を閉じるように、物語は終わりを迎えた。

アルバム『光学』は、単なる楽曲の集合体ではなく、ひとつの思考であり、ひとつの視座だ。その全貌を途中で切り取ることなく、音と光と時間の流れのなかで体験させる──今回の公演は、大木伸夫の思想を最も純度の高いかたちで提示する試みだったといえよう。ACIDMANが長年追い求めてきたテーマはここで結晶化し、さらに次のフェーズへと踏み出した。そんな確かな手応えを感じる一夜だった。
終演後には、「壇上交流会」が行われた。参加者はステージに上がり、アンプやエフェクターボード、ギターやベースを間近に眺めながら、ステージ左手に並ぶメンバーのもとへ進む。楽器を食い入るように見る人、客席を振り返る人、まっすぐにメンバーへ向かう人──その姿はさまざま。3人は一人ひとりと丁寧に握手を交わし、静かに見送っていた。
撮影◎Victor Nomoto – Metacraft (SNSアカウント:@victornomoto)
■13thアルバム『光学』
2025年10月29日(水)発売
販売リンク:https://acidman.lnk.to/kougakuWE

【初回限定盤(CD+Blu-ray)】
TYCT-69356 / ¥7,040(税込)
※デジパック仕様
※初回プレス分のみ:封入特典 (①「第2回壇上交流会」参加券 / ②「大木伸夫インタビューディレクターズカット版」動画視聴 / ③<ACIDMAN LIVE TOUR “光学”>CD封入チケット先行受付)
【通常盤(CD only)】
TYCT-60252 / ¥3,520(税込)
※紙ジャケット仕様
※初回プレス分のみ:封入特典 (①「第2回壇上交流会」参加券 / ②「大木伸夫インタビューディレクターズカット版」動画視聴 / ③<ACIDMAN LIVE TOUR “光学”>CD封入チケット先行受付)
▼CD収録内容 ※初回限定盤 通常盤 同内容
01 光学 (introduction)
02 アストロサイト
03 go away
04 輝けるもの
05 sonet
06 白と黒
07 feel every love ※9/12先行配信
08 1/f (interlude)
09 青い風
10 龍
11 蛍光
12 光の夜
13 あらゆるもの
▼Blu-ray収録内容
『scene of 光学』
・「輝けるもの」Music Video
・「白と黒」Music Video
・「sonet」Music Video
・「feel every love」Music Video
・Documentary2023-2025
■トリビュートアルバム『ACIDMAN Tribute Works』
2025年10月29日(水)発売
販売リンク:https://acidman.lnk.to/tribute_worksWE

【CD only】TYCT-60253 / ¥3,520(税込)
※初回プレス分のみ:封入特典 (①「第2回壇上交流会」参加券 / ②「大木伸夫インタビューディレクターズカット版」動画視聴 / ③<ACIDMAN LIVE TOUR “光学”>CD封入チケット先行受付)
▼CD収録内容 ※全13曲収録
01 ELLEGARDEN 「アイソトープ」
02 ストレイテナー 「world symphony」
03 東京スカパラダイスオーケストラ 「to live feat LEO (ALI)」
04 the band apart 「夜のために」
05 じん 「Rebirth」
06 jon-YAKITORY 「輝けるもの (Remix)」
07 downy 「風、冴ゆる」
08 10-FEET 「赤橙」
09 SOIL&“PIMP”SESSIONS 「at」
10 yama 「季節の灯」
11 THE ORAL CIGARETTES 「migration10⁶⁴」
12 BRAHMAN 「SILENCE」
13 Dragon Ash 「ある証明」
■2026年全国ツアー<ACIDMAN LIVE TOUR “光学”>
4月09⽇(⽊) 神奈川・KT Zepp Yokohama
4月18⽇(⼟) 宮城・⽯巻 BLUE RESISTANCE
4月29⽇(⽔/祝) 静岡・LIVE ROXY SHIZUOKA
5月10⽇(⽇) 新潟・NIIGATA LOTS
5月15⽇(⾦) ⼤阪・NHK⼤阪ホール
5月22⽇(⾦) 埼⽟・ウェスタ川越 ⼤ホール
5月24⽇(⽇) 福岡・DRUM LOGOS
5月29⽇(⾦) 宮城・仙台 Rensa
6月06⽇(⼟) 岡⼭・CRAZYMAMA KINGDOM
6月14⽇(⽇) 沖縄・桜坂セントラル
6月27⽇(⼟) 千葉・幕張メッセ国際展⽰場 展⽰ホール9-10
詳細:https://acidman.jp/newsinfo/20251026-2/
関連リンク
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