短波ラジオマニアの雄叫び
Matt Johnsonは短波ラジオが大好きだ。 考えてみると、なるほどと思う。短波ラジオのマニアックさ、地球をひとっ飛びするフォーマット、アングラな地位。そして、このイギリスを飛び出したシンガーソングライターの、アーティストとしての独特のスタンス。 彼はThe Theとして、最も胸をしめつけるシニカルな楽曲、あえて言うなら'80年代と'90年代の重要なポップを書いた。不思議なことに短波ラジオと彼は、鏡の表裏のようにお互いの姿を映し合っているのだ。 「確かに中国やロシアのニュースのようなプロパガンダもあるよ。でも、普通のラジオでは聴けないスゴイ曲も聴ける。子供の頃、親に隠れて聴いたラジオのように、そこにはロマンがあるんだ」 「真空管は切れていた。あのサウンドを再現することはできないだろうね。俺は反デジタル派ではない。ただ世界の強引なデジタル化に反対しているんだ。俺だってデジタルを使うよ。でもデジタル化のほとんどは市場の力によるものではなく、作品を時代遅れにしてしまうメジャーレーベルのせいだ。おかげでリスナーは、最新の音を取り入れてないと不安になってしまうのさ」 Johnsonは常に世界の悪と自分自身の悪を、プリズムを通して暗く語ってきた。「Helpline Operator」で狂人のようにささやいたり、「Armageddon Days Are Here Again」で宗教虐殺を糾弾したり、「Slow Motion Replay」でポップの精神異常を作り上げたり、「Kingdom Of Rain」で壊れた関係を詳しく語ったり。今までで最も容赦のない作品『Naked Self』は、パーソナルなカタルシスに刺激された心をかき乱す辛辣なレコードだ。 「現在、世界の最大経済のうち60以上は企業だ。Microsoft社はイギリスより大きい。こういう企業の強大さは非常識といっていいくらいだよ。それに資本の自由な流れも問題だ。他所へ移って、そこで簡単に労働力を得られるからといって、簡単に工場を閉鎖すべきではないんだ」 「業界全体が法人化していて、息が出来ない」と彼は言う。 「たくさんの偉大なアーティストが取り残されている。契約がなくなった人たちが何百人もいる。今やレコード会社はレコード会社であることをやめて、コンテンツのプロバイダーになろうとしているんだ。インターネットでは小さいレーベルをもっと発見できるけど、インターネットが向かっているのは、アーティストがお金の大部分を得て、自分たちのレコードを所有できるArtist Directのような会社だと思う。それでメジャーレーベルは終わりさ。音楽業界はクローンを求めているだけだ。それはオーディエンスに対する侮辱だよ」 「必要でもないのに/ただ手にいれなきゃ気が済まない/絶対、絶対買うんだ」と欧米の金満消費者を批判している。 「例えば“消費者の選択”は、実際には株主の利益を意味する。イギリスではショッピングモールのために地域を破壊することを“新しい買い物の形”などと言うし…」 彼はまた、数年前のHank Williamsへのトリビュート作『Hanky Panky』を補完する作品として、全曲Robert Johnsonの曲からなるアルバムにも着手している。『Naked Self』の「Phantom Walls」で“すべては変わらなければならない”と歌う熱心で活動的な男は、しかし音楽のやり方だけは変えないだろう。 「アルバム全体は楽観的だと僕は思ってる」とJohnsonは言い切る。 「人がどう思うかは別としてね」 by Ken_Micallef |