【コラム】Mrs. GREEN APPLEのインスト盤『10 -Instrumentals-』が音楽の宝箱な5つの理由

2025.12.24 20:00

Share

Mrs. GREEN APPLEが、2025年のデビュー10周年記念日(7月8日)にリリースしたアニバーサリーベストアルバム『10』のインストゥルメンタルアルバム『10 -Instrumentals-』が12月8日に配信リリースされた。

原曲から大森元貴(Vo, G)のボーカル/コーラストラックを抜き、バックトラック(バンドの演奏)のみを聴くことができるインストバージョン。“要はカラオケでしょ?”と思うかもしれない。もちろん、カラオケとしても十分に楽しめるが、それだけではあまりにももったいない。ミセスサウンドの真髄を深掘りするにもってこいの、音楽の宝箱なのだ。

インストゥルメンタルアルバム『10 -Instrumentals-』

   ◆   ◆   ◆

【Chapter1】
▼『10 -Instrumentals-』は名曲たちの副読本

いきなり話が逸れて申し訳ないが、このコラムを読んでいるみなさんの耳には、今、どんな音が聴こえているだろうか。電車やバスの中であれば大きな走行音で他には何も聴こえないかもしれない。カフェにいれば、店内のBGMや周囲のお客さんの会話が聴こえるだろう。もし静かな部屋にいる人なら“音は何も鳴っていない”と答えるかもしれない。でも、本当にそうだろうか。ぜひ耳を澄ましてみてほしい。

うるさい電車の中でも、乗客同士の会話や車内アナウンス、隣りの乗客が動く音も聴こえるだろう。カフェならば、コーヒーカップがぶつかる音や、隣りの席の人が雑誌をめくる音、厨房で調理する音やコーヒーポットの音も聴こえるはず。いくら静かな室内であっても耳に意識を集中すれば、空調の音や冷蔵庫が発するブーンといった音、隣りの部屋のガタゴトという物音や、通りを走る車、バイクの音もかすかに聴こえてくるだろう。たとえイヤホンをしていたとしても、音楽に混ざって自分の呼吸の音が聴こえるはずだ。

このように、人の耳には知らず知らずのうちに、実にさまざまな音が入ってきている。だが人は、その大半を聴いていない。自分にとって重要な音だけを無意識のうちに選別して、その音だけに意識を向けているのだ。これは人間の優れた能力のひとつであるが(すべての音が同等に聴こえたら、それはうるさくて仕方ない)、この能力は音楽を聴く際にも働いてしまう。楽器の演奏経験があったり、専門的に音楽を勉強している人を除けば、一般的に人は、音楽を聴く際にメロディとリズムに意識が向く。しかも、具体的な意味を持つ言葉、すなわち歌があれば、それを中心に音楽を聴く人が大多数だろう。

言い換えれば、歌とリズム以外の音は、多くの人の耳に入ってきているのに、あまり聴こえていない。ただ、そうした意識の外側にあるバックトラック(伴奏)こそが、歌を支え、楽曲の世界観を、時に壮大に、時に華やかに、時に闇夜のように彩っている。それは文学で言うなら行間や余白であり、映画に例えるならば、台詞ではない、役者の表情やその背後の景色、空間そのものの表現と言える。具体的な意味を持つ台詞(言葉)ではないからこそ、受け手の想像力を広げてくれるのだ。

音楽も同じように、歌詞とメロディだけでなく、その背景をバックトラックが彩るからこそ、よりワクワクしたり、より切なく感じたり、より気持ちが高揚するのだ。ただ、一般のリスナーは、そんなバックトラックをじっくりと聴くチャンスはほとんどない。そこに耳を傾けられるようにMrs. GREEN APPLEがプレゼントしてくれたのが、この『10 -Instrumentals-』というインスト盤なのだ。これを聴くことで、今まで以上に作品の深みに触れることができ、想像力が膨らみ、Mrs. GREEN APPLEが作り出した音楽物語を高い解像度で鮮明に感じとることができるようになる。『10 -Instrumentals-』は、ミセスが“フェーズ2”で生み出した数々の名曲たちの中により深く入り込んでいける“副読本”なのだ。

 

【Chapter2】
▼“なぜこの音を入れたのだろうか?”

