宮沢和史、インタヴュー映像 | 数ある提供曲のなかから この11曲を選んだ理由も語ってます。 上記画像を | | ――今作の『SPIRITEK』はセルフカヴァー集になるわけですが、今までソロ作品とはまったくコンセプトの違うものですね。 宮沢:今回、コンセプトはないんですよ。こんなの初めてかもしれないですね。アルバムって思い入れがひとしおで、ボブ・マーレイにしてもジョン・レノンにしても、一枚のアルバムの中にメッセージソングがあったりラヴソングがあったり色々なものが入って一枚の作品になっているという思いがあります。だからTHE BOOMでもソロ作品でも、まずコンセプトを決めてやってきたんですが、今度のアルバムはそういうのではなくて、“歌い手・宮沢”ということで一枚作ってみたいなと。これまで15年間で多くの人に曲を書いて溜まってきたから、これを歌ってみようと思って。アレンジとかプロデュースを全部自分で仕切るんじゃなくて、興味があって感心があって尊敬していて信用できるアレンジャーやミュージシャンに集まってもらって、僕は歌だけに徹しようと。 ――自分が過去に作ったものを歌い直すというような意識ですか? 宮沢:いや、他人に提供した曲なので僕は歌ったことはないですから。振り返ってみるとバンド、ソロ、そしてソングライターの宮沢としての15年間の歴史があるわけです。そこにもスポットを当てて作品にしてみようと、ちょっと前から思ってたんです。 ――人に提供する曲と自分が歌うための曲では作り方に違いがあったりするんですか? 宮沢:良い意味で無責任になれるってところかなぁ。自分の声で発表するのとは違うので、楽しめるというか遊べるというか。気楽に作るって言う意味ではなくて、歌作りに対して純粋になれるんですね。そこが大きな違いかな。特に女性から頼まれる場合、女性になった気分で詞を書いたり、日常ではできないことですからね。女性になって恋をしたり傷ついたり抱きしめたりっていう疑似体験ができるっていうのは楽しいですよ。 ――それを歌うことで、今度は自分のものとして世界を作り直さなきゃならないですね。 宮沢:一回発表されているものですから、ある種お手本になるんですよ。それに対してどう立ち向かおうかなっていうのは、すごく楽しめるんです。わざと違う世界にしたり、オリジナルの良いところを参考にさせてもらったり。 ――提供する対象の人によって綿密に計算して作り方を変えたりしてるわけですよね。小泉今日子さんだったらこんな歌詞がいいだろうとか。 宮沢:そこは面白いところですよね。なりよりも世代が違うし。最近ではDA PUMPのSHINOBU君という若い人に曲を書いたり、大ベテランの上條恒彦さんに書いたりしたんですが、自分と全然違う世代ですからね。こんな気持ちなのかなとか、あの年齢になったらこういうことを思うのかなとか想像しながら作るというのはすごくやりがいがあって楽しいですよね。 ――今回11曲をセレクトして歌ってみて、新しい発見はありましたか? 宮沢:僕にとっては初めての歌ですから、新たな歌としてとらえてるんですよ。自分が歌うつもりで作ったものではないので。プロとしての自分がどう思われるかとかその時々の自分の立場とかいうことを全然考えないで作っているわけですから。昔作った曲も最近作った曲も、あまり変わらないなぁと思ってますね。だから、外的要因のない宮沢がこのアルバムで見られますよ。先天的な宮沢というか。 ――アルバムを聴き通してみて、すごく力が抜けてて気持ちよく歌ってるカンジが伝わってきます。 宮沢:印象深くて強くて、でも優しく届けるっていうのを心がけました。歌い手に徹することができたんで、そういうことをていねいに録音できたんですね。気持ちよくもあり困難でもあり、歌の難しさや喜びなんかも改めて感じました。歌ってすごい、面白い、ステキだなと思う半面、人に伝えるのは難しいなと思いました。自分が仕切っているアルバムだと、もちろんそういうことも考えますが、アレンジはどうしようかとかそれ以外に考えていることも多いですから。今回は完全に歌に集中できたので良い歌が歌えたと思います。 ――レコーディングもスムーズに? 宮沢:良い雰囲気でしたね。すぐ録れちゃうしストレスもないし。今までのレコーディングに比べてもスムーズだったです。 ――それは気持ちの面が大きいんですか? 宮沢:これまでは、新しくて誰も聞いたことのない音楽を作ろうと思ってやってきましたから、作っているうちに自分自身でわからなくなったりするんです。すでにあるロックンロールやパンクをカヴァーして音楽を作ってきたわけじゃないんで、お手本もないしレコーディングの中で悩む場面がけっこう多かった。今回は才能のあるアレンジャーが力を出してくれたんで、そういうのがなかったのは大きいですね。今回悩むとすれば、歌い方はこれでいいのかとか歌に関することだけでしたから。 ――歌い方もバリエーション豊かですね。 宮沢:レコーディングがスムーズで歌う時間をたっぷりもらえたから、色々な歌い方を試したりできました。 ――このアルバムには、フォーク、レゲエ、ブルージーなもの、アルゼンチンタンゴ風なものなど、様々なジャンルのものが詰まっています。これは意識的に? 宮沢:15年やってきたことが自然に出てるってことでしょう。今まで歩いてきた音楽の道で出会ったものですね。意図的に多くのジャンルのものを入れようと思ったわけじゃないんです。 ――この11曲を眺めてみて感慨はありますか? 宮沢:歌を家で作ってデモテープに吹き込むっていうのは、喩えるなら“卵以前”のようなもので、それから生まれて成長するまでっていうのがいくつもの過程があって大変なんです。ですからどの曲を聴いても、よくぞここまで成長したなと思いますね。僕が渡したのは卵以前のものですから。それが人前で歌われて最終的にはお客さんのものになっていくまでの道のりが長いんですよ。 ――このアルバムのセールスポイントを。 宮沢:と、ここまで話してきたことはどうでもよくて、僕の最新のアルバムだと思ってもらえればいいです。セルフカヴァーだとか歌い手に徹したとか、あまりそういう先入観はなく、ソロの4枚目でTHE BOOMを含めて15枚目だという情報だけで聴いて欲しいなと思います。今まで出してきたものに比べるとすごく入りやすいアルバムだと思うんで、ちょっと宮沢の世界をのぞいてみたいという他人には最適だと思いますよ。最新作って思ってもらうだけでいいです。 取材・文●森本 智 | |