新作『ビューティフル・ワールド』に込められたTAKE 6の本質、神の導き、そして遺産

サードを歌うデイヴィッド・トーマスが語る。「自分たちで何か曲を書いて歌うというよりも、むしろ、テイク６らしい（既存の）曲をアレンジしようというところから始まったんだ」

トップを歌うクロード・マクナイト（ブライン・マクナイトの兄）が続ける。「つまり、カヴァー・アルバムを作ろうということだったんだ。その方針が決まってからは、あらゆる時代のポップやR&Bの作品から、スピリチュアルなメッセージがある作品を選んでいった。スピリチュアルな、というところが大事な点なんだ。たくさんの候補曲からみんなで投票して、少しずつ絞っていき、結局CDに収録された作品群（13曲）になった。一番初期の段階では、ジャズのスタンダード作品ばかりを歌おうということだったが、なぜ自分たちを一つの枠に留めておかなきゃいけないんだろう、ってことになって、もっと選曲の幅を広げたんだ」

新作『ビューティフル・ワールド』にはカーティス・メイフィールド作インプレッションズの'65年の大ヒットにして大傑作「ピープル・ゲット・レディー」や、スティーヴィー・ワンダーの'76年の傑作アルバム『ソングス・イン・ザ・キー・オブ・ライフ』のトップを飾る前述の「ラヴズ・イン・ニード・オブ・ラヴ・トゥデイ」などが収録されている。多くのテロや戦争が起きている2002年という昏迷の現代に聴くと、いっそう心に染みるメッセージ・ソングばかりだ。「これは、９月11日のテロの後を受けて、作ったアルバムですか？」と尋ねた。

「違うんだよ」 とクロードが解説する。「録音はみな９月11日以前に終わっていた。驚きだろう？　つまり、僕たちは録音すべきアルバムを録音した、ということなんだろうね。きっと神のお導きじゃないかなあ。神が我々に録音させたいと思った曲は、きっと我々がスタジオに入る前に決まっていたんだ。あの事件が起こるまで（このアルバムが持つ）大きなイメージや意味を知ることはなかったよ」

もちろん、テロ以前にそのテロを予見することなどとうていできない。しかし、結果的にテロ以前にテロ後を見据えたアルバムができてしまった。これこそ、このアルバムの持つドラマ性である。