【インタビュー前編】sayuras、夢を追う者や諦めない者の心をとらえて離さない2nd EP『in the dArk』
「今ここから始めよう」と思う気持ちに、遅すぎることは決してない。それぞれに長く濃いキャリアを持つ4人が集まったバンド、sayurasの 2nd EP『in the dArk』。彼らの放つ言葉は夢を追う者、諦めない者の心をとらえ、その音はグランジやシューゲイズ、メロディアスなUKロックなどを愛する者の耳をとらえながら着実に拡散している。先日行われた3度目のワンマンライブもソールドアウトの大盛況で、さらにキャパシティを広げた、2025年のネクストライブもすでに決まっている。たゆまず走り続けるsayurasは今何を考え、どこを目指して進んでいるのか。三上ちさこ(Vo)、西川進(G)、根岸孝旨(B)、平里修一(Dr)に話を訊いた。ますはその前編をどうぞ。
■自分たちの曲がどんどん増えたおかげで
■今までの曲もバンドとしての解釈になってきてる
――11月1日の渋谷WWW、sayurasにとって三度目のワンマンライブはソールドアウトして、バンドの勢いとファンの期待を感じる素晴らしいライブでした。振り返ってどんな思いがありますか。
三上ちさこ(以下、三上):まずお客さんの顔がよく見える会場だったのと、音響もめちゃくちゃ良いということだったので、楽しんでいただけて良かった。いきなり新曲が5曲も入っていて、MCでは「今日来たお客さんはいっぱい新曲を聴けてラッキーだよ」と言ってたけど、内心は聴いたことない曲ばかりだから楽しんでもらえるのかな?って、しかも昔の曲とかfra-foaの曲も2、3曲ぐらいしかやらないからって、色々思ってたんです。でも「sayurasのライブとしてすごく楽しめたし、良かった」ってお客さんが言ってくれて、すごく嬉しかったです。バンドがよりバンドらしくなってきてるかな?と思います。
西川進(以下、西川):新曲が多かったっていうのもあるし、最初のほうはeggman(2度目のワンマンライブ/4月13日)に比べると、めちゃくちゃ真剣に聴いてくださっていて、それで盛り上がってないのかな?って一瞬思ったんですけども、盛り上がるところはものすごく盛り上がったりして、お客さんがちゃんとわかってくれている気がしました。帰り際にファンの人とちょっと話したんですけど、「新しい曲をいっぱいやってくれてすごく良かったです」と言ってくれて、良かったなと思いましたね。
平里修一(以下、平里):お客さんのリアクションも、確かに新曲に関してはやっぱり聴く姿勢で、そうしながらもノッてくれる人もいて。結果としてバンドの曲の割合が増えたおかげで、fra-foaの曲や三上さんのソロの曲を前よりも崩せたというか、自分なりに演奏するようになって、全体の割合が変わったようなライブでしたね。見方が逆になったというか。
▲三上ちさこ(Vo)
――それ、面白いです。なるほど。
平里:fra-foaの曲は、当時聴いていた人たちが喜ぶような感じを考えなきゃいけないと思ってたんですけど、今回はそれを無視してfra-foaの曲ができたかもしれないなっていう感じがします。そういう意味でも、全体的にバンド感がアップしたのかなって思うライブでした。
根岸孝旨(以下、根岸):僕は、これがsayurasとしての1stライブだと思いました。今までは三上さんの曲が多くて、fra-foaの曲もある程度真似しないとfra-foaの感じが出ないので、「三上さんのサポートメンバーとして優秀な人たち」みたいな感じもあるなと思っていたんですよ。でも自分たちの曲がどんどん増えたおかげで、平里が言ったように今までの曲もバンドとしての解釈にだんだんなってきてるので、やっぱり自分たちの曲があるっていうのはこんなに違うんだと思いましたね。
――そのへん、三上さんはどんなふうに感じていますか。
三上:うーん、そうですね、ライブでみんなでやってる感覚からすると、バックバンドとかは全く思わなくて、完全にバンドって毎回思ってるんですけど。でもやっぱりみんなで作った曲をやる時は「sayurasなんだな」っていうのはありますね。しかも新曲が好評だったんですよ。
平里:それが何よりですね。
――その、ライブで先行披露した楽曲を含む2nd EP『in the dArk』。どんなふうに作っていったEPですか。
三上:2023年、1st EPを作る時にみんなで合宿したんですね。そこで1st EPに入ってる曲をレコーディングしながら、ちょっとジャムセッションもやってみようみたいな話になって、あの時3曲録ったんでしたっけ。
平里:うん。まだどうなるかわからないけど、一応曲っぽくなってるみたいな。
三上:その中の1曲を2nd EPに入れようってなって、それが「Not for Sale」という曲で、その曲だけちょっと音が違うんですよね。そのまま使えると思ってなかったから、録り直す?みたいな話もしたんですけど。
▲根岸孝旨(B)
平里:でも、あのくたびれた感じが良かった(笑)。合宿でしこたま飲んで、次の日にワーッて録ったあの感じは二度と出ないんですね。こういう曲だからこそ、録り直したら絶対つまんなくなると思ったんで、それを生かして作っていきました。だから、最初に作った曲は「Not for Sale」になります。この曲は最後の最後、音がなくなるまで耳をすまして聴いてほしいんです。その場で起きたことを空気ごと収めてあるので。その他の曲は真面目に録っています(笑)。スタジオで真剣に時間をかけて。
