【インタビュー】森 大翔、果敢にストイックにポップスを追求し続ける2ndフルアルバム『Let It Grow』
ギタリスト・シンガーソングライターの森 大翔が、2ndフルアルバム『Let It Grow』をリリースした。様々な時代とジャンルを包含し、ギターと歌が映える多彩なポップスを収録した同作は、ギタープレイ、ヴォーカル、ソングライティングに加え、楽曲プロデュース、ギター以外のバンド楽器のアレンジと演奏、ピアノ、シンセ等のプログラミングまで全曲を彼自身が手掛ける意欲作だ。ギタリストからキャリアをスタートさせてからというもの、日々音楽スキルを増やし続けている彼は、なぜここまで果敢に、ストイックにポップスを追求し続けているのだろうか。『Let It Grow』を通して、現在の彼の脳内と心境を探った。
■すべての熱量とクオリティがピタッと揃ったときに起こる
■音楽のミラクルがあると思っているんです
――過去に森さんが受けたインタビューをいろいろと読んだのですが、短期間でどんどんやりたいことも増えて、心境にも変化が出るタイプの方だと感じまして。
森 大翔:本当にそうなんです(笑)。「成長したい」という気持ちがもともと強くて。
――アルバムのタイトルの『Let It Grow』なんて、まさにそれを物語っています。
森 大翔:音楽がとっても大好きだからいろんなことに挑戦してみたいし、今の自分に満足できない感覚が常にあるんです。ギターで音楽を始めて、歌うようになって、作曲するようになって、そのたびにいろんな壁にぶつかって「どうやったらこれを打ち壊せるだろう?」と考えるんです。だから前の自分への執着みたいなものは、あんまりないかもしれないです。
――そういう背景があるから、森さんにとって「成長すること」と「幅広く挑戦すること」がイコールなのかもしれないですね。
森 大翔:若いうちは「可能性をどれだけ広げるか」が大事だと思っていて。今作のアレンジをすべて自分で考えたり、自分でプログラミングしたのも、将来を考えると絶対に全部自分でできたほうがいいなと思ったからなんです。あと、ちゃんと“自分の音”を確立させたかった。やっぱり自分でやったことはちゃんと自分の血肉になるし、自分が納得できるまで突き詰めるから理解が深まるし、自分で作った音には自分が出ると思うんですよね。それを続けることで成長過程も見えるし、自分が納得しながらクオリティの高いものを作っていける気がしたんです。
――その芽は確実に『Let It Grow』に出ていると思います。森さんの曲は、すべてに等しく愛情が込められているんですよね。作詞家として、作曲家として、ボーカリストとして、ギタリストとして、アレンジャーとして、それぞれの森さんが同じ熱量を持っている。
森 大翔:ああ、うれしいです。全部100%の力を注ぐように心がけていて。というのも、すべての熱量とクオリティがピタッと揃ったときに起こる音楽のミラクルがあると思っているんです。THE BOOMさんの「風になりたい」なんてまさに、僕のなかのゴッドなんですよね。「風になりたい」という言葉、流れている音楽、歌声がピタッとハマっていて、聴いていて本当に幸せで豊かな気持ちになる。僕は豊かさと純粋さが重なる瞬間にすごく感動するし、救われるんですよね。そこで日頃自分が抱えている弱さや不安、悩みにポジティブを見出せるようになるんです。それは何かひとつが卓越している状態では感じられない豊かさや感動のような気がしていて。
――森さんが音楽を聴いて感じるものを、ご自身も音楽で表現したいということですね。
森 大翔:普段僕が感じていることを音だけでなく言葉でもちゃんと書いて、伝わるものにしたいと思っています。日本は言葉を大切にする文化があるので、曲のなかで聴いている人の印象をいちばん引っ張るものは歌詞だと思っていて。僕はほとんどの場合、曲と仮歌を先に作って最後に歌詞を書くので、今回のアルバムでは「この曲にはどんなメッセージを乗せたらいいかな」「この曲が言いたいことは何かな」とじっくり考えながら、“前向き”をテーマに自分の伝えたいメッセージを書くことを意識しました。
――確かに今作に至るまでのデジタルシングルを聴いていても、ポップスとしての強度が上がっていると感じます。
森 大翔:ポップ性は大切にしています。ギターしか弾いていなかった自分が歌い始めたのは、もっといろいろな人に聴いてもらいたい、いろいろな人に開いたものを作りたいと思ったからなんです。そのうえで楽曲の人懐こさや口ずさめるメロディーはすごく大切な気がしていて。歌詞とメロディが一体となることの可能性をすごく感じているというか。いろんな人とつながるために選んでいます。
――その「いろんな人に聴いてもらいたい」「開いたものを作りたい」」という欲求が生まれた理由はなんなのでしょう?
