マテウス・アサトが刻んだキャリア、少年時代の一目惚れから世界的ギタリストへの軌跡

2025.12.04 22:59

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12月3日、J-WAVE(81.3FM)で放送されているラジオ番組『MIDDAY LOUNGE』に、ブラジル出身のギタリスト、マテウス・アサトが登場、水曜日のナビゲーターを務めるクリス・ペプラーと貴重なトークが繰り広げられ、番組内ではギター1本による生演奏が2曲も繰り広げられた。艷やかで滑らかながら卓越したフレージングとミラクルなトーンに、スタジオのスタッフやエンジニアたちを一発で陶酔させ、桁違いのミュージシャンシップに最大の賛美が贈られることとなった。

ブルーノ・マーズの来日公演でもサポートギタリストとして東京ドームのステージに立っていたマテウス・アサトは、12月3日現在でまだ31歳という若さだが、その実力と類まれなるセンス、注目されている期待度においてもすでに世界トップクラスの存在感を放っている。次世代のギターヒーローとして注目を集めるマテウス・アサトだが、ギターの魅力に惹かれたきっかけは、いとこのお兄さんからの影響だったようだ。

「9歳のとき、14歳のいとこがアコースティックギターを持って遊びに来てくれたんだ。それまでギターという楽器を見たことがなかったから、なんだこれは?という驚きから始まったんだよ。いとこがコードやスケールを弾く姿を見て、完全に一目惚れしてしまった。遊びに行くたびにその音に触れて、ペンタトニックスケールを弾いている姿がカッコよかった。彼はいろんなロックの音楽も紹介してくれて、そこから自然と「音楽っていいな」と思うようになったのが始まりなんだ」

すでに時代は2000年代半ばに入っていたが、マテウス・アサトは1980~1990年代のロックに惹かれていったという。ギター中心のロックが大好きで、ブラジルのロックバンド…アングラやOficina G3といった国内のヘヴィーなバンドサウンドもよく聴いていたようだが、彼にとって大きな存在となったのはヴァン・ヘイレンだった。

「父はディープ・パープルが好きで家でも流れていたし、僕自身は特にヴァン・ヘイレンに強く影響を受けた。そこからスティーヴ・ヴァイ、ジョー・サトリアーニ、エリック・ジョンソン、ジョン・ペトルーシ…と、自然にギター・ヒーローの世界にのめり込んでいった感じ。それから次第にレッド・ホット・チリ・ペッパーズも聴くようになり、その頃はジョン・フルシアンテが一番好きになったな」

1970~1980年代のテクニカル系ギタリストの洗礼を受けながらも、次第にシンプルさと多様性が見え始めていく。どのようにして今のプレイスタイルが結実していったのか。

「最初はハードロック系のプレイヤーに夢中だったけれど、その後にジョン・メイヤーから大きく影響を受けた。彼の音楽と出会ったことで、ギタープレイだけでなく音楽そのものがすごいと感じたんだ。そこから「ジョン・メイヤーはどんなルーツを持っているんだろう…」と遡って調べるようになって、次第にスティーヴィー・レイ・ヴォーンやジミ・ヘンドリックスなど、また別の世代の音楽を知ることにつながっていったんだ」

優雅で繊細なレガートなフレージング、ダイナミクスの効いたピッキングニュアンス、多彩なスライドなど、クリーン~クランチなトーンで聴かせる彼のギターサウンドは、清流のようなクリアさと透明感あふれる清潔感が漂う。もちろん愛用するギターそのものにも、自身の信条とそのこだわりが注ぎ込まれている。

「音楽への向き合い方が変わって、ギターの前にまず曲を大事にしたいという感覚が強くなった。そこからギターのトーンにも自然と意識が向くようになって、ギターのピックアップも意図して選ぶというより、音楽から逆算していくうちに、自分の中でハムバッカーとシングルコイルの両方の良さをブレンドしたいという価値観が生まれてきた。僕のシグネチャーモデル(SUHR Mateus Asato Signature)も2シングル+1ハムの構成にしているのは、その考え方が反映された結果なんだよ」

幼い頃からカメラやコンピューターなどの機械が大好きだった彼は、すぐに自分のギター演奏を撮影して動画の投稿を始めた。YouTubeやInstagramに公開された動画演奏をきっかけに注目を集め、ついにはブルーノ・マーズのバンドメンバーを経て、世界的なギターヒーローへと駆け上がることとなったのだ。