三上:かけましたねー。「SetbacKs」とか、なかなかイントロのウワモノの音が決まらなくて。私の中にU2の「スタック・イン・ア・モーメント」の音のイメージがあったんですけど、それを西川さんに伝えて、アレンジにめっちゃ時間かけて作ってきてくれたものを、私が「なんか違う」って、そういうやり取りを何度もしました。そういうこと、今まであまり言ったことないんですけど。
西川:この曲を聴いた時に、武道館とかアリーナとかでやってる景色がポンって浮かんできて、「これは行ける」みたいなイメージが自分の中にあって。そのためにはイントロのメロディが大事だと思って、まずシンセを二つ足したんですけど、なんか違うなって思って、次にオルガンの音を足して、「かなり近づいた」って思って聴かせたら、三上さんが「いや、まだ違う」みたいな。
三上:異常なこだわりでしたね。
▲西川進(G)
西川:そのあとスタジオで根岸さんが「こんな音を入れたらどう?」っていうものを出してくれて、その4つの音でやっと完成に近づいていきました。
三上:この間のワンマンライブが終わった後に、「SetbacKs」のインストを流したんですね。みんなで出て行って挨拶した時に。それがまた良くて、ちょっと感動しちゃいました。今までだと、アレンジしてもらったものに対して「すごく良いですね」で終わってたんだけど、今回のEPは私が「もうちょっと、もうちょっと」みたいな感じで、申し訳ないなって思いながらもこだわって作ってたので、すごい良かったなと思います。
――それはさっきみなさんが話していた、sayurasのバンドらしさの確立みたいなことに通じる話だと思います。せっかくなので全曲のエピソードが聞きたいですね。1曲目「惰性」はどうですか。
三上:「惰性」は最初からイメージがあって、私はオルタナとかグランジが大好きだったんだけど、今まであえてやってこなかったところがあったので。一回好き放題に、まさにグランジっていうやつをやりたいなって思って、衝動だけで書いた曲です。完全にニルヴァーナへのオマージュで、西川さんにアレンジをお願いする時も「ニルヴァーナにしてください」って(笑)。
西川:リスペクトの意味を込めて作っていって。でもあまりにもニルヴァーナに寄るのも何だなっていう気もして、ちょっとsayurasのテイストも実は入れているんですけど。
三上:うん、入っていますね。
西川:それを感じてもらえるとすごい嬉しいかなと思います。
三上:曲の後半にくっつけた部分は、また全然違うんですけどね。壮大な世界観が広がる感じがすごく好きなので、後半は前半と全然違うやつを入れたいなって。
西川:ギターは再現不可能です(笑)。家で録ったものをスタジオでもう一回弾き直そうと思ったら、再現不可能なものが多くて、最初に録ったやつを半分ぐらい生かしてます。初期衝動は超えられないっていうか。
根岸:「惰性」は弾くのが大変です(笑)。ベース的にはポジショニングが結構難しい。そんな難しく聴こえないと思いますけど、同業者の方は弾いてみてください。意外と大変です。
▲先行シングル「惰性」11月1日リリース
――ベースといえば2曲目「悪魔の実」。イントロからめちゃくちゃ目立っててかっこ良いです。
三上:「悪魔の実」の根岸さんのアレンジは異色ですね。どうやってあのアレンジにしたんですか。
根岸:この曲、実は最後までベースは出てこないんですよ。シンセサイザーベースをずっと弾いてる。それも、普通に弾いてるとつまんないと最初は思っていたんだけど、たまたま見つけたエフェクトで、押さえると三連符っぽく聴こえる音があったんです。だから三連の曲だと思ってると、「あれ?」っていうところから歌が始まる。実は普通に弾いてるだけなんだけど、そういうふうにできる音を見つけて。
平里:アルペジエイター的なやつ?
根岸:そう。すっごい探したんですよ。面白いの、何かないかなと思って、あれが見つかった途端にアレンジはすぐできました。…ネタばらしちゃった(笑)。
▲平里修一(D)
三上:まさかあんなアレンジになってると思わなくて、びっくりしました。
西川:僕はこの曲で、初ギズモを使いました。ギズモって、モーターで弦をピッキングさせる機械なんですけど、間奏に使っています。
根岸:昔、ゴドレイ&クレームが作った機械ですね。それをプロデューサーの保本(真吾)さんが持っていて、僕はそれのベース版を買ったんですけど、セッティングが大変で、使いこなせないまま手放しちゃったことがあって。モーターが弦を振動させて勝手に弾いてくれるんですよ。
平里:ロングトーンが鳴るってことだよね。音が伸びる。
西川:とても楽しかったです。
――「悪魔の実」は演奏に注目ですね。
平里:ドラムの音色も、1回目は普通に派手なロックっぽいスネアの音で録ったんですけど、なんか普通だなっていうので、ローピッチ(音程を下げる)でやったらすごく良くて、悪魔っぽくなりました。
三上:「悪魔の実」はリリックビデオを作ったので、ぜひ見てほしいです。
取材・文:宮本英夫
インタビュー前編はここまで。2nd EP『In the dArk』についての深堀りと今後のバンドの目標などを聞いた後編は近日に公開。
リリース情報
2024.12.18 Release
1. 惰性
2. 悪魔の実
3. MA-1
4. フラクタル
5. SetbacKs
6. Not for Sale
Vocal 三上ちさこ
Guitar 西川進
Bass 根岸孝旨
Drums 平里修一
Produced By 保本真吾 & sayuras
Mixed By 中山佳敬 (VICTOR STUDIO)
Recorded &Mixed At フューチャーラボ世田谷
Masterd By 柴晃浩 (TEMAS Mastering Studio)
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