【ライブレポート】桜村 眞(和楽器バンド/ 町屋)、音楽人生の新たな一歩

桜村 眞が7月28日、原宿RUIDOにてソロ始動ワンマンライブ<CalmaDharma>を行った。
思えばずっと、桜村 眞という音楽家に魅入られているような気がする。ニコニコ動画でスーパープレイを披露するギタリストとして、m:a.tureのギターボーカルとして、和楽器バンドのギターリスト&コンポーザー&ディレクター・町屋として……さらには彫り師であったり絵画アーティストであったり、DJであったり。これまでいろんな姿を見てきたが、そのどれもが芸術的に優れており、毎度提示されるものに魅力を感じてきたのだった。
そんな桜村 眞が和楽器バンドの活動休止を経て、改めて本格的にソロ活動を始動するという。
和楽器バンドの活動休止前、桜村は「“元々何になりたかったんだっけ”って立ち返ってみたら、そうだ。俺、シンガーソングライターになりたかったんだというところにたどり着いて」と語っていた。そして年齢的に人生の折り返し地点に来たことも感じ、自分の経験を活かして人に伝えるなど、「これからは自分の人生のことを歌っていくターン」だと感じていたという。
つまり今回の<CalmaDharma>は、桜村にとってこれまでたくさんの活動を行ってきた中でも、特別な第一歩なのだ。町屋でもm:a.tureでもなく、そのほか色々な桜村 眞の姿もとっぱらって、新たに“シンガーソングライター”に生まれ変わる夜──。
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荘厳な印象のSEが流れ幕が上がるとステージにはDJセットとマイク、治療台のようなベッドがひとつ。“彼と言えば”の代名詞でもあったギターはない。
そんな覚悟すら感じるステージで流れ始めたのは、未発表曲「Bookend Reload.」。和楽器バンドの町屋やギタリストとしての桜村 眞をイメージしていると驚かされるかもしれない、ラップパートありのElectro Pop Rockナンバーだ。とはいえ“桜村節”は健在。転調、リズムチェンジが随所に盛り込まれ、それがフックになって一聴で引き込まれる。歌詞には《困難な道を選んで走ろう》《音楽と毎日暮らして居たいや》と、素直な気持ちが描かれているようだ。《楽しめ踊れ君のStepで》という印象的なフレーズが耳に残る。
シームレスにこちらも未発表の「品川駅羅生門」へ。1曲目よりもラップ感が強いが、どこか気怠けな音像と縦ノリのリズムが気持ちいい。こちらはなんとなく、これまでの音楽業界での経験を経て感じた憤りや葛藤が描かれているような気がする。ただ、強いメッセージをぶつけてくるというよりは、ベッドに腰掛けたりゆらゆらとしたステップを踏んだりするパフォーマンスも相まって、すっと言葉が心に届いてくる感覚に近い。
その柔らかな心地のまま、2020年にギターボーカルとしてリリースした「Petrichor」が始まる。ノスタルジックでジャジーな、別れの曲だ。ギターを持たないことでより柔らかに感じる桜村の歌声に癒されていく。

こうして未発表曲と、これまで自身が何らかの形で発表してきた曲が披露されていくのだなと思っていたが、一筋縄ではいかないのが桜村 眞。続けて始まったのはインストコーナーだった。エスニックな香りのするミステリアスな音が、紫と赤の妖しげな照明に照らされた桜村のDJによってプレイされる。ベッドに腰掛け不思議な動きをしたり錠剤を飲んだりと、時に異様な雰囲気まで感じさせつつ、そこにいたみなが“桜村 眞の作る空間”に引き込まれていった。
音が途切れ、《全部、やめるつもりでいるんです。》というゾッとする囁きが流れたと思うと、これがまた未発表曲の「グッド・バイ」だった。どこか雨上がりの日を感じさせるようなエモロックサウンドのラップ曲。サビの広がりがとても気持ちいい。歌詞中のセリフにあったのは、太宰治のある小説の書き出し。まだ読み解けてはいないが、きっと考察のしがいもありそうだ。
シンセサウンドが美しいインストで静寂を生み出していく桜村。しとしとと降る雨を、大きなガラス窓の内側から見ているような感覚を覚えた。もちろん人によって見えた景色は違っただろうが、歌詞も生演奏の楽器もないのに、情景を描きだせる音楽はすごい。このままずっとこの音に浸っていたいような──。

ふと我に返してくれたのは、m:a.tureとして発表された「希望、一縷。」。夕焼け色の照明の中に響く優しい声で、現実にゆっくりと戻されていった。青い照明に彩られゆっくり語りかけてくる2019年のソロ曲「Sleeping Tokyo forest」も優しく温かい。ちなみにこの楽曲のリリース時に桜村は「“自分の心の声をストレートに、自分の歌で届けたい”という音楽を、初期衝動のような感情を久々に表現できた気がします。そして、今後もこうしたテーマで綴ろうとしているひとつの物語が自分の中ではあって」と語っていた。このときのこの発言は、きっといまの<CalmaDharma>に繋がっているのだろう。
出し切ったように「ありがとうございます」と伝えた桜村の手から、柔らかな手触りのインストサウンドが奏で始められる。ぼやんとした音像が、夢心地。インストも楽しんで欲しいという思いで今回たくさん組み込んでいるそうだ。桜村 眞ならではだ。
ラストの未発表曲「無重力重力」は、言葉選びが面白いキャッチーな一曲。スラップベースに乗る高速ラップもかっこいい。聴いている人も桜村と一緒に手をあげて楽しんでいた。そこから明るい照明の中、優しいインスト曲が流れ始め、それにのせて桜村から思いが語られた。
「ソロって何度もやってきたけど、いつもバンドありきでやってきた。こうして一人で活動するというのは今回初めて。書きたい曲もたくさんあった」そしてその中でも「僕の今の心持ちを全部詰め込んだ」という未発表曲「Bookend Reload.」。一曲目に披露されていたが、これをもう一度最後に届けることで、今日のソロ始動ワンマンライブ<CalmaDharma>が締め括られた。
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桜村 眞は、音楽家としての人生を悔いなく全うしようとしている。今回の公演を見て、強くそう思った。
終演後、楽屋にて桜村は「これまで“何か”のための音楽を作ってきた。それはそれで素晴らしい経験だったが、今回、高校生のときぶりに“楽しい”という気持ちで曲作りができた」と笑顔で話してくれた。嘘偽りないその言葉に、彼は今、とてもいい状態にあることがわかる。ツアーも次作も決まっているというから、今回始まった新たなソロ活動がどんな風になっていくのか期待していたいと思う。
取材・文◎服部容子
写真◎インテツ
セットリスト
M01. Bookend Reload.
M02. 品川駅羅生門
M03. Petrichor
M04. Inst.01
M05. Inst.02
M06. グッド・バイ
M07. Inst.03
M08. Inst.04
m09. 希望、一縷。
M10. Sleeping Tokyo forest
M11. Inst.05
M12. Inst.06
M13. 無重力重力
M14. Inst.07
M15. Bookend Reload