『10 -Instrumentals-』には、冒頭で紹介したようにアニバーサリーベストアルバム『10』に収録されている全19曲に加え、同ベスト盤のダウンロードアルバム限定のボーナストラック「道徳と皿 ~2025 ver.~」のバックトラックと、“フェーズ2”のラストシングル「GOOD DAY」のバックトラックをプラスした、計21曲のバックトラック(=インストゥルメンタル)を収録。

これを聴くと、まずもってシンプルに、何十回、何百回とMrs. GREEN APPLEの楽曲を繰り返し聴いてきたファンであっても“こんな音が入っていたのか!” “こんなフレーズを演奏していたのか!”と驚くに違いない。

例えば、1曲目の「ニュー・マイ・ノーマル」Aメロでのワクワク感を増長させるストリングスや、「Soranji」で空間を漂うようかのように聴こえてくる凛とした独特の響きは、『10 -Instrumentals-』を聴いて初めて気づいたリスナーも少なくはないだろう。しかも、一度その音の存在に気が付くと、次に歌ありの原曲を聴いた時、その音が必ず浮き上がって聴こえてくるという点も、人の耳がもつ不思議で面白い能力だ。

そういう視点では、「ダンスホール」で聴こえるボコーダーコーラス(いわゆるロボットボイス)、「コロンブス」の冒頭に入っているリズム音、「クスシキ」の随所に散りばめられている和楽器のフレーズも、インスト盤ならしっかりと聴き取ることができる。そこからきっと、“なぜこの音を入れたのだろうか?”と、その意図に自然と関心が沸くはずだ。せっかくなので、少々突っ込んだ話をすれば、「ナハトムジーク」で聴こえる雫の音や水の流れ、ノイズなどの効果音も、このアルバムだからこそはっきりと聴き取れるし、しかもそれらの音が、2コーラス目からはリズムに使われるようになるというギミックにも気が付くだろう。

▶「ダンスホール」(Instrumental):https://www.youtube.com/watch?v=iG0fqVMu0-Q
▶「コロンブス」(Instrumental):https://www.youtube.com/watch?v=A6cdKHIT1Hg
▶「クスシキ」(Instrumental):https://www.youtube.com/watch?v=SMLxw1uM7xM
▶「ナハトムジーク」(Instrumental):https://www.youtube.com/watch?v=pPMcpw8JcCk

少々重箱の隅をつつくような話になってしまったが、バンドアンサンブルを紐解くうえでも、インスト盤ならではの面白さがある。「ダンスホール」や「コロンブス」などに入っている藤澤涼架(Key)のフルートは、歌が主役の原曲ではなかなか聴き取りにくいので、そういった聴き方ができる点も、ファンにとっては嬉しいところだろう。

また「ライラック」は、今や若井滉斗(G)の代名詞とも言えるタッピングフレーズを改めて堪能できるが、そこに大森のバッキングギターが重なってくるというツインギターの醍醐味も味わえる一曲。

▶「ライラック」(Instrumental):https://www.youtube.com/watch?v=YymDJEC7jbk
▶「私は最強」(Instrumental):https://www.youtube.com/watch?v=R2KnbJ8_yVg

ツインギターの面白味という点では、「私は最強」では曲の冒頭から大森のバッキングギターとメロディアスな若井のリードギターが左右に別れて聴こえてくるので、バンドに詳しくないリスナーでもふたりのギターサウンドを把握しやすいだろう。分かりやすい一例として「私は最強」を挙げたが、この曲の限らずほとんどの曲で、基本的に大森のバッキングが左ch、若井のリードが右chから聴こえてくるので、他の曲でも左右のギターに耳を傾けてみるといろんな発見があるに違いない。このように、どの方向からどんな音が聴こえてくるかという聴き方も、バンドアンサンブルを知るうえでオススメだ。

一方、ライブの印象からバンド感が強い「Magic」や、サビのギターフレーズが印象的な「breakfast」を聴くと、これらの主軸は完全にモダンコンテンポラリー・ポップ的なトラックメイキングで作り込まれていることがよくわかる(そこにバンドサウンドを組み込んでいく方法論も実に興味深い)。

▶「Magic」(Instrumental):https://www.youtube.com/watch?v=sUjaEnAp7KY
▶「breakfast」(Instrumental):https://www.youtube.com/watch?v=zpqaNpwrbqU

 

