【インタビュー】BAD SiX BABiES奇跡の復活、「ロック・バンドをやるってこういうことかな」

■その場の空気の音が録れてなきゃ駄目だと思う
──なるほど。戸城さん、アルバムの出来栄えについてはどう感じていますか?
戸城憲夫:いや、なんか予想してた以上にすごくいいものになったなって思う。全然古くないし、オリジナリティもあるし。J-POPでもなければ洋楽かぶれの日本のバンドでもない。そのへんのバランスが絶妙だなって自分でも思うし、楽曲自体は古いのに今でも通じるものになってるんじゃないかな。まあ、これはあくまで俺個人の感想だけどね。あと、他のメンバーの皆さんの力がすごい。みんな俺の想定以上だったし、そこに気付かされた時に、「なんかバンドっていいな」って思った(笑)。自分で想い描いてたアレンジとかプレイなんかより何倍もいい感じになったから…なんかちょっと興奮しちゃうよね(笑)。
──素晴らしいことですね。そういうことであれば戸城さんの口から他のメンバーについて遠慮なく褒めちぎって欲しいんですけど、まず石井さんのギターについてすごいと思うのはどんなところですか?
戸城憲夫:なんか、アレンジが素晴らしいよね。俺もある程度「こういう感じでやってくれ」とか言うけど、こっちが考えないようなところの音をぶつけてきてくれたりする。あと、今回はそんなにダビングとかもしてないんだけど、最初から最後まで一気に全部やっちゃう感じで録れたのもすごく良かった。そこも今回の成功の一因かな、と思ってるんだけど。
──つまり、プロデューサーとして細かくディレクションするというよりは、ある程度皆さんに任せたということですね?
戸城憲夫:そうそう。もちろん「それはダセえだろ」みたいなところがあれば、それはやり直してもらったりしたけど(笑)。石井ちゃんについてはね、もともと上手いとは思ってたけど、さすがに今では年輪も出てきたっていうか。
石井ヒトシ:そんなふうに言ってもらえるのは嬉しいんですけど、それはべつに俺がたいしたギタリストってことじゃなく、たまたま波長が合ってたということなんじゃないかな。ザ・ビートルズの好きなところが共通してたり、お互い赤塚不二夫が好きだったり、学年は違うんだけど普通に友達になれるような相性の良さがあって。
──曲に対する解釈などについても、細かい説明や確認が必要ない関係にあるというか。
石井ヒトシ:そうですね。それこそ戸城さんのデモにも、ギターはある程度入ってるわけじゃないですか。で、それを聴いた時に「こういうふうに弾いてるけど、本当はこうしたいんじゃないのかな?」みたいなのがわかるというか。こっちの勝手な想像ではあるんですけどね。そうするとこっちも「こうしたほうがもっと面白くね?」みたいに提案したり変えちゃったりするんだけど、そこで何も言われないから「ああ、やっぱりこれで良かったんだ」みたいに思えたり。そんな感じですね。
──なるほど。戸城さん、フトシさんについてはどうですか?
戸城憲夫:当時と遜色のない声が出てたね。全然、年寄りくさくないし(笑)。あと、これは今がどうのという話じゃないんだけど、やっぱ書いてくる歌詞がすごくいいなと思う。そういうことは俺には絶対無理だから。とにかく歌が全然衰えてなくて嬉しかったね。
高木フトシ:いや、衰えてますよ(笑)。ホントにギリギリというか、必死でした。でもね、何がすごいって…これはちょっと違う話になってくるけど、いまどきのレコーディングだとヴォーカルはヴォーカルだけでやるのが普通じゃないですか。だから今回にしても俺は、自宅に防音室もあるからそこで録るのでも良かったんだけど、戸城さんにそういうことを言うと、怒るわけ(笑)。で、こっちとしては「そうか、スタジオに通わなきゃいけないんだ」と思いながら行くんだけど、実際にレコーディングが終わってある程度完成したものを聴いた時に「わっ、ヤバい」と思って。マジックがあったんですよ。戸城さんが言ってたことがちゃんと音になってた、そこで俺、すごく反省したんです。バンドってやっぱり、4人なら4人で全員集まって“ドン!”ってやらないと駄目なんだな、と思って。
──バンドとして一緒にやってこそ生まれるものがあることを実感させられた、と?
