年に一度やってくるハロウィーンの夜に行われる慣例の一環として、プログレッシブ・ジャムの王者Phishは、みんなの期待に応えて“ミュージカル・コスチューム”レビューを行なってきた。これまでの“コスチューム”には、The Beatlesの『White Album』、The Whoの『Quadrophenia』、Talking Headsの『Remain In Light』を、一音一音忠実に演奏したものがある。しかし今年は“ミュージカル・コスチューム”はなく、ハロウィーンのコンサートも行なわれない。
PhishのドラマーJon Fishmanは、バーモント州バーリントンの自宅で次のように言う。「たまに休憩を入れるのはいいことだと思う。4回のハロウィーンのコンサートでミュージカル・コスチュームをやった後、休憩を入れることにしたんだ。それに(ボーカル兼キーボードの)Page(McConnell)の奥さんが出産を控えているので、ツアーには出られないんだ」
その一方、Phishのファンは、フロリダ州フォート・ローダデールの近くにあるBig Cypress Seminole Indian Reservationで開催される大晦日のショー(残念ながらここでも“ミュージカル・コスチューム”はない)を期待して待つことができる。11月23日には、CD6枚組のライブ・ボックスセット『Hampton Comes Alive』が米国発売される。これは、Fishman、McConnell、Trey Anastasio(ギター)、Mike Gordon(ベース)が、'98年にヴァージニア州ハンプトンのHampton Coliseumで行った二夜のコンサートを録音したものだ。このボックスには、未発表の作品やお馴染みの曲に混じって、カバー曲もいくつか収録されている。Chumbawambaの「Tubthumping」、The Beatlesの「Cry Baby Cry」、Gary Glitterの「Rock 'N' Roll Part II」、Stevie Wonderの「Boogie On Reggae Woman」などだ。
カバー・ヴァージョンへのバンドのアプローチについて、Fishmanはこう語る。 「どのリック(楽節)も入れるようにしている。最初は、ビートごとに曲を覚えることにしてたけど、あちこち手を加えることによって、曲が発展していって、ある瞬間から自分たちのものになった。さもなければ、一音一音忠実にやることに取りつかれたりはしなかったかもしれない。でも覚えるにはいいやり方なんだ。頭に入ってきて、彼らだったらどうアプローチするかがわかってくるんだ。焦点になる部分はたくさんある」
大晦日のショーには、「蛍の光」を“エレクトリックロック・バージョン”で演奏するなど、驚くような趣向がいろいろ計画されている。同じ驚きでも、Phishが発生しないように警戒しているのは、最近相次いで起こっている口汚ない口論の勃発だ。前に起こったときには、Phishファンがビンを投げつけて、暴動鎮圧警官隊が出動する事態になった。イリノイ州ノーマルとアイオワ州エームズのショーでも、無政府状態に近い状況が現出した。 エームズの警察署長Dennis Ballantineは、容疑者を大量検挙したときに、“無法状態とドラッグ使用”を非難して、「Phishが戻ってこなければたちどころに解決だ」と言った。 Fishmanはこのことについて、違う言い方をしている。
「アイオワとイリノイで暴動が起こったが、あれは若い奴らが警官に挑発されたんだ。僕らの客が誰かを挑発するなんてとても想像できない。群集心理が働いたにしてもおとなしい人たちだ。それに僕らは、客を扇動してシートを切り裂かせるようなバンドではない。22か所でライブをやったけど、どのギグも絹のようにスムーズだったのに、なぜこの二つの町でこんなことが起こったのか。本当は誰のせいなのか。 今回のようなトラブルに巻き込まれても、10回のうち9回は、暴動を始めるのは警官なんだ。コンサートをやる町の90%では、僕らと警察の関係は良好だし、警察も僕らを助けてくれる。でも2つの町では、警察は事態の推移について独自の考えを持っていて、客の前に立ちはだかって逮捕し始める。それで客は動揺して、自分たちが脅されていると感じるんだ」
それでは、Big Cypress Seminoleで行われるコンサートで、懸念を和らげ、戒厳令(またはインディアン法)による支配が行われないようにするには、どうしたらよいのか。
Fishmanは次のように応じる。 「今度のコンサートでは事件が起きないと請け合うよ。会場に警官がいないからね。こう言い換えてもいいな。会場に警察はいるけど、その仕事は主権を有するインディアン領地内に限られる。警察は僕らと共同で仕事をするので、良好な関係となるだろう。他人の地盤にいるわけだからね。僕らの警備担当者は警察と協議して、ある種の理解に達するだろう。みんなで一緒に仕事をするんだ。こういう状況では、警察は僕らの仲間だ」
Fishmanはさらに、激昂したPhishファンには、今までのようにOh Kee Pah Ceremonyというナバホ族のしきたりに参加することによってリラックスするように勧めるかもしれない。Phishは自分たち自身のニーズに合わせてこの儀式を変えてしまったが、Fishmanは手ほどきを受けていない人たちにその基本との関連を説明することができる。
「太陽の儀式は人間性への移行であり、そこでは、乳首にピアスをされ、幽体離脱を経験するまで何日も木にぶら下げられる。僕らは瞑想にふける儀式でこれを自分たち流に行う。そこでは10時間あるいは倒れるまで演奏する。精神的に自分自身を妨げるものがなくなる境地に達するまで演奏するんだ。起こっている事象をなんとかして分析したいという欲望がなくなるまで演奏する。聴いて反応するだけという状態に入っていく。Meat Puppetsという名前はそうやって付けられた。それらのことをきちんとやれると感じたら移行完了だ。音楽の操り人形になってしまうんだ。そして楽器がその人形を演奏するんだ」
こうした幽体離脱の経験により、Fishmanはときとして制御がきかなくなり、手元の電気掃除機をつかんで、電源の入ったホースを口に押し込む。そしてこのとき、彼の震える頭から、あらゆる種類の尋常ならざる音が漏れてくる。このような口ソロは様々な海賊盤に登場しているが、『Hampton Comes Alive』には収録されていない。今回のボックスセットは、Phishの生活の二夜分を、編集もカットもない状態でファンに届ける機会となった。
Fishmanは言う。 「これは僕らがライブで実際にやっていることの純粋なドキュメントだ。別々のショーから選曲したライブアルバムを他にも発表しているが、今回のアルバムはHampton Coliseumでの二夜にわたる模様を収めたもので、すべてをありのままに収録してある。アルバム制作は面白かった。ファンと同じ目で判断しなければならなかった。いくつかの曲を収録しないようにしてもよかったけど、編集なしで発表して、Phishのショー全体のドキュメントを世間に聴いてもらうことにした。バンドとして、曲の本質をとらえたバージョンをいつも探しているけど、多分そういうものは頭の中にしかないんだ。僕らの気に入ったものが、そのままファンの気に入るものとはならないかもしれない。運命に任せるしかないんだ」
ハロウィーンのショーの代わりに、ウェブ・サーファーはその気になれば、'90年のハロウィーンの夜に、Phishがコロラド大学で行ったコンサートをダウンロードできる。また場所によっては、ファンはPhishのサイド・プロジェクトである『Surrender To The Air』と『Pork Tornado』のアルバムを探すこともできる。しかしBig Cypressで二日間開催されるイベントは、Fishmanによれば、“三つの移動式会場で同時にショーができるサーカス”のようなものになるそうだが、これに関しては、Phish(とFishman)は口を閉ざしたままだ。
Fishmanは思いにふけりつつ言う。 「驚くようなこと?もちろん考えてるよ。期待していてよ。でもここで教えたら、もう驚きでなくなっちゃうだろ?」 |