【Chapter3】
▼変幻自在な若井のギターサウンド&プレイ

ではここで、若井のギタープレイに注目してみよう。例えば「Soranji」の終盤、ストリングスが壮大な響きを構築していく中で、その最後のダメ押しとして、若井のギターが全体のエネルギー感を最大化させていることが、このインスト盤を聴くとよくわかる。また「ANTENNA」の最後、サビが繰り返される部分でも若井はタッピングフレーズを弾いているが、そのポップな音色から、ハードなロック感溢れるコード弾きに切り替わる瞬間も、とても気持ちいい。

そして「ダーリン」の冒頭部分で、ピアノ、チェロと共にシンセのようにも聴こえる幻想的なロングトーンを鳴らしているのも若井であり、ギターでこのような演奏ができることも、ぜひミセスファンに知ってほしいポイントだ(専門的に解説すると、E-BOWという特殊なアタッチメントを使ってギターをプレイしている)。

▶「Soranji」(Instrumental):https://www.youtube.com/watch?v=sZ6jMHJRL4U
▶「ANTENNA」(Instrumental):https://www.youtube.com/watch?v=-cvIQ9YSXnE
▶「ダーリン」(Instrumental):https://www.youtube.com/watch?v=DeX63AzdOGc

 

【Chapter4】
▼欠くことのできない藤澤のピアノアプローチ

藤澤のプレイにも着目してみよう。インスト盤を聴いて改めて強く感じたのは、ミセスのバンドアンサンブルにおいて、ピアノがとても重要だという点だ。もちろん、「ナハトムジーク」や「天国」のような、ピアノを主とした楽曲については言うまでもないが、コード感やグルーヴに関しても、藤澤のピアノが担っている役割はとても大きい。

例えば、「familie」から「ビターバカンス」「ダーリン」と続く3曲は、いずれもピアノが主役と言っていい楽曲だ。そのピアノも、曲ごとにアプローチが違っている点も多彩だし、ピアノの音色そのものも、クラシカルな響きだったり、明るく硬めのサウンドだったりと曲によって(さらに言えば1曲の中でもセクションによって)使い分けている点にも、ぜひ耳を澄まして欲しい。

▶「familie」(Instrumental):https://www.youtube.com/watch?v=6akmjPZml-0
▶「ビターバカンス」(Instrumental):https://www.youtube.com/watch?v=MXJ5hVnhdfw

 

【Chapter5】
▼バックトラックが描く底知れぬ奥深さは大森の頭の中

このように、すべての曲についてコメントしたいところだが、筆者がこのインスト盤を聴いて特に印象に残った曲が、「ニュー・マイ・ノーマル」と「天国」だった。「ニュー・マイ・ノーマル」は、言わずもがな“フェーズ2”の開幕を告げた作品。楽曲そのものへの思い入れが強いファンも多いだろうが、こうしてバックトラックだけに耳を傾けると、曲のオープニングからエンディングまで、ワクワク感を少しずつ高めていきながら、最後の最後に頂点へと導く構成力や、ギターとピアノがかけ合ったり、重なり合ったりすることで互いを高めていくといった、3人の新たなストーリーまでもが描き上げられている見事さに、改めて感嘆した。

▶「ニュー・マイ・ノーマル」(Instrumental):https://www.youtube.com/watch?v=cMeba7jxEr4
▶「天国」(Instrumental):https://www.youtube.com/watch?v=UzfcIvVEs3o

そして「天国」。原曲は、聴く者の心を大きく揺さぶる、ある種の狂気すら感じさせる大森の激情的なボーカルに圧倒され、とても重い問いを投げかけられたように感じる曲だった。それがこうしてバックトラックのみを聴くと、特に転調を繰り返す終盤のカノン進行のあまりの美しさに、原曲とは正反対の衝撃を受けたのだった。このように、歌とバッキングトラックに対しても、“生と死”あるいは“善と悪”と言ったような人が持つ表裏一体の二面性が忍ばされていたのかと、この楽曲の底知れぬ奥深さには驚愕する想いだ。それと同時に、人の声、歌が持つ力というものを、改めて強く思い知らされた。

そして忘れてはいけないのが、これらすべての歌詞と曲を生み出し、アンサンブルを構築しているのがフロントマンかつプロデューサーの大森であるということだ。Mrs. GREEN APPLEのドキュメンタリー映画 『MGA MAGICAL 10 YEARS DOCUMENTARY FILM 〜THE ORIGIN〜』で、彼が作曲を行うシーンを観た人であれば想像できるだろうが、メロディや歌詞だけでなく、ここまで紹介したような緻密なアンサンブル、グルーヴ、さらには特殊効果まで、すべて大森の頭の中から具現化されたものであり、それを若井、藤澤と共に発展させ、拡張していったものが、Mrs. GREEN APPLEの楽曲だ。

