【ライブレポート】アジカン主催<“NANO-MUGEN CIRCUIT” ASH×AKG Split tour>が描いた最高の道程「背中を追いかけながらずっとやってこられた」

2025.10.24 17:30

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<ASIAN KUNG-FU GENERATION presents “NANO-MUGEN CIRCUIT 2025” ASH×AKG Split tour>が10月14日のZepp Fukuokaを皮切りに大阪、名古屋、仙台、横浜と全国5都市で開催となった。そのファイナルとなった10月21日の神奈川・KT Zepp Yokohama公演のレポートをお届けしたい。

ASIAN KUNG-FU GENERATIONとASHは<FUJI ROCK FESTIVAL ’04>への出演をきっかけに交流がスタート。翌2005年には、初の横浜アリーナ開催となった<NANO-MUGEN FES. 2005>にASHが初出演したほか、2008年、2011年と出演を重ねて親交を深めてきた。2011年には<NANO-MUGEN>に出演したManic Street Preachers単独公演のサポートアクトを務めたASHのステージにアジカンの喜多建介(G)が登場するというスペシャルコラボも実現。その後も来日公演や世界での活動を通じて同世代のバンド仲間として交流を重ね、今年開催されたのが<ASIAN KUNG-FU GENERATION presents “NANO-MUGEN CIRCUIT 2025” ASH×AKG Split tour>となる。

   ◆   ◆   ◆

開演予定の18時30分より数分前、ステージにアジカンの4人が現れた。その雰囲気だけで“これぞNANO-MUGEN!”という気分になる。

そして彼らはゴッチを中心にこのASHとのスプリットツアーの手応えを話し始めた。みんな良さげな感触だが、その流れでゴッチはベースの山田貴洋に向けて「今度の東京ドームのライブに向けて何か」と話を振った。えっ? 何それ?といった空気とともに、ざわめくフロア。そう、アジカンがこの週末のオアシスの日本公演のスペシャルゲストとして出演することが発表になったのは、この日の17時のこと。わずか1時間半前なので、この事実を知るお客さんはそこまで多くなかったのだ。話を受けた山田は、ツアーがいい感じでできていることを話し、「この勢いで東京ドームに立ちたいと思います」と返した。この後ゴッチは、今夜のゲストであるyubioriを紹介した。

【yubiori】

「横浜のyubioriです」──ヴォーカル&ギターの田村喜朗は高らかにそう言った。つまりこのバンドは地元の大会場で、同じく横浜で結成されたアジカン主催のライブで演奏する幸運を手にしているのだ。今夏、ゴッチ主宰のレーベル、only in dreamsから2作目のアルバムをリリースした5人組である。

ライブでのこのバンドはさらにサポートギタリストを加え、結果、トリプルギターの6人編成。田村の歌声がとにかくエモーショナルで、その歌をラウドなギターサウンドが突き上げ、その上でトランペットが響くという、非常に個性的なものになっている。田村が内面を吐き出すような言葉を激しい叫びに変え、曲によってはポエトリーリーディングのような言葉を乗せる。そんな音の空間に爆音のバンドサウンドとトランペットの音色が混ざっていくさまは、リリカルでもある。

Zeppのステージに立つことは、yubioriのメンバーたちにとっては緊張もあったはずだが、バンドは全身全霊で音を繰り出しているかのようだった。粗削りの衝動をむき出しのまま放出するさまは、ロックのプリミティヴな部分そのもののよう。ゴッチはこのバンドの音楽性のみならず、こうしたパッションも買っているのでは、と感じた。

アルバム『yubiori2』からの楽曲は前半に集められ、後半は初期からのレパートリーで、エモーショナルの度合いが増す。最後の「造花」では、トランペット担当の大野莉奈が田村のギターを弾き、全員で疾走。激情の中に人間くささや赤裸々な感情を織り込んで唄うyubioriは、今日の一番手を見事に務め上げた。

