【対談】三上ちさこ・手塚眞、「JOKER」に込めた互いの創作の源やアーティスト美学を語る
2024年秋、三上ちさこの活動が一気に活発化してきた。9月には三上ちさこ×水咲加奈のデュオでツアーを回り、10月には2年振りのソロシングルリリース、そして11月には20年ぶりに結成したバンド・sayuras(サユラス)でのワンマンライブ。ソロシングル「JOKER」は、NHK BS-1メジャーリーグ情報番組『ワースポ×MLB』エンディングテーマとしてロングヒットを記録した「TRAJECTORY-キセキ-」の後日談とも言える楽曲で、現・広島カープの秋山翔吾選手を応援する楽曲としてすでに大きな話題を振りまいている。
しかもこの「JOKER」のミュージックビデオの監督はビジュアリストの手塚眞で、ひときわ目に付くジャケットに使われたキャラクターはご存じ「ブラック・ジャック」。手塚氏の実父・手塚治虫の作品をジャケットに使用した豪華仕様になっている。
BARKSでは「JOKER」リリースとミュージックビデオの完成を記念して、三上ちさこと手塚眞の対談を企画。意外な出会いのエピソードやミュージックビデオの制作秘話、互いの創作の源やアーティスト美学の開陳など、興味深いテーマが続々登場するトークセッション。楽しんでほしい。そして聴いてほしい。見てほしい。
【三上ちさこ 連続企画 第一弾】
■最初にライブを見た印象が天使というイメージだったんです(手塚)
■初めて言われました。そういうふうに感じていただけるとは(三上)
――お二人の出会いはfacebookが始まりだとうかがっています。
手塚眞(以下、手塚):そうなんです。
三上ちさこ(以下、三上):本当にいつ繋がったのかわからないんですけど…。
手塚:Facebookって不思議でね、たまに友達でもない人がポンと出てきたりもするので、いつから友達なんだかよくわからないんですよね。なんか自然にやり取りが始まっていて…みたいな感じです。
三上:最初にメッセージを差し上げたのは、たぶんライブのお誘いだった思うんです。本当に来てくださるとは思っていなかったんですけど、お誘いしたら来てくださって、それから毎回来てくださるようになって。それが2年か3年前ですね。でもライブが終わるとすぐ帰られちゃうので、なかなか直接お会いできなかったんです。だから本当に最近ですね、こうやってお話できるようになったのは。
手塚:一度ラジオに呼んでいただいた時に、番組中でお話を聞いて、面白いなと思ったんです。
三上:楽しかったです、ラジオ。
手塚:ただ、僕的にはそんなに不思議な出会い方ではなくて、よくある感じなんです。本当に何気ない偶然の出会いみたいなところから親交が深まることは昔から多いので。初めて会ったのに昔から知っているような気がする人もいて、結構ぞんざいにいきなり話しかけちゃったりすることも多いんですよ。近藤麗子さんの時もそうでした。三上さんのお知り合いだって、あとから知ったんですけど。
三上:めちゃくちゃ友達なんです。大事な友達です。
手塚:画家の方なんですけど、最初は絵も知らずに個展に行ったんです(笑)。
三上:麗ちゃんと、たまに手塚さんの話をしていたんですよ。その時に「この前、突然来てくれたんだよね」という話を聞きました。
手塚:三上さんと知り合ってから、共通の知り合いがたくさん出てきて、本当に昔から繋がってたみたいな気になったという感じです。
――手塚さんが最初に三上さんのライブをご覧になった時に、どんな感想を持ちましたか。
手塚:僕はロックはわりと聴くほうなんですけど、日本のものは進んで聴かないんです。だから名前ぐらいしか知らないアーティストさんがいっぱいいて、彼女の曲もその時が本当に初めてで、何の先入観もなくいきなり聴いたんです。曲自体も素晴らしかったんですが、歌ってる彼女の姿が神々しくて、その一回のライブで引き込まれちゃいました。独特の高みにある人だなと思うんですけど、手の届かないアーティストというんじゃなくて、同じ地平にいて高みにいるという、変な言い方なんですけども。その、最初にライブを見た印象が天使というイメージだったんですね。だから三上さんというと、最初からそういうイメージなんです。
三上:初めて言われました。そういうふうに感じていただけるとは。
――「JOKER」のミュージックビデオの中でも、三上さん扮する天使が非常に重要な存在として描かれていますね。
手塚:天使というテーマは僕の中にもともとあって、自分が映像作品を作る時にいつも頭の中に置くようにしているんです。具体的に天使を表現するということではないんですけども、ものを作るというのは人間的な作業ではあるんだけど、どこかで人間を超越した力と言いますか、インスピレーションが降ってくるという言い方がありますけど、空から何かを与えられているような使命で作るみたいなところがあって。作品の中身は自分で考えるんだけど、自分の後ろにもう一つ大きな存在がいて「これを作れ」と言ってるような、そういうイメージが常にあるんです。でもたぶん僕らは直接神様とは話ができないから、その間に介在しているのが天使だろうという考え方で、天使と繋がっていれば神様にも繋がるだろうということですね。
――一つの象徴や記号、アイコンと言いますか。
