【ライブレポート】八生、初主催ライブで見せた“痛みも希望も抱きしめて進む”歌の軌跡

高知出身在住のシンガーソングライター・八生(やよい)による自主企画ライブ<ハチヨンナイト>。「“八”生が“四”国を盛り上げる“夜”」の頭文字から名付けられた同公演は、八生にとって初の主催ライブとなった。徳島出身の丸山純奈をゲストに迎え、満員の観客が見守るなか、四国出身のシンガーソングライターの両者は力強くのびのびと東京の夜にその歌声を響かせた。
まずゲストの丸山純奈がセンチメンタルな「青い部屋」、ソフトな印象を与える「ラムネ」と趣の異なるポップナンバーを届ける。MCでは先日誕生日を迎えたことに触れ、柔らかい語り口で「22歳は楽しいライブがいっぱいできるように精進します」と意気込みを見せた。ギターを肩に掛けると、「おにごっこ」「シツレンカ」と張り裂けそうな恋心を歌い上げる。ギターの音色が彼女の心の中の情景をより克明に表現し、高い空を見上げるような遠くへとまっすぐ伸びる歌声は、たちまち観客をその物語へと連れ出した。
観客のクラップに乗せて「満ちて欠けて」を軽快に歌った後はハンドマイクにチェンジし、続いては爽やかなサウンドの「恋知らず」を歌う。ひらひらと舞う桜の花びらを想起させるファルセットで、会場を春色に包み込んだ。再びギターを抱えると、「この日にぴったりな、上京して初めて作った大事な曲を歌いたいと思います」「いろんな感情から出来上がった曲なので、帰る場所を思い出しながら聴いていただきたいです」と呼びかけて歌い始めたのは、彼女が高校1年生の頃に制作した「この街」。確かな信念を透き通る歌声に乗せて歌う姿は、とても凛としていた。
本日の発起人である八生は、ギターをかき鳴らして今夏ドラマ主題歌に起用された「しゅらばんばん」でライブをスタートさせる。キャッチーなリズムに乗せて観客もクラップを鳴らし、続いての「おまえらミュート!」では唸りなどを交えてパワフルな歌声を響かせた。だが「運命的ヒエラルキー」では一転、ため息を彷彿とさせる息を多く含んだ声で歌詞じっくりと辿る。苦しみという絶望と、願いという希望がない交ぜになった楽曲と歌声に息を呑んだ。

MCでは快活とした語り口で、軽快なトークを繰り広げる。「四国出身のふたりが大都会東京で歌うことに意味があると思っています」と主催ライヴへの思いを表明した後は、観客とコミュニケーションを取りながらスムーズに高知の話題へ移り、カツオが有名な街の生まれでありながら生魚が食べられないこと、そんな自分が大好きな地元の食べ物はお肉屋さんのコロッケであることに触れて、「まるいコロッケのうた」へとつなげた。その店のコロッケが大好きでたまらないことが、軽やかな歌や笑顔から存分に伝わる。あっという間にそのコロッケが食べたくなって仕方がなくなってしまったと同時に、彼女が歌詞世界をここまで生々しく伝えられるのは、この巧みな声色の使い方も影響していると痛感した。今まで生まれ育ってきた故郷を離れて一人暮らしする中で感じた思いを綴った「豊かな心で」では、慣れない都会の一人暮らしで、寂しさを感じながらも、故郷や親を思い出しながら、もう少し頑張りたいという決心を歌う。パレットから筆で絵の具を取るように、感情に合った声でメロディと言葉を色づける彼女はとてもしなやかで瑞々しい。

