【インタビュー後編】sayuras、「今ここから始めよう」と思う気持ちに遅すぎることは決してない
「今ここから始めよう」と思う気持ちに、遅すぎることは決してない。sayurasの 2nd EP『in the dArk』がリリースとなった。彼らの放つ言葉は夢を追う者、諦めない者の心をとらえ、その音はグランジやシューゲイズ、メロディアスなUKロックなどを愛する者の耳をとらえながら着実に拡散している。たゆまず走り続けるsayurasは今何を考え、どこを目指して進んでいるのか。三上ちさこ(Vo)、西川進(G)、根岸孝旨(B)、平里修一(Dr)に、2nd EP『In the dArk』についての深堀りと今後のバンドの目標などを聞いた後編だ。
■sayurasの曲が「もうちょっと頑張ってみようかな」って
■思えるきっかけになれたらいいなって思う
――3曲目「MA-1」はもともとインストだったものを作り直したと、WWWのライブのMCで話していましたね。これは前回の、eggmanのライブでSEとして使ったんでしたっけ。
根岸孝旨(以下、根岸):そう。SEを作らなきゃだったんで、どういう曲を作ろうとかもなくて、完全に直観でしたね。あとになって、ちゃんとしたレコーディングの時にシンセを考え直して、ギターとかが全部入ったあとにも実はこっそりやり直していて、実は結構凝っているんです。曲調については、別に何っていうんじゃないんですけど、アメリカンロックというよりはブリティッシュテイストにしたいっていうイメージだけはあって、デビューの頃のコールドプレイのメロディラインとかをすごく気にしてます。
▲2nd EP『in the dArk』
――ああ、はい。なるほど。
根岸:コールドプレイはファーストアルバムが大好きで、他にもあの時期の、ちょうどグランジが一段落したぐらいに色々出てきたバンド、例えばトラヴィスとか、ゴリゴリの演奏というよりもメロディで聴かせるみたいなバンドが好きで。
三上ちさこ(以下、三上):私も好き。
根岸:そういうセンチな感じのメロディが浮かぶといいなとは思っていたんです。オケを先に作って、(メロディが)なかなか降りてこねぇなと思っていて、何のタイミングか忘れたんですけど、急にメロディが浮かんで、たぶん30分かかんないで全部できました。
▲根岸孝旨(B)
――そして4曲目「フラクタル」です。これはとてもメロディアスな、魅力的なミドルロックバラードと言いますか。
三上:これは西川さんのアレンジです。これもたくさんやり取りして、ああでもないこうでもないって。もともと、軽やかなイメージでキラキラしている感じがあって、絶対この曲は…私と西川さんはワンちゃんを飼っていて、二人とも同じ名前の「ミル」って女の子で、白い犬で、この曲の2番では犬のことを歌っているから、「絶対これは西川さんにアレンジしてもらおう」って(笑)。
――犬の縁ですか(笑)。
三上:ワンコって、軽やかっていうか、常に無垢じゃないですか。キラキラしていて軽やかで、無償の愛を常にこちらに向けてきてくれるから、私の中ではわりと軽やかな、儚い、キラキラしたイメージがあって、そういうアレンジにしてほしいなっていうのがあったんですけど。西川さん的にはどうだったんですか。
西川進(以下、西川):最初に思いついたのがそういうパターンだったんですけども、軽やかな感じで。でも作ってるうちに、もっと重々しいサウンドにしたほうがいいのかな?っていうのもあって、ハーフテンポにしてみたら、「ちょっと違う」って言われて(笑)。
三上:結局、最初のイメージだったんですよね。
西川:そのままやっておけば良かった(笑)。でもそれをやったからこそ、「やっぱりこっちのほうが全然いいわ」っていう感じになって、正解だったと思うんで。
三上:根岸さんや西川さんが時間をかけて、色々考えて作ってきてくれたものを覆さなきゃなんないって思うと…今まではそれが言えなかったんだけど、このメンバーだったら言えるなって思って、言わせてもらいました。
西川:それでさらにバンドっぽくなったかなと思います。
▲平里修一(D)
――そうやってアレンジを詰めてる時の、ドラマーのお仕事は?
