【インタビュー】CASIOPEA-P4、「新しい作品こそが最高傑作」という揺るがぬミュージシャンシップ

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1979年のレコード・デビュー以来、日本のフュージョン・シーンのトップを走り続けてきたCASIOPEA。1990年からの第2期CASIOPEA、2012年からのCASIOPEA3rdを経て、2022年に幕を開けたのが第4期CASIOPEAにあたるCASIOPEA-P4。そして今、CASIOPEA-P4にとって2枚目のアルバム『RIGHT NOW』が完成した。

2024年でデビュー45周年を迎えてリリースされる本作からは、バンドの長い歴史を経た今だからこそできる曲、それらを演奏する楽しさが伝わってくる。

45周年という集大成を意識しながらも、けっしてそれに固執してはいない。単に過去を振り返るのではなく、過去の上に構築された今現在のバンドをアピールした新しい作品として成立しているのだ。これまでにも増して練りに練られた野呂一生の曲は、懐かしくて新しいという両面を表現することに成功。その結果、複雑なコード・プログレッションをはじめとする作曲上のテクニックが満載でありながら、それを感じさせないほどメロディとハーモニー、そしてリズムがナチュラルに響いている。

メンバーが書いた曲も個性的で、バラエティ色豊かである。CASIOPEA 3rdから参加の大髙清美はオルガンによる神秘的な響きのバラード「ADMIRATION」(M6)、CASIOPEA-P4から参加の今井義頼はバンドの新しい息吹を感じさせる爽やかな曲「HOUR OF THE RAINBOW」(M7)、第2期CASIOPEAから参加の鳴瀬喜博は第2期の初期に書いた未発表曲をリアレンジしたイケイケな曲「90's A GO GO」(M8)など、必殺曲が目白押しだ。

本作の曲作りからレコーディングまではどのように進行したのだろうか。まずは野呂一生の楽曲「THE TIME HAS COME」を例に、語っていただこう。



野呂一生:一番最初にレコーディングした曲で、このアルバムを象徴する曲ですね。この曲を書いたのは2023年の夏で、メンバーの皆さんに譜面がまとめて届いたのが秋頃。レコーディングは年が明けて3月末でしたから、自分で書いた曲なのに「これ、どんな曲だっけ?」ってほぼ忘れておりまして(笑)、レコーディングの時は受け取った皆さんと同じような感覚だったかもしれません。我々のレコーディングは、譜面を見て大体いけるようなら「1回、録って見ましょうか?」という感じで始まります。

大髙清美:それがレコーディング初日の当日の話です。この後は、すぐに本番。バンドでの事前のリハーサルはないんですよ。野呂さんの曲はメンバーに譜面のみが送られ、デモ音源は添付されませんから、各自で事前に準備しておく必要があります。

鳴瀬喜博:まず事務所から自宅に譜面が送られてくるんだけど、音資料がないので譜面から読み取るしかない。もう何十年もやっているんだけど、まずテンポとジャンル的な指定が書いてあって、ベースに関してはリズム譜。決められたフレーズやユニゾンは音符で書いてある。この曲はユニゾンがたくさん書いてあって、その時点で「ゲゲ~」ってなる(笑)。だから、譜面をもらってから個人練習は結構するよ。テンポ出してみたら速いので「これをユニゾンするのかよ…」ってびっくりしたり、「ここ、Dナチュラルになってるけど、普通D#だろ。ワイン飲みながら書いてて間違ったんじゃないのか?」なんてね(笑)。こんなふうに、個人練習の段階で練っていく。

大髙清美:譜面をもらったら、まずは解読する作業に1曲につき3時間位はかけます。野呂さんの譜面は2段スコアに4人分がまとめて書いてあるコンデンス・スコアなので、自分に関係ある箇所を見逃さないように寄り分けないといけません。

野呂一生:昔は1人ずつのパート譜も書いてたんですが、物凄い枚数になっちゃって嫌がられてました(笑)。音資料を作らないのも昔からで、打ち込みで自分の曲のデモを作るのが好きじゃないんですよ。そこで一旦完成されてしまうと、生演奏でやった時のギャップが気になるからです。僕の曲の場合、僕自身も全体を音で聴くのは初めての状態ですから、「そうか、実際に全員で演奏するとこうなるのか」なんて感心したりします。いい意味で変わってしまうこともしょっちゅうで、それが1人で五線譜に書いている時とバンドで演った時の違いなのでしょう。まあ、コードとか音色など一番ややこしいことをやってもらってるのはキーボードの大髙さんなんですけどね(笑)。