初の主催ライブを東京で開催したことを踏まえ、八生は初めて東京に来たときのエピソードを明かす。高校1年生の頃にオーディションを受けに渋谷の雑居ビルへ行ったこと、友人からの激励の手紙に「オーディションを受ける人たちはライバルだけど、みんなアーティストの夢を追いかけている“同志”だ」と書いてあったこと、オーディションの本番では肝心なところで声が裏返ってしまったこと、勉学に励むと同時になかなかアーティストとして結果が出ない日が続くなかTVで丸山純奈が歌う姿を観て刺激を受けていたことなどを振り返った。そして彼女は、丸山純奈を招いて渋谷でライブができている喜びを噛み締める。フロアもその思いに大きな拍手で応えた。
玉ねぎを切って涙をごまかしながら失恋の悲しみを乗り越えようとするバラード「オニオンスープ」ではまっすぐな愛情が伝わるクリーンな歌声を響かせ、内観的でありながらも空に羽ばたくような開放感を兼ね備えたカントリーテイストの楽曲「はじまりのうた」では心の痛みに光を当てるように丁寧に歌い上げる。するとクリスマスソングに一石を投じるアイロニカルな歌詞と展開の多いアレンジの「ブラックサンタクロース」で会場を沸かし、等身大の心境をセンチメンタルなメロディと軽やかなビートに乗せた「線」で観客の心を揺さぶった。バラエティに富んだ楽曲に共通するのは、彼女が傷み、悲しみ、怒りといった感情にしっかりと向き合っているということだ。それらを大切に抱きしめながら微かな希望を信じて前へと進んでいく姿は、繊細なガラスが光を蓄えて七色の輝きを放つ様子にも似ていた。

ホーンサウンドを用いたソウルフルな「大感謝祭!」で晴れやかに本編を締めくくると、アンコールでは自身のグッズで丸山純奈のようにキャップ+Tシャツファッションに身を包んだ八生が登場する。「東京の苦くてくやしい思い出が、楽しいものに変わっています」とこの日の感謝を告げ、ステージに丸山純奈を呼び込んだ。そして丸山純奈が何度もリピートしているという八生の楽曲「線」を、八生がギターボーカル、丸山純奈がハンドマイクスタイルのデュエットで披露する。ラスサビではハーモニーを響かせたり、丸山純奈も八生が歌っている最中にリップシンクをしたりと、お互いのリスペクトが伝わるパフォーマンスだった。

もうひとつのデュエット曲には「ふたりが知っている楽曲のカバー」として、丸山純奈の提案で八生が音楽を始めるきっかけとなったYUIの楽曲「TOKYO」が選ばれた。同曲について、上京している丸山純奈は「歌詞がすごく刺さる」と語り、高知在住の八生も「最近はいろんなところで歌うことが増えてきたので、(歌詞と)重なる部分がすごく多い」と告げ、この場で丸山純奈とともに歌える喜びをあらわにする。八生の歌声からはYUIへ憧れた少女時代の姿が、丸山純奈の歌声には自身の上京の記憶や現在の心境が感じられ、各々の思いが込められた歌声が心地のいい共鳴を作った。
ふたりは笑顔で手を振り、ステージを後にした。四国出身の女性シンガーソングライターという共通点を持ちながらも、異なる環境で自身のスタイルを追求する八生と丸山純奈。彼女たちが作った空間は、人として、アーティストとしての過渡期である20代ならではの様々な感情が乱反射するような揺らぎがとても美しかった。ふたりが今後音楽とともにどのような物語を編んでいくのか、そんな未来に思いを馳せる一夜となった。

取材・文◎沖さやこ
<ハチヨンナイト>
2025年11月30日(日)
@TOKIO TOKYO
八生
1.しゅらばんばん
2.おまえらミュート!
3.運命的ヒエラルキー
4.まるいコロッケのうた
5.豊かな心で
6.オニオンスープ
7.はじまりのうた
8.ブラックサンタクロース
9.線
10.大感謝祭
八生×丸山純奈
1.線(デュエット)
2.TOKYO(YUIカバー
<SANUKI ROCK COLOSSEUM 2026 -MONSTER baSH × I♡RADIO 786->
開催日程:2026年3月21日(土)・22日(日)
八生出演日:3月21日(土)
https://www.duke.co.jp/src/
Digital Single「オニオンスープ」
Digital Single「ブラックサンタクロース」
Digital Single「おまえらミュート!」
Digital Single「線」
ライブ会場限定CD『薬罐飛行』
2025年11月30日リリース
1.線
2.おまえらミュート!
3.オニオンスープ
4.大感謝祭!
5.ブラックサンタクロース
6.しゅらばんばん for ドラマ『完全不倫』(無双編ver.)
7.しゅらばんばん for ドラマ『完全不倫』(女狐編ver.)
8.しゅらばんばん for ドラマ『完全不倫』(閻魔編ver.)
9.しゅらばんばん for ドラマ『完全不倫』(突入編ver.)
10.しゅらばんばん for ドラマ『完全不倫』(極楽編ver.)