高木フトシ:うん。それがなかったら絶対このアルバム、この音にはなってなかったと思う。それはハッキリとわかりましたね。
戸城憲夫:俺もそう思うよ。やっぱりあの空気感というか、一緒にいる時のノリも大事だからね。今はどんな楽器も個別にラインで録れちゃう便利な時代だけど、その場の空気の音が録れてなきゃ駄目だと思う。スピーカーとマイクの間の空気の音、というかね。そういうのがあるのとないのとでは大違いだからさ。
高木フトシ:たとえば最初、ドラムから録るじゃないですか。でもその時、ギターとベースも一緒に入るわけですよ。2人がドラム録りに付き合って、ずっと真剣に聴いてるわけ。で、俺もそこに仮歌を入れなきゃいけないからヘッドフォンをつけるんだけど、そこから聴こえてくる音がもうめちゃくちゃカッコ良くて、そこについてはちょっと感動した。戸城さんと石井さんがブースの中でずっと本気で取り組んでる姿にね。それを見てて「そうそう、これがBAD SiX BABiESだ」と思って。
石井ヒトシ:そうやってスタジオで一緒に何回もやってるうちに、絶対何か生まれてくるものなんですよ、やっぱり。その過程で戸城さんのベースも、俺のギターもどんどん変わっていく。さらに、そうやって変わっていった音を聴いて「おおっ!」となったフトシの歌によって、そこでまた何かが生まれるというか。まさにバンドの神様、ロックの神様がいるんだなって感じさせられるような瞬間があって。
戸城憲夫:確かに俺のフレーズもどんどん変わってったからね。「ギターがそうくるならこっちはこうしよう」とか、そういうのが絶対お互いにある。しかも、さっきも言ったようにダビングもそんなにしてないわけで。
石井ヒトシ:元々、何度も重ねるような時間もなかったし。ただ、時間的な余裕は実際なかったけど、時間をかけたからって良くなるようなバンドでもないと思うんですよ。
戸城憲夫:そうそう。時間かけたって駄目なやつは駄目だし(一同笑)。
──そして、カネタクさんについては?
戸城憲夫:カネタクに「そこはこうやって」って言うと「いや、こっちで行きます」って言われるんだけど、「じゃあそれでいいか」って感じで(笑)。ちょっと細かい問題とかがあった場合でも、カネタクは自分を全肯定しちゃうから。
カネタク:以前とは関係性が変わってきましたね。やり合えるようになったというか。
──BAD SiX BABiESでのレコーディングのあり方は、カネタクさんにとってはここ最近の他の制作現場とはだいぶ違っていたわけですよね?
金川卓矢:そうですね。他のレコーディング現場では、確かにバラ録りが多いから。たとえばドラムを録る時、大概の場合そこにヴォーカルは居ない。実は俺、それがすごく嫌で、「歌メロも決まってない中でドラムを録るなんて信じらんねえ」とか言いながらやってきたんですよ(笑)。バンドだったら絶対そこにヴォーカルにも居てもらって、その状態で叩きたかった。だからフトシさんにも「来てくださいよ! 来ないとか無しっすよ」って言ってたんです。
高木フトシ:めんどくさいんですけどね、こっちとしては(笑)。
戸城憲夫:たとえば1ヵ月とか時間をかけるようなレコーディングだったら多分そんなことはしないよ。だけどほんの何日間かのことだから。録音自体は1週間程度だし。だってZIGGYの「それゆけ!R&R BAND」なんて1日で録ったんだよ(爆笑)。まあ「録らされた」と言ったほうが正しいんだけどね。
石井ヒトシ:とはいえ1週間で10曲録るのは結構厳しいし、勢いでどうにかするしかない部分もありましたけどね。
──実際、バンド・マジックみたいなものを過信してしまうのも危険だろうとは思うんですが、少なくとも今回の場合はそれがあることを実感できたわけですね?
戸城憲夫:うん。しかもそういうのは年齢とかとは関係のないことではあるんだけど、俺たちの場合はもうみんなおじさんになっちゃってるじゃん? 若い子たちがそういうことをやると、もっと何倍もカッコいいものになったりすることがあるはずだと思う。
──ええ。変な言い方ですけど「何かの間違い」みたいな感じですごいものが生まれたりすることがあるわけですよね。ところが若い時分にはそういうケースがあっても、キャリアを経てくると“間違い”自体が起こりにくくなってくる。
戸城憲夫:そうそう。それこそガンズ(・アンド・ローゼズ)の1stアルバムなんかも絶対そういうところがある。バンド・マジック以外の何物でもない。ああいうのって年を取ってくると、なかなかないんだよね。やっぱり年を取ってくるにしたがって、バンドって良くも悪くも“なあなあ”になってくる部分がどうしても出てくるじゃん? それで結局、どんどんつまらなくなっていく。ただ、今回の場合はすごく久しぶりに作った1枚目ということもあって、お互いに新鮮さがあったからこうなったんじゃないかな。
高木フトシ:それはあると思う。さっき戸城さんは「今でも通用するような」と言ってたけど、正直、俺自身は今の音楽シーンとかはよくわかんないのね。でもなんか、自分でも本当に新しいもの、新鮮なものに聴こえたんですよ。今、これが普通にちまたで流れてたとしても「これって昔のバンドだよね?」ということには絶対ならないと思う。しかも他のバンドにはないオリジナリティがある。だから俺も「これはもしかしたら、一周回って新しいってことなのか? ワンチャンあるんじゃないか?」と思った(笑)。もっと言っちゃうと、俺は戸城さんの楽曲ってもの自体、それこそZIGGYの頃から完全にオリジナルだと思ってるから。だからこそ戸城さんが好きだし、一緒にやりたいと思ったわけで。そういう“戸城さん節”みたいなものがBAD SiX BABiESのロックには詰まってるんですよ。それは唯一無二でなおかつ永遠のものだと思うし、一言でいえばロックンロールではあるけど、パンクもブルースも何もかも入ってる。そういう人って世界を探してもそんなにいないと思うけど、日本には戸城さんがいる。そういうことじゃないかな。
戸城憲夫:いやー、そのとおりだね(一同爆笑)。