大髙清美:譜面を解読した後、野呂さんが指定してる部分は指示通りにやって、それ以外のところはある程度自由にやっていい部分でもあります。私は、その部分の解釈とは「曲の内装を決める仕事」だと思っています。部屋で言う内装の壁紙をどうするのか?それひとつで曲の印象が随分変わりますから、なるべく野呂さんの抱いているであろうと思われるイメージを汲み取るようにしてハズさないようにしながらも、プラス「こんな壁紙はどうですか?」という提案も出していきたいんですよね。

鳴瀬喜博:マダム(大髙)のキーボードの作り出す世界が、またすごいからさ。譜面だけ見てる時はまだ平面的でモノクロなんだけど、立体的でカラフルな色彩を付けてくれるんだよ。

今井義頼:ハーモニーが鳴ってくることで曲の表情が見えてきますね。それに対して自分が曲のダイナミクスをグッと持ち上げてやります。


野呂一生

野呂一生:ドラムに関しては、絶対に演って欲しいことは書くけど、お任せの部分はシンコペーションだけ書いて、後はシミレ(編集部註 simile:類似の、同様な、の意)でやってもらってます。フィルインは「ここは適当に入れて」とか、スタジオで口頭で「ダララララ」とか言って伝えたりしてね(笑)。

今井義頼:もちろん譜面はある程度は眺めるんですが、実は敢えてそんなに事前準備はしていません。というのは、一発目のテスト・テイクで皆さんがどんな音を出すのかを聴いて感じて、その場で譜面と照らし合わせて対応するというパターンが多かったからです。そうすると一気に皆さんも反応して、スムースにレコーディングが進行するんですね。そういうアイデアはその場で出てくるものなので、言葉以上に音がモノを言っているという感触がありました。

鳴瀬喜博:他にも譜面には書いてなくても、レコーディングでは必ずドラムのフィルから入るじゃない?それって、曲全体にすごく影響を与えるよね。「こういう感じできやがったか…」とか、「おっと、そこは3拍できたか…」とかね(笑)。

今井義頼:フィルはなにせ曲の顔ですからね。雰囲気作りに関しては力入れてやってます。リズム・セクションとしてのベースとドラムのコンビネーションは、まず音を出してからそれに反応するという感じ。鳴瀬さんが独創的なパターンを弾いたりするので、そこに乗っかる方がリズムとして一体化できるんです。


鳴瀬喜博

鳴瀬喜博:よほどのことがあれば事前に連絡取り合うけど、普通は打ち合わせとかしないよな。一般的にはドラムのパターンにベースを絡ませることが多いんだけど、オレがCASIOPEAに入った頃は一時期そういうことをわざと無視したことがあったのよ。変えてやろうと思ってね(笑)。それがドラムが神保(彰)に代わったら、あいつはそういうスタイルで来るじゃない?じゃあ、またコンビネーションでやってみようと思ったり、実は色々と勉強してんのよ(笑)。

大髙清美:リズム・セクションがどう来るかによって変わってきますから、キーボード・ソロはレコーディングのその場で作ってます。あとは自分が考えてきた内装が部屋の雰囲気に合っているかどうかを確認しながら弾いています。その判断は全員で弾いた1回目のテイクで行います。

鳴瀬喜博:こんなふうに、1回のテスト・テイクの中で、今まで述べたことが全て同時進行するわけ。1日に2曲ずつ録音して、それで完成テイク。まず全員で録ってリズムの原型はそこで完了。さらに部分的にドラム直して、ベース直して、リズム・トラックは仕上がり。それからキーボードが壁紙で背景を貼ったあと、ソロも録る。そして、最後にギター。キーボードもギターも全部その場で決めちゃうんだから、すごいと思うよ。「次回またとか、明日まで宿題」とかじゃないんだからね。自分のプレイをこれで完成だと判断する基準ってどこにあるんだろうね。

