ジュリエットごっこ
ジュリエットごっこ |
売れっ子R&Bシンガー、Joeのレコード発表パーティの晩、AaliyahはニューヨークのClub Exitに颯爽と登場した。 スウェードのジャケットでキメた彼女の輝くような笑顔、そして'70年代のFarah Fawcettを思わせる豊かな黒髪(の先っぽは赤く染めてある)。 所属レーベル、Blackground Entertainmentの側近たちに囲まれて、振り向くたびにカメラのフラッシュ。喋る言葉を、漏れなくマイクが拾っていく。 これぞ有名人というやつさ、ベイビー。 苦せずしてメジャーリーグ入りを果たした22歳のAaliyahは、その只中に身を浴している。初の主演映画『Romeo Must Die』(Timberlandがプロデュースした彼女の「Try Again」は、同サウンドトラックからの大ヒットシングル)で武道の達人Jet Liとの共演を成功させた彼女は、もはやヒップなビデオとフューチャリスティックなビートが頼りの、ただの可愛い子ちゃんR&Bシンガーではない。Aaliyahは、あっという間に正真正銘の大スターになりつつあるのだ。 「別の企画の打ち合せでWarner Bros.へ出向いた時に、ちょうど『Romeo』が進行中だって聞いて…」 Joeのパーティから1月ほど経て、柔らかな語り口のAaliyahが、LAのホテルの自室で語ってくれた。 「Jetが出ていると言われて、即座に私も出たいと思ったの。そしてスクリーンテストを受けて、あの役をもらった。だから、私のために特別に設けられた役じゃないのよ。ただ、先方からも『Trish(同作品でAaliyahが演じた役柄)を違和感なく演じてもらいたい』という話があったから、衣装や小物は私の好みで選ぶのを手伝ったの。楽しかったわ」 R&Bシンガーであり女優でもあるBrandyのように、予めTVドラマに出演の経歴があったわけではないAaliyahが、レコーディングスタジオから飛び出して、いきなり巨大スクリーンに登場したことに驚いた向きは多い。 パフォーミングアートのハイスクールに通い、さらに最近では18ヶ月に及ぶ演技のレッスンを受けたとはいえ、彼女にとって勇気ある飛躍であったことには違いない。『Romeo』での成功をきっかけに、彼女は新作ヴァンパイア映画『Queen』への出演を射とめた(が、残念ながらAaliyahは、同スタジオからこの件につては話をしないよう指示されているのだそうだ)。 ただし、演技を追及するあまり音楽をなおざりにすることはないと、それだけは彼女も保証している。 「やっぱり音楽が最優先よ」 きっぱりと彼女は言う。 「実際、今もTimberlandと一緒にニューアルバムのレコーディング中なの。映画の撮影とサウンドトラックの制作のために、一時中断しなければならなかったんだけれど、もうかなりの曲をレコーディングしてあるのよ。もっとも、その中からアルバムに入るのは4~5曲かな。夏が終わるまでには完成させたいと思ってる。とってもアップビートなアルバムになると思うわ。バラードはかなり少なくなりそう。Missy(Elliott)の曲は必ずいくつか入るでしょうし、仲間うちのPlayaの連中もそう。「Try Again」とか、『Dr.Dolittle』のサウンドトラックに入っていた「Are You That Somebody」を手掛けた人たちよ」 ブルックリンに生まれ、ミシガンで育ち、今はマンハッタンを地元と呼ぶAaliyahは、ここ6年間、休みなく働き続けてきた。Blackground/Jiveからのデビューアルバム『Age Ain't Nothing' But A Number』は、かつての師匠であるR.Kellyのプロデュースで、「Back And Forth」「At Your Best (You Are Love)」といったヒット曲を生み出し、'94年当時、状況に弾みをつけた(AaliyahとKellyは、Vibe誌が2人の結婚証明書を掲載したことに端を発する騒動の最中に道を分かった。それはAaliyahがまだ16歳当時の結婚であることを証明するものだとされ、その後、彼女はJive Recordsを離れて、以来Kellyとは一切の関わりを持っていない)。 彼女のキャリアは、2年目の作品『One In A Million』(Blackground/Atlantic)でフル回転し始めた。ここで組んだソングライティングチーム、Missy ElliotとTim“Timberland”Mosley独特の商標である、トリップ感のある細切れヒップホップビートに滑らかなR&Bを載せるやり方は、アメリカのアーバンサウンドの定義を塗り替え、以後、それを真似る者が後を絶たない。 先述の「Are You That Someboey」は言うに及ばず、「One In A Million」や「Hot Like Fire」といったヒット曲が、ヘソ出しストリート系でありながら甘さも兼ね備えたR&BのアイコンというAaliyahのイメージを固め、関わったプロデューサーたち共々、ブラック系ラジオを総なめにした。