こんなふうに新しいアーティストを自然に紹介するスタンスもまた、実に<NANO-MUGEN>らしい。ちなみに今回のツアーのゲストは、福岡はリーガルリリー、大阪はLaura day romance、名古屋はKANA-BOON、仙台ではHomecomingsだった。もはや若手ではないアクトが呼ばれているのもまた<NANO-MUGEN>らしさだと思う。

【ASH】

さて、このツアーのもうひとりの主役であるASHは、アジカンと同じステージに上がるのは久々になる。彼らのセットリストは発表したばかりのニューアルバム『Ad Astra』を軸にしたもの。その幕開けはアルバムと同じ「Zarathustra」、つまり「ツァラトゥストラはかく語りき」。映画『2001年宇宙の旅』で知られるあの壮大な曲だ。それだけに舞台の照明も合わせ、この曲が短いながらも大げさなギターインストとしてプレイされると、そのままアルバムのリード曲「Fun People」に突入。キャッチーなフレーズを持つこの曲でバンドはオーディエンスを一気に興奮に誘い込んだ。ティム・ウィーラーをはじめとする3人とも笑顔だ。

「アリガトー! ヨコハマ!」──相変わらずのポップネスとともに爆音ギターが炸裂するのは彼らの十八番で、実に痛快である。とはいえ、先ほどの演出がかったオープニングだったり、アルバムではブラーのグレアム・コクソンが客演していたりと、いくばくかの変化球も仕込んでいるのが心憎い。そんな彼らがパワフルに演奏する姿は、いつも元気を与えてくれる。過去、<NANO-MUGEN FES.>でアジカンと幾度も共演してきたASHの今の姿を確かめられて喜ぶファンは、おそらく全国にいたことだろう。

中盤に演奏されたのは「Shining Light」。満員のフロアに、イントロから大きな声が上がったように、彼らのナイーヴさを象徴する名曲である。思えばもう20年以上も前の歌なのだが、それでもこの曲のイノセンスや輝きは、もはやすっかり大人の年齢になった3人からも発せられていた。何より、ティムの少年性そのものの声の響きにグッと来る。それで言えば、もっと初期の楽曲「Oh Yeah」は、さらに3人の昔のシルエットを思わせることになった。実は僕自身、ASHは90年代半ば、まだ彼らが10代だった頃にインタビューをしたことがあり、音楽も、それに実直で、飾りのないキャラクターも好きだった。その後の彼らにはギターにシャーロット・ハザレイが在籍した時期があったり、また、ティムがアメリカに移住したり、はたまたソロで活動したこともあった。かたや<NANO-MUGEN>のほうも長らく開催がない時期もあったが、そうした時間を経て、今年ここでアジカンとASHが再会したことはとても感慨深い。

ティムがツアーのスタッフやアジカンのメンバーたち、それにファンに向けて謝辞を告げ、「ロックンロールの準備はいいかい?」と言うと、新作からの「Jump in the Line」でライブは再び加速していく。映画『ビートルジュース』で知られるこの曲を選ぶなんてほんとに少年っぽさ丸出しだし(オリジナルの歌はハリー・べラフォンテ)、そうしたイノセンスが健在なのもASHらしい。そこに「Kung Fu」、「Girl From Mars」と初期の人気ナンバーをたたみかける彼ら。最高だ。

次にティムが「ベリースペシャルゲスト! ファッキンレジェンド(笑)、建チャン!」と喜多建介を紹介する。彼は今回のASHの来日の盛り上げ役を担っていて、アルバムの推薦コメントに始まり、ストリーミングサービス上ではASHを紹介するプレイリストを作り、2日前には東京でのASHのトークショー&サイン会に参加し、そしてライブではゲストプレイヤーとして加わるといった具合だ。こうしてASHと喜多が一緒に演奏したのは、熱くならないわけがない「Burn Baby Burn」。熱気に包まれながら終わったASHのステージだった。