野呂一生:これ以上の演奏は自分にはもう無理だな、というところで判断してます(笑)。

──大髙さんの曲「ADMIRATION」は、野呂さんから「オルガンのバラードを作ってください。しかも、聴いたオーディエンスがイッちゃうような曲」というオーダーだったとのことですが、すぐできたそうですね。曲のテーマは「慈愛/恵愛」で。

大髙清美:皆んなでドーンと1回やってキマリでした(笑)。最初から「あ、そうそう、そういう感じ、ありがとうって」(笑)。

野呂一生:「このメロディはギターでいいの?」と確認したくらいだよね。


大髙清美

大髙清美:わたしはデモテープも作っていますけど、根本的なイメージを伝えることと、自分が忘れないようにするため(笑)。どうせ皆さんとやればすごい演奏になるのは分かっているので、デモはとてもテキトーに作ってます。ドラムのフィルなんかも、全部同じものをコピペしてるだけ(笑)。

──野呂さんから今井さんへのオーダーは「誰もが口ずさめる、ミディアム・テンポでロック・テイストの曲」だったそうですが、違うモノができ「全然ロックじゃないですけど、メロディはとても良い」と評されたそうですね。

大髙清美:最初、譜面を見たとき、手が足りなかった(笑)。

今井義頼:レイヤーで音を重ねた時に、シンセなら大丈夫なんですけどオルガンにも重ねてしまいました。大髙さんはそこから僕が何がしたいのかを見抜いて、どうすればいいかを提案してくださって、そのお陰でレコーディングが素早く進んだんですよね。

鳴瀬喜博:オレはいろんなベースパターンを試したけど、曲が爽やかフュージョンだから結果的にチョッパーでやった方がハマるねってことになったんだよな。そのパターンで一発OKテイク。

野呂一生:この曲では、サビのメロディ部で「ここからギターのオクターブ下の音も付け足してください」っていうリクエストがあったよね。

今井義頼:「DOMINO LINE」で聴いていた野呂さんのあのパターンがここで欲しかったんです。メロディの歌い回しとして「野呂さんの音だ~」という空気感が出て感激しました。


今井義頼

──鳴瀬さんの曲「90's A GO GO」は、第2期CASIOPEA時代の91年のアルバム『FULL COLORS』の未発表曲からのお蔵出しで、デモまで録っていながら最終的にリリースしなかった楽曲だそうですね。45周年という歴史の一部が日の目を見ることは、ファンにとって嬉しいプレゼントです。

鳴瀬喜博:この曲だけ、最初はベースとドラムだけ先に録って、キーボードとギターは後から重ねていった。その過程を見たかったんだよ。一応、ガイドとしてオレが作ったデモテープは渡してあったけど、完成形は誰もまだ知らないわけ。だから全部重なった時に「あ~、こうなるんだ…」というビックリ感がすごかったよね(笑)。

野呂一生:スタジオのスタッフたちも「ヘぇ~、こういう曲だったんですね」って驚いてたからね。

鳴瀬喜博:スタッフにも一応、デモテープを聴かせてあったんだけどな~(笑)。

──そうやってレコーディングされた楽曲の数々ですが、その時点でライヴにおける再現性までが計算に入っているそうですね。

野呂一生:ほとんどライヴでできるさじ加減にしています。特にキーボードが2本の手で弾ける範囲、それが最低条件かな。ギターも1人しか存在しない音像が基本です。

大髙清美:だから何重にも重ねて録音することはありません。

野呂一生:そこがバンドのバンドたるところです。アレンジはもちろん、曲の作り方も含めてね。

鳴瀬喜博:オレが入った1990年頃は、レコーディングに備えてのバンドでの練習は結構やってたんだよね。まあ、ベースとドラムがセットで変わったからってことや、アルバム『THE PARTY』で映像も同時収録だったこともあるけど。そのうち「スタジオ・ミュージシャンみたいなノリでのレコーディングもいいんじゃないか」と思いながら、それが何回か続いて、そのままここまできたんじゃないかな。

今井義頼:実際にスタジオでメンバー全員で音を出す時は、ある意味、出たとこ勝負ではあります。皆んな周りの音を聴いて反応しますからね。よく演っている曲はライヴで回数を重ねるうちに、少しずつ変化していくこともあります。多少テンポが変わったり、気がつくとオリジナル音源に比べてキメが増えていたり、それらはライヴ空間の中で曲が成長したということではないでしょうか。曲の本質は変わっていませんからね。

