【連載コラム】a flood of circle『THE WILD BUNNY DIARIES』5本目=佐々木亮介、「そして可能性だけがそこにある」

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▶<Tour WILD BUNNY BLUES> 5本目
▶2025年1月23日(木) 愛知・名古屋CLUB UPSET
▶書き手:佐々木亮介(Vo, G)

   ◆   ◆   ◆

1月28日に感じたこと。

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6時
名古屋のホテルで目覚めたらいつも通り、iPhoneのバッテリー残量表示が赤くなっている。
iPhoneをなぞったり見つめたりすることに人生の大部分を支配させ始めて10数年、バッテリーが少なくても最悪全くない時も暮らせてきた訳で、もう特に就寝時の充電を習慣化したいなんて思っていない。
ただこれが自分だなと思う。
なんとなく面倒で放っておくと損したり後悔するって分かっていることほどむしろ放っておいてしまう。
公的な書類、支払いの用紙とか、まあ充電とか、人間関係とか。
以前はそれが情けなく感じていた気もするけど、今では最早そういう自分のまま居座り続けようとしていると気付いた。
概ね合理的な方に流れて生きることができる図太い人間だけど、やっぱりいくらかは不合理な部分を抱えている。
合理性にチューニングが出来ない部分は不協和音のように不快になるけど、うまく合わないなりに面白く生きようという必死さが何かをドライヴさせるかも知れない、剰えそれが奇跡的に面白い和音を生み出すかも知れない。
チューニングが合っていると、チューニングが合っていることしか出来ないつまらなさがある、とも言える。
良い音って、つまらない音になることがあるんだ。
ちなみに自分は普段、めちゃくちゃ真面目にチューニングを合わせて演奏しています。

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7時
タクシーで名古屋駅へ向い、ホームにある立ち食いきしめんを啜って、新幹線で熱海駅を目指す。
コンビニで買っておいたノートとボールペンで何か書いてみるかと思ったけど、新幹線の小さなテーブルにノートを広げただけで特に素敵なことは思いつかなかった。
3コードのブルースじゃなくてジャズっぽいブルースのコード進行(251と呼ばれるコードの動きがたくさん出てくるようなやつ)を思いつきでカスタムするっていう遊びをたまにするんだけど、それをやった。
そういうのって別に面白い曲に発展したりしないって分かってるんだけど、現実逃避として。
よく知らないけど、きっとジャズの即興演奏って演奏そのもので深いところまで潜るために日々努力していて、その成果を含んだ人生が音楽に顕れるものなのでしょう。
昔スワンっていうジャズバーでバイトしていた頃、それが毎週末のライブで目の前に現れていたのに、とても自分から遠い熱に感じられた。
自分の場合、日々の楽器演奏の努力がないので(普段あくまで遊びで弾いているのでそれは練習に入らない、みたいな格好いいやつじゃなくて本当にただあんまり弾いていない)、じゃあ即興演奏で音楽的なことをやるったって本当にたかが知れたことしか出来ない。
ブルースのコードを書き出しながら、これって机の上の浅瀬でパチャパチャやってなんかやった気になりたくてやってるんだよなと気付いた。
だからそれをギターで演奏してみても骨身に染み付かない。
このような遠回りの経験がいつか形になる曲の成分の一つになるのかも知れない、とは言える。

うーん、言えるけど、今文章にしてみたら、なんでもかんでも意味があった方がお得だと考えようとする自分もまた浅ましいように思える。
意味がないって、損してるってこととは違うはずだ。
ぎっしり目的や意味が詰まっていなくてはいけないと思って進むより、無意味に無闇に歩いた方が軽やかである、という時もある。

音楽って実際演奏すると目に見えなくても形になってしまい、それは時に残酷で、「俺はまだ本気出してない」という妄想状態の方が気楽ではある。
そして可能性だけがそこにある。
だから今みたいに新曲やアルバムを作る時って不安定だけど、それは無限である証だと思いたい。

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9時半
熱海駅に着いて、伊豆急に乗り換える。
鉄道に特別な興味はないけど、伊豆急はすごく好きだ。
駅の間隔が長くて、もちろん海が見える訳だし、山間を走っていく感じも好きだし、何度もトンネルを抜けるからその都度「あ、海だ」を味わえるのが良い。
その感覚で「Summer Soda」っていう曲を作ったことを思い出した。
イントロのギターのフレーズは淡々と進む鉄道の進み方のイメージと、泡立ちのイメージが重なってる。