【ASIAN KUNG-FU GENERATION】

そして最後のアジカンは、現在の彼らと、かつての彼らが交差するような印象深いライブを見せてくれた。そのセットは、まずは「君の街まで」からスタート。繊細な音色が響くこのロックナンバーはアルバム『ソルファ』からの曲で、1曲目としてはちょっと意外だった。それに続いては『ワールド ワールド ワールド』から「ブラックアウト」、さらに再び『ソルファ』から「サイレン」と、2000年代の曲が続く。

ここでゴッチが、MCでオアシスのことに触れる。

「ほんとに3日ぐらい前に連絡が来て。俺たち、普通に観に行くつもりだったんですよ。で、(25日は)たまたま観に行く日だったから、全員揃ってたと。それで「観に行くんだったら、出れますよ」みたいな(笑)」──後藤正文

フロアからも笑いが起こり、明るいムードが漂う。アジカンが結成当時からオアシスを憧れのバンドのひとつとしていることは、ファンなら周知の事実だ。アジカンは、オアシスとは同じフェスに出演したことはあるが、こうした形での共演は初となる。しかもその地は東京ドーム、オファーは1週間前……。アジカンのメンバーおよびスタッフの興奮(と、いきなりすぎるための動揺)が想像できる。

「オアシスは自分が音楽を始めるきっかけだしね。で、その当時ASHのことも深夜のテレビで知って、“うわぁ、同世代にこんなカッコいいバンドいるんだ”みたいな。そうやって彼らの背中を追いかけながらずっとやってこれたし。2004年……2005年かな、ASHに初めて会うことができてね」──後藤正文

そう、ASHとアジカンのメンバーたちは誕生日が近く、ほとんどのメンバーが今みんな48歳。まさに同世代なわけだが、10代でデビューしてすぐにヒットを放ったASHのほうがキャリアとしては先んじていたわけだ。そうして日本でアジカンに出会ったASHは<NANO-MUGEN FES.>に半ば常連のように出演するようになり、ファンも含めてお互いがなじみ深い関係になる。また数年前のASHの来日時には渋谷でメンバー同士で食事をしたり、またゴッチは大阪まで観に行ったらしく、「「いつかツアーをやろうぜ」って話をして、それが今回叶いました。どうもありがとう」と話した。

アジカンはここから今年リリースの「ライフ イズ ビューティフル」、それに「ソラニン」と続け、その次には「夏蝉」を演奏した。その後のMCでは、来年このバンドが結成30周年を迎えることで記念ライブを有明アリーナで2日間行うこと、それから<NANO-MUGEN FES.>の開催が中止になってしまったインドネシア・ジャカルタでのライブもあらためて決まったことを報告。オーディエンスから拍手が起こった。ここのMCでは出会いの話に始まって、彼らがサラリーマンをしていた頃までが回想される。どこか感慨深そうなゴッチを見ていると、ASHとの付き合いも20年以上になった事実が、こうした話の流れになったように感じる。

後半は「懐かしい曲です」と言って、「24時」がパフォーマンスされた。数えてみると、この日は『ソルファ』から4曲が選ばれるなど、全体的にデビュー初期の楽曲が多めの構成だった。終盤の「ノーネーム」、それに「君という花」は、メジャー初アルバム『君繋ファイブエム』からの選曲である。このあたりは先ほどから書いているように、ASHも出た開始当初の<NANO-MUGEN>の時代をアジカン自身が参照し直しているように思えた。

この夜のアジカンを見て僕の頭に浮かんだのは、ギターロックバンドとしての像だった。現在の彼らは、この日も2人のサポートメンバー(Ropesのアチコ、MOP of HEADのジョージ)を迎えていることからわかるように、より多くのニュアンスの表現を実現させているバンドであることは間違いない。しかし2000年代の楽曲を多めにした本ツアーのセットリストは、ギターバンドとしての表現をどう深めていくか、どう広げていくかに尽力していたあの時代の彼らを思い起こさせるものに他ならなかった。だからストレートなロックナンバーも演奏するし、そこにセンシティヴなメロディも共存する。その間には、デリケートな叙情性も感じられる。こうした作品たちにはバンドの誠実な格闘の足跡を見ることができるし、それを今の彼らが演奏することで、あの頃からの変化と現在地の姿との両方を見せてくれていたと思う。