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左から、クリス・ペプラー、マテウス・アサト

クリス・ペプラー:投稿した動画がきっかけで、ブルーノ・マーズのバンドに参加することになったそうですね。

マテウス・アサト:11~12歳で初めて自分の演奏動画をアップしました。小さい頃って「できない」という概念があまりないんですよね。やってみようと思えばなんでもできる気がしてとにかく投稿を続けていた。Instagramに頻繁に演奏動画を載せていた2015~2016年頃、ブルーノ・マーズのバンドメンバーが僕の動画を見つけてくれたんです。「すごいギタリストがいる」とブルーノに紹介してくれて、それを見たブルーノ本人が興味を持ってくれた。ちょうどビー・ジーズの「How Deep Is Your Love」を弾いた動画を投稿した頃だったんだけど、その演奏を気に入ってくれたのが始まり。完全に偶然の出会いでしたね。

クリス・ペプラー:ギターのトーンが素晴らしいですけど、ギターは独学ですか?

マテウス・アサト:いとこからギターを教えてもらって始めたけれど、19歳の時にアメリカに移住し音楽学校Musicians Instituteに進学して、2年間初めてきちんと音楽を学びました。環境が変わると世界が一気に広がりましたね。

クリス・ペプラー:この秋からソロ名義で作品を発表しているわけですが、デビューに向けてどんな気持ちですか?

マテウス・アサト:まさに「新しいチャプターが始まった」という感覚です。この10年間はブルーノ・マーズといったアーティストのバックで演奏する仕事が中心で、それも素晴らしい経験だったけれど、いよいよ「自分自身の音楽を届ける時が来た」「時が熟した」と感じているんです。ミュージシャンとして成熟した今だからこそ、自分の音楽を世界にシェアしたいと思っています。

クリス・ペプラー:10月にはソロデビューシングル「Cryin’」、続いてセカンドシングル「The Breakup Song」をリリース、2026年には待望のアルバムをリリースするとのことですね。

マテウス・アサト:今はソロアーティストとして歩んでいくことに集中しています。他のアーティストとの共演もあるかもしれませんが、まずは自分の表現をしっかり確立したいですね。まだ未発表なのでここだけの秘密だけど(笑)、2026年初頭にアルバムをリリースしたいと思っています。

クリス・ペプラー:マテウスさんは日本という国に強い愛着を持っているそうですね。

マテウス・アサト:もともと祖父母は沖縄からブラジルへ移民した人たちなんです。私の両親はブラジルで生まれ育ったんだけど、自分たちのルーツが遠くに感じられることに悩みもあったみたい。で、僕自身、2017年に初めて日本を訪れた時に、「ここだ」「自分にはここに特別な縁がある」と思うほど特別なつながりを感じたんです。それは人生の転機と言っていいほどの経験でした。それに、世界を回って感じるのは、日本の人たちのギターへの愛情がとても強いということもある。ギターへの情熱も、日本の人は他の国とはまったく違う温度で受け止めてくれるんですよ。それがうれしくて、日本人としての血が深く関わっている僕も、ギタリストとして何か恩返しをしたいと思った。来年に出すアルバムでは、そうした祖父母から繋がっている日本とのルーツをより深めていきたいと思っています。

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番組では、マテウス・アサトはビー・ジーズ「How Deep Is Your Love」のカバーと自身のセカンドシングル「The Breakup Song」の2曲をその場で生演奏披露、甘くとろけるようなサウンドを届けてくれた。

世界的ギタリストとなった今も、マテウス・アサトの原点は「ギターへの一目惚れ」と「動画投稿を続けた少年時代」にある。そこから広がったキャリアを経て、自分自身の表現へと舵を切った彼のギタープレイは、これからの音楽シーンに新鮮な風を吹き込むことになるだろう。

取材・文◎烏丸哲也(BARKS)
Special thanks to J-WAVE, Shingo Hirano(Tri-Sound)

■『MIDDAY LOUNGE』(radiko)
https://radiko.jp/r_seasons/10030829
■2025年12月3日放送:マテウス・アサト登場回『MIDDAY LOUNGE』(radiko)
https://radiko.jp/#!/ts/FMJ/20251203133000

マテウス・アサト デビューシングル「Cryin’」

10月リリース
https://ffm.to/mj9ldgy

マテウス・アサト 2ndシングル「The Breakup Song」

11月28日リリース
https://ffm.to/kxxr96j