野呂一生:レコーディングは「作りあげる作業」であり、ライヴは「それをいかに上手に壊すか」ということだと思います。「上手に壊す」ことが大切。それが音楽的であれば、理にかなったアレンジということになります。まあ、違うように演奏しようと思えばそうなるし、その必要をライヴ中に感じないのなら変わることもない。だから、知らないうちに違うバージョンになっていたということは、まず無いんです。

今井義頼:イケテル崩し方だと俄然テンションが上がります。お客さんに対しても良い意味での裏切りであれば、「やっぱりライヴはいいなあ」と思っていただけるんじゃないでしょうか。そんな瞬間に遭遇するのもライヴの醍醐味だと思いますよ。

野呂一生:アルバムのタイトルの通り、まさに「今でしょ!」ですね。45周年という節目ではありますが、歴史を引きずりたくない。過去を振り返るよりも、今は現在に集中していたいんです。バンドの過去にも世代にもとらわれない、自由な音楽の楽しさを感じ取ってほしいと思います。10曲聴き終わったときにひとつの作品として「良かったよ」と言っていただけると嬉しいです。現在のメンバーで出す音が、とても良い形でまとまってきたと感じています。一番新しい作品こそが最高傑作という自負がありますから、ぜひ我々の今を聴いてください。

取材・文◎近藤正義


『RIGHT NOW』

CASIOPEA-P4『RIGHT NOW』

2024年7月3日
HUCD-10328 ブルースペックCD2 アルバム ¥3,300(税込)
1.THE TIME HAS COME/作曲:野呂一生
2.THE HOPEFUL WORLD/作曲:野呂一生
3.WHICH WAY?/作曲:野呂一生
4.NO PLACE LIKE HERE/作曲:野呂一生
5.CHALLENGERS/作曲:野呂一生
6.ADMIRATION/ 作曲:大高清美
7.HOUR OF THE RAINBOW/作曲:今井義頼
8.90's A GO GO/作曲:鳴瀬喜博
9.LOOK UP THE STARS/作曲:野呂一生
10.HAPPINESS/作曲:野呂一生

野呂一生(G)鳴瀬喜博(B)大高清美(Key)今井義頼(Drs)


<CASIOPEA-P4 TOUR “RIGHT NOW”~Summer~>開催中

8月3日(土)福岡 DRUM LOGOS
8月4日(日)広島 BLUE LIVE HIROSHIMA
8月24日(土)名古屋 ボトムライン
8月25日(日)神戸 CHICKEN GEORGE

<Jazz Fusion Night 2024 –music fun 20th Anniversary Live->

9月7日(土)札幌 Zepp Sapporo

<CASIOPEA-P4 Billboard Live Tour “P4’s RIGHT NOW~Autumn~”>

野呂一生(G)
鳴瀬喜博(B)
大髙清美(Key)
今井義頼(Dr)

【ビルボードライブ大阪】(1日2回公演)
2024/9/22(日)
1stステージ 開場15:30 開演16:30 / 2ndステージ 開場18:30 開演19:30
BOXシート ¥20,500(ペア販売)
S指定席 ¥9,700
R指定席 ¥8,600
カジュアルシート ¥8,100(1ドリンク付)

【ビルボードライブ東京】(1日2回公演)
2024/9/29(日)
1stステージ 開場15:00 開演16:00 / 2ndステージ 開場18:00 開演19:00
DXシートDuo ¥21,600(ペア販売)
Duoシート ¥20,500(ペア販売)
DXシートカウンター ¥10,800
S指定席 ¥9,700
R指定席 ¥8,600
カジュアルシート ¥8,100(1ドリンク付)

【ビルボードライブ横浜】(1日2回公演)
2024/10/6(日)
1stステージ 開場15:00 開演16:00 / 2ndステージ 開場18:00 開演19:00
DXシートカウンター ¥9,700
S指定席 ¥9,700
R指定席 ¥8,600
カジュアルセンターシート ¥9,200(1ドリンク付)
カジュアルサイドシート ¥8,100(1ドリンク付)

◆CASIOPEAオフィシャルサイト
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