アンコールは、今夜もゴッチがQRコードを掲げるところから始まった。彼が静岡県藤枝市に建設したスタジオの支援するためのドネーションを募るのが、このところのアジカンのライブでのおなじみになっているのだ。

そしてライブは大団円を迎えた。まずはティムを呼び込み、ASHの「Starcrossed」を共演。轟音を鳴らしてティムが去ると、アジカンは春にリリースした「MAKUAKE」をプレイした。未来へと向かっていくバンドの歌である。両バンドの久しぶりの共演の旅は、こうしてエンディングとなった。

今の時代、残念なことにギターロックは音楽界のメインストリームにあるとは言えない。そんな時代性の変化もあるし、また20年前と比べれば、ASHもアジカンもギターロックの枠を超えた音楽性を取り入れるようになっているし、さらにメンバー個々での活動も行っている。そして何事も、続けていくことは決して簡単ではない。

ただ、それでも彼らがこうしてステージで再会し、あの頃と少し違う姿を見せながらも、ギターを高らかに鳴らし、叫んでくれたことはとてもうれしかった。今回のツアーでそんなふうに思ったファンは、きっと多かったはずだ。今後、どちらのバンドにも、最高の道のりが、最上の未来が待っていることを祈っている。

取材・文◎青木優
撮影◎山川哲矢

 

■<ASIAN KUNG-FU GENERATION presents “NANO-MUGEN CIRCUIT 2025” ASH×AKG Split tour>10月21日(火)@神奈川・KT Zepp Yokohama セットリスト
【yubiori】
01 rundown
02 いつか
03 Maxとき
04 せめてそれだけ
05 つづく
06 ギター
07 造花
【ASH】
01 Zarathustra
02 Fun People
03 Braindead
04 Ad Astra
05 Shining Light
06 Keep Dreaming
07 Orpheus
08 Oh Yeah
09 Jump In The Line
10 Kung Fu
11 Girl From Mars
12 Burn Baby Burn
【ASIAN KUNG-FU GENERATION】
01 君の街まで
02 ブラックアウト
03 サイレン
04 ライフ イズ ビューティフル
05 ソラニン
06 夏蝉
07 出町柳パラレルユニバース
08 24時
09 ノーネーム
10 君という花
11 遥か彼方
encore
en1 Starcrossed (ASH)
en2 MAKUAKE

 

■<ASIAN KUNG-FU GENERATION 30th Anniversary Special Concert “Thirty Revolutions”>
▼2026年
4月4日(土) 東京・有明アリーナ
open17:00 / start18:00
4月5日(日) 東京・有明アリーナ
open16:00 / start17:00
▼席種料金(税込)
・アリーナ指定:11,000円(一般)
・スタンドA指定:8,800円(一般)
・スタンドB指定:6,600円(一般)
・スタンドA着席指定:8,800円(一般)
・スタンド車椅子指定:8,800円(一般)
【オフィシャル最速抽選受付】
受付期間:10.24(金)18:00〜11.3(月祝)23:59
※1公演につきいずれかの席種4枚まで(スタンド車椅子席は2枚まで)
※U-23キャッシュバック / ウエルフェアサービスあり(当日会場で2,000円キャッシュバック)
※3歳以上はチケット購入が必要
※2歳以下は保護者同伴・膝上鑑賞に限り、チケット不要
詳細:https://www.akglive.com/30th/
(問)ディスクガレージ:https://info.diskgarage.com/

 

■インドネシア公演<ASIAN KUNG-FU GENERATION 30th Anniversary Special Concert in Jakarta>
▼2026年
4月18日(土) インドネシア・ジャカルタにて
※Special Guests あり
※詳細は後日発表

 

関連リンク
◆<NANO-MUGEN CIRCUIT> オフィシャルサイト
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