平里修一(以下、平里):元々のデモに打ち込んである音があるんですけど、西川さんは「好きにやってください」っていう感じで、細かいことはあまり言われないですね。そしてsayurasのどの曲にも言えるんですけど、僕は音色勝負っていうか、曲に合うサウンドが良い感じになれば、ドラムに関してはそんなに細かいことは必要ないって思っていて。例えば「フラクタル」は1、2曲目に比べれば全然明るいというかあまり重くないので、結構すぐにサウンドが決まった曲でしたね。歌詞も見るんですけど、意味よりも響きというか、どんな言葉でどんな歌い方をしてるか?ぐらいしか認識してなくて、言葉の温度感のほうを僕はわりと気にしています。音って抽象的なので、温度感が大事かなと思っていて、そういうイメージでスネアを選んだりしてますね。
西川:僕は平里さんのドラムにストレスを感じたことがないです。温度感に気を使ってくれてるんだなってわかるので。
平里:ほんとですか? ありがとうございます。今夜は美味しいお酒が飲めますね(笑)。西川さんのアレンジに、手がかりになる部分がいっぱいあるんですよね。
――そして最初に紹介した「SetbacKs」が5曲目で、EPのラストを飾るのが「Not for Sale」。特に「Not for Sale」は三上さんの歌詞が凄くて、社会的なテーマに真っ向から切り込むプロテストソングと言ってもいいくらいの熱量です。
平里:曲ができたのは最初ですけど、歌詞は最後に書いたんですよね。
三上:そうです。これは本を読んで、色々勉強して書きました。今の日本はどうなってるんだろうな?と思ったので。音はノリでみんなで録ったけど、歌詞に関してはいろいろ調べて書きました。そのほうがバランス的に面白いかなと思ったので。
▲西川進(G)
――「Not for Sale」は日本の社会の現状に疑問を呈する歌詞で、「悪魔の実」はSNSとかの、顔の見えないコミュニケーションの安易な軽さや攻撃性を憂える曲。EPの中でも特にメッセージ性の強い2曲だと思います。
三上:「悪魔の実」はコロナ禍の時に書いた曲なんですけど、閉鎖されて、コミュニケーションを取るなみたいな空気感があって。どうなっちゃうのかな?みたいな危機感を書きました。(歌詞を読みながら)本当にこのままです。コロナ禍の時って、従順に全部に従ってたらとんでもないところに行っちゃうな、みたいなことを思っていたんですね。
――その一方で、「SetbacKs」のように人を励ます歌、夢を追いかけることの大切さを歌う「MA-1」とか、聴き手を勇気づけるような歌詞も多いですよね。以前の「ナイン」もそうでしたけど、sayurasの歌の根底には常に前向きな励ましのメッセージがあるように思います。
三上:良くないこととか、うまくいってないこととか、絶対みんなあると思うんですけど、「ここからまた始めよう」って気持ちになれたら、どんな場所からでも始められる気がするんで。同じことを何回も言ってるなって思われるかもしれないけど、聴く人にとっても、瞬間瞬間で新鮮に聴こえると思うんですよね。状況も違うと思うし。だからいつでも、同じ言葉だけど新鮮に響いたらいいなって思って歌詞を書いています。「今ここから始めよう」っていうのは、ずっと言い続けていきたいと思っています。
――それがsayurasらしさなのかなと思ったりします。やり続けること。
三上:止まったら終わっちゃうし、つまんなくなっちゃうし。何かを始めようとか何かを続けようって思うと、すごいしんどいんだけど、でもそういう時にsayurasの曲が「もうちょっと頑張ってみようかな」って思えるきっかけになれたらいいなって思うし。
■繋がりが生まれる中で感じたことっていうのを
■曲に還元していけたらいいなって思っています
――もちろん全曲心を込めて書いたと思うんですけど、特に好きな歌詞ってありますか。
三上:そうだなぁ…「MA-1」とか、大人になって、子供の時に夢見てたような人生ではないなって思う瞬間もリアルにあるけど、たとえうまくいってないことでも、人に話すことで誰かの勇気になったりするし。うまくいってることだけが人を励ますんじゃなくて、うまくいってないことも人を励ますことになるから、今自分がどういう状況でも、生きてるそのものをストーリーとして示せるように、そんなふうに生きていけたらいいなって思って書いた歌詞ですね。「MA-1」は。“叶わなくたって進むしかないさ”っていうのも、とある方がSNSで呟いてたんですけど、それを見て、進んでいってるそれそのものが誰かを勇気づけるよな...って思って書いた歌詞です
▲三上ちさこ(Vo)
――この言葉は、すごく胸に響く人が多いと思います。
三上:「SetbacKs」には設定があって、私の中ではなぜか名古屋なんですけど、名古屋で付き合ってる男女がいて、彼氏が東京に出て自分の夢に向かって頑張るっていう状況になっていて。たまに会うとちょっと照れちゃって、距離が近づけなかったりするんですよね。不器用だけど「私は自分のやりたいこと目指してチャレンジしてるあなたを応援してるよ」っていう気持ちを歌いたいなって思って。恋愛ソングでありつつ応援歌みたいな感じですね。私はただの恋愛ソングが書けなくて、どうしても応援歌になっちゃうんですよ。
――それがsayurasらしさだと思います。そして『in the dArk』というEPのタイトル。これはどこから?
