現代の女性詩人のイメージを完璧に体現！

このCDは全編オーガニックなジャズ／ソウルで構成されており、自伝的な詞は思索に富み、ユーモラスであると同時に感動的である。栄養不良のR&Bがラジオ放送を占拠している最近の状況においては、待ち望まれていた救いともいうべき作品だ。

Scottは彼女の音楽と同じように愉快でリラックスした人物である。ブラウンとブロンドのアフロヘアで、アーシーなパッチワークのデニム服を好む“健康優良”な体格の彼女は、現代の女性詩人のイメージを完璧に体現する女性だろう。

彼女がそのイメージを最初に確立したのは、90年代初めに故郷のフィラデルフィアでクールなものがすべて集まる場所、October Galleryにおいて詞の朗読を行なってセンセーションを巻き起こした時のことだった。

それから彼女はTemple大学の英文学科を卒業し、様々なアートの可能性を追求していった。演劇集団に参加し（Rentの巡業公演に出演）、作詞作曲を行ない、Jazzy Jeffの制作集団A Touch Of Jazz（彼女のアルバムをプロデュース）とレコーディング、そしてRootsとのコラボレーションに至ったのである（RootsがGrammyを受賞した「You Got Me」でのErykah Baduのヴァーカルパートを共作したのも彼女だ）。

「自分のやりたいことを、進みたい方向性を模索していたんでしょうね」

ニューヨークのトレンディーなインテリアストアFellisimoにある仕切られた一角で快適なソファに身を沈めたScottは、自身の過去の試行錯誤について語り始めた。そうした幅広いキャリアがアルバムに多大なインスピレーションを与えたという点で、現在の彼女に大きく役だっているという。

「アルバムの中でも自伝的な要素の強い曲のひとつに「Slowly Surely」があるわ。これは数多くの女性が経験していることだと思うの。“ゆっくりと、でも確実に、私は終わった絶望的な愛の幻惑から立ち去っていく／愛の幻影に捕われ／愛の迷路の中で…”基本的には自分にとって良くないものから遠ざかることはかまわないけど、素早く走って逃げることもないという意味よ。あらゆるステップに確信を持ってからゆっくりと立ち去る必要があるの。傷つくことになるからね」

この曲は明らかにScottの手痛い経験にインスピレーションを得たものである。

「本当につらかったし、長い時間がかかったの。でも、そこではまっているよりも、ここへ来るほうがよかったわ」と彼女は答えている。

“ここ”という表現で彼女は、愛情と芸術の両面で理想的と思われる共同生活を送っているLyzelという名の男性との幸福な婚約について語っている。

「彼はアルバムのアートワークを担当したし、Ｔシャツやポストカードのデザインもやってくれたの」とScottはパートナーを紹介した。

「彼は昼間はグラフィックアーティストで、夜になるとDJとしてフィリーの人気クラブで回しているわ。最初はポエトリーリーディングの後で会ったの。ある日、私の目を釘付けにして、目を離せなくなってしまったのよ！　2年も前からの友人だったけど、愛しているなんて後になるまで気づかなかったわ」。

実際のところ『Who Is Jill Scott?』の曲の多くはScottの幸せな愛情生活と彼女が大きな誇りとしている“兄弟愛の街”、故郷フィラデルフィアをメインテーマとしているようだ。アルバムの中でも際だった曲のひとつ「The Way」は、古典的なストリングスとギターのパートを備えた曲だが、こうした2つのテーマの影響を組み合わせた作品である。

「あの曲は私のお気に入りのひとつ」とScottは熱く語る。

「何故って、とってもフィラデルフィアらしいから。ある日にスタジオに向かう途中で作ったんだけど、自分の生活と暮らしている場所の素晴らしさについて考えていたら、自然と両方がひとつになっていったのよ」

少しでもチャンスがあればScottは、自分の故郷について詩的に語り始めるだろう。

「私にとってフィリーは街角のパーティ、1セントのキャンディ、近所を乗り回したバイク、遊んだ子供達、話しかけたお年寄り達、そして大音量の音楽ね。フィリーではポーチが大きな役割を果たしていて、夏になると人々は外に出て、そこに座って過ごすのよ。だけど何よりもフィリーとは私の母のことね。彼女は私を美術館やバレエに連れていってくれたし、市長の子供や議員の子弟が通うような名門校のGreenfieldsに入学させてくれたの。とっても素敵な人よ」

こうした文化、教育そしてブラックアートへの愛情に関するセンスは、Scottの内面に消しがたく染み込んでいる。黒人文学の大物達で一杯の彼女が好きな作家の一覧表にざっと目を通すだけで、この若き作家が優れた同志に恵まれていることが証明されるだろう。

「Toni Morrison。最初にThe Bluest Eyeを読んだときには、生きていることを実感できたわ」と彼女は驚嘆する。

「Nikki Giovanni, Octavia Butler、それにZora NealeHurstonにも驚かされたわ」

Scottの中にある女優の資質を真に引き出すのは、赤貧に倒れた作家Hurstonの歩んだ苦難の人生であろう。いつの日か映画の大スクリーンでHurstonを演じるのが彼女の夢である。だが、彼女自身の人生をベースとした伝記映画が作られるとしたら、どの女優が彼女を演じるのをScottは見たいのだろうか？

「Halle Berry!」と彼女は笑う。

「本当はAngela Bassettが私を演じてくれたらいいわね、彼女はとっても力強いし。でも、テレビや映画で私そっくりに見える人なんて実際にはいないわよ。太いももと太い腕の大柄なお人好し女なんてね！」

そして何よりも、“体いっぱいのソウル”を忘れてはならない。