秩序ある混乱
秩序ある混乱 |
Busta Rhymesの現状は、自身の4作目になるCDタイトルより、少しは秩序立っている。 そのタイトルの言葉の意味が、書き散らされたアルバムジャケット。 “An'ar-chy 1.無政府状態、2.政治的混乱、そして暴力、3.無秩序、混乱…” 3つの定義のいずれもが、Bustaの音楽に当てはまる。アルバムの冒頭で勢いよく弾ける「Salute Da Gods!!」(Norman Connorsの「Betcha By Golly Wow」をサンプリングしている)。その弾むようなピアノと、こもった感じの低音の層に支えられ、彼特有のワイルドな金切り声の語りが始まる。そこからが、このアルバムの本領だ。様々な音楽のスタイルを縒り合わせ、パーティ路線へと意外な展開。しかし、これがBustaの赤抜けた大威張りラップを他の何よりも引き立てる。 軽やかにコラボレーションする相手はFlipmode Squad、Jay-Z、DMX、M.O.P.、Lenny Kravitz、Raekwon、そしてGhostface Killah。Bustaの真実を見抜く眼力を持つ者にしか理解できそうにない、雑多な音楽要素のせめぎ合いだ。 Bustaの急進姿勢は、'90年代初頭に4人でライムしていたLeaders Of The New School時代から実践されてきた。しかし、『Anarchy』からの第1弾シングル「Get Out!!」は、同アルバムのその他の曲に比べて遥かに直球勝負だ。然るに、Bustaファンの予想を遥かに越えて、ということ。 思い出してもらいたい。Jay-Zが『Annie』の「It's The Hard-Knock Life」を'98年にサンプリングした時は、あんなにクールだったのに、その1年後、彼が「Anything」で同じことをやってみたら、何ともダサかったことを。 トレンドに遅れること2年、Bustaは「Get Out!!」に、可愛い子供のコーラスによる、これまた子供の歌を取り入れた。Richard Wolfeの「The Ugly Duckling」がそれである。第1弾シングルのリスクを抑えるための、効果の程は証明済みの方程式だ。 当然のように『Anarchy』は、Billboardのアルバムチャート第5位に初登場。Bustaが、'70年代のブラックエクスプロイテーション映画の名作『Shaft』の、Jon Singleton監督による新ミレニアムリメイク版で銀幕を飾った、わずか5日後のことだった。 偶然かって? 違うかもしれないね。 「今回のことは俺にとって、映画に関しては最大のチャンスだ」と『Shaft』の発表パーティでBustaは言っている。 「出演できただけでも恵まれていると思う。Sam(uel) Jackson、Vanessa Williams、オリジナル版でShaftを演じたRichard Roundtreeといった大物と一緒に、だぜ。若手俳優としてキャリアを培っていく上で、これ以上は望めないチャンスだ。俺がこの分野で一旗揚げるのに、絶対に必要な踏み台だった」 新版『Shaft』でBustaが扮するRasaanは、西インド諸島出身のタクシー運転手で、Shaftの遊び仲間。両親がジャマイカ人、マネージャーがハイチ人、宣伝担当のSpliff Starがトリニダードの出身で、相棒のDJはベリーズ出身というBustaにとって、演じるのにそう掛け離れた役柄ではなかった。 「何もしなくたってRasaanのすべてに共感できたし、自分のことのように思えたよ」とBusta。 「友達と苦楽を共にして、どこまでも付き合い、何があっても息子を守るところもね」 Bustaの俳優としての履歴書は、『Who's That Man?』『Strapped』『Higher Learning』への出演の他、映画『Rugrats』のReptar Wagon役での声の出演にも名を連ね、なおも膨らみ続けている。 最近では、Sean Connery主演の映画『Finding Forester』で、ある役柄を演じ終えたばかり。都市部の低所得者が住む地域に生まれ育ち、スポーツの奨学金で白人優勢の私立高校に通った黒人青年の足跡を記録するこの映画の撮影中、Bustaは元祖James Bondから演技について多くを学んだ。Conneryは、優れた演技は台詞以外の部分に負うところが圧倒的に大きいのだということを、身をもってBustaに教えてくれた。 「台詞がなくたって、優秀な俳優であることは証明できる」と明らかに啓蒙された様子でBustaが言う。 「発するエネルギーがものを言う場合もあるんだよ。台詞の一番多い俳優以上に、台詞のない俳優から伝わってくる主張に力を感じることもある。そのことは、Sean Conneryのそばで確かに学ばせてもらった」 Bustaに言わせれば、演技は時に音楽よりも制約の多い芸術形態だと感じる部分があるものの、自分の芸術活動を全般的に押し広めていく上で役に立っているのだそうだ。 「アルバムの方がやれることは多いさ。水増しされることも、希薄になることも、干渉されることも音楽の方が少ない。だって、問答無用で個人の作品なんだから」と、説明する彼。 「一方、映画は徹頭徹尾、描いている絵に手落ちがないよう、念を入れていないといけない」 2、3度、余計に色を重ねてみても、何も悪いことはない。 by Billy Johnson Jr |