三上:今回のEPは暗めの曲が多いようなイメージがあって、「惰性」とか「悪魔の実」とか、暗闇の中にいるイメージがあったんですけど。「ダーク」って言葉はすごい使いたいなと絶対思っていて、でも暗いだけだったら嫌だなって思った時に、DARKの中にARKが入ってるのを見て、調べてみたらARKは箱舟っていう意味で。そういう不安だらけな日々の中でも、このEPの曲たちがあなたにとっての箱舟になれるような、箱舟になって一緒にまた進んでいけるようなEPになったらいいなって思って、このタイトルにしました。これは満場一致でしたね。
――2024年をこのEPで締めくくって、2025年のライブもすでに発表されています。5月11日、新宿LOFTでのワンマンライブ「O-ZERO-」。それも含めて、2025年はどんなふうに活動していきたいですか。
平里:新しい作品も作りたいし、全曲sayurasの曲になるライブがあってもいいし、また酔いどれ合宿レコーディングをしてもいいし(笑)。あとは、東京以外の場所でもライブができたらいいとか、イベントでもいいですし、いろんなライブができたらいいなと思います。
西川:全部言われちゃいました(笑)。でもsayurasらしい曲をもっともっといっぱい作りたいかなと思いますね。とにかく曲を増やしたいって思います。sayurasとしての基盤を強いものにしていきたいという感じはあります。
根岸:現状はありがたいことに、三上さんの昔からのファンの方が多いわけなんですけど、もっといろんな人に聴いてもらいたいなと思うんで、イベントとか夏フェスとかに出たいなと思っています。まだ聴いたことのない人たちに、どうやったらうまく届くかな?っていうことを最近は考えていて、そのためには僕ら自身が魅力的じゃないといけないんですけど、だいぶ自信も出てきたので、2025年はもっと皆さんの目の届くようなところにうまく出れたらいいなと思っています。
三上:私も、やっぱり一番は動員を増やしていきたいなと思っていて。今までなんとか、毎回毎回ちょっとずつキャパを増やして行けてるんですけども、そのためにはもっと魅力的なコンテンツだったり、「この人たちのライブに行ってみたいな」って思ってもらえるような発信の仕方をして、ネットワークを広げていきたいですね。やっぱり人との繋がりがこれからすごい大事になってくるんじゃないかなって思うので、いろんなところに顔を出して「こういうバンドやってます」みたいな感じで、そういう地道な積み重ねが少しずつ大きい扉を開けていけるんじゃないかなと思っているので。そういう繋がりが生まれる中で感じたことっていうのを、曲に還元していけたらいいなって思っています。
取材・文:宮本英夫
リリース情報
〈配信リンク〉
https://nex-tone.link/A00170561
1. 惰性
2. 悪魔の実
3. MA-1
4. フラクタル
5. SetbacKs
6. Not for Sale
Vocal 三上ちさこ
Guitar 西川進
Bass 根岸孝旨
Drums 平里修一
Produced By 保本真吾 & sayuras
Mixed By 中山佳敬 (VICTOR STUDIO)
Recorded &Mixed At フューチャーラボ世田谷
Masterd By 柴晃浩 (TEMAS Mastering Studio)
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