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10時半
伊東の葬儀場に着いて、御遺体と会う。
悲しい。
悲しい、と書いても悲しさは表現できない。
葬儀は午後2時の予定だったから出席できないことは分かっていた。
だからまあ喪服じゃなくて良いかと思って普通の格好をして行ったんだけど、いざ葬儀場に着くと、葬儀でブーツカットのジーンズを履いてるのってすごく間抜けだなと感じた。
あえて革ジャンを着ていくみたいな気合も入ってないし、葬儀に求められない格好だし。
変な距離感のまま最期の挨拶をしてしまった。
それもまあ君らしいと笑ってくれそうな人ではあるんだけど。
間抜けというのはつまり間が抜けているということで、つまり本来そこにあってしかるべきふさわしい「間」がないということだろう。

間抜けじゃないのは、つまり格好良い。
the pillowsの「Funny Bunny」のすぐにギターを弾かないドラムイントロや最初のサビまで意外と長い構成とか、あまりに美しいサビのための間がある。
ハイヴスの「Tick Tick Boom」の爆発音から次に行くところとか、すぐなんだけど、絶妙な間がある。
エラ・フィッツジェラルドが歌う「Misty」の最後らへんのタメも、タメてるのにくどくない間だ。
かと言って性急なパンクソングに最高の間を感じられる時もある。
それはそれでふさわしい間なのだ。

自分は結構間抜けで、曲を書いても上手く距離が作れないと思うことがある。
それって生来のセンスの有無、というような話をされたらもう目も当てられないので、探し続けるしかない。



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13時
伊東を発って名古屋へ戻る。
アップセットというお店で演奏した。
自分の演奏にはドキドキ出来そうなところとうまくいっただけの普通な感じのところとがあり、もっとドキドキする方法がないものかとは思う。
ツアーをやるとどんどんうまくいくようになってしまう。
心からふさわしいと思えるやり方、あり方を一生懸命求めたい。
それは固定的な完成や安心を目指すことじゃなくて、不安定でも面白くなる可能性を選び続けることができるかということ。
あ、くるりの「ばらの花」のサビが頭の中で流れ始めた。
こないだ渋谷のプラネタリウムに行ったら、「ばらの花」が流れていました。
ライブを観に来てくれるみなさんには本当に感謝しています。
ありがとう。

──佐々木亮介


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■<a flood of circle Tour 2024-2025>

▼2024年
11月28日(木) 千葉LOOK
11月29日(金) 千葉LOOK
12月06日(金) 堺FANDANGO
12月07日(土) 堺FANDANGO
 w/ THE CHINA WIFE MOTORS
▼2025年
01月23日(木) 名古屋CLUB UPSET
02月09日(日) 京都磔磔
02月11日(火祝) 広島SECOND CRUTCH
02月13日(木) 松山Double-u studio
02月15日(土) 高知X-pt.
02月16日(日) 高松DIME
02月18日(火) 静岡UMBER
03月06日(木) 神戸太陽と虎
03月08日(土) 鹿児島SR HALL
03月09日(日) 大分club SPOT
03月11日(火) 岐阜ants
03月16日(日) 横浜F.A.D
03月20日(木祝) 新潟CLUB RIVERST
03月22日(土) 郡山HIPSHOT JAPAN
03月23日(日) 盛岡CLUB CHANGE WAVE
04月05日(土) 長野J
04月06日(日) 金沢vanvanV4
04月10日(木) 奈良NEVER LAND
04月12日(土) 出雲APOLLO
04月13日(日) 福山Cable
05月09日(金) 仙台MACANA
05月10日(土) 水戸LIGHT HOUSE
05月15日(木) 八戸ROXX
05月16日(金) 八戸ROXX
05月18日(日) 山形ミュージック昭和SESSION
05月23日(金) 岡山PEPPERLAND
05月25日(日) 福岡CB
05月30日(金) 札幌cube garden
05月31日(土) 旭川CASINO DRIVE
06月05日(木) 名古屋CLUB QUATTRO
06月06日(金) 梅田CLUB QUATTRO
06月13日(金) Zepp DiverCity TOKYO
06月21日(土) 沖縄output


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