森 大翔:やっぱりステージに立つようになったからだと思います。お客さんを目の前にして、ステージに立つ人間として、エンターテイナーとして、自分の弱いところは切り離してステージに立ちたい、覚悟を決めてステージに上がらないといけないと強く思うようになったんです。もしかしたらそこには、自分の弱さや寂しさ、認めてもらいたいという欲求もあるのかもしれないけど、最終的に行き着くところはそこではなくて。「聴いてくれた人の助けになりたい」はおこがましいかもしれないし、「救う」という言葉も簡単に使えないけれど……。皆さんの日常や日々の彩りだったり、何か良い思い出になれたらいいなと思っています。
――だからこそテーマが「前向き」になったのかもしれないですね。
森 大翔:そうですね。聴いてくれる人だけでなく、弱い部分を持った自分自身も救う気持ちで、前向きな曲や歌詞を書いているので。だから曲を作るときは、普段の自分をステージの上から見ているような気持ちで書いています。ステージに立つ人間としてメッセージを伝えなきゃいけないという義務感もあるので、胸を張っていかなきゃと思っています。でもただメッセージを歌う人じゃなく、ギターやアレンジ、歌、メロディも全力を出して、そのメッセージを豊かなかたちで表現したいんです。
――おっしゃる通りで、『Let It Grow』は歌詞のメッセージは強固で、サウンド面は非常にカラフルで自由なアルバムだと思います。
森 大翔:「こういうことはやりたくない」「こうであってほしい」みたいな考え方が今のところはなくて。もともとサブスクでいろいろなジャンルやいろいろな年代の音楽を聴いて育ってきたので、「これが今の時代の音楽の正解だ」みたいな考え方を持っていないんですよね。かっこ良ければいいという価値観のもと作っています。
――森さんの思う「かっこ良いもの」とは、具体的にどういうものでしょう?
森 大翔:常に考えていることは、自分にとっていちばんの相棒でありアイデンティティであるギターが輝ける楽曲はなんだろう?ということです。「大都会とアゲハ」でラテンを混ぜてみたのも、その一環で。僕が生まれてくる前から続いてきたいろんな音楽の中から、ギターも自分も活きる音はどんなものなのかを探しています。
――ギターというとロックのイメージが強いですが、実際は昔からいろんな音楽に使われていますものね。種類が豊富なだけでなく、テクニックやエフェクターで音色も変わりますし。
森 大翔:楽器界の王者はピアノであると言われることも多いし、もちろんピアノも素敵な楽器なんですけど、僕にとってギターは一音に込められる感情がすごく分厚い楽器なんですよね。そういう意味では人間に近いような気がするんです。ピッチも完璧じゃないし。
――ギターはライヴで3、4曲弾いたらチューニングしなきゃいけないし。
森 大翔:そうなんですよね。弦を押さえる強さで出る音質も変わるし、ピアノとは違う側面で繊細な楽器だと思います。人間みたいな不完全さがある。だからギターは「歌っている」と言われることが多いとも思っているし、歌っぽくなれるのもすごく気に入ってるポイントです。歌うようなギターのアプローチは今の時代に少ないかもしれないけど、もちろん僕と同世代や10代の人たちにも聴いてもらいたいので、いろんな時代のテイストをどうやって1曲に集約させるかはかなり考えています。
――「大都会とアゲハ」はそのバランスが絶妙ですよね。ラップが入っていて今っぽさもありますし、様々な時代とジャンルをブレンドするという挑戦の象徴のような曲だと思います。
森 大翔:お気に入りの曲です(笑)。「泣きのメロディを弾いたギターと相性のいい音楽はなんだろう?」と考えて、ラテンに行きつきました。もともと70年代くらいの、ちょっとラテンが入ってきた頃の日本の歌謡曲がすごく好きで。あとギターを始める前、ポルノグラフィティが大好きだったんです。その後にビートがあったほうがいいなと思って、自然な流れでラップを乗せました。
――「きっと上手くいくよ」は、ピースフルな踊れるミディアムナンバーだなという印象もありましたが?
森 大翔:仮タイトルがジョンメイヤーからとって「ジョン」でした(笑)。ジョンっぽいギターをライヴでやりたくて作り始めて、敢えて荒々しく弾いてみたり、ブルージーな感じやめちゃくちゃ長いアウトロを入れてみた結果、全然違うものになりました。自分の感覚を大事にしつつ、同時に頭でバランスを考えながら曲作りをすることが多いです。
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