【ライブレポート】蛾と蝶、始動ライブ「君たちが付いていきたくなるような道筋見せてやる!」

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VISUAL ROCKシーンに新たなバンドが誕生した。その名は、蛾と蝶。創真(Vo)、零(G)、楓(G)、一色日和(B)、宏崇(Dr)の5人編成なのだが、このシーンに詳しいファンなら、このメンバーがいかに豪華であることがお分かりだろう。

◆ライブ写真

まず、Ashmaze.に在籍していた過去を持つ創真は、その圧倒的な歌唱力で若手バンドの代表格とも言われているボーカルだ。続いてギターの零はLycaon、Initial’Lをはじめ最近ではKiDのメンバーとして活動しており、同じくギターの楓と親交が深い。また、楓と宏崇はR指定でリズム隊として数多くのライブをこなしてきた仲間であり、阿吽の呼吸で音を奏でてくれることは間違いない。その二人とイベントライブなどで共演することはあっても、今回初めて一緒のバンドを組むことになったのが、一色日和。彼は己龍のベーシストとして活動しているわけだが、蛾と蝶ではどのような化学反応を引き起こすことになるのか、皆の注目を集めていた。

記念すべき始動ライブは、渋谷WWWX。当日はクリスマスイブ、しかも平日開催というだけに、観客動員数はそこまで伸びないのではないだろうかと思われていたのだが、蓋を開けてみれば、その心配は杞憂に終わった。場内には蛾と蝶の羽ばたきの行方を見守る観客で埋め尽くされ、開演を今か今かと待ち構えている。


そして開演時刻となり、毒々しさと妖艶さを兼ね備えたSEが鳴る中、真っ赤に染まったステージに揃いの衣装を着こなした5人が現れた。上手側には零、下手側には楓と徹底した女形に作り込んだ一色日和、後ろにはどっしりと構える宏崇。もちろん、センターには創真が立つ。

創真がお立ち台に上がり両腕を横に大きく広げると、お待ちかねの本編が始まった。1曲目に用意されていたのは「アゲハ」。蛾と蝶というバンド名だけに、彼らの代表曲的ポジションでもあるこの曲は、すでにミュージックビデオが解禁されていたこともあってフロアの一体感も最初から素晴らしいものだった。続く「News(仮)」では、「君たちも、ものすごく楽しみにしてたんだろ? 俺たちもそうだ!」と煽っていく。アッパーなリズムに合わせて観客は拳をあげて応えていった。それでも「もっといけるよな?」と再度煽りを見せ、零も右手を軽く叩くようにしてみせる。この程度の盛り上がりでは満足しないのだろう。そこにつられるようにして熱気が高まっていくフロア。それを創真は満足そうに眺めたあと、「俺たちと一緒に産声をあげてくれ! 蛾と蝶、始動しました!」と高らかに宣言したのだった。


「念願のバンドができてめちゃめちゃ嬉しいですし、クリスマスの忙しいときに5人を選んでくれてありがとう」と満面の笑みで話す創真。その気持ちは他のメンバーも同じだったことだろう。テンションが上がって曲の構成を間違えたことを暴露する宏崇、嬉しさで心がいっぱいになっていると本音を漏らす零。始動ライブはバンドにとって1度しかないだけに緊張するのはもちろんだとは思うが、それよりも、サポートメンバーやセッションバンドとしてではなく、本バンドとしてライブができることへの喜びや純粋な気持ちが垣間見えた。だが、彼らは実力派揃いのメンバーなだけに、始動ライブだからといってステージングに一切の妥協は許されない。それを理解しているメンバーだからこそ、ここから先の流れは、始動したばかりのバンドとは思えないほどの仕上がりで魅せていくことになる。


「挙げた手はそのままって言ったよね?」という煽り文句から始まった「Queen(仮)」は、躍動感のあるギターと脈打つようなベースの音色が印象的な1曲。「ザクロ」はVISUAL ROCKらしいシャウトを盛り込みながらも創真の武器である高音域が楽曲を彩り豊かに飾っていた。

「一体感、まだまだ作り出せるよな!」といって始まったのは「Gothic(仮)」。フロアが振動を感じるほど観客の想いが揃っていたのが特徴的で、その様子を見た一色日和のご満悦な表情は忘れることができない。「Hey Loser.」では、「クリスマスプレゼントとして君の首をここに置いてくれないかな?」と物騒な言葉を残す創真。その横では、楓が始動したばかりのバンドとは思えないだろうと言いたげな表情でフロアを見回す。本当に、これが始動ライブかと驚くほど仕上がっていた。楽曲に合わせて観客に振り付けを求めることもなく、この場を借りてファンの総称を決めるといった賑やかさもない。そこに存在するのは、バンドとはかくあるべきという確固たる姿勢と、曲に対しての真摯な想い。総合的に見ても、彼らがミュージシャン生命をかけて蛾と蝶に取り組んでいるのがわかる。