そう考えると『10 -Instrumentals-』は、大森の頭の中、すなわち楽曲の原点により近いものとも言えるかもしれない。ただそれでも、話が矛盾するかもしれないが、このインスト盤の楽しみ方は自由。もっとマニアックに聴き込めばさらなる発見があるだろうし、ライトにBGM的に聴き、歌うのもいいだろう。いい音楽は、どういう楽しみ方をしても、いいものである。そこがまた、音楽の楽しいところだ。

文◎布施雄一郎

 

■インストゥルメンタルアルバム『10 -Instrumentals-』
2025年12月8日(月)配信開始
配信リンク:https://lnk.to/mga_10_inst
01​ ニュー・マイ・ノーマル (Instrumental)
02​ ダンスホール (Instrumental)
03​ Soranji (Instrumental)
04​ 私は最強 (Instrumental)
05​ ケセラセラ (Instrumental)
06 Magic (Instrumental)
07​ ANTENNA (Instrumental)
08​ ナハトムジーク (Instrumental)
09​ ライラック (Instrumental)
10​ Dear (Instrumental)
11​ コロンブス (Instrumental)
12​ アポロドロス (Instrumental)
13​ familie (Instrumental)
14​ ビターバカンス (Instrumental)
15​ ダーリン (Instrumental)
16​ クスシキ (Instrumental)
17​ 天国 (Instrumental)
18​ breakfast (Instrumental)
19​ 慶びの種 (Instrumental)
20​ 道徳と皿 〜2025 ver​.〜 (Instrumental)
21​ GOOD DAY (Instrumental)

 

公式プレイリスト<DOME TOUR 2025 “BABEL no TOH”>
配信リンク:https://lnk.to/BABELnoTOH

 

■展覧会『MGA MAGICAL 10 YEARS EXHIBITION「Wonder Museum」』
【東京会場】
日程:2025年12月6日(土)~2026年1月9日(金)
時間:9:00〜22:00 ※最終入場 21:00
会場:TOKYO NODE GALLERY A/B/C
東京都港区虎ノ門2-6-2 虎ノ門ヒルズ ステーションタワー45F
【福岡会場】
日程:2026年2月7日(土)~2月21日(土)
会場:ONE FUKUOKA CONFERENCE HALL
福岡市中央区天神1-11-1 ONE FUKUOKA BLDG.6F
【大阪会場】
日程:2026年3月2日(月)~3月31日(火)
会場:VS. (グラングリーン大阪内)
大阪府大阪市北区大深町6−86 グラングリーン大阪うめきた公園 ノースパーク VS
※開催時間は会場ごとに異なります。
▼チケット
【東京会場】
●一般
・平日(年末年始除く):4,300円
・休日(土・日・祝日・年末年始(12/29-1/2)):4,500円
●子供(小学生)
・平日(年末年始除く):2,100円
・休日(土・日・祝日・年末年始(12/29-1/2)):2,300円
※未就学児無料(18歳以上の保護者1名につき2名まで)
【福岡会場】
●一般
・平日:3,300円
・休日:3,500円
●子供(小学生)
・平日:1,600円
・休日:1,800円
※未就学児無料(18歳以上の保護者1名につき2名まで)
【大阪会場】
●一般
・平日:4,300円
・休日(土・日・祝日):4,500円
●子供(小学生)
・平日:2,100円
・休日(土・日・祝日):2,300円
※未就学児無料(18歳以上の保護者1名につき2名まで)
※チケット料金はお一人様の税込価格となります。
※会場規模や条件により各会場で一部展示内容が異なります。
特設サイト:https://mrsgreenapple.com/feature/mga_wm

 

関連リンク
◆Mrs. GREEN APPLE 10YEARS 特設サイト
◆Mrs. GREEN APPLE オフィシャルサイト
◆Mrs. GREEN APPLE オフィシャルYouTubeチャンネル
◆Mrs. GREEN APPLE オフィシャルX
◆Mrs. GREEN APPLE オフィシャルInstagram
◆Mrs. GREEN APPLE オフィシャルTikTok
◆Mrs. GREEN APPLE オフィシャルFacebook
◆Mrs. GREEN APPLE STORE オフィシャルONLINE SHOP