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Enyaのようなムーディな音楽は従来、水晶を持ち、お香を炊き、ヨガを愛するニューエイジ好きの人々に聴かれていた。だがEnyaの場合、そんな天空の音をまるで何の気なしにメインストリームに浸透させ、世界中の文化の1つに、そしてポップカルチャーの1つにまでしてしまった。

幼い頃からクラシックピアノの訓練を受けてきたEnya(Eithne Ni Bhraonain)は、アイルランドのある音楽一家で生まれた。彼女は18歳の時、彼女の兄、姉、叔父らによるグループClannedに加わるが、3年後にはグループを辞めて、BBCでアイルランドを題材としたシリーズ番組の音楽制作の仕事に就いた。その後'86年に、耳から離れないなメロディと心地よいサウンドが詰めこまれたデビューアルバム『Enya』を発表。しかし、彼女がマスマーケット大衆市場に受け入れられたのは、次の作品『Watermark』からシングルカットされた“Orinoco Flow”のおかげである。この曲の広がりのあるヴォーカルは朗々と流れる彼女のサウンドの中でも特に際立っていた。ポップさや売れ線とはかけ離れたアルバムの11曲は、有名映画のサウンドトラックというよりも、外国映画のバックに流れる音楽のようだ。'91年の『Shepherd Moons』と、'95年の『The Memory Of Trees』では楽器のすべてをこなし(『Watermark』では数名のゲストがいた)、多くのヴォーカルパートを歌ったほか、作曲も自身で行なっている。そして、Clannadの元マネージャーであるNicky Ryanが、共同アレンジャー兼プロデューサーとして参加。Ryanの妻Romaによる歌詞は、英語とゲール語両方で書かれている(Enyaはゲール語を話すアイルランドのドニゴール州育ち)。『Watermark』が世界中でおよそ800万枚売れ、数年の間ワールドミュージック・チャートにランクインしている一方で、『Shepherd Moons』はさらに注目を浴び、世界中で900万枚を突破。199週連続でチャート入りを果たし、グラミー賞に輝いた。『The Memory Of Trees』も同様にヒットして、全米だけでも200万枚が売れた。

Enyaの巧みな音の広がりは、聴いていて心地よく、うっとりさせられる。そして、その大胆かつ綿密な仕上がりによって、商業的にもずば抜けた成績を収めた。彼女の作品は明らかに一般的ではないにもかかわらず、'90年代の売れっ子アーティストの1人となったのである。また、彼女の音楽は『L.A. Story(L.A.ストーリー/恋が降る街)』や『Green Card(グリーン・カード)』『Far And Away(遥かなる大地へ)』『The Age Of Innocence(エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事)』などの映画にも使われている。