手塚:それを僕らはすごく精神的にやっているので、実際に天使が見えるわけではないんですけれども、形にするとそういうことですね。
――三上さんは創作の時に、そうした大きな存在を感じることはありますか。
三上:うーん、全然覚えてないんですけど(笑)。頭で考えてるとなかなかできなかったりしますけど、急に何かのきっかけで出てくることは確かにありますね。さっきの天使の話で言うと、今回のミュージックビデオで印象的だったのが、普通の天使じゃなくてボロボロに傷ついて汚れている天使で、そこにすごく慈しみや親近感を感じたというか、違和感がなくて、しっくりくる感じがしたんですね。
手塚:初めてお会いした時の話の続きを言うと、その後に何回かライブを見たり、お話させていただく機会があって、三上さんって結構複雑なことを考えられてるなと思ったんですけど、その複雑さの中に傷ついてる部分がすごくあって。
三上:…見抜かれている(笑)。
手塚:それが歌詞にもしっかり出てくるから、深みがあるんだろうなと思うんです。天使なんだけど傷ついてるというのがすごく面白いなと思ったんですよ。超越していない感じが。「つまりこの天使は地上に落ちてきた天使で、怪我して、羽が折れて飛べなくなっているんだ」みたいなね。
三上:あのシーンを撮影する時は、本当に素で泣きたくなりました。すごい優しさも感じたし、悲しい気持ちもあるし、何なんだろうこの感情は?と思いながら、
手塚:曲そのものが、辛い思いをくぐり抜けるという感じがありますよね。この曲は、本当の力を秘めてる人が辛い試練を耐えながら、最後はもう一度スターに返り咲くみたいな、そういうことだというふうにお聞きしたんですけども、僕の中ではどちらかというと、スターに返り咲くというよりは試練をくぐり抜ける一種の通過儀礼みたいな、そういう感じなんだろうなと思ったので。どん底からどうやってもう一回這い上がっていくか、そういうことなんだろうなと思ったんですね。
▲秋山翔吾選手(写真左)
――三上さん、「JOKER」はどういうきっかけで、どんなふうに作っていった曲ですか。
三上:NHK BS-1のメジャーリーグの情報番組で『ワースポ×MLB』いう番組があるんですけど、そのエンディングテーマを書かせていただいて、「TRAJECTORY -キセキ-」という曲を5年ぐらい使っていただいてたんです。その縁で、コロナ禍直前ぐらいにメジャーリーグのスプリングキャンプに、事務所の人たちとみんなで見学にしに行ったんです。そしたら『ワースポ×MLB』のスタッフさんが色々気を利かせてくれて、番組の中継に出させていただいたりして、その時に秋山翔吾選手に初めてご挨拶させていただいたんですが、「TRAJECTORY -キセキ-」を聴きながらメジャーリーグに挑戦しようと決めたというふうにおっしゃってくださって、それがすごく嬉しくて。自分も曲で応援できたらいいなと思って、応援歌を書こうと思って書いたのが「SA-Samurai Anthem-」という曲。秋山選手はそれも聴いてくださっていて、今度は日本に帰ってきて広島カープで活躍なさってる間に、「日本で頑張る秋山選手を応援する曲も書きたい」と思って、プロデューサーの保本真吾さんと一緒に作ったのが「JOKER」です。
――作詞が三上さん、作曲と編曲が保本さんですね。
三上:まず保本さんが曲を書いてくれて、それに対して歌詞をつけたんですけど、最初にできたのが“Ready for run”というサビの部分の歌詞なんです。2023年の秋ぐらいに秋山選手が足を怪我して、手術して離脱していた時期があったんですね。それでも「走るための準備はできている」ということをインタビューでおっしゃっているのを見て、強い人だなと思ったんです。野球ができない、動けない時期にそれでも前向きな言葉を発してる姿勢にすごく励まされて、力をもらって、「絶対サビはこの言葉にしよう」と思っていました。そのほかの部分は、元々はもっと秋山選手の個人に寄った歌詞だったんですけども、ある時保本さんが「JOKER」って良くない?と言ったんですよね。トランプのジョーカーは普段は忌み嫌われてるけど、全部を覆しちゃう最強の切り札になるカードでもあるじゃないですか。今うまくいっていない人でも、諦めずに続けていれば「やってて良かった」と思う瞬間が絶対来る、「あなたが最強の切り札になれる瞬間が絶対やってくる」という曲にできたらいいんじゃない?という話をしてくださって、書き直したのが今の「JOKER」の歌詞なんです。
――まさに切り札の歌詞ですね。
三上:保本さんがギターを弾いてアレンジもしてくれたんですけど、ドラムは私が今やってるsayurasというバンドの平里修一さんが叩いてくれて、スタジオで保本さんと一緒に実験みたいなことをしていたんです。音作りにめちゃめちゃ凝ってるんですけど、小学生みたいにすごく楽しそうに音作りをしている姿を見て、すごく純粋でいいなと思っていました。ベースは後藤次利さんに弾いていただいたんですけども、それもめちゃめちゃブイブイ言わしてるという(笑)。みんな子供みたいに楽しく、自分の最大限を込めてくださって、おかげさまですごく良い曲に仕上がったなと思っています。
◆インタビュー(2)へ
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