『Romeo Must Die』からの「Try Again」のお陰で、Aaliyah御一行はアルバムリリースの隙間の時期でもなおR&B界を独占している。 「あの曲は初めて聴いた時から夢中になったわ!」 「Try Again」について、Aaliyahが熱っぽく語る。 「サウンドのひとつひとつ、ビートのひとつひとつが響いてくる感じだった。自分の番になったらもう、踊りながら歌ってたの。その感じが、メロディにも出てると思う。本気で感じてることは、皆に伝わるものだから」 Aaliyahは自分ではリリックを書かないけれど、あの歌詞は自分の性格にピッタリだと言い切る。 「リリックは、ありきたりでないのがいい」と彼女は語気を強める。 「うんと深いものがいい。私はディープな曲が好き。Stevie Wonderを尊敬しているのも、ラヴソングひとつとっても、別世界に運んでくれるような曲を書ける人だから。あらゆる人の心に私は触れたいの。自分は優しくて穏やかな人間だと思うけど、同時にとても複雑なところもある。そういうところを前面に押し出していけるような音楽や作品を目指したい。一辺倒なのはダメ」 『Romeo Must Die』撮影中のチャレンジも、そんな彼女の深みの表れだった。ある場面が、とりわけ際立っている。 「泣く場面だったんだけどね。涙が出てくるまで、ずいぶん苦労して色んな思いを味わうハメになって…」と彼女は振り返る。 「あの脚本の中で、一番戸惑ったのがあの場面。仲の良かった祖母が2年前に亡くなったんで、一生懸命に彼女のことや、他にも辛かったことをあれこれ思い出してみたんだけど、本当に暗い、疲れる1日だったわ。出来上がったものを観ると、本当に泣いているのがわかって、すごく報われた気持ちになるけど」 一方、『Romeo』でのAaliyah(好きな俳優はGlenn CloseとAl Pachinoとのこと)は、お気に入りの映画のヒロインの1人をインスピレーションの源にしていたという。 「あのTrinityという役柄(『The Matrix』)が大好きなの。女の子だったら、誰でも惚れ込むんじゃないかしら。今回、ちょっとMatrixっぽい振付けがあって、それがすごく嬉しかった!(笑) スタントマンを使うのは嫌だったから、そのシーンのためだけに1ヶ月もトレーニングしたのよ。体は柔らかい方だから助かったし、振り付けもすぐ覚えられたけど、トラックによじ登るための手綱の扱いに慣れるのが一番大変だったわ」 涙とアクションシーンの他にも、Trishという役柄をうまく演じられたとAaliyahが感じているのは、詰まるところ、本人とそうかけ離れた人物像ではなかったからだ。 「およそ、あらゆる点で似てるのよ」と、彼女は認めている。 「とんがっていて、家族を愛していて、家族への愛が彼女を突き動かしている。私とそっくり。私よりも彼女の方が、思ったことを口にするのがほんの少し早いけどね。普段は私、すごく大人しいし優しい方だから。ひとつ言えるのは、私がすごい努力家で、半端でなく完璧主義だということ。ヴォーカルだって、3~4回は録り直すもの」 実のところAaliyahは、ニューヨーカーという風情ではない。あの町のテンポの速さと性急さ、そして図々しさで知られる住民の多くを思う時、彼女の穏やかで優しげな振る舞いはどうにも相容れないように映る。そんなコントラストに、彼女は気付いているんだろうか。 「ニューヨークは大好きよ」と迷わず彼女は応えた。 「とても満足してるわ。やりたいことを何でもやらせてくれる町だから。だって私、地元民になりきってるもの。映画も観に行くし、ゲームセンターにも行くし、ボーリングだってする。あと、ダンスも好きで、ニューヨークに戻ったらサルサのレッスンを受けたいと思ってるのよ。(サルサの)クラブへ行って(ダンスフロアに)出たのはいいけど、ちゃんと踊れない…なんてことにはなりたくないから」 しかし、Aaliyahの抱くサルサダンスの野望は、当面お預けにならざるを得ないかもしれない。向こう1年の予定が既にビッシリなのだ。ニューアルバムが完成したら、オーストラリアへ飛んで次の映画の撮影に入り、戻ったら今度はニューアルバムのプロモーションに突入。1stシングルも年末までに予定されている。すべては来夏の、彼女にとって最大規模となるであろうツアーに向けて進んでいくはずだ。 「ツアーが一番楽しいわ」 15歳で1stアルバムを発表して以来、ライヴパフォーマンスを続けてきたAaliyahは言う。 「2度目のツアーでは、最初の時と比べてずっとステージの居心地が良かったの。自分のやりたいこともわかってきたし、次のツアーはきっとスゴイことになるわよ! やりたいことは決まってるんだ。年齢を重ねるにつれて、だんだん自分で仕切れるようになってきてるしね。やっぱり、目標はJanet(Jackson)やMichael Jacksonのショウ。ああいう人たちは、1時間半も2時間もステージにいて、それでも全然飽きさせないでしょう。変化に富んでいるからよ。とにかく、ツアーに出るのが楽しみでしょうがないわ!」 by Jeff Lorez |