長い試練の時を経てたくましく復活した女性ロッカー
長い試練の時を経てたくましく復活した女性ロッカー |
イギリスのオルタナロッカーElasticaにとって、'95年はすべてがうまくいっているように思えたであろう。女性中心の同バンドがそれまで契約していたのはインディペンデントレーベルでのわずか7インチシングル2枚分だけだったが、メジャーレーベルGeffen Recordsとのフルアルバム契約を獲得し、バンド名を冠したデビューアルバムによって文字どおり一晩で世界的なスターへと昇りつめたのである。実際のところ、バンド結成から1年と少ししか経っていない時点での大成功であった。 だが、結果的に言えば、それは少々できすぎた話だったのである。まるでBehind The Musicでおなじみの、早すぎた大成功というお決まりのパターンなのだ。 いきなり名声の頂点を極めた後は、2年間に及ぶ苛酷なツアーのノルマ、そしてElasticaは消え去った。 だが、新たな6人編成のラインアップ(主要オリジナルメンバーの2人、リードギターのDonna MatthewsとベースのAnnie Hollandが脱退)とセカンドアルバム『Menace (Atlantic)』を引っ提げて、ついに彼らは再浮上したのである。完成まで5年間も要した待望の新作だが、録音には6週間しかかからなかったという。何が原因でこのアルバムの登場までに、そんなに時間が経ってしまったのだろうか? ヴォーカリスト/ギタリストのJustine Frischmannによれば、 「ツアーざんまいとファン離れによってバンドのマジックが崩壊してしまったのよ。その時点で私たちはブレイクをとるべきだったけど、そうせずに続けたの。事態の成り行きに私は満足できなくて、1年半のオフを取ったわ。バンドから逃げ出した気分で、レコードのことなんて気にしてもいなかったの。休暇の終わり頃になって、音楽シーンに復帰してもいいと思い始めた。私たちみたいにファーストアルバムが大成功を収めると、どんなバンドでも対処するのは本当に難しいと思うのよ」 Elasticaの崩壊はHollandの脱退で始まったが、Frischmannをどうしようもなく絶望的な気分にさせたのはMatthewsの不在だったという。 「バンドが一体となって演奏しているときには、内部でかけがえのない何かが機能しているのよ。それがうまく働かなくなったとき、本当はメンバーの誰かの過ちなんかじゃないのに、私とDonnaはお互いを非難し始めたの。私たちはあらゆる手段を尽くしたけどマジックは戻ってこなかったわ。やっぱりその時にブレイクを取っておくべきだったけど、私たちには自分たちの将来を見通すだけの力がなかったということね」 だが、Elasticaはついに帰ってきた。しかも激しい気概を携えて。喜ばしいことに『Menace』は待っただけの価値のある素晴らしい作品となった。新たな6人のラインアップに一新されたことと外部の人間の要求や期待によるプレッシャーから解放されたことによって、バンドのサウンドに幅広い多様性とテクスチャーが加わっているのだ。 「このレコードの作品を書いているときは、曲作りそのものに集中してアルバムのリリースは念頭に置いていなかった。その時点でElasticaの可能性に対する私の認識が大きく開かれたわ。人々が私たちに期待する姿になる必要はないと思えたのよ」とFrischmannは説明する。 「私たちは自分が望む姿になれるの。私にとって本当にヘルシーな時間だったわ」 それでも、過去5年間におけるFrischmannの時として困難だった人生経験は、確かに音楽のムードにある種の際だった影を落としている。Elasticaのファーストアルバムが軽くフレッシュだったのに対して、『Menace』はときに極めてダークで、より多様な内容になっている。それほど驚くべきゲストではないものの、FallのMark E.Smithをフィーチャーした曲もあるほどだ。 アルバムからの第1弾シングル「Mad Dog」は、気軽なポップファン向けの曲ではまったくなく、むしろけたたましく混沌とした、ギターがドライヴする金切り声のナンバーに仕上がっており、犬が吠る声まで収録されている。 Frischmannは笑って言う。 「ファーストシングルを決めるのはとっても難しかったわ! レコードには多種多様な作品が収められているから、何を選んでも一部の人々には気に入らないと思ったの。曲順を決めるのにも苦労したけど、最後には“ちくしょう”って感じだったわね。