これまで創真以外のメンバーのステージングは幾度も目にしてきたが、この日は皆、特別に格好良かった。造形美という面での格好良さの前に、音楽面で経験値を積んだレベルの高さが突出していたからだ。それぞれ蛾と蝶を組むまでにどれだけの葛藤と困難に立ち向かってきたのか想像も付かないが、「バンドがやりたい」その想いに背中を押されて我武者羅に今日まで走ってきたことだけは、各々の演奏を見れば簡単に理解できる。また、メンバーの真っ直ぐな気持ちに応えなければファン失格だといわんばかりに全身で音を楽しんでいる観客を見ていると、バンドって良いものだなと改めて感じさせられた。

ライブはここからさらに勢いを増していく。ここでは「桜魁」「蜉蝣の夢(仮)」「雨宿り」といった聴かせることに特化した曲が並んだのだが、中でも「雨宿り」は秀逸だった。バンドのことをわかっている5人だからこそ作り上げることのできたこの楽曲。演奏の途中でライブハウス以上の大きな景色が見えたのだが、同じように感じた方はいただろうか。1つ1つの音色が重なり合い紡ぎ出される情景はとても美しく、こうした楽曲を今後も積極的にやっていってほしいと思った。


「初見の楽曲でも楽しめていますか? 最後までよろしくお願いします」と丁寧にあいさつがあったので本編後半戦も緩やかにいくのかと思いきや、そんな生やさし具はなかった。「渋谷、ご着席ください」という合図からゾクゾクする展開を見せてくれた。「葬送」ではVISUAL ROCKシーンには欠かすことのできない土下座スタイルでのヘッドバンギングが待っていた。何度もいうが、今日は始動ライブだ。にもかかわらず、ステージから要求されたことはすべて応えてしまうフロアの適応能力の高さには脱帽する。

そんなノリの良さはこの後の「Human error(仮)」「第八罪(仮)」にも繋がっていく。アッパーな曲だけに、ともすれば走りがちになってしまいそうになる音を寸分の狂いもなく演奏していく楽器隊。どこまでもクールな顔でギターを弾いている楓の姿を見ると、経験値が勝っているとしか言いようがない。そして、ライブはあっという間に終わりへと向かっていった。


「悲しいお知らせです、次の曲でラストです」と創真が告げ、最後に用意されていたのは「残響」。「君たちが付いていきたくなるような道筋見せてやる!」と創真が言っただけに、これからの蛾と蝶の行く末が非常に気になるパフォーマンスだった。このあとには特別にアンコールに応えてくれたのだが、数日前に誕生日だった零にバースデーケーキを持ってくるなど和気あいあいとした場面も提供。

さらに、蛾と蝶というバンド名に改めて触れ、5年後10年後にはこのバンド名が普通になると思っていると創真は予想を立てた。確かに、己龍やR指定も結成当初はどういう意味を持つバンド名なのだろうと関係者から言われていた。そのときメンバーは、バンド名の由来を何度も説明したのだろう。蛾と蝶も同じように今は馴染みがないバンド名かもしれないが、きっとこれから名実ともに有名なバンドになると信じている。「これからも蛾と蝶をよろしくお願いします!」と言って締めくくられた始動ライブ。まばゆい光が輝くステージに負けないぐらい輝いていた5人が、そこにいた。


なお、2025年3月には、初のワンマンツアー<無名のスイレン>が行われる。そのことを始動ライブで発表するはずだったのだが、完全に頭の中から抜けてしまったようで、誰ひとりしてそのことに気付かずにステージを後にしたのも、余談として書いておこう。ライブ終了後、公式Xにツアーの告知動画が載っていたのは、こういった経緯があったからだ。自然体でありながらかっこいい5人が集まって純粋に音楽を楽しむバンド、それが蛾と蝶であり、ここから彼らがどのように羽ばたいていくのか期待していたい。

文◎水谷エリ


1st Single「アゲハ」

2025年1月10日(金)リリース
・アゲハ type蛾 初回限定盤(GSR-001-A) ¥1,980(税込)
・アゲハ type蝶 通常盤(GSR-001-B) ¥1,540(税込)

【インストアイベント】
2025年1月13日(月祝) littleHEARTS.新宿店
OPEN 11:45 / START 12:00
内容:トーク&6ショットチェキ撮影会

◆蛾と蝶 オフィシャルサイト
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