起死回生の新作を発表
起死回生の新作を発表 |
「どんなバンドにもあてはまる一般的な音楽業界内幕物語さ」 イギリスの3人組MorcheebaのPaul Godfreyは語り始めた。 「大きくなりすぎたエゴ、充分でないマネー」 「前のツアーの後で僕たちは強いストレスに襲われ、しばらく別行動をとらざるを得なくなったんだ」 だが、このポップミュージック界の教訓話には、ひねりの効いたハッピーエンドが待ち構えていた。彼らは1年かけて傷を舐めあいながら新たにポジティヴな方向性を開拓し、これまで以上に精力的なニューアルバム制作のために再結集したのである。 その新作『Fragments Of Freedom』はスィートでエレガントなSkye Edwardsのヴォーカルを再びフィーチャーし、Ross(ブルージーなギターと洒落たキーボード)とPaul(ビートの建築家)による“トリップホップ”サウンドをトレードマークとしているが、古き良きソウル&ファンク、'70年代スタイル、クールなBiz Markieのラップ、さらには弾けるようなスティールドラムスなど多彩な要素も盛り込まれている。 「Rome Wasn't Built In A Day」「Be Yourself」「Love Is Rare」などは、現代におけるBeach Boysの名曲とも言うべき完璧なサマーソングである。つまりスマートかつ爽やかで、ムードたっぷりの素晴らしいバックグラウンドミュージックでありながら、熱心に耳を傾けるのに値する音楽でもあるのだ。 「僕たちが初めてSkyeに会ったころ、彼女は自分のためだけに歌っていたんだ」とPaulは回想する。 Billie HolidayやNina Simoneといった伝説のディーヴァを敬愛するEdwardsも、「私はシャイな方で、歌手になりたいなんて野望は持っていなかったの」と認めている。 さらに抑制されたトーンの次作『Big Calm』により、Morcheebaはスペイシーでダウンビートなグルーヴで知られるようになった。 「僕たちには抑圧され、内省的で、不機嫌なイメージが期待されたのさ」とPaulは嫌悪感をにじませながら話す。そうしたメランコリックなオーラは彼らの余暇の過ごし方にも少なからず影響を及ぼした。 「レコード契約をする前、生活保護を受けている頃は、ドラッグを買うお金さえなかったよ」とPaul。 「だから契約にこぎつけたときの気分は“欲しいドラッグは何でも買えるぜ”って感じだった。飽きるまで何年もかかったけど、しばらくの間は友達と言えばドラッグディーラーばかりだったね」 『Fragments Of Freedom』に聴かれる明るく快活な感触は、少なくとも部分的にはMorcheebaが薬物の摂取量を減らしたことによるものだ。 「以前は感情を覆い隠すためにアルコールやマリファナをたくさんやっていたけど、今回は自分たちの感情面のエネルギーを活用したいと考えたんだ」とPaulはつぶやく。 「ひねくれるのは簡単だけど、ダイレクトになるのはずっと難しいのさ。『Fragments Of Freedom』はよりコマーシャルな作品だと言う人もいるけれど、自分たちの限界を越えようとしている点で実験的なアルバムだと僕は考えている。これまではクラブでの評判によってイメージが制約されていて、それが本当に悩みのタネだったよ」 「アンダーグラウンドに留まっているのはたやすいだろうけど、優れたポップミュージックを作るのはずっと挑戦的なことなんだ。今回のアルバムでは、これまでにはクスリのやりすぎや怠慢のためにできなかったことに数多くトライしている。サイケデリックなサウンドの層を重ねる代わりにオープンなスペースを残したので、ギターやキーボードのシンコペーションを聞き取ることができるだろう」 「僕たちはStevie Wonderの影響を受けている」とPaul。 「彼の音楽はばかばかしいくらいハッピーだ」とRossが割り込んでくる。 「アルバムのタイトルを“MindlessHappiness”にしようと考えたこともあるんだ。ドラッグに影響された幸福感じゃなくて、絶頂を経験したことによる多幸感ってやつさ」 Morcheebaは他にもChic(「Love Is Rare」)やIsley Brothers(「Shallow End」)に敬意を表しており、名曲の伝統を受け継ごうとしているのは明らかだ。また、彼らは今のポジティヴなヴァイブを維持したいと考えている。もうバーンアウトするまでツアーを続ける気はないとRossは表明した。 「僕たちはスポットライトにずっとしがみつくようなタイプじゃないよ」 「僕たちのキャリアはゆっくりと築かれてきたけど、これは極めて珍しいケースだ。僕たちは自分のペースで成長することを許されてきた。すべてのバンドがそんなふうに活動できるようになるべきなのさ。友人の中にはファーストアルバムに何百万ポンドも投資されたために、大手レーベルからの巨大なプレッシャーを受けて苦しんでいる連中もいるんだ。僕たちの人気に突然ブームがやってきたら、流れをめちゃくちゃにしてしまうだろう。今のスローペースに留まっている方がいいね」。 奇妙に聞こえるかもしれないが、彼は本気でそう思っているようだ。 by Jon Young |