犬の声にもそれが集約されているのよ、マッドなビッチめってね」 『Menace』の最後を飾るのは、最近Volkswagenの人気CMによって発掘された80年代のノヴェルティ曲、Trioの「Da Da Da」をカヴァーした快活なヴァージョンである。 だが、FrischmannはVWのCMをきっかけとしてこの曲に目をつけたわけではないと強調する。確かにイギリスの広告代理店はアメリカのように自由にアーティストの出版カタログを漁ることはしないようだ。 Elasticaのニューアルバム全体に感じられる暗さと混沌は、明らかに各曲がFrischmannの精神的につらい時期に書かれたことを示唆しているものの、'98年に別れた彼女の長年にわたるボーイフレンドBlurのDamon Albarnとの大きく報道された別離に伴う泥試合を思い出させる部分はない。 これはAlbarnが別離の後に発表した作品、つまり基本的には最終的に破綻した二人の関係にまつわる薄いヴェイルをかけたセラピーセッションであったBlurのアルバム『13』とはまったく対象的なアプローチである。 Frischmannは説明する。 「今度のアルバムを露骨なほど個人的なものにするのはいやだったの。『13』への返答をしたいという気持ちはまったくなかったし。Damonと彼のやり方にはちょっと頭に来たけどね。彼らのアルバムは私の好みからすれば少しパーソナルすぎる領域にまで踏み込んでいると思ったわ。その辺が私たちのアルバムに感じられないとしたら、それは意図的なものだし、それでいいと思っているの。だけどね、私はいつも少し婉曲な歌詞を書くし、それが私のやり方なのよ。『13』のやり口に対してちょっとしたお返しをしていることは間違いないわ」 もちろんFrischmannは容赦のないイギリスのマスコミから攻撃を受けたため、あまりに個人的なことをインタヴューで話すのにはうんざりしているのだが、8年間に及んだAlbarnとの関係は完全に彼女の側の申し出によって終わりを告げたことを明らかにしてくれた。 「私は少し前から別れることを考えていたの。事情が複雑で実行するのは難しかったけどね。私たちは8年も一緒にいて、最初の4年間はとっても楽しかったけど、残りの4年は…。二人の関係が終わっているという事実を彼に受け入れさせるみたいなことに時間がかかったんだと思うわ」 イギリスのマスコミが何度も彼らの関係をスキャンダルとして報じたために、Frischmannは自分の私生活をメディアの監視から遠ざけるために永遠に音楽をやめてしまうことさえ考えたという。 「メディアはある時期に私を音楽からの完全引退に追い込みかけたもののひとつよ。何か学んだことがあるとすれば、自分のためにプライベートなスペースを確保しなくちゃいけないということね。アメリカでは少し事情が違うのかもしれないけど、イギリスの音楽マスコミはまるでタブロイド紙みたいに有名人や彼らの私生活に取り憑かれているの。その結果として私は個人的な生活を以前よりもずっとプライヴェートな形に維持したいと考えるようになったわ。それに重要な点は、私が女性だったがゆえにElasticaの記事が音楽よりも恋愛関係を扱いがちになっていたということよ。それとは逆に男性の側は恋愛関係についてより多くを語るのに、出てくる記事ではそれほどスポットが当てられていないというのは皮肉な話ね。これは奇妙な形のダブルスタンダードだわ。結局のところソフトな形態でのレイプに等しいと思うくらいよ」 しかし今ではFrischmannもついに忌まわしい過去の亡霊から解放され、未来について大きな希望を抱いている。 “我々を殺そうとして失敗したものが、我々をより強くしてくれる”と言う古い格言が真実であることを証明するかのように、彼女は新生Elasticaについて熱っぽく語ってくれた。 「ライヴのサウンドが強力になったし、家族みたいに親密になれたの。私たちはお互いをクールにサポートし合える関係になっている。今ではお互いを長いこと知っているし、少し齢を重ねて賢くもなったわ。以前よりもずっと結束しているし、ずっと楽しくなっているのよ」 そして、自分が成長したということをさらに強調するようにFrischmannは、ひどく傷つけ合った元バンド仲間のMatthewとの関係さえも修復されたと、ほっとした表情で付け加えた。 「Donnaとは最近になって仲直りしたの、よかったわ。少し時間はかかったけどね」 何事も待てば海路の日和ありということのようだ。 by Lesley Holdom |